ターフの頂点へ   作:夢遊病

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ランキングに載ったようで(確認できなかった)、たくさんの方に見ていただけてありがたい限り。
更新頻度も上げていきたい。
掲示板は好評なのでまたちょくちょく掲示板回をやろうと思ってます。


騎乗殺到

2回目の短期免許期間後、原田から通年免許の打診があった翌年。三宅は騎乗の合間を縫って試験勉強に励み、1次試験を突破。2次の面接もそつなくこなし、さらに年が明けた1月。新規通年免許取得者が発表され、その中に三宅の名前があった。これを受けて、三宅は2月以降のアメリカでの騎乗をキャンセルして日本に戻ってきた。通年免許の交付は3月頭からだが、住居や役所手続きなどにある程度時間を要することが見込まれるのが理由である。

家探しに1週間、環境を整えるのに2週間、ある程度慣れるのに1週間。都合1ヶ月が経って、3月。

通年免許取得の記者会見を終えて無事JRA所属騎手となった三宅はJRA騎手としての初仕事に臨んでいた。

ただし、場所は馬上でもなければトレセンでも競馬場でもなかった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『はいOKです』

カメラマンの声にキメ顔を崩す。かれこれ1時間は言われるままにポーズをとって写真を撮られることを繰り返している。指定されるポーズの数は2桁になったあたりで数えるのを辞めた。宣材写真の撮影でここまで何枚もポーズを変えて撮る必要性があるのかは甚だ疑問だが、現場の雰囲気を悪くするだけなのは容易に想像がつくので黙っておく。作り笑顔が苦手なせいで何十テイクと撮り直したUMAJOの写真を思えばまだマシである。

やっとの思いで撮影を終わらせて、スタジオがある建物から出た時、すでに西日がビルの隙間からのぞいていた。

 

 

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きっとどこの世界でも、中途採用は忙しい。タクシーの後部座席で、三宅は現実逃避気味にそんなことを考えていた。

長時間の撮影を終えたらその足で大原と落ち合って今度は馬主会のパーティに出席である。コネ無しツテ無しの騎手にとって本来はこの手のパーティは馬主との関係構築、ひいては騎乗馬確保に重要な役目を果たすのだが、コネもツテもなくても何もせずとも騎乗依頼の来る騎乗スキルを持ち更に北野牧場系列の一口クラブのバックアップがある三宅はその限りではない。

「騎手やってくならこういう機会はごまんとあるから、慣れるしかないよ。一口の祝賀会とかにも呼ばれるんだからさ」

気乗りしなさそうな三宅の様子を見かねた大原にたしなめられる。

三宅は過去のパーティは挨拶回りに大半の時間が費やされるため、苦手だ。

「超有名ホテルで食事会兼ねたパーティっていうから昼抜いて行ったら馬主さん方に挨拶お世辞周りで気付いたら終わるって…。短期で顔と名前売れてなかったからってあれはいくらなんでも」

1回目の短期免許期間中にあった過去のパーティの事を愚痴る三宅。

「どうせなら勝てる馬乗りたいでしょ。個人の大馬主の馬とかに乗るなら馬主付き合いは大事だよ。個別に会食毎日行くよりパーティでいっぺんに相手した方が君も楽だろ?ゆくゆくは大馬主の主戦騎手とかになれたら安泰だ。ヨーロッパみたいに契約制度はないから他の馬選ぶこともできるしね」

「そりゃそうですけど…」

言い負かされた三宅が反論を探しているうちに、いつの間にかタクシーは会場のホテルへと着いていた。タクシーを降りて正面からホテルに入り、ホテルマンにパーティ出席者であることを伝えて会場の部屋まで案内をしてもらう。

案内されたのは仰々しい名前のついた大広間のようなところ。出入り口には観音開きの大扉が鎮座している。扉に手をかけたところで、三宅の動きが止まる。短く息を吐いて、三宅は意を決して扉を開けた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

最初の方はまばらだった人数も徐々に増えて、開始時刻ちょうどにお偉い方の挨拶が始まった。一般的な挨拶の後に競馬絡みの話があり、それも終わりパーティ開始の声。

酒の吟味でも、と会場中央のテーブルまで行こうとしたところで、誰かに声をかけられた。声の方に振り向けば、恰幅のいい男が1人。

スッと差し出された名刺には会社名の横に代表取締役とある。要するに馬主だ。

「今度の東京開催に期待してる馬が走るので、乗ってくれませんか?」

「えっ、「再来週の7Rです。まだ予定埋まってないですよね?」あー、ちょっと確認しないとわからなくて…「いつわかります?」いや、あそこにいる大原さん…エージェントに確認しないとなんともいえな『私の馬にも乗ってくれ!』え?ちょっと待って待って『おい狡いぞ!俺の馬も頼みたいのに!来週の東京1R!』はい?ちょっと一旦待ってくださ「エージェントさんに今確認とってもらえます?」えっあ〜…大原さん!ちょっと助けて!」

割と大きめの声で大原を呼ぶ。ゆるゆると誰かしらと歓談していたようだが知ったことではない。このままだと壁際に追いやられて潰される。

こちらの惨状を目にした大原がのろのろとこちらに向かってくる。是非とももっとキビキビと歩いていただきたい。まだ酒が回る時間帯でもあるまい。

「あー皆さん!三宅くんパンクしちゃってるので一旦離れて!騎乗依頼ならエージェントの私が一度お預かりして後で整理した上でご連絡させていただくので!そこ離れて!壁際に追いやられちゃってます!並んで!1人ずつでお願いします!」

さながら人気バンドの会場整理のような発言だが、日本の中でも上流の馬主の集まりのパーティである。

「大変だな」

通りがかった河添に声をかけられる。手には空のグラス。親交のある馬主と歓談中、燃料切れで補給に来たといったところか。

「ありがたいけど、潰されるのは勘弁してほしいです」

答えている間にも、大原待ちの待機列はじわじわと増えていっている。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

およそ30分後、大原が最後の1人を捌き切って待機列は消滅した。

「あー疲れた。依頼はいいんだけど大体未勝利とか1勝クラスなんだよな〜。出るレース被ってる馬も結構いるし、どうすっかな〜」

「これだからパーティはあんま来たくなかったんですよ。相手してたらいつの間にか終わってるから」

三宅が過去に数度パーティに出た時も、挨拶回りと騎乗依頼の処理でほとんどの時間を取られてしまっていた。まともにパーティに参加出来ない、これが三宅がパーティ出席を嫌がる理由である。

「まぁ、今回は割と少なかったしまだ時間余ってるから。飯とってくるならついでに2人分持ってきてくれよ。適当でいいから」

三宅が中央のテーブルでじっくりと酒を吟味している途中、近くを通りがかった原田が声をかけた。

「さっきの見てたよ。大変だったね」

「おかげさまで」

「あれ騎乗依頼でしょ?馬主方も連絡先を聞くくらいにしておけばいいのに」

「依頼が来るのはありがたいことですよ」

「まぁそれもそうだね。現に騎乗数少なくて困ってる騎手もいる。あ、そうそう。話変わるけど今年デビューの2歳に化け物いるから楽しみにしててよ。うちの系列のクラブに卸してるから。デビュー時期はまだ未定らしいけど、デビューの時は依頼するように言ってるから。こっちの想像通りに成長したらクアンタムより強くなるよあれは」

クアンタムは今年五歳だが、四歳末時点で朝日杯に加えて皐月と秋天、それにドバイターフを勝ったと聞いている。この馬も大概化け物だが、これの上を行くという評価なのだから、相当だろう。

「なんて名前ですか?」

「名前はこの前決まってたけど覚えてないな。ごめん。でも黒とかブラックとかそっち系の名前だったのは覚えてる」

「黒?」

「とにかく馬体が黒いんだよ。登録上は黒鹿毛なんだけど、どちらかというと青鹿毛とか青毛に近い。白毛と違って黒いからと言って特段何かある訳でもないんだけどね。とにかく走るのは間違いない」

「楽しみにしておきます」

 

 

 

黒鹿毛の素質馬。三宅とその馬が出会うのは、まだ少しばかり先。




イクイノックスとかも登録は黒鹿毛ですけど実際のところ青鹿毛ですよねあれ。
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