「焼肉定食。焼肉抜きで」
「はいよ!」
注文を終える女生徒は焼肉定食からメインの焼肉を抜いた白米、味噌汁、おしんこのプレートをもらい席を探す。この面倒くさい注文をしているのはライスのみの注文だと二百円。しかし、先ほどの注文方法では同じ二百円でも白米だけでなく、味噌汁とおしんこもついてくる。水も飲み放題。学食はいいところ。
「はぁ、まさか私もお兄ちゃんみたいな注文するなんて」
などとは言うが兄の様に割りきれないのが、上杉らいは。現在高校二年生の女生徒。兄のアルバイトのおかげて借金は減ってきたものの、まだ残ってしまっている。そのため、食費等の出費は押さえておきたい。
着席すると同時に、隣からガチャッとカツカレーのプレートがぶつかる。らいははその方向を向くと一人の男子生徒が立っていた。
「あ、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ」
そう言うと、席を譲ってくれた丁寧な赤髪の男子生徒は別の席を探そうとするが、どこも満席だ。それを見かけたらいはが声をかける。
「あ、よかったら、ご一緒しますか?
「・・・では、お言葉に甘えて」
そういって同じ席に着席するが、会話が特にない。お互いにもぐもぐと食べ進めているが、男子生徒はらいはの食事が気になったようだ。
「・・・カツいります?」
「あ、あはは、ダイエットしてるから」
らいはは兄と違って人望も厚く、この食事を見た友人からはおかずを恵んでくれるが、らいはは受け取るのは申し訳ないと思いこの方法で毎回断っている、ダイエットと言えば食べ物をあげることもないし。
「・・・そうですか。じゃあこれだけでも」
そう言ってスプーンでカレーのルーを小皿に移し、それを渡してくれた。
「流石にそれでは午後の授業もたないでしょう?」
「あ、ありがとう」
そう言うので受け取りそれぞれの食事を済ませる。その間にらいはは英単語帳を取り出し、勉強に勤しむ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
なぜかお互い席を立たずに時間をつぶしている。決して気まずいわけではないのだが、男子生徒か声をかけてくる。
「勉強好きなんですか?」
「え、うーん。普通かな」
そういうとらいはの携帯に着信が入る。名前は上杉風太郎。兄からだ。
「あ、ごめん。私もう行くね」
「うん。また」
そう短めの挨拶だけかわしお互いに名前も名乗らず別れた。
そして人気のないところで兄からの電話に出る。
「もしもし、らいは」
「うん。どうしたのお兄ちゃん?」
「実はお義父さんの知り合いの息子さんを家庭教師してほしいってアルバイトがあって・・・」
内容を聞くとかなり時給のいいアルバイトだ。以前お兄ちゃんが行っていたアルバイトよりもいい金額になる。だが金額も金額だ。
「怪しいさ満天だね」
「昔俺に同じようなこと言ってたろ。腎臓は半分無くても平気って」
すると、電話の奥で何か騒がしい声が聞こえた。
「わかったからちょっと待て。らいは、妻に変わる」
そう言って、変わった相手がハイテンションで
「らいはちゃーん!お久しぶりです!」
「四葉さん!久しぶりです!」
兄である上杉風太郎の奥さん。らいはからしたら義姉にあたる存在の四葉。大人になり落ち着きのある用のも思えたが、相変わらず元気な方ではあるが、今はあまり無理しないほうがいい時期なんじゃないかと思う。
「今日は風太郎が有給取ってくれて、一緒なんだ!この後買い物に行くよ!」
「妊婦さんなんですから無理はしないでくださいね。いざとなれば、兄を奴隷のように使ってくれて構わないので!」
兄と四葉さんが結婚してから数か月後、四葉さんが妊娠し、二人はお父さんお母さんになる。私にとっても甥か姪が出来るので非常に楽しみだ。
「うん。風太郎はお仕事もしながら家事のこともちゃんとしてくれてるから、大丈夫だよ」
「ならいいですけど、何かあったらすぐさま私に言ってくださいね!お兄ちゃんを指導しますので!」
「うん、ありがとう。風太郎に変わるね」
そう言って通話相手を風太郎に戻したとたん、らいはは決心した。
「やるよ、家庭教師」
「・・・良いのか?勧めておいてなんだが、お前の好きなことをやってもいいんだぞ?」
確かに借金の問題で今まで自分のやりたいことの時間は取れなかった。でもそれはお兄ちゃんも同じだ。
「うん。だってお兄ちゃん、大丈夫って言っても今でも実家にお金入れてくれてるでしょ?流石に子供のために自分の家庭のために貯金しなよ」
「いや、そっちも問題ない・・・」
「だーめ。お金のやりくりを信用してないわけじゃないけど、お兄ちゃんは一家の大黒柱なんだよ」
「・・・わかった。無理はするなよ」
そう言うとメールでその相手の住所が送られてきた。
明日の土曜日。朝の十時からとのこと。
アルバイト当日。住所は高級住宅街にそびえたつタワーマンションの最上階。あれだけ高いお給料をもらうのだ、これくらいのところに住んでいてもおかしくはない。
「わぁ・・・すごい」
エントランスの時点で圧巻されているらいはは扉の前に立つが一向に反応しない。
「あれ?この自動ドア壊れてるのかな?」
ちなみにこのドアはオートロックである。鍵で開けるか、部屋番を入力してあけてもらうしか方法はないが、らいははそれを知らなかった。
「すみませーん。ここの三十階の野中さんのお部屋に家庭教師でまいりました、上杉ですけど・・・」
監視カメラに反応を呼びかけるが、もちろん反応なし。しかし、後ろから人の気配がしたので振り返ってみる。
「あ!昨日の!」
食堂で偶然食事を共にした赤髪の生徒が立っていた。
「ん?」
「あの、昨日はカレーありがとうございます」
そう言って感謝の気持ちを伝える。しかし、彼は昨日の面影がないように嫌悪感を丸出しにして言う。
「なんだテメー?妄想言ってんじゃねーよ。次自宅来たら通報するからな」
昨日の優しかった印象とは違い、乱暴な言葉遣いでオートロックに入っていく、らいはも少し驚いたが、後ろをついて行く。
「入ってくんなよ!プライベートで邪魔すんじゃねぇ!!」
「・・・もういいですよ!」
そう言うとらいはが追い抜かし彼を置いて先にエレベーターに乗り込む。
そして、最上階へ行き「野中」の表札を探し、ベルを押す前に深呼吸をする。先ほどムカつくことがあったのだ。一度心を落ち着かせて・・・
ピンポーン
「テメェ!!」
先ほどの男にまた怒られながら迫られる。それと同時にドアが開き中から一人の赤髪の男性が出てきた。
「あ・・・昨日の!」
「ええ!!同じ顔!?」
「おい、修五!そいつはぜってー入れんな!!」
そんな騒がしい様子が気になったのか奥からどんどん人が出てくる。
「龍二、朝からうるさい」
「増えた!!?」
「幸三。顔洗って来い。じゃあ、部活行ってくる」
「四人!?」
「武四いってらー・・・あーあ、朝から大変だ」
「五人!?!??!!?」
「・・・ええと、いったん落ちつこうか、僕は野中優一」
「上杉らいは・・・家庭教師です」
「へ?」
リビングに通してもらい事情の説明し、家庭教師をすることになったのだが・・・
「カテキョー・・・うんー。カテキョーねぇ」
何かとはぐらかせようとしているオレンジに近い短髪が野中優一。
「ヤダ。ゼッテーヤダ」
あからさまに嫌悪感出している真紅の一つ結びが野中龍二。
「・・・・・・・」
特に何もしゃべらないのピンクの目元が隠れているのが野中幸三。
「俺部活行きたいんだけど?」
野球のユニフォームを着ているスポーツ刈り赤短髪の野中武四。
「昨日名乗れなくてすみません。野中修五です」
唯一面識がある赤髪の生徒。野中修吾。
「まぁ、もうわかってると思いますが、僕たち・・・」
「五つ子です」
兄と同じで私が家庭教師の担当するのは・・・まさかの五つ子でした。