最後の一頭をゲートに導いた係員がゲート下から出てくる。
"最後の1頭がゲートに収まって、18頭体制完了。1強ムードの2歳王者が捩じ伏せるのか、あるいは他馬の逆転か"
ゲートが開いて、一斉に各馬が飛び出していく。
"ゲート開いて皐月賞今スタート!外から快速逃げ馬ボルテージランがいいスタート。真ん中圧倒的1番人気フェルテマカナもいいスタート、押して押してボールテージラン宣言通りの大逃げ体制"
(これ、行くべきか抑えるべきかどっちがいいんだよ)
スタートから50M足らずで既に三宅は迷っていた。事前の展開予想では大逃げ馬が単騎行って、後はフェルテマカナをマークでスローの団子状態というのが予想されていた。ただ、面倒臭いのは大逃げ馬がそれなりに力のある馬だという事。弱い逃げ馬なら放っておけばいいが、今回の逃げ馬はホープフル2着の実力馬。しかも2枚腰を使えるタイプ。下手に放っておくと逃げ切られる可能性もあり得る。
その上、今回は6割仕上げのユルユル状態。状態が良いならペース含めて全て無視して力だけでねじ伏せれば良いが、今回それをやるにはあまりにもリスクが高すぎる。力を発揮しきれずに終わってしまうかもしれないし、何より仕上がってない馬体で無理をさせて故障なんてことになったら元も子もない。
(マジでわかんないなこれ)
大逃げ馬を除けば、その他の馬は何となくのポジショニングはあっても基本的にはフェルテマカナマークの姿勢は変わらない。なので、被マーク側の三宅がポジションを確立しない限り他馬の隊列も安定しない。
現在分かっているのは
1、逃げ馬に好きにさせすぎるのは危険
2、ポジションが後ろすぎても危険
3、力任せにはできない
ここまで整理したところで、三宅は気づいた。123全てを同時解決できるウルトラCとも呼べる手がある。
手綱を押して、前を行く逃げ馬を追う。
"ボルテージランが逃げますが、後続は各馬まだ様子見か、なかなか隊列が定まらない。フェルテマカナは前に行くのか下げるのか……フェルテマカナは前に付けそうだフェルテマカナ今3番手に上がってきて、今2番手馬群を引っ張る形になりそうだが……え?フェルテマカナまだ行くまだ行く、ボルテージランの大逃げを許さない形か、フェルテマカナがボルテージランとの差を詰めていく、力のある逃げ馬に対して自ら鈴を付けに行ったぞ三宅統也"
逃げ馬を放置出来ないのも、下げすぎてもいけないのはなぜか。一言で言うなら逃げ馬が強いから。もっと正確に言うならば逃げ馬に逃げ切られる可能性が通常より高いから。ただでさえ自力上位の逃げ馬を放置しても問題ないと言い切れる余裕は今のフェルテマカナにはない。ならどうするか。答えは単純。
自分で逃げ馬に鈴を付けにいけば良い。鈴を付けてしまえば楽逃げとはならないし、当然前に位置取るわけだから後ろすぎるなんてことは起こらない。
"先頭は変わらずボルテージランですが、1馬身空いてフェルテマカナが迫ってきた。人気2頭が前目に付けて、後続各馬も上がってくる。ボルテージランの単騎大逃げと思われていた戦前から一転、まさかのボルテージランの逃げに各馬着いていく形となります"
ボルテージランの騎手は困惑していた。こちらが大逃げを打つのは事前に宣言済み。2歳の時も3歳になっても大逃げでやってきた。奇策でも何でもなく、いつもの戦法。逃げ馬の宿命で楽逃げさせないように鈴を付けてきたやつもいた。けれど、そう言ったやつらは直線で既にバテバテになっていた。
経験則的に、今回の皐月賞でボルテージランに鈴を付けにくる馬はいない。それが陣営の全会一致での結論だった。ダービーの出走権だってかかっている。勝ちには絡めなくたって一つでも上の着順を、となるのが普通のはずだ。なら、大逃げ馬のハイペースに合わせてくる訳がない。後ろのフェルテマカナが徹底マークされるのを囮にまんまと逃げ切る、それが今回の勝機だったはずだ。
じゃあなぜ、今真後ろに鈴を付けにきた馬がいる?こちらが大逃げしたところでメリットこそなくてもデメリットはないはずだ。この大逃げで困るのはフェルテマカナ1頭のみ。それにボルテージランに鈴をつけるなら力のある馬でないと無理だ。今回の出走馬の中でも自力上位の馬が飛ばして逃げている。なら鈴を付けるにしても力が必要だ。フェルテマカナ以外メリットのないことを、力のある馬がなぜ…?
ここまで考えて、ボルテージランの騎手の頭の中で謎が解けた。いや、解けてしまった。そして、それは考えうる限り最も最悪のシナリオだった。なぜ、後ろの馬は自力上位なのに追いかけてきているのか。なぜ、後ろの馬はフェルテマカナ以外メリットがないのに追いかけてきているのか。
ボルテージランの騎手は意を決して後ろを振り向いた。
目に映るのは漆黒の馬体に黒を基調とした勝負服。赤のクロスと腕にかけての黄色い縦線がよく目立つ。
紛れもなくフェルテマカナだった。
思わず顔が歪むボルテージランの騎手。ただ、事態はそれだけではなかった。
"先頭ボルテージランに迫るフェルテマカナ、それを追って他馬も追走、超ハイペースながら各馬が前に固まっている!ボルテージランまさかまさか、大逃げとはならなかった!"
ボルテージランが逃げ切る為には、他馬がフェルテマカナに構って楽逃げすることが必要だった。楽に逃げなくても、フェルテマカナが徹底マークでボルテージランを捉えそこなうことが必須。つまり、他馬がフェルテマカナをマークしていなければならない。
その点では、ボルテージランの騎手の希望通りになった。
誤算は、フェルテマカナが後続に大量の馬を従えて上がってきた事。
当然の話である。人気の2頭が前にいるのだ。追いかけないわけがない。フェルテマカナをマークするついでに、厄介な逃げ馬を潰すことができる。これをやらない手はない。
この時点でボルテージランがとれる選択肢は2つ。1つはさらに加速すること。流石に暴走がすぎる。出来ない。2つ目は速度を落とすこと。番手で競馬できないから逃げ馬なのだ。不可能。
最善の択はこのまま走り続けること。勝機はない。ただ、それ以外の選択肢がない。ボルテージランの勝ち筋は完全に潰えた。
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他馬が逃げ馬の後ろで隊列を形成し始めたのを確認して、三宅はポジションを下げ始めた。1頭また1頭と抜かされていき、遂には馬群の最後方を抜けて、さらに数馬身後ろにポジションを取り直す。
鈴を付けに行った本来の目的はこれだった。誰も逃げ馬に干渉しに行かないから、自分で行くしかない。これは仕方ない。幸運なのは、マークされる立場だった事。自分が動けば、他馬も動く。逃げ馬の後ろに行けば、他馬はこれ幸いと逃げ馬に意識が向かう。逃げ馬は絡まれることになり、さらにペースを上げるのかそのままかは知らないがどのみちもう勝ちの目はないだろう。本来大逃げ馬の真後ろにつき続けるなんて敗戦行為もいいところ。逃げ馬が終わったのを確認したら後は早々に異常ペースからは離脱。目の上のたんこぶだった逃げ馬は終戦、その他の馬も並の逃げ馬よりも速いペースで全力でやりあっている。こちらはポジションを下げて適切なペースで息を入れて走れば、後は勝手に向こうから限界が来て落ちてくる。残りのやることはバテバテの各馬を余裕を持って交わすだけ。どれだけこちらの調子が良くなかろうが、これで負けようがない。
"まもなく3コーナーに差し掛かるところですが、ペースが徐々に緩んできたか。向正面から異常なほどのハイペースでやりあっていた各馬、流石に限界の様子。いつのまにか最後方へと下げていたフェルテマカナが後方で脚を溜めているが、さぁ差が詰まってきた!フェルテマカナと各馬の差があっという間に詰まる!3コーナー中間で既にフェルテマカナが隊列の中段にとりついている!まだ馬なりで、馬なりでフェルテマカナが先頭を一気に飲み込むぞ!"
3コーナーで既に各馬が落ちてきて、3コーナー中間の時点でろくに追わずにもう先頭。手応えなど比べるまでもなく、後はどれだけ離すかというだけ。
後の連戦のことも考えて、ソラを使う癖が出ないように疲労があまり残らないようにほどほどに追う。
"フェルテマカナの勝利は間違いない!2番手懸命にボルテージラン粘っていたが沈む!フェルテマカナ圧勝!今大差でゴールイン!牡馬クラシック一冠目、制したのはフェルテマカナ!三冠宣言の通り!まずは1つ目を勝ち取りました!
三宅統也騎手神騎乗!他馬の行動を読み切ってハイペースを演出し自分1人後方で脚を溜め、そのまま大差で勝ち切りましたお見事!"
書く→伸びる&感想をもらう→モチベアップ→更新ペースアップ
今最高にモチベ高いのでなるべく継続できるようにしたいと思います