ターフの頂点へ   作:夢遊病

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投稿遅れました。何度か書き直したりと難産でした。ほんとはスプリンターズの日に出したかったのですが…


初陣・6ハロン

JRAでの初騎乗となった土曜日、8鞍に騎乗した三宅は(2-0-1-5)という人気の中で(3-2-2-1)と完璧なスタートを切り、翌日曜日には京成杯AHを制覇、初JRA重賞制覇を飾り、スタートダッシュに大成功。

この結果を受けて翌週以降は騎乗依頼が殺到。いい馬が回って来る→結果を残す→さらにいい馬が…という好循環となっていた。

そしてJRA初騎乗からおよそ3週間後、三宅にスプリンターズステークスの騎乗依頼が舞い込んだ。

 

 

 

 

"ファイティングブル、三宅統也との初コンビでスプリンターズステークスへ"

'重賞2勝のファイティングブルが三宅統也との初コンビでスプリンターズステークスへ挑むことが9/19に判明した。短期免許で来日中の三宅にとってこれが初めてのJRAG1挑戦となる。オーシャンSは8着、高松宮記念は11着と近走は不完全燃焼が続いているファイティングブル。一方の三宅は来日初週で重賞を制覇するなど絶好調。人馬は最終追い切りにて事前にコンタクトを取る予定。"暴れ牛"を新進気鋭の若武者がどう御すかに注目だ'

 

自身の管理する馬の次走情報を伝える記事を見ながら、栗東に厩舎を構える岳は渋い顔をしていた。

ファイティングブルは素質こそG1に届いても全くおかしくはないものを持ち合わせているが、気性面に大きな欠陥を抱えている。短距離重賞を2勝しているものの、近走はその名の通り闘牛のような闘争心が災いしまともに馬群に入れることも叶わず、騎手の静止に首を振り回しながら反抗して暴走。結果として上手くレースを運ぶことができずに直線半ばで失速‥というレースが続いていた。気性難の駆け込み寺とも呼べる川添が以前は手綱を握っていたが、川添はスプリンターズステークスでは別の馬への騎乗が決まっており、鞍上が白紙に。これほどの気性難に乗りたがる騎手は現れず、困り果てていたところに渡りに船とばかりに三宅が現れた。G1での騎乗馬を探していて、実力も確かでファイティングブルの気性難を知らない三宅が岳の目にどう映ったかは察するに余りある。

 

ファイティングブルの鞍上発表から数日後、徐々に寒くなり始めた初秋の早朝、朝日に照らされたトラックを岳はファイティングブルのオーナーと眺めていた。計測時計は調整の順調さを物語っている。

「いいですね〜。今回は行けそうですか?」

オーナーから質問がくる。

「調整自体は問題ないですし、実力もG1馬と遜色ないレベルです」

ただ…と言いかけた言葉を飲み込む。気性の問題とは別に今回のスプリンターズステークスにはファイティングブルにとっての高い壁があった。

「エレキスプリントですか」

「えぇ…。気性の問題を抜きにすればファイティングブルはG1馬の器ですが、あの馬は10年に一度クラスなので…」

エレキスプリント。G14勝、うち短距離G1を3勝している現役最強スプリンター。戦績が不安定になりがちな短距離において複勝率100%をキープし続ける安定感ある走りと短距離馬の中でも飛び抜けた瞬発力が持ち味の紛うことなき怪物である。今春の高松宮記念でファイティングブルはエレキスプリントの後塵を拝していた。

「ただ、枠順もまだ出ていませんし、短距離戦は紛れも多い。エレキスプリントが強敵なのは揺るぎない事実ですが、この馬にも勝つチャンスは十分にあります」

言い切った岳の視線の先には三宅を背にトラックから引き上げる雄大な馬体が朝日を浴びて輝いていた。

 

抽選の結果、ファイティングブルは1枠2番からの出走に決まった。

 

 

 

 

 

9月第4週日曜中山11R、スプリンターズステークスのパドック。三宅がファイティングブルの背に跨るのを見守った岳の口数は少なかった。調教師とジョッキーが直接会話できる最後の場であるので、一般的には作戦の最終確認を行うことも多いのだが、気性難ゆえに作戦も細かくは決まっておらず、基本的にはその場での三宅の判断に託すことになっているため、話す事もなかった。

数分後、ファイティングブルと赤い勝負服を着た三宅は地下馬道に消えた。岳の祈るような声は誰の耳にも届くことなく、パドックの地面に吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下馬道から姿を現した出走馬を大声援が包む。枠の関係上早い段階で本馬場へ入場した三宅の心は歓喜に震えていた。柵の外側から眺めていた自分が、今は柵の内側から歓声を浴びて馬に跨っている。スタンド前を過ぎてスタート地点へと向かう三宅の目にレース後に大歓声を浴びてウイニングランをしている自分の姿がはっきりと浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

"秋のG1シーズン開幕戦。、スプリンターズステークス。枠入りが始まっています。注目の1番人気はG14勝のエレキスプリント。連覇と春秋スプリント制覇がかかります。2番人気は………"

 

 

 

 

 

 

係員に促されてゲートへと入る。馬は落ち着いている。スタンド前から風に乗ってわずかにファンファーレの音が聞こえてくる。係員が準備完了を告げる。音が止む。一つ息を吐いたその数瞬後、目の前のゲートが開いた。

 

 

 

 

 

"係員が離れて体勢完了。今ゲートが開きました。まずまず揃ったスタート。内から2番のファイティングブルが行きます。そして外から6番エンタイトルが並びかけて行きます。さらにはタタールがいて外にはサンスターがいます。中段前目にエスペリオン。1番人気10番エレキスプリントは中段後方に控える形をとっています。“

 

 

 

 

内枠発走も相まって、スタートからの100メートルほどは逃げの形になった。外からせりかけてくる馬に先頭を譲って2番手に付けようと促すが、効いている感覚はない。伝わらなかったのかと思った直後、ファイティングブルが大きく口を割った。どうやら先頭を譲ることが相当に嫌らしい。過去のレース映像からなんとなくはわかっていたが、相当な気性難は直っていないようだった。日常では従順なことを加味すればレースに真面目すぎると言えるかもしれない。

できれば番手からの正攻法で進めたかったのだが、折り合えない以上は正攻法でのレースプランは破棄するしかない。幸いなことに調教師から最終決定権は委ねられているし、サブプランも考えてある。躊躇っている余裕はない。三宅は腹を括った。

 

ターフビジョンが、右鞭が入った直後に独走を始めるひとつの人馬を映し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

"先頭はエンタイトルとファイティングブルが並んでいます。ファイティングブルが口を割っている。初コンビ三宅折り合いはどうか。残り600の標識を通過して後半にさしかかる所ですが…三宅がステッキを入れている!ファイティングブルが加速していく!34コーナー中間点、ファイティングブルが仕掛けていった!悲願のG1勝利へ向けて、ファイティングブルが大きくリードをとって4コーナーを回って直線コースへと入ってきます!"

 

 

 

 

 

 

 

 

4コーナーを回って直線の入り口、ファイティングブルと三宅は後続を離して単騎でゴールへと向かってひた走っていた。残すところあと300メートルほど。ファイティングブルの手応えもまだ十分残っている。ソラ防止に鞭を1発入れて、ゴールまで残り200の標識を通り過ぎる。勝ちを半ば確信したその刹那、後ろから着実に近づいてくる一頭の脚音が歓声に混じって三宅の耳にはっきりと聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

"残り200を切ってファイティングブルがまだ逃げる!ファイティングブルが逃げている!馬群はまだ5馬身は後ろ!このまま逃げ切れるか!しかし!馬群を切り裂いてエレキスプリントが上がってきた!エレキスプリント上がってきた!"

 

 

後ろから近づいてくる脚音がどんどん大きくなる。

 

 

"エレキスプリントが迫る!残り100!粘り切れるかファイティングブル!外からエレキスプリントが追い詰める!"

 

 

懸命にファイティングブルを追う三宅の目に、横から並びかけてくる一頭の馬が映った。

 

 

"エレキスプリントが並ぶ!エレキスプリントが並ぶ!ファイティングブル!エレキスプリント!2頭並んでゴールイン!"

 

 

三宅とファイティングブルがゴール板を過ぎる直前、エレキスプリントはファイティングブルよりも先に鼻先を決勝ラインに届かせていた。

 

 

 

三宅統也の日本での初G1はハナ差の2着に終わった。




モブ馬に実在馬の名前を使うか悩みましたが、実際のレースと混ざってごちゃごちゃになりそうなのでやめました(当然参考にはしていますが)。
ファイティングブルのモチーフに関しては言わずもがなですが、騎乗のイメージはジェンティルドンナの秋華賞のチェリーメドゥーサをイメージしていただければわかりやすいかと。

見切り発車スタートゆえに今後も投稿間隔が開くこともあると思いますが気長に待ってもらえたら嬉しいです。

感想、評価等もらえるとモチベにつながりますのでぜひお願いします。
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