ターフの頂点へ   作:夢遊病

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前回投稿したのが夏らしいです。今は冬です。なにかがおかしい。


勢力争い

11月第2週から始まり年の瀬まで続く怒涛の7週連続計8つのG1も6週6G1が終わって、いよいよ今年も残すは年末の総決算有馬記念と2歳G1ホープフルSのみ。

その年の総決算にして伝統あるグランプリ。歴戦の古馬とクラシック戦線を終え勢いに乗る3歳馬の初対決となることも多く他のG1と比較しても圧倒的な馬券売り上げを誇りスポーツとしても興行としても日本競馬の絶対的な中心である有馬記念に対してホープフルSはG1昇格からまだ日が浅い2歳G1。どちらがより注目されるのかなど語るまでも無く、界隈の話題は有馬記念一色である。

3歳VS古馬の有馬記念。

3歳勢は主要メンバー揃い踏み。エースのフェルテマカナに天皇賞馬ボルテージラン、菊2着のホットストリームにGⅡ2勝ダービー2着のグレンツェント。牝馬路線からはオークス馬ブラックライトと秋華賞馬ラビングフォーユー。そのほか夏以降に古馬と戦って重賞を勝ってきた馬が何頭か参戦し、3歳勢は総力をあげて有馬記念に殴り込みの構え。

対する古馬勢。

まず前提として、今年の古馬の中距離路線最強格はサステナブルライト。そのサステナブルライトはあらゆる点でサステナブルライトに有利条件だった宝塚記念でフェルテマカナに出遅れというハンデがあってなお完敗。必勝を期した秋天では同じく逃げ馬の3歳馬ボルテージランの大逃げの前に不覚をとった。次走の引退レース、ジャパンカップではフェルテマカナと再戦するも晴天の府中2400という互角条件では手も足も出ず、なす術なく大差負け。

天皇賞で古馬総大将がボルテージランに敗れたのを目の当たりにした古馬各陣営はフェルテマカナを避けて早々にジャパンカップから遁走。フェルテマカナの年内国内専念を逆手に取って香港国際競争へと傾れ込んだ。

結果として日本G1馬が香港カップに6頭、香港ヴァーズに3頭襲来し、香港競馬関係者はこの異常事態に大いに困惑。

香港カップでは浪漫勇士(ロマンチックウォリアー)が去った後群雄割拠の香港中距離を日本G1馬が蹂躙し掲示板5頭を完全占拠。

ヴァーズでは日本G1馬がワンツーフォー。3着には英国馬が入り、かろうじて英国の面子が保たれた。香港は元英国租借地である。

控えめに言って香港競馬史上最悪の日だが、この惨状を引き起こした元凶は同日呑気に有馬参戦を正式発表した。

古馬総大将は引退、他の有力勢も軒並み香港へ向かったことで有馬記念の古馬勢はスカスカ、G1馬はわずか2頭。1頭は昨年のエリ女勝ち馬で今年も好走しているが、もう一頭の2年前の春天勝ち馬は年齢を重ねてとうに衰えており、近走の成績はズタボロ。

もちろん古馬の重賞馬はいるものの、それも3歳一線級相手には力が足りないというのが大方の予想で、結局上位は3歳勢だろうというのが世間の風潮。

一部では『クラシック第4戦』などと揶揄されている始末だが、絶対王者フェルテマカナの下、世代2番手の座をそれぞれの路線から集結した世代上位で争う様相は競馬ファン内で盛んな議論を呼んでいた。

つまるところ、オッズの妙味が残された唯一の券種3連単のヒモ予想なのだが。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

中山競馬場、午後3時半。既に陽は傾き始めていて、だらっとした影をコース上に伸ばしている。

「地下馬道を抜けて、各馬が本馬場へと入場してきました。年末の総決算グランプリ有馬記念、2028年の競馬を盛り上げた出走馬16頭をご紹介しましょう」

 

「1枠1番、〜〜〜」

「1枠2番、〜〜〜」

  ・

  ・

  ・

「最後に大外16番、不動の王者は大外不利のジンクスを覆す。全幅の信頼を置く相棒と共に史上初のG1 7連勝へ、フェルテマカナと三宅統也」

 

「枠入りは順調に始まっています。ボルテージラン、ハリルトレイラー、ファイアパンチ。ラビングフォーユー、ホットストリーム。最後にフェルテマカナが収まりました」

「16頭体勢完了、28年の総決算、グランプリ有馬記念スタート!」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

"各馬揃ったスタート、フェルテマカナ若干遅れたか。さあ先行争い、内から白い帽子ボルテージランがやはり行く。2番手はハリルトレイラーになりそうだ。ボルテージランがやはり行く、既に3馬身4馬身のリードをさらに広げていく、大逃げのスタイルは崩さない"

 

自らスタートを決めに行ったマカナを抑えてわざと出負けする。内からボルテージランがいつもの如くかっ飛ばしていくのを確認つつ、三宅はマカナをインコースに誘導していく。どうせ大外、わざわざ無理に先行する理由はないので道中は後方のインでジッとしておく。

 

"1周目のスタンド前、16頭が拍手に迎えられます。先頭を行くのはボルテージラン12、3馬身のリード。再コンビ浜名秀の采配です。2番手はハリルトレイラーここが引退レース。3番手のインにスパークチャリティ外にオークス馬ブラックライト。中段にファイアパンチ中山3戦3勝。中段後方からはグレンツェント、後方3番手で名手デイドリがラビングフォーユーを抑えて末脚を溜めている。後方2番手にフェルテマカナ泰然自若。最後方から葦毛の馬体ホットストリームと深浦大吾"

 

