ターフの頂点へ   作:夢遊病

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前回の後書きでイクイノックスを黒鹿毛と言いましたがイクイノックスは青鹿毛でした。


セリ

夏真っ盛りの7月。通年初年度の春G1シーズンを桜花賞を勝つなどの良成績で終えた三宅は北海道に来ていた。生産者と馬主の祭典、セレクトセールを見るためである。

もともと三宅に参加の予定はなかったのだが、前長という牧場主から誘われて参加している。

前長はコントレイルなどを輩出した個人牧場としては最上位クラスの牧場主。三宅にとっては参加というよりはコネ作りが主目的である。

会場内に入ったタイミングで、三宅は前長からカタログを渡された。

「良さそうな馬いる?当歳でも一歳でもどっちでもいいよ」

「え、いや、大丈夫です」

「走らなくても気にしないから大丈夫大丈夫。予算もフリーでいいよ。通年祝いと思って」

何度か重ねて遠慮するも、結局押し切られた。歩きながらぱらぱらとカタログを捲る。

三宅にとっておねだりはしないように決めていたことの一つである。自分が買ってもらった馬が駄馬だった時の心境など考えたくもない。大半の馬は走らないので当たり前ではあるのだが、わざわざ駄馬を買わせてしまったという事実が重くのしかかる。特にこの場はセレクトセール。馬の値段が4桁万を超えるのはまず確実。下手に競り合ったら億を超えるのも容易に想像がつく。億出して買ってもらった馬が走らないなんてことになれば胃が蜂の巣になる。

だが、押し切られてしまった以上しょうがない。最悪走らなくても買ってもらった感は多少は薄い。まだ気は楽である。オーナー側からすればG1級の夢を買いたいのだろうが、ここは堅実に。当歳馬は血統こそいいもののまだ未知数な部分が多すぎるため除外。狙うは一歳馬。そう判断して、一歳馬の部分をざっと眺めたところ、目を引く馬が1頭。

鹿毛や栗毛の中で一際目立つ白い馬体。馬体のバランスも悪くない。血統を確認すれば、母馬の名前に覚えがある。

「お、やっぱりそれ?白毛だし気になってたんだよね。何より血統がいいよね。ウチ的にも三宅くん的にも」

シャイニングモアの2026。父コントレイル。馬体写真の横にはそう表記されている。

「シャイニングモアでG1勝った騎手として、シャイニングモア産駒はどう思う?」

「能力はありましたし産駒も大コケはしないでしょうね。サンデーキンカメフリーなので付ける馬にも困らない。」

「ただ、この馬が走るかどうかまではわかりませんよ。ただでさえ白毛で狙われてるでしょうしコントレイル産駒の母がG1勝ちなんかまず億はカタいですし」

「金は別に気にしてないしいいよ。その馬ね?」

「いや流石にこれは…」

「いいからいいから」

「牝馬ならまだしも牡馬ですよ。もし走らなかったら…」

「白いんだし誘導馬行けるでしょ。平気平気。それに走らないって決まったわけでもないし。コントレイル産駒も実際走り始めてて成績いいんだから。桜花賞勝った時の馬もコントレイル産駒でしょ」

「まぁオーナーがいいならいいんですけど」

8億までは積めると前長が言った気がするが、きっと空耳だ。そう三宅は現実逃避した。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

目の前の光景に三宅は軽い胃痛を感じていた。

"2億2千万でハンマーが落ちます。お買い上げありがとうございます"

次が問題のシャイニングモアの2026。だが、どうも場が暖まりすぎている。行っても2億という楽観的な予想はいとも容易く打ち砕かれている。初仔のエフフォーリア産駒が2億超えなら、シャイニングモアの2026が2億で済むわけがない。目玉商品に向けて着々と盛り上げが進んでいる。

"次の馬へ参ります。上場番号356、シャイニングモアの2026。母は現役時G1エリザベス女王杯勝ち馬。父は言わずと知れた無敗の三冠馬コントレイル。見映えの良い白毛でございます。8000万からの開始とします。8000万〜"

オークショニアが言い切るよりも前に入札が入る。わずか数秒のうちに億を超えた。横の前長を見れば、嬉々とした表情で億超えの入札を連打している。

3億を超えたあたりで、ひっきりなしに飛んでいた声が徐々に少なくなった。

前長は表情を変えることなく変わらず入札を連打。

4億を超えたあたりで競り合っていた何名かが脱落したようで前長ともう1人の一騎打ち状態に入った。

相手がた早く諦めてくれ。三宅はそう願ってやまない。4億の馬なんてとてもではないが怖くて乗りたくない。

だが、無情にも一騎打ちは続く。それも当然で、4億入札を入れることができる時点でもはや1千万は誤差のレベルの馬主なのは間違いない。あとはどちらかの財布が力尽きるかの意地の張り合いである。

5億9000万の入札を前長が入れたところで、呼応するかのように即入札していた相手方の入札札が止まる。

なんとか6億は行かずに済んだ。そう三宅が思った時

"5億9000万でハンマーが落ちます。最後一声!"

力強く相手方の入札が入る。前言撤回、6億に達してしまった。胃痛に加えて吐き気が三宅を襲う。立っているのがやっとである。

「6億5000!」

相手の限界を悟った前長がダメ押しの入札をしたところで相手が降り、6億5000で決定。当然、セレクトセールの最高額である。しかも高騰しやすい当歳ではなく一歳馬。預かる調教師はさぞ辛いことだろう。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

落札後の諸々が終わったところで、前長と三宅は会場外の軽い取材スペースにいた。満面の笑みの前長に対して三宅は死にそうな表情をしている。

「6億5000万の落札ということで、セレクトセールの最高額を更新しましたが今のお気持ちは」

「行っても5億くらいで止まると思ってたのでちょっと予想外でしたけど、8億までは行けたのでね。多少の無理の範疇です」

「これだけの値段ですから、期待も相当なものだと思いますが、どうでしょうか」

「6億ですから、最低でもG1を1個はね。欲を言えば3冠。3代無敗3冠もだし、ウチの生産のコントレイルの最高傑作がウチの所有馬なら最高ですよね。

母馬でG1も勝ってるし、三宅君に任せますよ」

「三宅騎手、コメントお願いします」

「そうですね、6.5億ということで、正直言ってしまうと乗るのが怖いんですが、こう言った馬に乗らせていただけるのもありがたいですし、精一杯結果を出せるように頑張りたいと思います」

「ありがとうございます。前長オーナーでした」

 

 

 

 

 

 

 

なお、この時の三宅のあまりに絶望的な顔がネット民に大ウケし、競馬界隈では馬券をはずした際にこの時の画像がよく貼られるようになったのはまた別の話。

 

 




作品内では去年のコント産駒5億を基準にして適当に盛ってますが、ぶっちゃけ母G1馬のコント産駒白毛馬って実際にいたらどこまで競るんでしょうね。
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