ターフの頂点へ   作:夢遊病

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書き始め(23年)時に架空だった時期(短期1回目あたり)が現実に追いつかれ始めました
ありえない投稿ペース


砂漠の夜

キング・アブドゥルアズィーズ国際空港に降り立った三宅は中東の乾いた空気に迎えられた。この空港は時期になればメッカ巡礼の玄関口として賑わうが、サウジカップが開催される2月末の今はその時期ではない。

同便だった日本人騎手3人で固まって動いているが、まあ目立つこと目立つこと。最長身が170センチないくらいの三宅で他2人は160センチほど。3人とも体重は50キロ前後。中東系の体格の中では浮きまくり。

サウジカップデーに出走する日本馬自体はそれなりの数いるが大半の馬は外国人ジョッキーを鞍上に据えているので日本人騎手はこの3人だけ。乗鞍もかろうじて2つあるのが1人いるのみで三宅含む他2人は一鞍入魂。メインレース、サウジカップに出走する日本馬は4頭だが乗鞍があるのは三宅だけ。国内で勝たせても次走海外でスパッと乗り換えられてしまうなんとも世知辛い世の中である。

 

サウジ遠征唯一の相棒タケルホノオは辰野厩舎のスタッフに過剰なまでに世話を焼かれていた。辰野が馬一頭に対して過剰なほどのスタッフを研修も兼ねてサウジに連れてきたのだ。招待レースなので諸経費は主催のサウジ持ちだが、当然サウジが負担してくれるスタッフの頭数には制限がある。が、辰野は人数オーバー分をわざわざ自費で出してまでサウジに連れてきていた。馬1頭に担当厩務員以外にも何人も連れて来れば当然人手は余り、人手あまりの結果時間が余る。余った時間は観光等へ。半ば社員旅行のようなもので、辰野厩舎内では誰がサウジに行くかで壮絶な争いが行われたと聞く。

海外遠征では限られた人員でやりくりするため騎手が馬の世話を一部行うこともあるが、厩務員ですらこの状態なので三宅に世話など回ってくるわけもなく。調教とメディア対応以外の三宅の仕事はないのである。

お暇様の三宅が調教以外でレースに向けてやれることといえばせいぜい敵情視察くらいのものだが、敵に手の内を晒す陣営などある訳もなく。メディアの取材も日本メディアは日本馬の取材が主。情報の足りない海外勢は取材が手薄で参考にならない。

が、海外勢の中で一つだけ三宅がコネクションを持っている陣営があった。

米国からの遠征馬、そのうちの1頭を管理するスミス調教師。日本から突然やってきた当時18歳の三宅を受け入れわずか5年足らずで騎手へ、騎手デビュー後数年で若手有能株へと育て上げた三宅にとっての恩師である。今の三宅があるのはこの人のおかげに他ならない。

スミス調教師の管理馬の出走レースはサウジカップなので三宅は敵ではあるのだが、それと同時に三宅は独立した門弟であり、ある種の身内。せっかくなので挨拶を、とでも言えば敵陣に潜入は容易であり会話の流れで情報を掴むことも可能なのである。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

敵陣に潜り込んだところ、瞬く間に厩務員に捕えられ敵将スミス調教師の前に引っ張り出された。側近の息子も同席である。

『ヘイ、久しぶりだな。日本で上手いことやってんのか?』

『おかげさまで。ぼちぼち勝ってますよ。海外遠征の乗鞍もあるし』

対面の調教師が咥えている葉巻から紫煙がたちのぼる。

『まあお前のウデなら成績は心配してない』

口内から濃い紫煙が吐き出される。葉巻の中でもドギツイ銘柄なのだろう、副流煙でも脳がピリッとくる。

『まあついでだ、お前の馬の情報置いてけ』

『いやいや、逆でしょ。BCダートマイル3着のそっちが挑戦を受ける側でしょーが』

『うるせえ、さっさと吐け』

紫煙が顔へと吹き付けられ、思わず咳き込む。ニコチンやら煙いやら。ぶん殴ってもギリギリ許されるんじゃなかろうか。いくらなんでもライン超えだ。

『ただの芝馬ですよ。微妙な世代G1勝った芝馬。オーナーが弱小で賞金に目がくらんじゃったの。キックバックとか多分嫌がるから優しくしてね』

後半はレースで直接やり合う息子へ向けて。砂実績は意図的に隠した。息子は特に何も言わなかった。几帳面というか神経質というか、まあよく言えば真面目な息子は研究、対策としてタケルホノオのチャンピオンズカップくらいは見ているハズだけど。一応ブックメーカーだと3番人気だし。

『芝馬でも容赦はしない。サウジは日本馬にとって走りやすい馬場みたいだが、自力で捩じ伏せる。覚悟しておけ』

お堅い息子からはお堅い返事があるのみだった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

サウジカップのパドックでタケルホノオは大変に注目を浴びていた。観客はもちろん、他馬の関係者や馬主も愛馬を目の前にしながらもちらちらとタケルホノオを見ているのである。

タケルホノオはきちんと仕上げられているが、注目を一身に集めるほどの出来ではない。ドバイも見据えているのでMAXまでは仕上げられていない。

ではなぜ注目を集めているのか。

そう、タケルホノオのタケルホノオが猛っていたのである。担当厩務員は顔を赤くしながら必死になって冷水をかけているがなかなかおさまらない。

原因はパドックにて前を歩く牝馬のビビッドキャリア。タケルホノオは美浦トレセンにおいてもビビッドキャリアを見かけるとついていこうとすることがしばしばあった。

辰野含め厩舎の面々は当然そのことは頭に入っていたが、馬っ気を出したことはなかったので今日のパドックも前との差を詰めさせないために2人引きにする程度の対策しかとっていなかった。ビビッドキャリアは性差の大きいダート路線の馬ということもあってなかなか牡牝混合には出てこず、タケルホノオと同じレースに出るのは今回が初。サウジ遠征において寮馬も連れてきていないタケルホノオは同じ美浦の馬ということで美浦出発からサウジの遠征馬用馬房に至るまで輸送中は常にビビッドキャリアと一緒。現地到着後も併せ馬を同じ美浦のよしみでやっていたので、同じ時間を多く過ごした2頭、片想いか両想いかは知らないがとにかくタケルホノオからビビッドキャリアへの愛は深まっていたのである。

騎乗のため三宅が騎手控え室からパドックにやってきても依然としてタケルホノオはおっ勃てたまま。

結局、羞恥と呆れが限界に達した辰野がタケルホノオのナニを三宅からひったくったムチで引っ叩き強制的に萎ませて事態は収束を見た。ベストターンドアウト賞など貰えるわけもなく、賞自体はこのレースの大本命Universe CrownがBCマイル3着の威厳を見せつけて受賞した。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

流石にG1馬、本馬場に出てしまえばレースへスイッチが入ってくる。

輪乗りでビビッドキャリアの方をずっと見ていたが、それくらいはご愛嬌。

ゲートは真ん中の枠。内、特にラチ沿いが伸びない馬場という先んじて騎乗した先輩のアドバイスも踏まえればベストと言えるだろう。

係員にひかれてゲートの中へ。

若干チャカついたが収まって、ゲートが開いた。

 

"係員離れて、サウジカップ、スタートしました。真ん中タケルホノオ良いスタート。外からビビッドキャリアがすーっとハナを奪います。2番手チェッカー3番手内の方ユニバースクラウン。その外にタケルホノオ、後ろジャクソンブラック日本馬2頭"

 

ゲートが思ったよりも良く想定よりも前の方の位置になった。ビビッドキャリアがハナをきったのが見える。ビビッドキャリアは国内牝馬路線最上位格といえどもさすがに混合世界クラスの実力はないのでペースはある程度緩むだろう。前付けできたのは悪くない。内にUniverse Crownがいてマークする形になっているのも好都合。

 

"隊列固まりました。逃げる6番ビビッドキャリア。2番手チェッカー3番手内の方に1番人気ユニバースクラウンがいます。マークするようにタケルホノオ今日は先行策。後ろジャクソンブラック日本勢2頭並ぶ形。少し差が空いて内ジャンバッタ地元馬、外カーキアクト真ん中ミカサフラクタル。ヴェンデッタ、アサマと続いてバクタパトリカ、2馬身切れて最後方からビクトリースペースという体制"

 

"まもなく先頭は4コーナーを迎えるところ、既に手が動いているビビッドキャリア苦しいか。鞍上マークスの鞭が入るが粘れない、ビビッドキャリア後退。変わってチェッカーが先頭だ。チェッカーが先頭で直線コースへ"

 

直線に入るくらいでビビッドキャリアがあっさり潰れた。ペースというより真後ろのUniverse Crownの圧にやられたように見えたけどどうだろうか。まあ500キロ超えのザ・アメリカ馬って感じのムキムキ牡馬がずーっと真後ろでプレッシャーかけてきたら450キロ程度の牝馬じゃそりゃ怖いよな。

言い方は悪いが、ビビッドキャリアという実力不足の馬がはけたことで前は一気に雰囲気が変わる。Universe Crownの前はガラ空き、鞍上のスミス息子が追い出しを待つ状態。

BCマイル3着馬と脚比べとなったらタケルホノオでは流石に分が悪い。普段のように後ろから差してくるならともかく、先行した今回同じタイミングで仕掛けてもよーいドンでは勝てないだろう。

勝つならここで先に行くしかない。

 

''直線向いて先頭はチェッカー、内追い出しを待つ一番人気ユニバースクラウン、外からタケルホノオが押し上げてくる。三宅統也追い出したタケルホノオが先頭に変わる!1馬身、2馬身リードを広げていく、先頭タケルホノオだが内からユニバースクラウンが来た!ユニバースクラウン追い出した、ユニバースクラウンがタケルホノオに並びかける!外タケルホノオ内ユニバースクラウン残り200の標識を切る!タケルホノオとユニバースクラウンの叩き合い、大外からはカーキアクトが突っ込んでくる!大外カーキアクト前を一気に飲み込むか!カーキアクト飛んでくる!いや、しかしユニバースクラウンが抜けている!ユニバースクラウン先頭リード2馬身、カーキアクトが2番手に上がった3番手懸命に追い縋るタケルホノオ!ユニバースクラウン先頭!ユニバースクラウン先頭!カーキアクト追い詰めるがこれは2番手までだ、ユニバースクラウン抜け出してゴールイン!ユニバースクラウン完勝!やはり格が違いましたユニバースクラウン!2着外から追い込んだカーキアクト、3着日本馬タケルホノオ。ユニバースクラウンがサウジカップを制しました"

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【サウジC】Universe Crownがサウジカップ制覇

日本時間深夜に行われたサウジC(G1)は、1番人気に推されたアメリカのUniverse Crown(牡4・スミス)が人気に応えて勝利した。

同馬は好スタートから番手でレースを進めると、直線で先に抜け出したタケルホノオ(牡4・辰野)を捉え、追い込んできたKhaki Act(セ5・クラヴ)を寄せ付けず2馬身差で押し切った。2着にはKhaki Act、3着にはタケルホノオが入着。5頭出走した日本勢はタケルホノオの3着が最先着となり、勝利とはならなかった。

 

関係者のコメントは以下

 

スミス騎手(Universe Crown・1着)

「道中も折り合って進み、リズム良く運ぶことができました。直線では素晴らしい脚を使ってくれました。素晴らしい馬です。この馬に騎乗できていることを神に感謝したいと思います」

 

カシュー騎手(Khaki Act・2着)

「ゲートが少し合わず後方からのスタートとなってしまいましたが、直線ではいい脚を使ってくれました。勝ち馬が強かったです。ペースが遅かったので展開も向きませんでした」

 

三宅騎手(タケルホノオ・3着)

「勝ちに行って早めに動いた分最後が甘くなりました。状態は悪くなかったですが、慣れない先行策で少し馬が力配分をわかっていなかったところもありました。もう少ししかけを遅らせていれば2着にはなれたかもしれませんが、勝ちはなかったと思います。勝ち馬が強かったです」

 

レイン騎手(ミカサフラクタル・5着)

「道中はリズム良く運べましたが、直線で進路を探すのに手間取ってしまいました。道がひらけてからはいい脚を使えていました」

 

モレラ騎手(ジャクソンブラック・6着)

「ゲート裏からテンションが高く、レースでも折り合いを欠いていました。能力はあります。もう少し大人になってほしいです」

 

マフィー騎手(アサマ・10着)

「直線で使う脚が残っていませんでした。もう少し短い距離の方がいいと思います」

 

マークス騎手(ビビッドキャリア・12着)

「逃げましたが、レースに集中できていませんでした」




馬の名前と騎手の名前考えるの大変で疲れます
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