大歓声飛び交うスタンド前だが、流石に有馬記念に出てくるレベルの馬でその歓声にアオられる馬はいない。三宅は後方2番手のポジションで比較的遅めのペースをぬくぬくと追走中。おそらく馬群の先頭は外国人騎手が抑えているのだろう、ボルテージランを知る日本人騎手なら逃げ切りを恐れてもう少しペースは上がるはず。かすかに聞こえた場内実況によればボルテージランのリードが10馬身強、だとすればボルテージランもそこまで飛ばしてはいないことになる。全体的にゆったりとしたレース展開になっている。

さて、どこで動いたものか。

前には末脚特化の牝馬、後ろにはスタミナ型長距離馬。脚質的に前の牝馬はそこまで早く動くことはないだろう。スローペースで長所のスタミナが活きる展開ではなくなっているから後ろもむやみやたらに動けない。

向こう正面にさしかかって、後方の隊列は変わらず。前でやり合っている雰囲気もなく、観客が沸くわけでもないので前方もレース序盤からそのまま来ているとみて間違いない。スローペースで前にいるのにわざわざ消耗するバカはいない。

向こう正面も終わる頃、前方のインコースがサッと空いた。開けた視界の向こう側には既に手が動いていて、バテたらしい馬が垂れてきている。脱落した馬の排出口だ。

「ぼちぼち行きますか」

垂れた馬が馬群から排出されていくのを見送って、マカナを馬群の外に振る。手綱を軽くしごいて気合いを入れて進出の合図。

グッと馬体が沈み込んで、遮るもののなくなった師走の風が頬を削っていく。

馬群を一気に飲み込んで上がっていくマカナ。景気付けに鞭を一発くれてやる。

「さあ行こう」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

体内時計が特段正確なわけでもないが、スローペースでレースが進んでいるのはわかる。

現在位置は最後方、前にフェルテマカナを置いてマーク中。スタミナを活かしたい騎乗馬ホットストリームにとってスローペースは展開有利とは言い難い。早めに動かなければ勝ち目はないのにスタミナが活きない展開をズルズルと向こう正面の終わり際まで来た。

垂れた馬を避けたフェルテマカナが動き出したのに合わせて事前の作戦通りホットストリームを促す。最後方2頭でそろって同時に進出を開始する。もっとも、初速も加速も段違いでフェルテマカナの方が上。動いたのが同時でも、あっさりと差は離されていく。こちらが馬群の中段までポジションを上げた時には既にフェルテマカナは馬群の先頭にとりついていた。

湧き上がる不愉快な感情に無意識のうちに唇を噛む。

菊花賞から2ヶ月、再びまざまざと見せつけられた実力差。ホットストリームの高い素質が全く通用しない理不尽さ。

そして何より———フェルテマカナに勝つことを諦めて着狙いの作戦をしている自分含めた陣営の情けなさ。

悔しい、理不尽、情けない。だが、力量差を考えたら着狙いは合理的で正しいと思っている自分がいる。

4コーナーでようやく馬群の先頭に並びかける。前を行くボルテージランはおよそ6馬身先で懸命に逃げていて、その2馬身後ろを悠々とフェルテマカナが追いかけている。

 

"4コーナー回って直線コース、先頭はボルテージランが逃げ粘る!先頭ボルテージラン1馬身のリード、フェルテマカナが迫ってくる!残り300を切って粘るボルテージランだがフェルテマカナが先頭に変わる!フェルテマカナ横綱相撲突き抜ける!2番手ボルテージラン、3番手にホットストリームが上がってきている!内を捌いてグレンツェント、大外からはラビングフォーユー!"

 

直線に向いて、先頭のフェルテマカナは遥か彼方。逃げたボルテージランとの差はおよそ5.6馬身ほど。正直ボルテージランに届くかどうかギリギリの距離差。内からやってきたグレンツェントと2頭で前へ迫る。大外から飛んできているもう一頭も含めて全4頭での2着争いになるだろう。

残り50でボルテージランを捕まえたが、交わすには至らない。ボルテージランには2枚腰の粘りがある。ボルテージランとホットストリームが僅かに抜けた体勢で4頭がゴールになだれ込む。

 

"先頭はフェルテマカナが抜けたリードは5馬身6馬身!追い込んでくるホットストリーム、グレンツェント、ラビングフォーユー!3頭追い込んでくるがこれは2着争いまで!先頭フェルテマカナG1 7連勝だゴールイン!揺るがない絶対王政フェルテマカナ!王道路線を完全制圧!そして4頭接戦の2着争い、僅かにホットストリームとボルテージランが体勢有利だったでしょうか。フェルテマカナが史上初のG1 7連勝を成し遂げてました。1着に16番フェルテマカナ、2着争いは写真判定です。確定までお待ちください"

 

ゴール後5分ほどで着順が確定した。2着馬の欄にホットストリームの馬番が灯り、ほっと胸を撫で下ろす。2着にホットストリーム、3着はボルテージラン。

ひとまず、現役最上位格であることは証明できた。ボルテージランとどちらが評価が高いかはわからないが、いずれにせよこれでホットストリームを挑戦者扱いできるのはフェルテマカナだけになった。ホットストリームはまだまだ成長途中の馬。これから力をつけていけば良い。じっくり成長して、来年再来年にフェルテマカナを倒す。

俺たちがオマエらを倒すから、それまで誰にもやられんなよ。

心の中で呟いて、優勝レイをかけられてコースに立っているフェルテマカナを睨みつける。

自身のG1初制覇はホットストリームでフェルテマカナを倒す時だ。この時、深浦大吾はそう心に堅く誓った。

 

 

 




フェルテマカナ3歳編完。古馬編に突入です
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12/2(火)0時に28年終了時点のここまでのまとめを投稿します
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