ターフの頂点へ   作:夢遊病

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宝塚決着


春雨の王者

"……各馬体勢完了、飛び出しました!まずまず揃ったスタート、内好スタートグレリア外からサステナブルライトがハナを主張。注目の3歳馬2番人気フェルテマカナは最後方から…、おっと?フェルテマカナが既に馬群から離れた後方に下がっています、アクシデントか大丈夫か?"

 

スタートからなぜかエンジンがかからずみるみるうちに他馬に置いていかれるマカナと三宅。マカナに限らず、スタートから100Mほどで数馬身も離されてしまうのは通常あり得ない。どれだけ追走力がない馬でも100Mで数馬身は開かない。つまり、考えられるのはマカナに何かしらの問題が起こってマカナが走れない状態にあるということ。実際、マカナの脚の動きはぎこちなく、速度もキャンターほど。重馬場に脚を取られて負担がかかってしまい、発走直前に故障発生も騎手が気付かずレースを走り直線で脚が耐えかねて……三宅の脳裏に最悪の事態が浮かぶ。

無敗記録が消えるのは残念でならないが背に腹は変えられない。故障はどうしようもない。今回は諦めよう。そう思って三宅が馬上から降りようと手綱を緩めアブミから足を外そうとしたその時。

「のわっ」

足元の急な加速に三宅はバランスを崩し、アブミに掛けていた体重が緩んだこともあわさって落馬寸前の格好になる。

どうにか体勢を立て直し再びしっかりと馬上に跨った三宅。その手に握られた手綱から、マカナは普段通りに落ち着いて三宅からの合図を待っているのだとわかる。

マカナの速度は戻り、前方の馬群との間に開いていた差は確実につまり始めている。

「走りながら故障が治った…?」

起きた現象をもとに、三宅は脳内を整理する。

なんらかの原因でうまく走れていなかったマカナ。それがアブミによってかかる負担が緩んだ際に解消され、いつものように走れるようになった。ただ、馬にとってアブミにかかる重さなどそこまで影響するとは思えない。原因が解消されたのは走行中にマカナの中でなにかが起きたからとも考えられる。

ここまで整理して、三宅の中に一つの結論が導き出される。

「膝蓋が微妙にズレたのか」

膝蓋——ひざの皿が慣れない重馬場での歩行で変に負担がかかり位置がずれ、うまく脚が動かせず速度がでなかった。走っているうちにずれていたのが本来の場所に戻り、本来の速度を取り戻した。

そう三宅は結論づけた。

故障は起きておらずここからは本来のマカナの走りができる。

ただ。

「22でこの差は……」

既に前を行く各馬とはかなりの差が空いている。いくらマカナの走りが戻ったといえども、残された距離でこの差を埋めるのは容易ではない。まして、出力を上げて距離を詰めた上でさらに出力を上げなければ勝負どころで置いていかれてしまう。

「しゃーない。追走は捨てる」

馬群に追いつくことを諦め、三宅はポツンを決断。マカナに重芝適性がなければ惨敗どころでは済まない策だが、他に取れる有効な策がないので致し方なし。欧州を煮詰めたような血統構成だし、こなしてくれると信じる他ない。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

"先頭サステナブルライトリードが2馬身。2番手にはグラリア。馬群は最後方イクスパンションまでおおよそ8馬身の間に15頭がぎゅっと固まる形。そこから6馬身離れてポツンと一頭、無敗の2冠馬フェルテマカナがいます。近走は前目でのレース運びをしていましたが今回は最後方を選択します三宅統也。1000Mの通過は61.2秒、ややスローペースでレースは向正面へ向かっていきます"

 

スタートから1200Mほどの地点で後ろを確認し、後続があがってこないことを確認した河田はほくそ笑んだ。

河田の騎乗しているサステナブルライトは現役屈指の重馬場巧者。レース直前に降り出した大雨はまさに恵みの雨。そして、緩いペースで逃げているにも関わらず後続は鈴をつけてこない。得意の重馬場をスローペースで楽逃げできている。これが笑わずにいられようか。

そもそも今回の出走馬の中でサステナブルライトは実力上位。昨日までは晴れていたこともあってフェルテマカナが1番人気だったようだが、直前の降雨によって1番人気はサステナブルライトに変わっている。

フェルテマカナが鈴をつけにくることを警戒していたがそれもなかった。後ろを確認しても見える範囲にいなかったことを見るに、先行策をとっていないのだろう。

これだけ条件が揃っている。この展開をひっくり返すのにはそれこそイクイノックスレベルの自力がいるだろう。イクイノックスが引退してからまだ数年。こんな短期間であのレベルの馬が出るわけがない。いかにフェルテマカナが世代戦で化け物のパフォーマンスを見せたところで、3歳の未成熟な馬にとって充実した古馬の壁は厚い。

やがて3コーナーを迎えた。

未だに後方から仕掛ける気配はない。重馬場に苦しんで仕掛けるどころの話ではないのかもしれない。

対して、サステナブルライトの手応えはバッチリ。合図を出せばすぐにでも後続を引きちぎれる。

そして、

「フェルテマカナが来てもおかしくないんだが、来ないな」

最も警戒する相手、フェルテマカナの勝ちパターンが来ない。

3角から仕掛け始めて4角で前を捉えて直線で突き放す、これがフェルテマカナの本質のはずだ。ホープフルからダービーまで、形は違えどやっていることは同じ。G1で他馬に騎乗しぶっちぎられた側の河田はその威力を知っている。

