三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
「それにしても髪を染めなければならないのは嫌になりますわね」
校則では髪を染めるのは基本的に禁止だが、その禁止事項を破ってまで髪を染めろと言われる奴だっている。その中の一人である美神は黒髪の先端遠指に絡ませて不満そうな表情を浮かべ納得していない様子だ。
だって此奴の本当の髪色は黒じゃねぇ。父方の祖父さんから銀の髪を受け継いだってのに顔立ちが日本人なもんで染めてる風にしか見えねえからって黒くしてるんだ。
だから今は黒髪だろうが俺の中では銀髪のお嬢様だ、もしくは銀髪のお嬢様(笑)
……俺は母さんがアメリカ人だが髪の色とかだけ受け継がなくって良かったよ。大変だろうてのが美神見てれば分かるからな。
「田中先生は酒タバコ深夜徘徊等の健康を損なう行為以外には寛容ですし、私の様に地毛が黒以外の生徒への染髪を求めるのにも反対してたからな」
持ち物検査の時もそうだったが田中先生は生徒に甘くって他に先生にはしょっちゅう注意を受けている。それでも坊主頭を撫でながらやり過ごしてるんだよな。
噂じゃ娘さんが生まれ付きの病弱だとか。口癖の自分は父親だからってのも其所から来てるのか?
「では私は一旦二人の元に戻らせて頂きますわ。会長とお会いした際は父の事をどうぞよしなにお伝え下さいませ」
「伯父さんはその辺りはシビアだけれどな。母さんの居る研究所が成果出せてなかった期間は出資金を減らしてたし、公私は分ける人だから」
「一応ですわ、一応。貴方に口説き文句を向けるのと同じ理由で父から指示を受けてまして。……ああ、そうですわ。指示と云えば……」
コンビニのパンやホットスナックのゴミ(俺にメールでパシリを頼んだ)が入った袋やらを詰め込んだ鞄を漁り出して来たのは封筒に入ったチケット。
雑に入れてるもんだから少しクシャってなってるそれを受け取ってよく見れば遊園地のフリーパスだ。
さっきのゲップなんて知らないとばかりに優雅で洗礼された動作でのお辞儀をして美神は去っていくが、ああいった仕草はマジモンのお嬢様なんだよな。
生け花の発表会に呼ばれた時も立派にお嬢様してたし。
それだけに普段のアホ丸出しが悔やまれる。なーんで俺の周囲の美少女は癖がある連中ばかりなのやら。尚、従姉妹で今年五歳になるジェシカちゃんは例外とする。あの子まで彼奴等と同類になったら俺はショックだぜ。
それはそうとチケットの遊園地は学校をテーマにしたお化け屋敷を最大の売りにしていてオープン前。天上家の長男、美神の伯父が手を出した新たな事業の一つとは前に愚痴を吐かれて知っている。
プレオープンの特別招待券? それをくれるんだ。
「どうせまた失敗するのでしょうが親戚としては行かないという選択肢は有りませんし、どうせなら貴方を誘えとお父様に命じられまして」
提案されたとか言われたとかじゃなくて命じられた、か。そういや美神も歳の離れた弟が居たんだっけか? 前に嫌われていて自分を姉とは認めてくれていないとか言ってたな。
「数枚あるな。あの二人の分は別として俺もダチを誘って良いのか?」
思い浮かべるのは呪われたばっかの阿保二人の顔。絵画の怪も倒して体に残った呪いもルサ先輩に解除してもらって万事解決。まあ、その際に少しあったがな。
縛鎖離との戦いで霊力の殆どを使い切っちまったものの呪い自体は依然残ったまま。病原菌を死滅させても出した毒素とかが原因で発生した症状が即座に完治しないのと同じで強力な呪いは元を断っても残る場合があるし解呪も困難って事で霊力を供給する事に。
キス? いやいや、現在進行形で呪い続けられてる訳じゃねえし流石にな? ルサ先輩は当初人命救助だからセーフとか言ってたが顔は真っ赤だし声も上擦って目も泳ぎまくり。
思い返せばキスってのは結婚式で初めてするとか言ったのを聞いた事もあるが呪いを解く本人が必要だって言ってるんだから俺がウダウダ言うべきじゃないと思ったが此処で助け舟が入った。
「いや、別にキスまではしなくても良いんじゃないかい? ハグで十分だよ」
「……あっ、はい」
その一言でルサ先輩は落ち着け、俺も安心する。小姫との時は極限状態だったが今の落ち着いた時に知り合いとキスをするのは気恥ずかしい。ルサ先輩だって本当にしたい相手が見つかった時に俺がキスした相手のリストに入っていたら気になるだろうしな。
こうして呪いは解いたが、佳奈達は今回の記憶を消させて貰っている。今まで気が付いていなかった物に気付いた後はそれが目に付くのと同じで呪いの実在を知っていると呪いの影響を受け易くなるそうだ。
……俺もその手の勉強は途中だし、そもそも二人にオカルトへの強烈な好奇心を与えている呪いの方は発信源をどうにかしないと直ぐに元の木阿弥って事で苦労は多そうだ。
「どうせあのお二人をお誘いになるのでしょう? 貴方を通して会長と繋がりを深めたい父様からすれば不満でしょうが、私の我儘で友達との付き合いが減るのは申し訳無いですからね」
「あの阿保二人は腐れ縁だし、お前も友達だから別に良いいんだがな。有り難く受け取っておくぜ」
どうせ正式オープン後に付き合わされるだろうし、人が少ない時に行く方が些かマシだ。……何せ二人も美神も見た目だけならタイプの違う美少女だもんな。
俺のタイプとは違うし、中身は結構アレだけれど。
……あの典型的高飛車お嬢様の台詞はないわぁ。あれで口説ける男はドM位だぞ?
本人はドヤ顔で最高の演技だと思っているみたいだから敢えて言わない。つーか言えないので取り巻き二人のどっちかにお願いしたい。親が彼奴の親父の部下で幼い頃から一緒だってんなら任せるべきだよな。
正直、佳奈と桂花で手一杯なんだわ。
「……ふぅ。友人と普通に接するにも周囲の目を気にしなくてはならないなんて不便ですわね。二人以外にも父や母の手の者がいる事を考えれば警戒は必要ですし」
「なら、せめて俺と二人っきりの時は気を抜けば良いさ。あっ、ちゃんと誤魔化しの為に口裏合わせはしておくぞ?」
美神、アホだから。普段からお嬢様の演技を保てるのがオカルトレベルで不思議な位にアホだから。誤魔化してくれている二人の為にもちゃんと打ち合わせしておかないとな。
アホのお守りが大変なのは身に染みてよーく分かってるからよ。
「あらあら、私の友人は相変わらずですこと。ご迷惑をお掛けするお詫びとお礼にほっぺにキスくらいしてあげても宜しくてよ?」
「それよか購買の味噌ヒレカツ焼きそばドッグの方が良い。美味いんだよ、アレ。教室が購買から遠いから滅多に買えねえんだ」
別に友人を助ける程度で礼なんか要らねえとは思うんだが、本人がしたいっつってんなら受け取るよ。勿論パンを。ほっぺにキスとかされても困るだけだろ?
「ほっんと乙女心が理解出来ない男ですわ。好きな人が出来ても苦労しそうで心配ですわね」
キスよりパンの方が良いと言われて腹が立ったのか大和の足を数度踏み躙った後で美神は取り巻き二人の元へと向かう。途中、すれ違った同級生に対してはお嬢様らしく振る舞いつつも数少ない対等な友人を心配しているらしい姿を見せていたのだが、その足が急に止まり、真横に設置された設立者の胸像へと視線を向ければ陰に隠れていた人形神が姿を現した。
「やあ、お久し振り。こうして会うのは前に欲しい物を渡しに行った時以来だね。沢山あげたし、末路が楽しみ〜」
腹に手を当てて笑いを堪える人形神の口元が編笠と蓑の隙間から晒される。古びたヌイグルミらしく布が少し薄汚れていたが、口はまるで喋るのを禁じる様に赤い糸で縫われている。
その縫い目周辺は笑いを堪える度に引っ張られ、劣化した布地を少しだけ裂いていた。
「……代償の支払いはどうにかなりませんの?」
「ぷぷぷっ! 無理無理〜! 最初に欲しい物をあげてから何度目かに言ったでしょ? 今後は頭で欲しいと思った時にもあげるし、僕達と契約した人間は……悶え苦しんで死に至るって」
だから友達だからって支払いの免除はしない、そう言った途端に我慢が決壊した人形神は大笑いを始め、縫われた口元は勿論の事、口の端の布までビリビリと音を立てて人間なら耳がある辺りまで裂けて綿が口元から溢れ始めると戯けた様子で両手を使って奥へと押し込んでいた。
「どうにもならないのですわね?」
「うん! だってそうじゃないと面白くないし、こうして反応を見に来た理由が無いでしょ? じゃあ,用事は済んでいるから僕は帰るね。所でバーちゃんって呼んでる子に礼儀を払って言われたから丁寧にオバーちゃんって呼んだら怒られたんだけれど何故だろう? まあ,別にどうでも良いんだけれど」
好きな事を言いたいだけ言った人形神が消え去ると美神は何事もなかったかの様に歩き始める。その顔には焦りも恐れも存在せず、平然とこう呟いていた。
「何もかも自分の思い通りの好き勝手に進むとは思わない事ですわ。パーペキに進むだなんてのは……
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし