三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
雲一つ無い晴天の下、日光を浴びて美しく育ったのは色鮮やかに咲き乱れるチューリップ畑。街から少し離れた場所にある景観スポットであり、休日にはカップルや家族連れで賑わう場所だ。
それを無遠慮に踏み潰したのは真紅のハイヒール。鮮血で染まったかの様な色をしたヒールはチューリップ畑が荒れるのを一切気にした様子を見せずに一糸乱れぬ行軍を見せていた。
股に強く食い込んだハイレグ。胸部周辺の布地は小さく、はち切れんばかりの立派な胸筋を隠し切れず大半が曝け出されている。
総勢五十人に達するであろう軍団。その顔は歴戦の戦士を思わせる精悍な顔立ちであり、頭部のウサ耳バンドの長い耳は殆ど上下していない。全員歳の頃は三十代後半から四十代前半。彼等全員黒いヒゲを整えており、バニースーツを身に付けている事で妙な不気味さを見た者に印象付けさせる。
手にするのはランスとタワーシールド、ではなく大根と季節の山菜のパスタの皿を乗せたシルバートレイ。
逞しい男達が一糸乱れぬ行軍の中で見据えるのは怪しき軍勢の到来を知らずに平穏を保つ街。この軍団がハロウィンやイースターの時期でもない街へと姿を見せた時、一体どれだけの規模で混乱が広がるのか予想が出来ない。
「者共、止まれ」
響いたのは厳しさを感じさせる女の声。その声と共に男達はハイヒールの爪先の位置をピタリと合わせて制止、次の指示を待つ。
獅子舞に股がりミニスカメイド服を着たBMI35程で八十そこそこの彼女は眉一つ動かす事無く馬上鞭を振り上げ、突撃しろとの命令を下す為に振り下ろす。
だが、声を張り上げる瞬間に獅子舞の足元目掛けて飛来した物が地面に深々と突き刺さる。その正体はBBQの鉄串。手に持つ側が円になった少し長めの物であり、行軍再開を阻止された軍勢の前に三つの人影が現れた。
「やれやれ、奇妙な仮装は祭りの日に限定して欲しいものだが、この世界の住人ではない者に望んでも徒労になるだけか、ククク」
「無駄口は其処までにして下さい。ブーメランが私にまで被弾しますので」
「……」
現れたのは黒いハシビロコウと灰色の兎のキグルミ、そして小柄な黒子。この三名の姿がどアップで映し出されて……。
そんなアイキャッチが流れた所でテレビから視線を外す。此処は早朝から開いている個人営業の喫茶店。カウンターに置かれた少し古めかしいテレビでは早朝からやっているアニメのソーセージのCMが流れている所だ。
「うん……」
聞いた事がないケーブルテレビらしいけれど無駄にアニメのクオリティが高いのが余計に嫌だ。裾から覗く老婆の生足の質感が見ているだけで伝わって来て……忘れようか。
早朝六時十五分ごろ、どうせ奢りだからと色々注文したのは良いけれど、今考えたら朝からカツカレーとピラフとチョコパフェは頼み過ぎだったかも知れない。
クリームメロンソーダを啜りながらトイレの入り口へと視線を向け、このまま帰ってやろうかとも思ったんだがテーブルの周囲を舞う光の塊の様な存在にそれを断念した。
「妖精、か。面倒なのを連れているね。下手に手を出せば厄介な事になりそうだね」
妖精……人の負の感情が形作る妖魔に似て非なる存在だ。信仰心からも妖魔は生まれるけれど、妖精の材料になるのは自然に宿る力。まっ、人にも霊力があるんだし、草木や自我を持たない植物性微生物にだってあっても不思議じゃないからね。
その姿は本来は羽を持つクリオネに近いらしいけれど、妖精と意思の疎通を行い力を借りる力の持ち主じゃないと霊力持ちでも光の玉にしか見えない。
その力の持ち主の呼び方は日本語では……。
「お待たせしました。すいません、呼び出しておいて店に入る早々にお花を摘みに行くだなんて」
「構わないよ、妖精使いさん。それで何の用があって私を呼び出したのか教えてくれるかい?」
呼び出しておいて早々に便所に行くより深夜の訪問の方がマナー違反だろうってのは言わないでおこうか。いや、指摘した方が面白い反応を見せてくれそうだけれど妖精のコントロールを乱されても困る。
目の前の人が良さそうな奴が私に抱く感情の種類が分からない以上は慎重になるしかないね。
「ルサルカ・フォン・ハイドリヒ……ルサって呼んで。大和君はルサ先輩って呼んでくれているわ」
「そうなのかい? じゃあ、私も同じ呼び方をさせてもらうよ」
ところでドイツの軍服っぽいコスプレには何か理由があるのかな?
「それで朝から呼び出した理由なんだけれど……」
正確には深夜にアパートを訪ねた理由何だけれど、ルサ先輩は目を泳がして言い淀む。余程言いたい事があったんだろうけれど、いざってなったら言えない理由か。……何とな〜く思い当たってるんだよなぁ。
それとトイレの時間からして何方だったかは分かるけれどカレーを食べている最中に考える事でもないし、ここは軽く揺さぶってみようか。やれやれ、同じ地区で行動する同世代の同性が嬉しいから、とかなら可愛げがあったんだけれどね。
「もしかして彼とキスした事が気になったのかい?」
「キッ!? え、ええ!? まさか既に契約を結んだんですか!?」
ビンゴ! やっぱり先輩関連か。
彼は霊給者について記憶があやふやだったから何かあると思っていたけれど、妖精使いに記憶操作を受けたんだ。
そしてこの反応からして霊力タンクとして狙っていた訳じゃないね。
私の言葉に真っ赤になったルサ先輩は勢い良く立ち上がるけれどそれ周囲の視線……特に店長の射抜く様な眼差しに気が付いて大人しく座る。ふんふん、白髪の老人だと侮らない方が良いだろうね。
多分引退したけれど一流の退魔士だったと見た。
「騒がないでくれよ? 退魔士限定の時間がある店なんて珍しいんだ。出禁になったら困る」
「ご、ごめんなさい……」
ホームズの舞台で人間嫌いが集まるクラブが存在するけれど、この店も時間限定で関係者以外を遠ざける結界を張る、いわば退魔士関係者用のカフェなのさ。
サブカルチャーへの理解が進んだ今の時代でも人目を気にせず出先で自前の結界を張らずに退魔士関連の話が出来るのは悪くない。
需要と供給の問題で普通のカフェより割高な反面、今食べてるカツカレーみたいに夜の仕事明けにガッツリした物が食べられるのも良いね。
「それにキスって言っても緊急時に霊力を貰う為に行ったのさ。誰かと違って……いや、その誰かさんは何もしていないのか。ごめんごめん」
「だ、だって急に先輩から手を繋ごうとか抱き締…めてとか、キ、キキキ、キスをしてなんか言ったら困ると思って……」
だから直前でチキッて日和って誤魔化しに走った結果が記憶操作だと……。
真っ赤になってモジモジしているけれど私には理解不能だ。いや、あの彼に魅力が無いとは言わないよ? たださぁ、霊力ってのは私達にとって生命線。
キス程度は救命措置だと割り切るべきだろうに、妖精使いって森の奥で男子禁制の生活をするって本当だったのかい?
手を重ねる事さえ恥ずかしいと語る姿には信憑性を感じさせられる。あー、はいはい。気になってるけれど奥手で強く出られない年下男子に接近している女が居るから、後先考えずに深夜の突撃近所の深夜飯をしに来たと。
「店長。ランチにしたいからテイクアウトでサンドイッチを頼めるかな?」
「容器が五百円、保冷剤は三百円だ」
「別に構わないよ」
暴利だけれど断ったら居心地が悪くなりそうだし、それに私が払う訳じゃない。どうせならコーヒーもテイクアウトしちゃおうかな?
警戒するに値せず、それがルサ先輩に対する評価だ。霊給者としてのパスを繋げられるのは一人だけ。この人の場合、それを口実に傍に居ようって腹積もりだろうけれど、私はある程度の繋がりがあればそれで良いからね。
「いやはや、それにしても彼の霊力量はどうなっているんだろうね? 本来五必要な強化に五十の霊力を注ぎ込むお粗末なコントロールでも問題になってなかったんだ。ルサ先輩が狙うのもよく分かるよ」
「確かに霊力コントロールは酷すぎるけれど新人研修を受け持った間に仲良くなって、最初は目付きが怖かったけれど段々と格好良く見え始めて、それに"ベトベトさん"の時も……」
ちょっと嫌な女を演じて揺さぶりを掛ければ、ほら簡単。そんな風に自分の想いを口走ったら駄目じゃないか。
お前も彼の霊力だけが目当てだろ? そんな風に遠回しに問い掛ければ容易に引っ掛かる姿には心配さえ覚える。私は出会ったばかりだし気遣いとかされてるなぁって程度しか感じていない。後は……好意があるみたいな態度を向けるのに嫌悪感を覚えない程度には顔が整ってる?
その程度が私の感想だ。だって付き合い浅いし、一回共闘しただけで恋に落ちるとか創作の世界だけじゃないか? 吊り橋効果にしてもチョロい。
まあ、余程の世間知らずの箱入り娘じゃないと無理だよね。
「そういえばルサ先輩はどうしてこの街で活動を?」
「妖精使いとしての活動を配信してたら零課に怒られちゃって。問題点を教わったから……」
駄目だ、目の前に居るのはその箱入り娘だ。何やってるんだ、一体!?
「そんな私にも彼は今後頑張れば良いって優しく言ってくれて……何時か家に招待されてソファーに隣り合って座りながらお話が出来たらなあって思うわ。三年以内が目標かな?」
「……頑張って」
そうとしか言えない。年単位の目標が家への招待と隣に座る事って……。
こんな人を前に最初に言おうとしていた事なんて言えないな。一発ヤッて強力なパスを結べればそれで良い、だなんて。
こんな能天気な純情娘にって意味でも……退魔の一族にカス霊力で生まれる意味を知らなさそうな奴にって意味でも。
「ところでドロシーに関してはどう思う?」
「あの賢いフクロウさん? 可愛いとしか……」
あっ、女の子の姿になるって知らないな、これは。
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし