ターフの頂点へ   作:夢遊病

24 / 37
なんとなく決まってた今後の物語の大筋がかなりはっきりと決まりました。
当初の予定よりかなり長引きそう。


期待の白馬様

ダービーが終わり、2歳戦の始まった競馬界。その初週、良血馬や期待馬が集まる世代最の府中での新馬戦。

鹿毛や黒鹿毛が大半を占める出走馬の中で、一際目立つ白毛の馬が直線で馬群から抜け出しを図っていた。

父に無敗の3冠馬コントレイル、母にG1勝ち馬のシャイニングモアを持つ超良血馬にしてセレクトセールで6.5億で取引された超高額馬である。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ダービーから遡ること1ヶ月ほど前、調教後に三宅は福原厩舎に呼び出された。直近で福原厩舎の馬の騎乗予定はないので理由は不明である。

「福原さんいます?呼ばれたんできたんですけど」

福原が見当たらなかったので近くの厩務員に話しかける。

「そこ曲がったとこの部屋がテキの部屋だから、そこじゃないか」

「どーも」

馬房の前を進んで突き当たりを曲がって、現れた扉の丸いドアノブをひねる。ノックはまぁいいだろう。

ドアの開いた音に反応して福原がこちらを向く。

「おお、来たか」

「呼ばれたんで」

「皐月はおめでとうな。エライ強かったな。お前は割といつも吹いてるけどあれは本物だわ」

「どうも。マカナは強いっすよ。多分イクイノより」

「冗談とも言い切れないのが怖いんだなこれが。まぁ俺はイクイノに勝ったことあるからいいけど」

「で、なんで呼ばれたんすか」

「あー、呼んだ理由な。アイツいたろ、白毛の」

「6.5億の奴ですか」

お互いに顔が少し歪む。忘れていたプレッシャーが胃をちくりと刺すような、そんな感覚。

「そいつ。名前教えとこうと思って」

「そういえば聞いてなかったっすね」

「オーナーがかなり迷ってたからな。あんまりにも悩んでたから俺がつけてくれって」

「ほう。で、名前は」

シラヌイや」

「不知火…ちなみに由来というか何で不知火にしたんすか」

「コントレイルが飛行機雲…つまり空やろ?ほんでシャイニングモアは光。空に光、晴れ空に太陽光でできる現象っていったらシラヌイやろ。白毛とシラヌイで掛けてみた。和名なのは海外で走ることも想定してな。オシャレやろ?」

「え?」

自信に満ち溢れた…端的に言えばドヤ顔の福原。だが、一連の説明なにかがおかしい。

「えーと…。不知火はそんな現象じゃないんですけど…?」

「え?」

三宅も高校時代に齧っただけの曖昧な知識だが、福原が間違えていることくらいはわかる。

「あと」

一呼吸挟む。静寂。

「不知火は白の漢字入ってない」

「えっ」

絶句したまま固まる福原。

「火を知らずで不知火なんで白全く関係ないっすね」

「そうなんか…」

「というかそもそも白でコントレイルならシラクモでいいじゃん」

「……」

「……」

気まずい沈黙が流れる。

「まぁ馬名はカタカナなんで掛かってるには掛かってるし…」

沈黙に耐えきれなくなったのでフォローを入れておく。

「ま、まぁそれはいいんよ。本題は馬名なんかじゃないから」

無理やり話題を変えた福原。

「本題って、まだなんかあるんすか」

「シラヌイな、ゲート試験はもう済ませてるし外厩の方でも作ってもらってそろそろ戻す予定なんやけど」

「はぁ」

「ほんでこの前オーナーと会った時に決めたんやけど」

シラヌイは今度の東京でおろすから」

「あーはいはい今度の東京でね…え?東京?安田記念週?」

「せや。土曜日か日曜日かはまだ決めてないけど」

「せやって…。あの馬最近は見てないけどどちらかといえばムキムキタイプだったはずじゃ?最終週とはいえ初夏の府中でおろすタイプの馬じゃ…」

「お前に俺の苦労がわかるか!」

福原が突然怒鳴る。拳を叩きつけられた机の上で写真立てがカタカタと揺れる。

「オーナーと会った時な、なんて言われたと思う」

「さあ…。期待してるとかその辺か…」

「シラヌイの話してる時にな、今度の府中見に行くからって言われたんや」

「いや別に普通に見に行くだけじゃ?安田記念もあるし」

「今オーナーはマイル路線に有力馬持ってないから安田記念に出る持ち馬はいない」

「いやだからって…」

「その前にシラヌイは全戦現地観戦したいって言ってた。何百と馬を持ってきたオーナーがやで?シラヌイが府中向きじゃない事くらいわかってない訳ないやん…ただあれ言われて出さない選択肢は取れんのや…」

頭を抱えて下を向いている福原。大人の苦悩とでも言おうか、そんなものが滲み出ている。

「出すは出すでいいですけど負けても文句は受け付けませんよ。俺はやめとけ言いましたからね。府中なんか他所もエグい馬出してくるし」

「いや、負けは認めん。絶対に勝て」

「はぁ?」

「6.5億の馬やぞ。G1とかならともかく新馬戦で負けは認めん」

「何億で買おうが走る馬は走るし走らない馬は走らない、それだけでしょうが」

「騎手の時の俺もそう思ってたけどな、調教師になると高い馬が走らない事ほど怖いことはない」

「知らんがなそんなこと…。そもそもコントレイルに米ダート血統って芝馬の割合低くなるんじゃなかったっけ…って聞いてないし」

オーナーとの会話を思い出しているのか何やらぶつぶつと呻く福原を無視して三宅は部屋を出た。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

時は戻って新馬戦。

パワー型のこの馬に府中でキレる脚は使えないだろうと踏んだ三宅はシラヌイを3番手で追走させていた。

落ち着いたペースの中でスタートから直線まで3番手で、そのまま迎えた直線。前の2頭が垂れてきたタイミングで鞭をふるって一気に抜け出しを図る。

白い馬体が馬群から抜け出して先頭へと躍り出る。そのまま後続を抑えこんで先頭を譲らずにゴール––––––––––––とはならなかった。

「はえ?」

シラヌイは確かに鞭に反応して速度をあげた。だが、それも一瞬。抜き去ったはずの逃げた馬に追い抜かれ、どんどんと先頭から遠ざかっていく。

見事なまでの逆噴射だった。

「待て待て待て待てってオイ!それはエグいってバカ!」

鞭で失速したことに慌てた三宅が剛腕を持って全力で追うも先頭との差を維持するのがやっとで、ジリジリと離されていく。

手応えがないわけではない。鞭だって仕掛けの合図くらいの感覚だ。現に追っている今も手応えを確かに感じている。

素質も感じる。能力が足りないから走れていないのではなく、適性が向いてないとかの類。

走りっぷりは芝馬のそれ。だが蓋を開けてみればダート馬臭い。昔にこんな感覚をした気がするがいまいち思い出せない。

結局シラヌイは伸びあぐねたまま撃沈。12頭立ての8着で入線となった。

コースから引き上げる際の周りの態度が沁みる。超高額馬なのは周りも知っている。落札時からご指名の期待馬をそれはもう盛大に吹き飛ばしたのだ。周りも哀れみや同情、御愁傷様の雰囲気。

引き上げ終わって厩務員に馬を引き渡した後に見た福原の顔はそれはもう凄かった。顔面蒼白という言葉すら生温いくらいに血の気が失せ、足取りもふらふらと危なっかしい。

大丈夫なのかと心配になっているところに、シラヌイの馬主の前長が訪れた。

「申し訳ありません!」

前長の姿を認めた瞬間に深々と腰を折って謝罪する福原。

「ご期待に添えずすみません」

三宅もそれに倣う。

「期待してる馬だったし結果は残念だったけど、高い馬が必ず走るわけじゃないのは当然わかってるから。そこまで謝らないで。別に怒りにきたとかじゃなくてね、今後のレース考える時に参考にしたいから、乗った三宅くんに色々聞こうかと」

「色々…ですか」

「まず1個目なんだけど、直線で鞭入れてたじゃない?あのあと急に下がっていったから何かアクシデントが起きたのかと思ったら三宅くんは目一杯に追ってるし。よくわかんなくて」

「鞭入れた後は一瞬加速したんですが、そこで力を使い果たしたかのようにズルズルと。ただ不思議なのが手応え自体は残ってたんです。追ったら食い下がれるくらいには。手応え詐欺…なのかまでは分かりませんが」

「単刀直入に聞いちゃうね。シラヌイは駄馬だから負けたのか、それとも向いてない条件だから負けたのか。遠慮とかいらないからハッキリ言って欲しい」

「走りっぷりは芝向きの馬です。ただ、おそらく適性は芝よりはダートの方かと。変というか噛み合わないというか。どこかで似た感覚の馬がいた気がするんですが思い出せないです。素質は良いものを持ってますし駄馬ではないです。芝を使いたいのなら府中というよりは中山とか阪神の荒れたパワーの要るコースの方がいいですね。夏なら札幌とかの洋芝も。脚元も頑丈な馬ではないですしダートでじっくりと見ていくのを個人的にはオススメします」

「府中が苦手というより芝が苦手だと?」

「成長次第では芝でもやれるかもしれませんが、この馬にクラシックを求めるのは酷だと思います。両親とも芝でしたが血統だけ見たらダート馬が並んでますから」

「距離はどのくらいがよさそう?」

「マイルはやや忙しいかなと。イチハチくらいが下限でしょうかね。距離はクラシックディスタンスで問題なさそうですが芝がどうしても」

「うーん、わかった。次はどこかの長めのダートの未勝利か。間隔とか場所は先生に任せるから決まったら連絡してくれ。頼むよ、ユーイチ」

「あ、はい!次は必ず勝たせますので」

「三宅くんも頼むよ。あとたまにはウチの馬乗ってね」

「機会があれば是非」

離れていく前長を見送る2人。

「ダート…ダートかあ…はぁ…」

「まぁ地方3冠もあるしサウジドバイで稼げるし下手に芝走るよりいいんじゃないです?」

「いやまぁ昔に比べたらいいんだけどさ。あの馬に求められてるのは3代無敗3冠であってダートとかそういうのじゃないんだよ…」

「そんなこと言ったって芝向きじゃないんだからしょうがないじゃないですか」

「胃が痛い…」

「それにしてもシラヌイのあの感じどっかで憶えがあるんだよな…どこだっけな」

引っ掛かって思い出せない感覚を三宅はむず痒く思いつつ次の騎乗の準備へと向かった。




今まで頂いた感想には全て目を通していたのですが、今度からはできる限り返信もしていけたらと思います
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。