楽逃げする重馬場巧者を三宅が放置するはずがない。だが事実としてフェルテマカナはいまだに後方のまま。

つまり、三宅は動かないのではなく動けないのだ。そう河田は判断する。

重馬場に苦しんでいるのかそれとも馬群に閉じ込められているのか理由は知らないが、なんらかの理由で三宅はフェルテマカナを動かせない。無理にでも動かしてこないあたり、行かせても問題ないと考えているのかもしれない。

だが、それはサステナブルライトを舐めすぎだ。確かにフェルテマカナは強い。晴れた東京ならサステナブルライトに勝ち目はないかもしれない。だが、雨下の阪神最終開催、この条件でならサステナブルライトの刃はフェルテマカナに十分に届きうる。

天候、馬場、ペース。あらゆる条件を味方に付けたサステナブルライトに勝ちにくるのなら、3コーナーで競りかけてくるべきだった。それが残された最後の勝ち筋。

それを三宅はみすみす逃したのだ。

いくらフェルテマカナの瞬発力が優れていようと、サステナブルライトのスピードが衰えなければ差は大して詰まらない。400足らずの直線なら粘り切れる。

4コーナーを超えて、直線コースを迎える。内の荒れた馬場を避けて、観客席側の外ラチへ。

後ろの蹄音はまだ遠い。

勝った。そう河田は確信した。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

巡航スピードの差でジリジリと差を詰めながら、マカナもようやく4コーナーへと差し掛かる。

すでに直線へ向かっていった他馬は開催が進み荒れた内側の馬場を嫌って馬場の真ん中から外を回している。

今から外に回しても通れるコースがいくらなんでも外すぎる。荒れ馬場のタイムロスをなくすために状態のいい外側を走るのが目的なのに、外すぎてはむしろタイムロスになる。本末転倒だ。

4コーナーの終わりからから直線へと向かうところで右鞭を一発入れる。コーナリングを無視してドリフト気味に直線へと入る。

雨に煙る視界の中、離れた前方に逃げ馬の姿を捉える。外に持ち出した馬群は馬場に苦しんでいるのか伸びる気配はあまり感じられない。このままいけば逃げ切りが濃厚だろう。

渾身の力で右鞭を再び入れ、全力で逃げ馬めがけて追い出す。

マカナのギアが上がり、一気にトップスピードに。

瞬間、三宅の視界が溶けた。

 

"先頭サステナブルライトリードは6馬身まで広がっている!サステナブルライト先頭!馬場の真ん中ペリルテアがようやく2番手まで上がってくる、さらに外ラチ沿いからグレリアが差し返す!インコース掬ってフェルテマカナ伸びれるか!残り300をもう切っているまだ逃げるサステナブルライトこれは止まらない!2番手ペリルテア3番手……インコースフェルテマカナが飛んでくる!とんでもない脚で飛んでくるフェルテマカナ!外側の馬群を一気に置き去って2番手まで上がってくる!さぁ逃げ切れるかサステナブルライト!フェルテマカナが一気に差を詰めてくる!残り200!"

 

残り200の標識を通過するところで、河田は迫ってくる一つの蹄音を聞いた。

追ってくる馬がいること自体に驚きはない。勝ちこそ確信したが着差をつけて勝てるとまでは思っていない。2馬身かそこらのリードを200Mで目一杯使って凌げばいいのだ。

迫ってきた馬を確認しようとチラリと斜め後ろを確認する。

泥にまみれた赤と黒の勝負服に、これまた泥だらけの黒い馬体。

「やっぱり来たか」

来るならこいつだろうとは思っていた。どのみち、この化け物を凌がなければ勝ちはない。

化け物もこの馬場を上がってくるのにだいぶ脚を使っているはずだ。迫ってきたからといって、残り150程度で2馬身詰めるほどの余力が残っているとは考えづらい。

スピードの緩み始めたサステナブルライトに鞭を振るう。サステナブルライトが息を吹き返す。

手応えもまだ残っている。残せる。そう思った時、河田の視界が黄土色に染まる。

「は?」

突然の出来事に一瞬硬直する河田。すぐさまゴーグルのカバーを外し、クリアな視界を取り戻す。

先頭をひた走る河田に、泥が飛んでくるわけがない。馬によって蹴り上げられた泥は左右に飛び散るか、後ろに飛んで後続が被るからだ。

ぴしゃりと水音がなって、真隣から飛んでくる泥水が河田の頬を流れ落ちる。

飛んでくる泥水の量は次第に増え、ついに蹴り上げられた泥が飛んでくる。

「なんなんだよその馬…」

前を行く馬との彼我の差。それを河田は認識せざるを得なかった。

完全な勝ちパターンに持ち込んで、なおかつ相手の勝ちパターンは不発。逃げる重馬場巧者に対して直線一気。完全に追い詰めたはずが、全てをぶち抜いて先頭にたった黒鹿毛。その姿に、河田は数年前蹂躙された化け物の姿を重ねた。

 

"逃げるサステナブルライト!一気に追い込んでくるフェルテマカナ!さぁその差が既に2馬身まで縮まっている!懸命に逃げるサステナブルライト、残り100!ステッキ入ってフェルテマカナが再び伸びる!一気に交わす!交わした交わした!フェルテマカナ先頭に立った!リード半馬身!2番手サステナブルライト、離れた3番手争いは混戦だが、フェルテマカナ1馬身リードでゴールイン!"




レース描写楽しいけどムズイし拙い
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