辺境の町で冒険者をやることにしたお姉さんは「こういうのはちゃんと念には念をいれてね」と言って楽しそうに笑った 作:SUN'S
私は冒険者になった。
元の世界で似た仕事をこなしているというアドバンテージは意味を成さない世界だが、彼の助言のおかげで白磁級の認識票を私はあっさりと受付の人に貰えてしまった。
白磁級。いわゆる新人の等級であり基本的にやることはドブ浚い、地下水路の掃除、あとは大きなネズミやゴブリンというヒトモドキの討伐だそうだ。受付の人のオススメというより最初にやっておくべきことは軍資金集め。
まあ、つまるところドブ浚いだ。
私は臭い上に汚い地下水路の路地を歩きつつ念をショベルのように変化させて歩くのと併用し、ドブその物を水路の端まで持っていく。私も多少の効率性は重視するつもりだが……。
如何せん地下水路は臭すぎる。
ふと視線を感じて後ろに振り返るとネズミがいた。推定全長2メートルあるいは3メートルくらいだろうか。それくらい巨大なネズミだ。こんな水路で生活しているんだ。廃棄物に汚染されるのも当たり前なのだろうと私は勝手に納得する。
しかし、大きいネズミだ。四足から二足に直立すれば私の身長を簡単に追い越す。フフフ、やっぱり四方世界は面白いことばかりだ。
自然と緩んでしまう口許を隠すように手を添えたまま、もう片方の手に念を集中させて鋭利な剣に変化させる。私の系統は別だが。これくらいの相手に変化系の使い勝手はちょうど良い。
ズバッと。サクリと。手刀を真横に振るうってネズミを二つに切り分ける。フフフ、なるほど、なるほどねえ。魔物や人間の亡骸を食べて、ここまで大きくなったわけか。
〈数時間後〉
ようやくドブ浚いを終えた私はドブで見つけた白磁級の認識票や刀剣類、弓か杖だったものを受付の人に話してギルドの裏に持っていく。
ちらほらと「力の手?」「マジックハンド?」なんて言葉が聞こえてくるけど。私が使っているのは念だよ。そう心の中で呟きつつ、受付の人に銀貨や銅貨の入った小袋を貰う。
ウン、初日にしてはいいね。
そんなことを思っていると彼を見つけた。どうやら彼も仕事を終えて帰ってきたところのようだ。…もうちょっとだけ身嗜みには気を付けたほうがいいね、あれは。
「やあ。元気にしてる?」
「……お前か」
「フフフ、忘れてたね君ぃ」
血まみれの兜を人差し指でツンツンと押しながら、仕事を終えた彼を連れて酒場の隅っこ。ぽつんと離れたところに配置された席に行き、テーブルを挟んで彼と向かい合うように座る。
彼は「それで」と短く言う。
それに対して私は「この前の話の続きだよ」と答えると彼は納得したように頷く。おそらく兜越しに私の目を見ているんだろう。現に彼からそれなりに強い視線を私は感じている。
「まずは『燃』の四大行を教えよう」
点は、心を一つに集中し、自己を見つめ目標を定めること。舌とは、その想いを口にすること。もしくは心の中で想うだけ。練でその意思を高める。発に到ってそれを行動に移す。
私の解説を静かに聞く彼を見る。
たぶん半分も理解していないんだろう。ゆっくりと分かりやすく説明するために私は彼とヒトモドキを例えることにした。というよりも、これがもっとも彼にとって分かりやすいかもしれない。
「君はゴブリンは殺す、つまり『点』だ。君はゴブリンへの憎しみを口にする。あるいは心で思う。これで『舌』の段階、次に『練』でその憎しみや怒りを高める。そして『発』で行動に移す」
「それでは遅すぎる」
「フフフ、そうだねえ」
「だが、分かった」
そう言うと彼は勢いよく席を立って、またゴブリン退治に行こうとする。あまりにも突発的すぎる彼に向かって「こら、私のお話はまだ終わってないよ」と筋肉質でしっかりと鍛えられた彼の腕を掴む。
「フフフ、君ね。さっきのは表向きの『燃』だよ。私が使っているのは『念』というやつだ」
「…どちらもネンだろう?」
彼の一言に「フフフ、こんなことで言語の壁を感じるのは予想外だったよ」と笑みを浮かべながら言うとまた彼は「そうか」と言うだけ。これといった追求などはまったくと言っていいほどない。
ほんとに不思議だよ君は…。
〈兜と革鎧の青年〉
白磁級の冒険者。
ゴブリンを殺す事に固執する只人の青年。どこかイビツな彼は「念」を知った。しかし、それで彼の進むべきはずの筋書きはほんの少しだけ変わるかもしれないし、なにも変わらないかもしれない。