ターフの頂点へ   作:夢遊病

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黒鹿毛出てやっと本編スタートなのに12話もかかった
あまりにも計画性が無さすぎる


素質の片鱗

札幌競馬場のスタンド前に姿を現す一頭の馬。ターフに映える漆黒の毛並み。均整の取れた筋肉。力強く大地を蹴る歩様。どれをとっても周囲の馬とは完成度が違う。

札幌5R新馬戦。

父はAce impact。

手綱を取るのは三宅統也。

身に付けた勝負服は黒地に赤のクロス。

馬の名前はフェルテマカナ。

怪物が初陣を迎える。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

札幌競馬場に居た観客の眼前で、信じられないような光景が広がっていた。

5Rの新馬戦。4コーナーを回って馬群が直線に入ろうかというところ。先頭を駆けるのは1番人気の馬。続く2番手には2番人気がいて、3番手には4番人気。

文字にして見れば、何も驚くべきことは何もない。問題なのはその差。

 

"4コーナーを回って後続が直線に入るところ。抜けた抜けた!5番のフェルテマカナ独走だ!既に2番手には10馬身以上の差があるぞ!"

 

先頭を走るフェルテマカナは、目測では計りきれないほど後続を離している。後のG1馬と未勝利馬が同時に走る新馬戦でもこれだけ差がつくのは極めて珍しい。

 

"フェルテマカナが抜けている!フェルテマカナ大楽勝!大差でデビュー勝ちゴールイン!"

 

掲示板に灯る大差の2文字。叩き出した勝ちタイムは1:47:9。堂々の2歳コースレコードである。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

週明けの月曜日。フェルテマカナの勝ちっぷりを受けて陣営と原田は札幌市内で会食していた。騎手三宅に調教師萩谷、馬主の一口クラブの社長酒田に原田の4人である。

「とりあえず新馬戦は見たけど、正直言ってこっちの予想を超えてきた。なんとなくのローテーションの青写真を描いてはいたけど、一旦それは破棄してこの場で再度組み直す。それが目的ね」

原田から簡潔に目的が言い渡される。飯の場でローテを詰めるのはままあることだ。

「ローテ詰める前に一個聞きたいんだけど、三宅くんさ、あそこまで差をつけたのはわざと?」

「わざとってどういう意味ですか。あれは馬が勝手に走っただけで合図で軽く追った以外は馬なりですよ。走るのに真面目すぎるとかそういうのでなく素のキャンター」

そのままの事実を伝える三宅。

「レース後の疲労は?」

「カイバ食いも特段変わりないし疲労という疲労は。まともに走ってないってのもあるが」

萩谷が答える。

「普段から疲労が溜まりやすい馬でもないし、一般的なローテの範囲内なら問題ない」

「それはなにより。じゃあ本題を。酒田くん頼むよ」

「はい、今後は放牧に出して、そのあと秋以降に2歳重賞を使ってから年末のG1ってローテが今のところの最有力。有力馬のテンプレみたいなものだが、これで異論は」

誰からも異論の声は上がらない。

「異論なしということで、だいたいのローテはこれで決定。それで問題は重賞何使うかと年末のG1どっちに出るかなんだけど…」

酒田が三宅と萩谷の方を見る。

「距離適性はどう?萩谷さんから」

「スピードはあるし短い距離にも適応できるだろう。この時期のクアンタムとも似ているし、クアンタムのローテでいい。サウジのところは変えても良いかもしれないが、G1は朝日杯の方でいい」

「三宅君的には?」

「マイルは別にやろうと思えばやれるんだろうけど、本質的には合わないと思いますよ。適性的には下限が1800かなと。まぁだから東スポか京都2歳。1600は地力で誤魔化せるにしてもわざわざ使う理由がない。G1の方もホープフルの方がいいと思います」

「本質が中距離馬なのくらいわかってる。フランケルの本流血統なんだ。ハナから種牡馬ありきで買って走らせてるんだから、マイルも使って種牡馬価値を狙いに行った方がいいだろう」

「2歳G1のマイル実績なんかたかが知れてますよ。クラシック行くのなんて既定路線なんだから早めに中距離使った方がいい。皐月と同舞台で使えてG1なんて万々歳じゃないですか」

「マイルと2400勝つのが1番手っ取り早いんだ。NHKからダービーなんてローテやらなくても朝日杯使えば無理なく出来るだろう」

「栗東から中山輸送経験は大事でしょ。種牡馬価値なんてあとからいくらでも足せるんだからまず春に全振りすべきですよ」

「調教師と騎手で認識の齟齬があるのはわかった」

酒井が間に割って入る。

「重賞の方は1800の東スポを使う。関東輸送にもなるし出世レースだ。これなら文句ないだろ。G1の方は東スポの結果を見てからだ」

「クラシックだなんだと言ったところで、現実はまだ新馬戦勝っただけの馬だし。来週再来週あたりにはもう同期の重賞馬が生まれちゃうわけで。種牡馬にするために連れてきたのは事実だし、競争成績としてクラシックを期待してるのも事実だけど、流石に話が早いね」

原田も酒井に同調する。オーナー側にこう言われてしまうと現場側の萩谷と三宅には反論は難しい。

「まぁ、陣営内で認識の齟齬があるのもよろしくないし、その辺は後々潰そう。ただ、成長によって変わってもくるし、それをやるのは今日じゃなくていい。馬はしがらきに放牧。距離とか適性云々は成長を待ってから。はい、この話終わり。わざわざ酒の場まで来て喧嘩とか勘弁。ここからは三宅くんの恋愛事情にでも話題変えよう」

「はい?」

原田が無理やり場を締めて、場の雰囲気を変える。この日はそれ以降フェルテマカナの話は話題に上がることはなかった。

 




フェルテマカナ:強い(スペイン語)+マカナ(アステカ文明で用いられた黒曜石を使用した剣)

次回は掲示板か日常回を予定中
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