三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
知り合いの家が燃えているってのは何かしら感じるもんが有ると思ってたんだが、異界に存在する模倣品だと何も感じねぇもんだな.パチパチと飛び散る火の粉と囂々と燃え盛り崩れ始めた屋敷。
初手、敵が待ち構える屋敷への放火。理由を聞けば確かに効率的では有るし問題は無いにしても少しばかり引っ掛かる物はある。
危ないからと少し離れた所で待つ中、霊力で発生した火は気に入らないのかルサ先輩の周囲の妖精はクリオネの捕食時の姿になって威嚇行動をして宥められ,焼き討ちをした小姫は俺から霊力を供給している真っ最中だ.
手の平と手の平を合わせて指を絡める恋人繋ぎ。キスが手っ取り早く今の状況での最高効率ではあるものの、一度したとは云え恥ずかしい。何せルサ先輩が直ぐ隣に居るし、彼女が破廉恥だの慎みが無いだの言って猛反対した結果がこれだ。
「これはこれで悪くない。ほら、霊力の供給って性的な快感が凄いせいでキスは少しばかり下腹部への刺激が強いからね。下着を穿き替える必要が出る。
「その発言の刺激が強いから黙っててくれ。ルサ先輩に特に。既に使い物にならないポンコツになりかけてるじゃねぇか」
「あわわわわわ……」
「まさか妖精使いに関する噂は本当だったのかな? キスは結婚式で初めてするものとか、エッチな事は結婚して数年後の落ち着いた頃にとか耳にしたけれど……」
「流石にそれは……多分無い。ルサ先輩見てると疑わしいけれどよ」
僅かなキーワードだけで耳まで真っ赤になっているルサ先輩は少しの間は使い物にならなさそうだ。未だ終わってないのにな。こうして呑気に話をしている最中も俺達は燃え盛り崩れ落ちた屋敷の残骸から目は離していない。
こんな状況だ,普通の生き物ならクマムシ以外は死んでいるんだろうし、妖魔であっても瓦礫で圧死しなくとも術で生まれた炎で焼け死んで終わりだろうさ。
少なくても俺が今まで相手をして来た妖魔なら、だ。
ただ例外が居る。それも先日戦ったばかりの相手。影女が用意した太歳の肉で強化された幽霊モドキ。彼奴を相手にした時と同様の嫌な予感は消えていない。
炎の中心、崩れていく瓦礫の中心が盛り上がった瞬間に俺は拳を振り抜いた。
「
霊力を扱う際において何をするのか口に出す事は重要……らしい。言霊が何とかかんとかで、学校の勉強に比べて分かり辛い話ではあるんだが、相手に何をするか悟られるデメリット以上のメリットが有るとか。
故に退魔士は術を細かく分けて名前をちゃんと付けているらしい。
拳を振り抜くと同時に勢いを乗せて指を弾けば瓦礫の中から飛び出して来た相手に空気の弾が迫る。炎を突っ切り飛び散る瓦礫も弾き飛ばして向かえば相手が姿を現した。
それは一枚の掛け軸。炎の中にも関わらず墨で描かれた絵は鮮明に見えて、瞬きの度に蛇カエルなめくじと絵が変わる。その絵の中から十五センチ程のなめくじが飛び出して貫気と掛け軸の間に入った瞬間、破裂して周囲に体液をぶち撒けた。
スプリンクラーみたいな勢いで周囲に散らばる液体に触れた物から煙が上がりジュッと物が溶け落ちる音が響くと
。
塀や庭木や石の置物、それらに容易に穴が開く中、小姫の声が響いた。
「霊力で防げ!」
液体が迫る中、俺は咄嗟に声に従う。生憎高密度の霊力を留めるなんて器用な真似は出来ねえ。だから最大放出量を放出し続ける。強酸の液体に大量の水を注いで無害になるまで薄める様に、肌に付着した有害な液体を流水で洗い流す様に。
……いや、まあ、俺は三流な訳でして、三流と呼ぶのが妥当な勢いしかないんだけどな。量だけ多くて水圧はチョロって感じだ。それでも防げたのはあくまで液体が吹き出した程度だったからで、それこそ水鉄砲みてぇに一点に集中して放っていたら貫通していただろう。
十の攻撃を二百の霊力で相殺する感じに無様を晒した俺だったが、流石の二人は全然違う。液体が触れる一瞬だけ少量を勢い良く放出して強酸の液体を弾き飛ばす。
だが、肌は無傷でも服は別だ。体に傷が付かない最小限の消耗で抑えた代償として液体の飛沫が僅かに触れた部分が穴になって広がっている。
小姫はスカートの右の裾から十センチ程に、ルサ先輩は右脇腹の下辺りから広がった穴がヘソがチラ見出来る程にまで広がっていた。
その顔に恥じらいは、無し。妖魔……今回の場合は意思持つ呪物だが、それを前にして一瞬で意識を切り替えたからだ。妖精使いの少女から妖精使いの戦士へと。
小姫も普段の何処か浮世離れした空気が消え去り表情は引き締まる。一瞬で個人から戦士へと切り替わる、未だ俺には出来ない芸当だが無い物強請りしても仕方がねえか。
「悪い。少し先走った」
相手の出方や能力が分からない以上、あの先制攻撃は迂闊だった。何もしない内に叩きのめすのは基本だが、今回は異界を作り出して獲物を引き込める程の相手。精々下位の上辺りを相手にして来た俺がそれを狙うのは浅はかだったぜ。
謝罪を短く伝え、二人に合わせて見に徹する。掛け軸……絵の怪異の表面が盛り上がって無数の蛇が飛び出した。燃え盛る瓦礫の上を平然と蠢いて進むが炎の中から出ても焦げ跡すら存在せず、一匹たりとも燃えてはいない。
その内の一匹がルサ先輩に向かって飛び掛かるも妖精の一体が間に割って入り膨れ上がった。本物のクリオネより二回り上のサイズから更に大きく人の拳サイズになった体に触れた蛇は吸い込まれる様に消え去り、妖精の体表には蛇の鱗に似た痣が浮かび上がる。
その痣に締め付けられる様に妖精の体が内側へと歪んだその瞬間、その体から光が放たれる。
「光よ。呪を祓え」
まるで祝詞でも唱えるかの様な落ち着き澄んだ声。其処に普段のおっちょこちょいで落ち着きが無いルサ先輩の姿は無く、光と共に痣の蛇は弾け飛び、周囲の蛇も消え去る。
同時に燃え盛っていた炎も消えた。
「あっ……」
やっちまったなぁ。勢い余って小姫の術の炎まで消してしまった時には普段の姿が現れ、口元に手を当ててアワアワしている。
いや、炎の中で浮かんでいるのに掛け軸は燃えてないから其処迄は問題無しって事なんだろうが。
……ん? 今,端の方っで小さな何かが動いたか?
なめくじと蛇、立て続けに手の内を見せて防がれたからか絵の怪異は次の手を打とうとせずに静観の構えだ。流石にさっきの事もあって俺は動けないルサ先輩も様子見なのか妖精達を俺達全員の周囲に散らばらせて待ちの構えだが、その中で最初に動いたのは小姫だった。
鞘から抜いた黒刃の小太刀を片手で構え、転がる瓦礫の上を身軽に飛び交い疾風の如く突き進む。掛け軸からなめくじが飛び出るも空いた手で放った糸が絡み付いて動きを止める。
次に姿を見せたのはカエル。掛け軸の横幅の三倍はありそうな巨大な顔を無理やり放り出し、喉を膨らませながら両目が間近に迫った小姫を捉える。
その顔が嗤った気がした。
「入れカエル」
カエルの口から飛び出したのは異界に入り込む時に聞いた子供の様な声。それが響くと同時に俺の目の前に小太刀を振り被った小姫が現れる。違う! 俺の位置が変わったんだ。ならば絵の怪異は一体何処にと探せば俺が立っていた場所、ルサ先輩の直ぐ近く。
咄嗟の事に彼女は対応が遅れ、嘲笑う様な声が聞こえた。
「知ってたよ。何度も倒されている量産品。罰糸術……
絵の怪異の周囲を無数の針が浮かびながら取り囲み、一瞬での巨大化によって貫いた。通常の針から鉄パイプサイズになった針は掛け軸に無数の風穴を開け、無理に脱出するも崩壊寸前だ。つまる所……追い詰められ一番厄介な状態という訳だ。
ポロポロと紙屑を落とし続け崩壊間近な掛け軸の絵が変化し続ける。なめくじから蛇、そしてカエルへと変化した所でその全てが同時に飛び出そうとして……当然だがさせねえ。
「貫気!」
ルサ先輩がしたアイコンタクトに合わせて空気を弾いて絵の怪異が力を発揮する前にトドメを刺す。完全に紙屑となった掛け軸からは霊力が急速に失われて行き、最後に塵になって消えて行く。
こうして持ち主に不幸を呼び込む掛け軸は破壊出来たが小姫の話からして他にもあったし残ってるかも知れないんだろ? ったく、迷惑なもんを作ってくれたもんだぜ。
「二人の呪いも解けたか調べたら学校だな。……朝からテストがあるんだよな」
「私なんて体育だ。せめてシャワーを浴びたい気…分.…」
終わったと気を抜いた時に耳に届いたのはジャラジャラといった金属音。何処で鳴っているのかと意識を向けた瞬間に全身に走ったのは寒気だ。
初めて妖魔に襲われた時に感じた物と同じであり,それ以上の規模の物。同時に押し潰されそうな威圧感と同時に強大な妖魔特有の霊力。それが放たれている背後に視線を向ければそれはいつの間にか居た。
無数の鎖で形成された繭の中から覗く瞳。今まで相手にして来た妖魔とは別格の存在。
「興は乗らないが願いの為に相手をして貰おう。……抗いなさい、生きていたければ」
聞こえたのは女の声。気怠るそうであり、ほんの僅かだけ期待が籠っている様にも聞こえた。
幹部枠残り一つが中々浮かばない
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし