三宅の設定細かく決めてるんですがなかなか出しどころがない。
競馬もなければ追い切りもない平日のこと。三宅は萩谷の自宅に呼び出された。萩谷曰く「お前の人生のための大切な話」とのことである。
そもそも馬関係なら厩舎に呼べばいいだけのこと。わざわざ自宅に、というのが気にかかる。
萩谷宅のインターホンを押して待つこと数秒。萩谷の妻がドアを開けてくれた。萩谷本人は客間で待っているらしいので、挨拶もそこそこに客間へ。
案内されるままに襖を開ければ、畳の上に座す萩谷。置かれた長机の萩谷の向かい側に座る。
「お前、普段の休みは何をしてるんだ」
開口一番、萩谷からの質問。意図は不明。
「普段の休みなら趣味やってますけど」
「趣味ってなんだ」
「チャリ乗ったり釣り行ったりとか」
「河添に聞いたぞ、お前ネットでパチンコとアニメと釣りの事しか上げてないらしいな。女のファンが大量についてるのに勿体無いって河添が嘆いてたぞ」
「大量にいるからですよ。ちょっと投稿しただけで爆速で反応されるのなんかもはや恐怖ですからね?パチとか女ウケ悪そうなので厳選してるんですよ」
「ギャンブルの駒のファンにとってパチンコなんか今更だろ」
「というか、休みに何してたって自由でしょう。SNSに何をあげようが炎上してないし別に法も倫理も犯してませんよ」
「パチンコが問題なんじゃない。いま27だろ、彼女はいるんだろうな」
「いませんよ?別に欲しくないわけでもないですが。結婚なんてしようと思えばいつでもできますし」
「普段の生活はどうしてるんだ」
「家事なんて家電にぶん投げとけば終わりますよ。飯は近所の飯屋で。そもそもあんま食わないですしね。店の常連ってやつになってみたかったんですけど、週3くらいで行ってるし流石に常連になれたと思います」
「車の車種は」
「車持ってないです。チャリで事足りてるんで」
萩谷が黙り込む。尋問のような質問はどうやら終わりらしい。一体なんだったのかと思った矢先、突然萩谷が机をドンと叩いた。
「お前今年もうG12個勝ってるだろ!なんで金貰ってるのに使わないんだ!これだから最近の奴は!」
「別に使ってないわけじゃないですよ。流石に使い切れない額なだけで」
「やかましい!年収が億超えてるやつがなんで車の1つも持ってないんだ!経済を回せ!外車を乗り回せ!なんで結婚しないんだ!だから少子化するんだ!」
「いつの時代の話してるんですか、今は令和ですよ」
「親御さんに孫の顔を見せようという気はないのか!」
「親なら息子が毎週テレビに映って喜んでますよ。」
「俺がお前くらいの歳の時にはもう結婚して子供が産まれてたぞ」
「時代が違うんですよ」
「確かにお前は顔もいいし結婚だってしようと思えばできるのかもしれない。でも、そんな気持ちでいたらできるものもできないぞ。どうせまともに女の連絡先も持っていないんだろう。このままだとお前は40になっても50になっても独身のままだ。歳食った独り身は辛いぞ」
実際のところ、三宅のスマホのメッセージアプリには女性の連絡先が結構な数登録されている。競馬系の番組や競馬場のイベントで知り合った相手から求められるままに交換することが多く、相手は女優や声優などが主。基本的に三宅から連絡することは無く、相手からの連絡に対しても積極的に返してはいない。
「結婚して身を固めることで成績をあげた騎手を俺は何人も見てきた。お前はもう十分成績を残してるが、騎乗に落ち着きがない。荒いとまでは言わないが、スマートさがない」
何が萩谷をそこまで熱くさせるのか全くわからないが、彼にとっては三宅の結婚は重要なことであるらしい。
「確かにお前は馬乗りば抜群に上手い。このままいけば伝説的な記録を残すこともあり得なくないだろう。金も死ぬほど稼ぐはずだ。でもそれだけだ。愛は金で買えないなんてクサイことは言わないが、金で解決できない問題も人生にはあるんだ」
だから、そう続けた後に萩谷が襖の向こう側にいるらしい人を呼んだ。
襖を開けて入ってきたのは三宅と同い年かやや下くらいの女性。おそらく萩谷の娘なのだろうが、どこかで見た記憶がある。その女性はそのまま三宅の隣に座った。
「娘だ。ときどきトレセンで取材やったりしてる。お前も何回か取材されたことあるだろ」
「あったようななかったような…」
名前は萩谷美咲というらしい。競馬の取材をやっている若い女性は案外美人が多いが、萩谷美咲も例に漏れず顔はなかなか整っている。
「手前味噌だが、悪くないと思う」
この時、三宅はわざわざ自宅に呼ばれた意味を完全に理解した。そして、この後発されるであろう言葉も大方予想が付いた。故に
「お断りします!」
「まだ何も言ってないぞ。そしてその断りは認めん」
「1番大事なのは当人の意思でしょう!」
「私は結婚したいですよ?」
「俺がしたく無いんだよ!」
「お前俺の娘と結婚出来ないと言うのか!」
「酒飲ます感覚で結婚させるなよ!こっちは好き勝手フリーに生きたいんだ!」
帰ろう。そう決めて三宅は立ち上がる。襖に向けて一歩目を踏み出したその時、襖との間に萩谷が立ちはだかった。
「結婚すると言うまでこの部屋から出さんぞ」
「何回聞かれてもしないとしか言いませんよ。別に娘さんがどうこうとかじゃ無くて俺に今結婚する意思がないだけなので変わることはないです」
「じゃあ養子に来い」
「無茶苦茶すぎるでしょ」
要するに、萩谷は三宅と血縁関係を作りたいわけである。仮に萩谷の娘と三宅が結婚した場合は三宅にとって萩谷は義父に当たる。
今後競馬で三宅が主戦騎手の馬がブッキングした時に、萩谷は義父という立場を最大限活用して自身の管理する馬に三宅が乗るようにしたいわけだ。
「別に俺じゃ無くてもいいでしょうよ」
「お前が確保できるならそれに越したことはない」
「競馬村内でめんどくさい血縁関係なんか作りたくないんですよ。結婚するにしても競馬外部の人間とです」
「誰がG1を勝たせてやったと思ってるんだ」
「別に初めてG1勝ったの萩谷さんとこの馬じゃないし」
「シャイニングモアのとこは俺の弟子だ」
「初めてはエリ女じゃ無くてキングジョージですよ」
「クアンタムもう乗せてやらんぞ。結婚しますと言うだけで解放してやるって言ってるんだ。別に大したことないだろう」
なにがどう大したことないのか。三宅ははぁ、とため息をついた。あまり使いたくなかった手ではあるが、こうなっては仕方がない。
「あー、しょうがないんで本当のこと言います。ここだけの話ですよ、女優と付き合ってるんですよ。相手も有名だし隠してるんです。なので無理です。諦めて解放してください」
真っ赤な嘘である。
「……本当か?」
「マジです」
「相手は」
「隠してるって言ってるでしょう」
「口外しないから」
「酔った勢いで絶対誰かに漏らすでしょ。言いませんよ」
俯いて固まる萩谷。1分ほど固まっていたのち、襖を開けた。
「仕方ない。帰っていいぞ。ただG1は俺のとこの馬を優先するように」
「熟慮に検討を重ねた上で慎重に考えさせていただきます」
諦めた父に驚きつつなおも食い下がってくる美咲をなんとか振り払って家の外へ脱出。
スマホを見れば、声優から『イベントで京都に来ているから会えないか』というメッセージの通知が入っていた。
「………」
女性関係を真面目に考えよう。
そう心に決めて、三宅は自宅へと自転車のペダルを漕ぎ出した。
試験的にこういう話を書いてみました。
こういうのも良いor競馬だけやってて欲しい等意見あったら感想へ。
受けが良かったらこういう話もたまーに書いていきます。
次回は競馬に戻ります。