三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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巨大なドラゴンを素手で倒せるのに廊下を塞ぐ荷物は除けられない勇者

 男の人との交際とか夫婦で一緒に暮らすとか、そんな普通を私は知らなかった。男女が持つ性質の違い、日本でいう陰陽の関係で男の人が妖精使いの拠点に居たら土地の力の影響が出るからって男子禁制。

 

 だからお父さんとは直線距離で徒歩半日以上必要になる離れた街に住んで貰って、私とお母さんが通っていたんだけれど街には妖精等々とは無関係な人も居るから目立った移動方法は選べないし、妖精使いは一般的な退魔士に比べて身体強化は苦手だから走って向かうのも難しい。

 

 あっ、一応補足するとあくまで分野別の得意不得意であって優劣じゃないの。陸上選手だって短距離長距離で少し違うわよね? 水泳選手が腕力でプロレスラーに劣っていたらレスリングは水泳より優れた競技ってなるかしら?

 

 夫の元に通う妻と娘、昔はそれで良かったけれど時代の移り変わりで考えも変わって来るし、結局破局してしまうパターンが増えたわ。

 

 だから素敵な恋愛なんて本でしか知らなかった私が恋に落ちるだなんて今でも信じられないわ……。

 

 

「掛け軸の呪いねぇ。絵画の怪となれば面倒なのが相手になったよ。……新メニューはリピ確定だね」

 

 そんな彼からのお願いで民家というには少しばかり豪華な屋敷に来てみれば異界に引き込まれたのはもう一人。この国で活動するにあたって挨拶しに行った伊邪那美家のお嬢様。

 何故かハンバーガーをモキュモキュしてますけれど……。

 

「うん? ああ,悪いね。今朝は少し豪勢に朝マッチョにしたんだが食べる前に呼び出しを受けてね。ほら、車内で食べると匂いが籠るだろう?」

 

 そう言いながら見せたのはアメリカに本社を置くマッチョニナルゾハンバーガーの包み。ボスバーガーやバーガークィーンと並ぶ三大バーガーチェーン。

 お父さんが住んでた街にはクラッシュレスバーガーしかなかったけれど。

 

 小姫さんはバーガーをモキュモキュ、ハッシュドポテトをパクパクと食べてコーラで流し込む。

 ゲップは横を向いて口に手を当ててでしたが緊張感が……。

 

 いや、今は異界の主である絵画の怪に集中しないと。

 

 人喰いモナリザにドリアングレイ、絵馬の中の宴に招かれるって話も日本に伝わっていたわね。絵画の中が動いたり喋ったりする話は世界中に存在するし、私も何度か相手をして来たけれど、あくまで引き込まれたのが異界なのは幸いかしらね。

 

 何せ妖精は自然界から生まれた以上、自然から大きく離れると本来の力が発揮出来ないもの。

 

 それにしても……彼女、出会ったばかりなのに距離が近くないかしら?

 

 今も大和君にベタベタ触って時々体の突き出した部分が触れているし、彼も嫌がる素振りは見せない。やっぱりキスしたから? 救命措置的な理由でしただけなのに、それでも意識しちゃうのね……。

 

 キスするって本来は最低でも想いが通じ合って恋人になる時に初めてであるべきだし、本来は結婚式で互いを愛しあう誓いのキスがベスト。だから私は思わずキスが必要な儀式を求めそうになって記憶を消しちゃったし、後で抱き締めて肌を密着させるとか、は無理でも手を繋ぐとか何とかなる方法だってある事も知って、追々時期を見て申し込もうとか思ってたのに、まさか横から掻っ攫われるなんて。

 

 未だ彼との付き合いの長さとか共闘した回数とか危ない所を助けてもらった事とかアドバンテージはあるけれども、まさか一気にキスまで行かれるなんて羨まし……破廉恥! すっごく破廉恥!

 

 此処は歳上として何か言ってあげるべきなんだろうけれど、下手したら大和君とのキスが羨ましいって本人に伝わっちゃうし、どうするべきかと迷う中、小姫ちゃんが手招きして来た。

 

 え? ちょっと女の子同士での相談?

 

「じゃあ行こうか」

 

「え? う、うん……」

 

 腕を掴まれて引っ張られた私は少し離れた場所へと連れられて行く。えっと、何の話かしら? 中に生きた人が居る気配はしないけれど早急に対応した方が良いのに。

 

 嫉妬もあってか彼女に少し責めるような視線を送っていたんだろうけれど、なれているとばかりの態度で受け流した彼女はそっと耳打ちして来た。

 

 

 

「警戒は要らないって。私は彼の霊力にしか興味が無い。気にせずグイグイ押して口説いちゃいなよ。何なら協力しても良い。ただ……キスを数回と一発ヤる事さえ見逃して欲しいんだ」

 

「ヤっ!?」

 

「どうせ分かってるだろう? 私の霊力量がクソみたいだってさ。これじゃあ何時か死ぬのは目に見えているし、一度彼とパスを結んだ以上は他の誰とも契約を結べないからね」

 

 霊力以外に興味が無いって言葉を聞いた時に感じたけれど、それは彼を道具みたいに扱う行為だ。そんなのを聞かされて素直に聞き入れられる私じゃない。

 そもそも無理に退魔士をする必要なんて……。

 

 

「言っておくけれど退魔士を辞めろだなんて言わないでくれよ? 私は伊邪那美家の人間だ。退魔士を辞めるって事は家族との縁を断ち切るって事なんだよ。……そんなの無理に決まっているじゃないか」

 

「えっと……」

 

「おっと、私らしくもない。ちょっとグルッと屋敷周りを歩いて戻ろうか」

 

 彼女が一瞬見せた憂いの表情に私は何も言えず屋敷周りを一周して戻るけれど、その最中に視線を感じた。ストーカーに向けられたのと同じ粘り着く様な嫌な感じの視線の出所を追って窓の方を向いても一瞬何かが飛び退くのが見えただけ。

 

 きっと屋敷の中で私達を待ち構えているのね。基本的に妖魔相手の戦いは向こうの陣地。万全の状態で待ち受ける相手と戦いに出向くしかない。だって異界開きをするにも少人数が限度だもの。爆弾やミサイルなんて妖魔には効かないし……。

 

 緊張感で流れる汗を拭う私とは違って小姫ちゃんは余裕そうな態度で食べ終わったゴミを時折ポイ捨てしながら歩いている。まあ、此処は異界だし荷物になるからポイ捨てを咎めなくて良いとして場慣れしてるな。

 

「小姫ちゃんは何時から妖魔と戦っているのかしら?」

 

「護衛付きで安全が保障されたのを戦いと呼ぶのなら三歳の時かな。あの頃は少し霊力が少ない程度の扱いだったのに……もう一個買っておけば良かったな」

 

 紙コップの底に残った氷をガリガリと噛み砕いてから地面にポイ捨てした所で私達は大和君の所に戻って来たけれど、何をしてたのかどうやって誤魔化すべきかしら?

 

 

「悪いね。お花積んで来た」

 

「わざわざ言わなくて良いからな!?」

 

「別に野糞なんて退魔士にとって特別でもないよ。長期任務になるからって仮設トイレやらトイレ付きのキャンピングカーを持ち込める訳でもないんだし」

 

 

 ……そりゃトイレがある場所ばかりじゃないし出すもの出さないと戦いに支障が出るけれど、年頃の女の子が男の子の前で言うのはどうかしているよ!?

 

 恥じらいって知っている!?

 

「さてと、雑談は此処までにして妖魔退治と行こうじゃないか。ルサ先輩が後方支援で私と先輩が前衛って感じで良いかな?」

 

「うん? まあ妥当だな。じゃあ、早速……」

 

 陣形も決まって今から殴り込むから扉を蹴破ろうと大和君が足を振り上げるけれど、小姫さんが不意に服を掴んで止めさせる。あれ? もしかして窓から突入するの?

 

 ああ、だから屋敷の周囲をグルって回ったんだ。でも大和君のお友達の家だし、入り込むのに適した場所を聞けば良かったのに態々あんな話をするって事は本当に恋敵にはならないって事よね。

 

 二個学年が下だけれど友達にはなれそうだし、今後の事も考えたら彼女は仲良くすべき相手。じゃあ私の力で楽に進入を……。

 

 

「RPGとかをやってたら登れそうな段差とか手作業で除けられそうな荷物に遮られて遠回りさせられるダンジョンとか有るけれど、現実ではわざわざ用意された陣地で意図通りに進む必要は無いよね。伊邪那美流罰糸術奥義……」

 

 小姫ちゃんが指先で摘んだ一本の針、それに霊力を込めるとさっきの見回りでゴミをポイ捨てした辺りからも霊力が発せられる。針の先端は真っ赤に染まり、隣にいる私でも感じられる程の熱を放っていた。

 

 

 

 

 

火来針・獅子四柱陣(ひらいしん・しししちゅうじん)

 

 投げられた針が地面に突き刺さった瞬間に屋敷の四方から立ち昇る火柱。息を吸えば肺が焼けそうな熱気に汗が吹き出す中、天へと昇った炎は宙で絡み合って形を変えて行った。

 現れたのは巨大な炎の獅子。宙に堂々と君臨する獅子は顎を大きく広げて真下へと宙を駆け抜けて屋敷に喰らい付いた。

 

 

 これが伊邪那美家、日本最古の退魔士一族の力。成る程ね。これはとんでもないわ。

 

 紅蓮の炎が囂々と燃え上がる中、小姫ちゃんは不敵な笑みを浮かべる。この程度なんでもないみたいに。

 

 

 

 

 

 

 

「これで霊力使い切ったから補充お願いするよ、せ、ん、ぱ、い」

 

 いや、何でもない事はなかったわね。大和君、キスじゃなくて良いから、キスじゃなくて。




敵幹部枠残り1


敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
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