三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
幽霊モドキに突き刺さった五本の針は、それぞれを頂点にして光の線を伸ばして星を描く。五芒星、陰陽師とかが使うアレだ。其処から発せられる霊力は凄まじく、俺の最大出力なんてとても比較にはなりゃしねえ。
これが長い歴史の中で培って来た退魔士の術理って訳か。
伏柄流も平安の世から続いているからこそ重みを感じる。気軽に俺も使いたいとか思っちゃいけねえ奴だ。習得する為の鍛錬は生半可な物じゃねえんだろう。
それを理解して、それだけに違和感を覚えた。
五芒星は幽霊モドキの動きを封じ、同時に肉体を構成する霊力を奪い続ける。風船から空気が抜ける様に吹き出し続けて二度目の決着まで残り一分も掛からなさそうだ。
だから、とも考えられる。俺では分からない理由があるんだろうが、彼女が強化の為に纏う霊力はあまりにも微弱だったんだ。
「おい、影女は……?」
「奴なら消えたぞ。用件は終わったのであろうな」
幽霊モドキが巨大化した辺りから姿が見えなかったが予想通りに消えていた。つまり小姫が敢えて霊力を微弱に留めている理由は一体……。
既に俺がやるべき事は無いが、やるべき事が出来た時に動ける様に警戒は怠らずにいた時、幽霊モドキを拘束する五芒星に綻びが生じ始めた。
まるで看板の灯りの一部が消えた時の様に幽霊モドキの右手辺り、五芒星を描く線の一部が消えて右手の拘束が解除される。体から噴き出る霊力の勢いも尻窄み、まるで決着が付いたから解除した風にも見えるんだが……違うよな?
俺がそう判断した理由は明確だ。小姫の顔に生じていた焦りの色が五芒星が崩れ始めた瞬間に色濃くなった、つまり意図して解除したんじゃねえ。
「やばっ! ……先輩!」
一瞬の逡巡後、小姫が俺に手を伸ばして駆け出した瞬間に五芒星は弾け飛んで消えて幽霊モドキが自由になる。霊力が抜けた影響か小さくなってはいるが未だに元よりも大きい。
いや、待て。体は萎んで行ってるが凶器は大きくなってねぇか?
風船人形の一部に空気を集中させる様に狂気が刺さった左腕だけが膨らんで行って、面積が増えた事で内側から肉と皮を突き破って凶器が飛び出した。
今まで俺が相手して来たのは底位より一段階上の下位の妖魔、普段は見えない以外は精々野良犬程度の脅威。少なくても目の前の幽霊モドキがやった様な霊力の一極集中なんて出来やしなかった。
ただの見せ掛けじゃねえのは五芒星が弾け飛ぶ寸前に踵を返してこっちに走りながら手を伸ばす小姫の姿が証明している。強化に消耗した霊力の殆どが無駄で思考の高速化だってショボい俺と違うであろう彼奴が焦ってるんだ、迷う余地は存在しねえ。
相手の動作と表情から意図を読み取って動くのは武術の基本、稽古中は師範と門下生だからって容赦無しに叩き込まれた。……姉さん相手だと読み取っている最中に一撃ノックアウトされるんだがな。
だから小姫が何をして欲しいのかは理解して、迷わず駆け出して手を伸ばす。互いの掌が触れ、正面から握り合った。分かったのは此処まで。後は俺に向かって跳ぶ位だが、俺は一体何をすれば良い? この場を切り抜ける術があるんだろう?
「えっと、先に謝ろう! 初めてだったらごめんね!」
「は? んっ!?」
正面から跳んで来て、俺に抱きついて頬を手で挟み込んで……キスをした。
は? え? はぁああっ!?
唇が触れ合ったのは一瞬、強化で思考が加速してたからギリ認識可能な時間なんだが。俺には一瞬が何分にも引き延ばされて感じた。この状況で何故キスをするのか、それを考える時間も、ましてや問い掛ける間もなく俺が感じたのは霊力の消耗。
五十メートルプールから浴槽で汲み取った感覚は昔何処かで感じた記憶が僅かにあるが、今はそんな事はどうでも良い。
「……ふぅ。これは思った以上だね。癖になりそうだよ」
俺の視界を埋め尽くすのは小姫の顔のみ。他は全く認識出来ねえ。僅かに赤らめて息が荒くなった彼女の顔は妖艶で、まるで激しい行為をした事後みたいだ。キス程度でそうなる筈もないのに不思議だと疑問を口にする事も出来ない俺を他所に小姫は幽霊モドキへと向き直る。
左腕以外は指人形サイズにまで萎み、凶器で埋め尽くされた左腕は人一人程に大きくなった。
俺達に向かって振り下ろされた咄嗟に貫気を放つが、凶器が欠けようが揺さぶられ様がその勢いは僅かにも衰えない。
頭に浮かんだのは伏柄流奥義の極み、俺が完全習得していない禁じ手。
ここで俺達が倒れたら次は周囲を警戒している零課に人達で、次は一般人。キスがどうとかは一瞬で頭の隅に追い遣って覚悟を決めようとしたんだが、俺はこの時に幽霊モドキにだけ意識を向けて小姫起きた異変に気が付けなかった。周囲への見を疎かにしたって未熟な事だが、今気が付いた。
「此処は私に任せてくれ。なーに、私……私達の力を合わせれば楽勝さ」
俺の前で針を構える彼女の体からは戦闘開始前の数倍、いや、数十倍の霊力が迸っている事に。
「
放ったのは二本の針。その針を中心に幽霊モドキを天と地で挟む様に二つの五芒星が現れた。その威力はさっきの比じゃねえ。三秒、それが幽霊モドキから残った霊力を搾り尽くして消滅させた時間だ。
霊力が迸るまでの戦いは一体なんだったんだと思える呆気ない幕切れに俺が言葉も出ない中、小姫はゆっくりと俺の方へと向き直る。
「さてと、言いたい事は色々あるだろうが全部説明させてもらうよ。先ずは今起きた……やべっ」
咄嗟に胸の辺りを両手で押さえようとしたが間に合わなかったのか服の間からそれは滑り落ちて来た。肩紐やフックの辺りが弾け飛んだ純白のブラ。小姫は慌ててそれを拾って服の中に押し込むんだが、汗ばんで湿った服は透けていて、僅かだが.……痛っ。
おい、突くな。自分の裸には其処迄反応しないからって突くな、ドロシー。普段から服とか鬱陶しいって脱いでるお前が悪いんだから突くな。
退魔士あるある 霊力の勢いで服、特に肌と密着している下着が消耗しがち。俺も任務に四回履いて行ったパンツが駄目になる。
任務終わりの車の中、早く寝ないと明日も学校だ。最初の頃は戦いの興奮もあってか寝付けない日もあったが、今じゃ送迎車に乗った瞬間に寝入ってしまい、起こされて家のベッドに倒れ込んで朝までグッスリ、早朝の稽古にも支障無しってなっていた。
だが、今は違う。起きた事態が事態だが、それ以上にキスの理由が知りたかった。
「れいきゅうしゃ? って、死体を運ぶせいもあって偶に朧車になっちまうあれか? 結構厄介な敵なんだってな」
「まあ、元が車な上に迷信のせいで親指を見せたら呪われるとかの難易度ハード……って、確かにそうだけれどそうじゃない。霊力を供給する者って書いて霊給者。それが私が君に言った言葉の理由さ」
今更ながら罪悪感を覚えるよ、事後承諾の様になったのが気になるらしい小姫が説明を始める。
霊給者は俺みたいに霊力が多いが退魔士としては実力の乏しい奴を活用する為の儀式……らしい。
形式としては霊力を対価に妖魔と結ぶ主従契約に近いんだが、これには何かを強制する力が無いとは言えないが、基本的には無いのと同じだ。
「与える側の霊力量に応じて注がれる他、受け取る側の消耗時に自動で供給する管の様な物が繋がるんだ。そして供給をする度に管は増えて行く」
「増え過ぎたら枯渇するって事はないのか?」
「大丈夫さ。管の総量は決まっているからね」
総量……成る程、君が欲しいってのは他に取られる前に人材を確保したいって事か。霊力を譲渡する関係は妖魔との契約に似ていると聞いたばかり。要するに相手は一人じゃなくて良い、そんな所か。
まあ、初対面で告白されたのかと思ったが、伯父さんじゃあるまいし違うに決まってるよな。
「……うん? 前に似た感じの事を聞かされた様な気が。そんな事があったら絶対に覚えているのに」
今の今まで欠片も残っていなかった記憶が朧気に甦って来る。不自然な程に消えた記憶に戸惑う中、視界の先から車速を遥かに上回る速度で向かってくる姿が見えた。
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敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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四従死地士 しじゅうしちし