三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
絵の怪異を倒した大和達の前に新たな妖魔が現れた時、異界の端で動く小さな影が四つあった。大和達にも、新たに現れた妖魔にさえも気が付かれずにいる者達の姿は十センチ程の体格に編み笠と古びた蓑を身に纏っているからか見えない。
顔を突き合わせまるでイタズラの相談をする子供達の様に一向の姿を見ながら話し合っていた。
「見れるかな? ちゃんとやれるかな?」
「面白いのが見れたら良いね」
「ちゃんと伝えたし、後は録画しておこうよ」
「ドッキリが成功したら太歳星君様も大喜びだよね」
口調も声も間違い無く子供だ。虫等の小さな生き物を殺す遊びを楽しむ残虐性を持つのも子供だ。時に玩具を壊して遊ぶのも子供なのだ。編笠と蓑の隙間から覗く円で無機質な瞳には新しい玩具に向ける輝きが宿っていた。
「おいおい、おいおいおいおい。何の冗談だい? 君は人間には深く干渉しないって聞いていたんだけれどね、
「君、等と馴れ馴れしい呼ぶ方をされる程に知った仲でもないでしょう。互いに相手を情報でしか知らなかっただけですよ、伊邪那美の忌み姫さん」
突如現れた
さっきの言葉には色々と伝わる物があったんだがな。
ただ、霊力の感知技術が拙い俺でも目の前の相手がヤバいってのは嫌でも感じられる。それは肌で感じる威圧感であり、小姫の様子であり、捕食時のクリオネになった妖精達の姿によってだ。
俺と小姫が直ぐ近く、少し前にルサ先輩が居て更に先に
「あくまで此度は様子見。先手は譲りましょう。見せなさい。貴方達が我ら太歳星君が側近……『
また最後に心底嫌そうなのを声だけで伝えながら
オムレツ? って疑問は捨てよう。何か騙されてる気もするんだが……。
鎖によって殴打された地面は周囲に亀裂を広げながら跳ね、地面の凹凸によって軌道を変えながらも俺達の方へと向かう。縦横無尽に跳ね回り、生じた亀裂と陥没が他の鎖の軌道に影響して動きを読むのは困難。
「
三人にそれぞれ五本ずつ、跳ねる度に勢いを増す鎖が最初に迫ったのはルサ先輩。大きく跳ね空中でぶつかり合って前後左右から迫る鎖に対して選んだのは前進。
今の距離ならばもう一度あるであろう地面への着弾で更に軌道が変わる前、鎖の間隔が狭くなる瞬間に妖精四匹を頂点に添えた半透明の障壁を展開して鎖を防ぎに掛かる。
尚、術の名前は母国語で言っている物とする。
一本、二本、三本と甲高い音を立てながらも鎖を弾き返し障壁も耐え切れずヒビが広がるも力を流し込む事で修復し五本全てを弾き返すと同時に障壁を解除するが二匹一対で頂点が繋がり辺が結ばれたままだ。
「
妖精二対が宙を舞い弾き飛ばした鎖を間を通る力の辺で巻き付き縛り上げる。鎖が拘束を引き千切ろうともがくもビクともせず、地面に落ちると、共に動きを止めた。
だが、先輩も無事では済んでいない。たった数秒の力の使用で肩で息をする程の消耗を見せている。あれじゃあ連発されるか鎖の数が増えたらヤバそうだ。さっさと合流しねえといけねぇ。
だから俺達も各自で迫る鎖を何とかしなきゃな。
「……ふぅ」
肺の中から、体内から、意識から余計な物を追い出す様に静かに浅く息を吐き出す。インドの神話か何かでは鳥の目を射抜けという課題を唯一達成した男が師に何を見ていたか問われた時、矢を外した他の弟子が鳥と答える中で男は鳥の目しか見えないと答えたとか。
極限の集中力とか無我の境地って奴なんだろう、姐さんは兎も角今の俺じゃ到底無理な話だが……物真似の猿真似の三流の贋作程度なら何とかなる。瞳を閉じて空気の流れと気配のみに意識を傾け、曲げた指以外の全身から力を抜く。
目を閉じても感じる殺意の塊は直撃すれば骨折じゃ到底済まない威力。それが目と鼻の先まで迫った瞬間、腕を振り抜いた。
「
一撃目、鎖の表面に切れ目が入り衝撃で弾くも切断には至らず。二撃目、摺り足の前進と共に一撃目の傷跡をなぞり断ち切る。両手の爪が割れ指先から血が流れた痛みが伝わるも未だ動ける。たかが指先,後でどうとでもなる。
横では小姫が同じく糸を巻き付けた鎖を切断、破壊と共に向かって来た鎖は消え去り俺と小姫は
針は発熱によって赤く染まり時折電光が迸っている。
「
「
放つのは指の負傷を無視しての連発。小姫の投じた針も空通で炎に包まれると共に杭を思わせる大きさへと膨れ上がり更に激しく放電している。この二つの攻撃を前に
避けも防ぎもする様子すら見せず、寧ろ鎖の隙間を開けて向かって来る攻撃を観察するかの様に覗かせた目と視線が重なった時、何もかも見透かされている様な感覚に襲われる。
何だ? 攻撃は防げて反撃までしたってのに押されている気がするな……。
ビタン! 一度だけ鎖の先端が地面を打つ。それは威力も無く苛立ち紛れに小石でも蹴った程度の様で、聞こえて来た声も何処か嫌々やっているって印象だ。
そもそも俺達を試すみたいな発言が……おっと、考えるのは後だ。
特に守りを固めたり、回避動作を見せないって事は……。
「やはり先日の誓言破りの反応が……いえ、此処は見事だと認めましょう。ですが……」
先に到達したのは雷炎を纏う針。着弾と同時に膨れ上がった炎は空気の弾を包み込んで更に激しく燃え上がり、電撃も炎の中で迸り続ける。
「依然として存在するは力の差。此の程度でしかないのですね……」
鎖が横一文字に振るわれる。ガガンボでも追い払う程度のその動作で雷炎は消え去り、鎖の隙間に挟まっていた針はへし折られて地面に転がった。
それを一瞬だけ眺める
ルサ先輩同様に小姫も体力霊力の限界が近いのか膝から崩れるのを耐えながら息を荒くしている状態。そうなる程に力を込めた攻撃を食らっても
攻撃してきた鎖は断ち切れたが、その身を纏う鎖の繭には掠り傷すら付いていないなんて勘弁して欲しいもんだぜ。
別格だ。俺が今まで戦ってきた……戦いだと認識出来る程度の力を持つ妖魔なら鼻息で吹き飛びそうな程に
そんなのがわざわざ姿を見せる理由には心当たりが全く無いんだが……。
「なあ、
「かなり昔から人の世の隅にいる妖魔で手出ししなければ基本無害とされているね。ただ、彼女の場合は……」
此処で小姫は言い挑みながら
「……別に話しても構いませんよ。甘い誘いに乗った大間抜けだと退魔士の間では教訓として使われているのでしちょう? ……誓う。我等は……」
「やばっ!? 彼奴を止めるよ、先輩!」
何もない場所から伸びて腕に絡まる鎖。重さも圧迫感も覚えず触れてもすり抜ける幻の様な物だ。
何をする気か分からなくても何かをさせたら不味い状況だと俺にも分かる。それは当然二人も同じ。いや、小姫は何か知っている分焦りが強い。
絞りカスまで霊力をかき集め、止めようとするも再び鎖が波打ちながら迫るその時、四つの小さな影が間に割って入り込んだ。
「はーい。ストップストップ。その戦い、ちょっと待ってね」
現れたのは小さな……人形? 子供向けアニメの主人公の様な子供の様な声を出し簑と編み笠で全容は見えないが、
「何の用ですか?
「何の用って、バーちゃんがやり過ぎてるから止めに来たんだ。それにしても先日の『五凶星』を決める戦いで……あっ」
「……は? 悪六烈ではなかったのですか? それとふざけた呼び方は辞めなさい」
「選ばれた五体の妖魔にはちゃんと教える事になってるから君には敢えて嘘を教えたんだよ? それと呼び方についてはノン!」
此のっ僅かなやり取りでも性格の悪さを感じとる俺が一歩踏み出そうとするも服を掴まれ動きを止められる。その顔は焦りで染まっていた。
それは小さい闖入者が本当に不味い相手の様だとでも言わんばかりだ」
「先輩。あの妖魔が欲しい物を聞いて来ても教えたら駄目だ。絶対にね」
「お、おう。それで……消えた」
ほんの一瞬だけ意識を逸らして戻せば
何にせよ此れで一件落着だと良いんだがな。学校……今日はサボりたい気分だぜ。
気力も体力も短時間で消耗してしまった事で今すぐ自室のベッドで眠りたい誘惑に襲われるのだが、そうは行かないんだよな。
そして結局俺は登校する事にして……。
「それで私の交際相手となる様にとの提案の答えは出てまして?」
取り巻き二人を連れた銀髪のお嬢様に絡まれていた。面倒臭ぇ……。
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし