三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
「こりゃ随分と立派な物が出たもんだ。年季が入っている」
「ええ、祖父のコレクションを収めた蔵の奥から発掘しまして」
とある町の古物市場、その主催者の元に常連客から掛け軸が持ち込まれた。江戸中期の絵師の作品で蛇を描いた物で、トグロを巻いた蛇が絵を眺める者を威嚇する姿なのだが、背景に描かれた木の表面や池の中にも蛇が隠し絵で描かれている。
作者こそ有名ではないものの、偶に出回れば通な客が競って買い求める逸品だ。
「私には古美術はよく分かりませんし、父の医療費に使うのなら祖父も許して下さるでしょう」
それでは今回も宜しくお願いします、と掛け軸を持ち込んだ少女は頭を下げて部屋から出て行けば、入れ替わる様に部下が入って来た。
「お客様がいらしてたんですね。随分とお若い方ですが……」
「家の物を持ち出したと思ってんなら邪推だよ。お父さんが病気だからって死んだ祖父さんのコレクションを売りに来てるだけさ。身元は私が保証するよ」
少しばかり探る様子の部下に主催者は機嫌を損ねた口調で言い切った。
「あの上物の着物を見ただろう? 立ち振る舞いからも没落したが育ちの良いお嬢さんだよ。名前も古風でね。お玉ってんだ。ほら、用事があるなら早く言いな。今日は忙しいんだからさ」
「は、はい!」
今回出品される掛け軸を含めて激しい競りになりそうな品が多く、これから忙しくなると二人は張り切って仕事へと気持ちを切り替え、話題に出ていた少女は既に外に出て建物の影になる場所へと移動していた。
先程までの品の良さそうな柔らかい表情は何処へやら、鋭い目付きでここに居ない誰かを睨む姿はまるで別人だ。
「ああ、不愉快不愉快不愉快不愉快。年配の男はどうして此処迄不愉快なのでしょう。視界に入るだけで虫唾が走る!」
足下を這いずる底位の妖魔を苛立ち紛れに踏み潰し、少しは気が晴れたのか足取りを元に戻すと自動販売機へと向かって行く。手当たり次第にジュースを買い求めるとその場で次から次へと飲み干していった。
三百五十ml缶を十一本と五百mlペットボトルを八本、計七.五ℓを華奢な体に流し込んだ彼女は何事も無かったかの様に財布の中身を覗き込みながら街の方へと向かって行った。
「何か甘い物でも経費で食べてから帰らないと辛抱出来ませんね。街頭アンケートの服装も必要ですし、それこそ……」
そっと上げた右手の指先が陽炎の様に揺らめいて厚みと色を失う。影だけになった指先は鋭く尖りながら伸び、軽く腕を振って通り過ぎた後で近くにあった街路樹が輪切りになって崩れ落ちた。
「それこそ……千人は無差別に殺してしまいそうですからね」
顔から威圧感が消え失せ、清純さすら感じさせる表情で呟いた彼女は街中へと向かって行く。この日、人混みに紛れての通り魔事件により幾人かの犠牲者が出たのだが、その全てが男性であった。
鋭利な刃物で腹か背中などを切り裂かれ耳や指を切り飛ばされたものの有力な目撃証言は見つからず、被害者のタイプも見た目等がバラバラだったが共通する項目も二つある。
全員顔に皺が刻まれる年頃であり、必ず股間の辺りを深く抉り取られていた。
凶器特定も不可能であり、一定以上の年を重ねた男性への深い憎悪以外は犯人の分析も出来ていない。やがてネットや週刊誌では無責任な噂が広がり、新たな怪談が生まれるのであった。
「……前から疑問なのだが何故ルサルカめを家に呼ばぬのだ? 佳奈と桂花は頻繁に来るというのに」
「あのアホ二人は呼んでもねぇのに勝手に来てるだろうが。ルサ先輩の場合は……ほら、俺って実質一人暮らしだろ?」
それが同年代の異性を家に呼ぶとか変な下心を勘繰られるのはちょっと嫌だ。あの人には新人研修で世話になったし、何度か共闘もしたんだ。でも出会って一年と半年位か?
それじゃあ全く警戒しないってのは無理がある。俺にはその気が無くとも、下心や恋心があると思われて気まずくなるのは……まあ、向こうも家に来たいとか言った事ねえし、通り雨で雨宿りとかの理由がなけりゃ呼ばないのは普通なんじゃね?
「大体、家に呼んだら絶対にセクハラするだろ、テメェ」
ルサ先輩とドロシーとの遭遇は仕事の時限定だが耳を甘噛みしたついでに息を吹き掛けたり抱っこをねだる様に胸に顔を近付けたり、地面を歩いて飛び上がる振りでスカートの中に入り込んだり酷いんだよ。
珍しくスカートだったからって欲望のままに突っ走りやがって。
そのせいで真面目で世間知らずで純情で天然の先輩のスカートが捲れ上がって大変だったんだからな?
「するな。余がセクハラすると天地神明かけて誓おう」
少しは取り繕え。開き直り短距離走の金メダリストか。
「普通はしないって誓うんだよ」
「だって余はフクロウの妖魔であるからな。人の姿や元は人という逸話持ちでもないのに人の子の普通など通用せぬ」
ぐっ! それを言われると反論出来ねえ。
あくまで人の姿になれるだけで知能が高かろうと根本的な価値観は違う。だから今もこうやって……風呂掃除の為に床のブラシ掛けしている俺の横で優雅に水風呂を満喫中だ。勿論人の姿でな。
一応全裸ではなくて胸の辺りだけピチピチの競泳水着を着ている。だからって風呂で泳ぐなって言いたいし、それに……。
「フクロウで良くね? 実際用意してるフクロウ用の容器でもしてるだろ」
「あれはあれ、これはこれ。人の手足で優雅に泳ぎながら水浴びを堪能するのも一興といった物だ。お主も床の掃除が終われば入るが良いぞ? 余が許可しよう」
それはそうと普通のフクロウと同じくお湯は使わねえんだな。本来はお湯で羽の油分が落ちるのが駄目だって話だが妖魔の此奴には無関係だとは思うものの、本人が水浴びの方が好きなら別に良いだろうか。
風呂は風呂で好きらしいけれどな。
問題は風呂掃除の最中に始めやがった事だ!
ウチは広めの日本家屋なんだが、特に風呂は道場主だった祖父さん拘りで門下生が稽古後に入れる様にって少し小さい旅館の浴場かって広さだ。だからドロシーが背泳ぎしても少しは余裕があるし掃除だって大変だ。
姉さんが帰った日に気兼ねなく使える様に掃除は定期的に行ってるし、今だってタイルをブラシで擦っている最中。そんな横で泳ぎやがって……。
体力的には風呂掃除程度は大した事が無いが、自分が働いている前で遊んでるのが居たら嫌だろ?
「その不満気な目は何であるか? 余は貴様等姉弟の言い付け通りにこの様な物をわざわざ装着してやっているのだぞ?」
今着ている水着は姉さんの中学時代の物だ。水泳にどハマりして水泳部に入ってた時のが思い出の品として倉庫に放り込んでたのを引っ張り出したんだが、どれを着ている当人は不満そうな目を向けている。
どうしても俺と一緒に風呂に入ると駄々を捏ねた時があって、
「全裸で入ってたら流石に掃除は後回しだぜ?」
俺の視線に気が付いたらしく、立ち上がったドロシーは親指で肩辺りの布地を軽く引っ張って戻すのを繰り返す。そりゃ普段のふんわりドレスも違和感があるとか言ってるからピチピチの水着とか更にだろう。
濡れて水が滴る髪が垂れて水着に張り付き、胸から下腹部へとゆっくりと流れて行って……うん、悪くはないか。
「むふふふふ。貴様の趣味が露出過多よりも体のラインが分かる方が好みであろう? 襲いたいのなら襲っても良いぞ?」
「性癖への言及は辞めとけ。それと着てるのが実姉の物だからな? 流石にそれを着衣プレイに使いたくねえ。どんなフェチだよ、どんな」
もう良いや。何言っても無駄だから無視して掃除をするか。だから少し脱いで谷間見せて来んな。先端見えるギリギリで上下させんな。
完全に居ないものとして扱おうとした時、玄関のチャイムが鳴る。来客の予定は無かった筈だが誰が来たのやら。
あの馬鹿共なら急に来てもチャイムを鳴らしたりしないだろうし……。
「ドロシー、絶対に出て来んなよ? 出るならせめてフクロウの姿で出て来い」
もし退魔士関連だった場合、契約している妖魔に姉の水着を着せている奴って思われちまう、絶対に嫌だ。
掃除の最中だと分かる格好だと相手が気を遣いそうだが待たせるのも悪いと出てみれば見知らぬ男が立っていた。
「よっ! 風呂掃除中だった? だったら悪いな。俺は
「あっ、はい」
金髪に染めたチャラい感じのが来たが……強いな、この人。霊力は分からねえが、体幹や足運びが熟練者のそれだ。一体何者だ?
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし