三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
晴天の下、陽光が照らすスクランブル交差点。本来ならば人でごった返す筈の場所に人の姿は無く、代わりに姿を見せるのは異形の者共。
炎に包まれた大男や目玉の飛び出した仏像、そして人の女の頭を持つ大蛇。季節外れのハロウィンではなく、時間外れの百鬼夜行。全ての妖魔が視界に入る全てを殺さんと襲い掛かり、その巻き添えでアスファルトの地面は砕け建物は崩壊して行く。
此処は“異界”。退魔士が人と物遠守る為に、妖魔が潜んで時に人を引き込んで弄ぶ為の空間。あの世とこの世の境とも呼ばれる場所であり、此処自体が意思を持たない妖魔の一種なのではと考える者も居る。
嘗て海の遥か彼方に在るとされ……退魔士の記録には実在したとされる常世国の様に。
肉片や血が飛び散り、咆哮と断末魔の叫びが響き渡る戦場の中、カランコロンと下駄の音を鳴らし鼻歌を歌いながら軽い足取りで中央を進む者の姿があった。
「なんや。随分と地味な戦いばっかやないか。こりゃ漸く誘われて勇んで来てみればぬか喜びだったわ」
それは長身の男だった。ボサボサの癖毛を無理矢理に整えて既に崩れ始めた金髪で髷を結い、無地で紺色の着物の右袖から腕を脱いでもろ肌を晒し、身長程の大太刀の下緒を指に引っ掛けてブラブラと揺らしている。
目は針の様に細く、口元から覗くのは営利な八重歯だ。顔は整っている方ではあるものの、何処か不真面目でちゃらんぽらんな風来坊の印象が強い。
面白くないとでも言いたそうな言葉の割には声色は明るく、腰に下げた瓢箪の中身を喉に流し込む姿は場違いだ。地面に広がる血溜まりを悠々と避けて下駄には一滴も付着していなかった。
首が宙を舞う男が投げ飛ばされたのを僅かに体を捻って回避し、背後から忍び寄る人面蛇身の女に振り向きもせずに縦に両断する。
周囲で起きる化け物同士の殺し合いなど意にも介さず、退屈だとばかりに欠伸を噛み殺して周囲を見回した。
「おおっ! 影女の姉御やないか! おーい!」
視線が向けられ手を振る方角にはビルの屋上から戦いを見下ろしていた影女の姿。それを確認するなり男は嬉しそうに声を掛け続けるも反応は無くて、聞こえている筈だと首を捻って暫し考えると両手をポンっと軽く叩き合わせた。
「そや! 姉御は照れてるんやな。ええでええで、どうせ今期の遊戯を生き残ったらワテの妻に貰うんや。だからまあ……うん?」
「脚洗ってくれぇえええええっ!!」
「え? 嫌やけど? だって汚いやん」
不意に男の周囲を、いや、周辺一帯を影が覆い尽くす。同時に何かが上から迫る圧迫感に妖魔達が空を見上げれば日の光を遮る者の正体が明らかになる。
それは巨大な足だ。裏の面積は八畳からもはみ出す程。毛むくじゃらな上に何ヵ月何年も不潔にしていたとおぼしき垢まみれで伸び放題の爪も変色している。
「おっとっと」
たたらを踏むと言い表すには軽快で戯けた動作で避ければ今居た場所に向かって再び足が振り下ろされる。千鳥足でふらふらと他の妖魔の戦いの中央に入り込めば慌てて逃げ出そうとする妖魔達が押し合い、転んだ相手を踏み付けながら巨大な足に踏まれるも、狙われている男は風圧で体制を崩しもしない。
それが癪に障るのか足は男を追って踏み付ける勢いを強め、狙い以外の妖魔ばかりが犠牲になって行く。足跡は深く刻まれ周囲一帯が衝撃で沈み込んで建物が崩壊する中で影女が立つビルだけは何一つ変わらない。
「鬼さん此方〜……やな、二つの意味で」
口笛と共に手を叩いて後ろへと小刻みに跳ね続ける男の周辺には既に妖魔の姿は一体しか残っていない。その姿を見ての反応は嘲笑の如き鼻を鳴らす音だ。
その妖魔は一見すれば表面が蠢く球体で、目を凝らせば鎖が絡み合っているのが分かる。隙間無く詰まって絡み合った鎖の一部が解けて隙間から眼光が覗くも直ぐに鎖が集まって隙間を塞いだ。
「しっかし無駄な時間やったなぁ。戦うまでもない雑魚やんか」
茶化す態度はなりを潜め、飽きたとばかりに脱力して肩を落とす。足を止めたその姿を好奇と見て足が振り下ろされるも一瞥するだけで避ける素振りすら見せずに踏み付けられた。
「あー、はいはい。お疲れさん。この程度じゃ効かへんよ」
衝撃で足こそ地面に突き刺さるものの膝は折れず、防御もしていないのに男には擦り傷一つ付いていない。男の額からは鈍く輝く金色の角が生えていた。
「あ、脚! 脚脚脚っ!!」
再び振り上げた足が何度も振り下ろされ、踏み躙り蹴り付ける。アスファルトにふかいかんぼつが生じても男は服の土埃を手で払うばかりで微風程度に受け流し、ヘラヘラ笑いのまま見上げて……表情を一変させた。
「汚い足で触れんなや、クソ野郎」
一閃
振り下ろされる足に向かって静かに呟き無造作に太刀を振るう。男の頭スレスレで足の動きが止まり、真っ二つになって消え去った。
「……野郎ちゅーたけど女って説もあったか。いや、女に化けただけの狸やったか? まあ、どうでもええ事や。ほな、今からが本番やな」
峰で首をトントンと叩きながら鎖の妖魔に向き直れば返事代わりに鎖がジャラジャラと音を立てていた。つれない態度に男が少しだけ残念そうに顎を撫でながら太刀を構えても反応は薄いままだ。
「ほな、勝手に名乗らせてもらうわ。ワテは……」
「……知っている。
「おっ? ワテ、思ってたより有名やん」
名を当てられた事以上に相手が反応を見せた事に面食らう金鬼だったが、向けられる感情が濃厚な敵意であった事に思わず口笛を吹いてしまう。獰猛な笑みを浮かべる。歓喜で開いた口には鋭い牙が生え揃い、開いた目は血走っていた。
「なんやなんやなんやなんや! 詰まらん戦いのまま終わると思っとったら面白い展開やないか! あれか? ワテか仲間のどれかに身内でも殺られてもうた? なら堪忍な? 上部だけ謝っておくわ」
「風を操る
「聞いてはる? おーい」
挑発なのだろう。巫山戯た態度でペコペコと頭を下げるも反応は薄く
「そして……水を操り我が父母を殺めた
「父母? ……はっはーん。あんさん、元人間やな? その見た目に元人間ってなったら思い当たる名が一つ有るわ」
鎖が立てる音のリズムが崩れ、再び現れた隙間から覗く眼光は鋭い物となって金鬼を射抜いた。気弱な者なら泡を吹いて倒れる程の圧力に対しても金鬼は動じず軽薄な表情を浮かべ、面白くなったとばかりに口の端を吊り上げて笑みを浮かべていた。
「無から生まれたのとも、人から伝承通りに変じたのとも、伝承の皮を被らせたのとも違う特別製妖魔!」
「……黙れ。金物臭い口で囀るな」
「口臭ケアはちゃんとしてはります〜。アンノウ……今はちゃんと太歳星君って名乗ってんのやったか? マジでややこしい神やな、マジで。まあ、そんな神の小間使いやっとるチビ共が暇潰しに笑い話をしてくれるんやが……」
「黙れ」
「そんなかの一体が笑えてな。大ポカやらかして実の……」
「黙れ!」
嘲笑を浮かべ言葉を続ける金鬼に向かって鎖が殺到する。幾重にもの鎖が寄り集まり捻れて宙を泳ぐ様に。地面を薄い障子紙か何かの様に削りながら突き進んで正面から金鬼を殴打する。
回避も防御もせずに棒立ちの状態で受けた結果、鎖は甲高い音を立てて弾き返され、一部が欠けて周囲へと散らばる。
「ほやから言ったんや。戦うまでもない雑魚しかおらんって。……ワテも含めてな」
金鬼の体表に小さなヒビが生じ、それを中心に亀裂が走り肉体の表面が欠片になって散らばって行く。その勢いは増して行き、爪の先程度から小石サイズ、やがて拳大になり右肩から左の脇腹や左太股、頭部の上半分が欠損すると肉体が消え始める。
「ほ…な、さいな……ら」
崩れていく体はけして倒れず笑みさえ浮かべながら金鬼は完全に消滅、その寸前に再び鎖が叩き付けられて破片が消えながら周囲へと散らばった。
不意に拍手の音が響き鎖の妖魔は音の出所である影女に視線を向けるも金鬼に向けていたのと同じ、いや、それ以上の敵意を漲らせ隙有らば襲い掛かりかねない様子だ。
「勝ち残りおめでとう御座います、
「要らん。それよりもだ……遊戯で生き残ればあの凶ツ神は約束を守るのだな?」
「ええ、生き残れたならば願いを叶えて下さいますよ。それで今度こそちゃんと……おや、お帰りですか」
用事は済んだと縛鎖離はこの異界から姿を消す。影女は肩をそっと竦めて愉快そうに呟いた。
「まあ、あの御方の事ですから例の少年とぶつかる様に誘導するでしょうし、今は放置で良いでしょう。それにしても……随分と性格が悪い」
なお、残りの三鬼は未定
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし