辺境の町で冒険者をやることにしたお姉さんは「こういうのはちゃんと念には念をいれてね」と言って楽しそうに笑った   作:SUN'S

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イヤーワン
いつの間にか四方世界に紛れ込んでいた念使いは「フフフ、楽しみだ」と愉快に笑う。そんな念使いに彼は静かに黙った


そうだ、冒険者になろう。

 

ふと私はそう思った。

 

この四方世界にやって来て四年ほど経過した頃の出来事だ。ちょうど修行にも飽きていたし、なんなら暇だったし。まあ、元の世界に帰るために、この世界の情報は膨大と言っていいほど必要だ。

 

かつて私の過ごした世界と似ているようで全く似ていない四方世界の片隅で私は冒険者になることにした。とはいえ。冒険者としての予備知識もなければ冒険者になるために必要な常識も私は知らない。

 

「…というわけだよ」

 

「そうか」

 

私はそう言って兜と革鎧、中途半端な剣と盾、それから雑嚢を身につけた白磁級の冒険者に話しかける。だが、私の予想と違って彼は驚愕したり困惑したりせず、淡々と呟くだけだった。

 

なんとも不思議な感覚だ。

 

いや、彼と話すのは悪くない。むしろ私の話を最後まで聞いてくれる上に相槌だって打つ。こういう男の人はとても好感が持てるというものだ。けれど。相槌だけというのは寂しいよ。

 

「それで。なぜ、お前はゴブリンの巣穴で平然としていられる?なぜ、無傷で奴らに気取られることなく過ごせているんだ?」

 

「おや?おやおやおや?私の事が気になるのかな?ああ、とっても気になるんだねえ?フフフ、それは私が念使いだからだよ」

 

さっきから彼の言っている「ゴブリン」というのは角の生えたヒトモドキのことだろうか?と私は考えるより。私の事を問うてきた彼に向かって、にんまりと微笑んで答えを告げる。

 

しかし、この四方世界に『念』という概念は存在しておらず。いや、それに酷似あるいは類似する魔術や魔法など色々と面倒な法則で限定化された『念の砲術』みたいなものは意外にも存在している。

 

「十一、これで最後か?」

 

「いいや。その肥溜めにいるよ」

 

「そうか」

 

彼の問いかけに私は「まだ、いるよ」と答える。彼は私を疑いもしなければ躊躇もなくゴブリンの肥溜めにゴブリンの使っていた粗悪な石槍を何度も確認するように突き刺した。

 

「十二」

 

「フフフ、おめでとう」

 

パチパチパチ…。

この巣穴に潜んでいたすべてのゴブリンを殺し終えた彼に称賛の拍手を送りつつ、彼が冒険者になったという辺境の町で案内してもらう。彼とはそういう約束をしていた訳じゃないけれど。

 

よく聞く旅は道連れというやつさ。

 

私の言葉に納得しているのか、それとも何も思っていないのか。彼はさっきと同じように淡々と「そうか」と呟くだけで、とくに何かを聞き出そうとするそぶりもないままだ。

 

「…さっきの。なんだったか」

 

「ウン?ああ、念だよ」

 

「ネンとはなんだ?」

 

「フフフ、なんだろうねえ」

 

勿体振らずに言うのは簡単だ。

 

けれど。そういうのは面白くないし。なにより私は『念』について教えることは出来ても、こんなところで与えることは出来ないからね。ちゃあんと安全なところで教えてあげるよ。

 

 

 




〈辺境の町〉

四方世界の片隅。

兜と革鎧の冒険者に連れられてやって来た場所。念使いにとって新しい拠点といえるだろう。しかし、楽しければ何でも良い念使いは「さあ、冒険者になろう」と愉快に笑った。

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