三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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価値観は人により、それは人外でも同じ

 太歳星君の拠点であるとある地の異界に存在する屋敷の廊下を縛鎖離をが進む。普段はその身を守る鎖の繭から出ており、普段は防具である鎖が体のいたる所から伸びて引き摺られる様は拘束具の様だった。

 艶のある黒髪を伸ばし死装束を連想させる白い服を身に纏う姿からは幸薄い印象を見る者に与える事だろう。

 

 その素顔は三十手前の美女であり、眉間に皺を寄せて不愉快だと不機嫌を隠そうともしていなければすれ違う男の多くが振り返った事だろう。今の彼女は手を差し出せば容赦無く食い千切る狂犬の雰囲気を纏い、鎖は時折蠢いて床から天井までを強打して傷を付け、素足は何処を歩いたのかと問われそうな程に汚れて足跡を残す。

 

 しかし、悲惨な状態になった屋敷の廊下は彼女が通った後には汚れも破壊の痕跡も消え失せ元の状態だ。それを知ってか彼女の足取りは更に荒くなり眉間に皺が寄るも、曲がり角から現れた男の姿を見て止まる。

 その顔には意外な相手に会った際の驚きと癇癪姿を見られた事への居た堪れなさが滲み出ていた。

 

 相手は烏帽子を被り平安貴族を描いた絵から飛び出して来た様な美男子であるが顔色は然程良くはない。病人とまでは行かずとも病み上がり程度に調子が悪そうではある。

 

 縛鎖離と男は鉢合わせになると互いに足を止め、軽く会釈を交わす程度には関係性が悪く無い様子だ。

 

「よもや氐房心(ていぼうしん)殿とこの場で会うとはな。あの凶ツ神に貴殿も選ばれたのか?」

 

「……ああ、此度の遊戯に私の参加を要請されたのだ。其方の事情は知っているが私は奴に感謝していないと言えば嘘になる。日の本に暮らす無辜の民を巻き込まぬ限りはな」

 

 縛鎖離が太歳星君に抱く感情を理解しているのか氐房心(ていぼうしん)からは感謝の意を表す事への申し訳無さが滲み出ていた。彼女もその言葉に怨嗟の言葉が喉奥から出掛けるも堪えた様子で再びの会釈と共に横を通り抜け少しばかり早足で進む。

 その背中に氐房心(ていぼうしん)は一瞬だけ肩を竦め、そのまま背中を向けたまま言葉を送った。

 

 

「互いに遊戯……此度の『死屍幽遊(ししゆうゆう)』を生き延び再び願いを叶えられる事を願おう。……世に仇をなす魔の上に狂神に従う私が何を、とは思うが」

 

 やがて縛鎖離が立ち去った後、氐房心(ていぼうしん)は思う出した事があったのか追い掛けて知らせるか悩む素振りを見せた後で静かに首を左右に振った。

 

 

 

「私もだったが、あの疫病神になった者と縛鎖離の相性は悪そうだ。稚児が起こした癇癪に反応しそうだが……止めさせる気は無いのだな? 迷い家」

 

 氐房心(ていぼうしん)が振り向けば通って来た廊下は様変わりし前後左右に道が現れ、先を覗き込めば更にそれが続き天井に開いた穴から縄梯子が垂れ下がるなど後を追うには些か面倒だと呟いた氐房心(ていぼうしん)は諦めたのか肩を落とし、頭痛がするのか額に手を当てている。

 

 この時、氐房心(ていぼうしん)の脳裏に想起されたのは縛鎖離を煽るであろう者の言葉。気安く肩に手を回し人懐っこい笑顔で平然と言ったのだ。

 

 

 

『お前さん、家族に生け贄に選ばれたんだって? 良かったじゃないか。居るだけで周りを苦しめる役立たずが役割を貰えて漸く生まれた意味が出来たんだから』

 

 

「あの者の事だ。確実に火に油を注ぐだろうな」

 

 深い溜め息を吐き出した後、氐房心(ていぼうしん)も少しばかり嫌だったのか無造作に拳を振るって壁を殴り付ける。その動作はケンカ慣れしていない素人の動きであり、下手をすれば拳を痛めてしまうのだが壊れたのは壁とその先に進む隠し通路だ。

 

 嵐に直撃でも受けたかの様に激しく破損し、直線上の何もかが薙ぎ倒され、この時は縛鎖離とは違いそう易々とは修復されそうに無い。

 

 

「私も他者について言えぬか。……いや、あの者の発言が悪いと思おう」

 

 遠くから伝わる轟音と振動の後、雨など降っていないにも関わらず天井から水が滴る。それが屋敷の悲鳴の現れなのかどうか……氐房心(ていぼうしん)には分からない事だった。

 

 ただ何となく留まっていたら面倒な事に巻き込まれる、そんな直感に従って彼は消えたのだ。

 

 

 

 

 

 お嬢様……まあ、相手側の娘を丁寧に言い表す際に使う呼び方だな。お宅のお嬢様はウチの馬鹿娘と違って云々とか。その他では身分の高い家の令嬢とか金持ちの家の娘とか。

 

 佳奈の奴も一応はお嬢様か? お嬢様(笑)だけれど実家は太いし……太いっつったら二人とも最近少し太ったよな。未だ下っ腹が出る程じゃねぇが太股やらがムチムチしてるから少しは運動させねえと。

 

 ……運動の名目で妙な心霊スポットに付き合わされるのは勘弁だから実家の方に告げ口して何とかしてもらおう。合鍵渡して様子見を頼まれる位には俺って信用されてるし、生活力に関して二人は信用されてない。

 

「げっふぅ。やっぱり惣菜パンにコンビニチキンを挟むのは最高ですわよね。ベーコンマヨにブラックペッパーと揚げた鳥の旨みが合わさって……ふぅ。日本マッチョ企画部の方々,こういったのを販売して下さったら良ですのに」

 

 ああ、お嬢様といえばもう一人。立てば芍薬座れば桔梗だっけか? 黒髪ロングで趣味は生花とでも言いそうな大和撫子、但し表面だけ。百七十に届く身長に触れれば折れそうな華奢そうな身体付き。

 

 それがジャンキーな物を炭酸飲料で胃に流し込み俺の真横でゲップをしている。信じられねえが、これでも一応お嬢様。旧華族の由緒正しい家柄の母親と十年で日本でも有数の外食チェーン『日本マッチョニナルゾハンバーガー』の社長の父親を持つんだ。

 

 名前は美の神と書いて美神(びこう)天上美神(あまがみ びこう)

 

 普段は取り巻きである地味な眼鏡の桔梗とサムライポニーの桜ってのを引き連れているが、俺と二人っきりで自分の良さを教えるって言って今に至る。

 

「太るぞ?」

 

「私は少し痩せ過ぎですので大丈夫でしてよ? 今日は空手同好会の方に顔を出す予定ですし」

 

「怪我にゃ気を付けろよ? じゃねえと茶道部を週一しか言ってねえのがおっかねえ母様に知られるからな」

 

 このお嬢様(笑)、強く美しくなれって言われたから強さを求めて空手同好会に入会、緩~い感じでやってたが空手にドハマリして今に至る。

 親には内緒なので空手着は取り巻きの物としているらしい。

 

 

「その辺はパーフェクトに完璧(パーペキ)に誤魔化せてましてよ。ほほほほっ!」

 

 尚、この女はアホである。俺に色々言ってくるのは……まあ、お嬢様ってのは大変なんだろうなって同情を向けてる友人だよ、一応。

 

 よく学校ではボロ出してねぇなっつーか、よく入試に通ったな、此奴。この比良坂学園って結構偏差値高いぞ? コネ……いや、友人を疑うのは駄目だ。家庭教師とお供二人の苦労に乾杯!

 

 

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
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