"晴天の京都競馬場。秋の古都で、3歳の乙女たちが最期の一冠を争います。秋華賞の本馬場入場が始まります"
秋華賞に出走する3歳牝馬が続々と本馬場へと入るなか、シャイニングモアは三宅を背に地下馬道から西日に照らされるスタンド前に姿を現した。
割れんばかりの歓声にも動じることなく本馬場入場を終えたシャイニングモアは京都内回り2000のゲート裏周回も問題なく済ませ、1枠1番ゲートにおさまった。
榊晋介がbrightest whiteの2022、後のシャイニングモアと出会ったのはアメリカで行われたセール会場だった。榊は経営する牧場において血の袋小路を防ぐために定期的に海外から牝馬を導入していたのだが、牝馬導入のために榊が訪れたセールにbrightest whiteの2022は上場していた。
榊の牧場主としての直感が"この牝馬は走る"と感じ、大枚を叩いて落札。
シャイニングモアと名付けられた本馬は萩谷厩舎に預託されることとなり、デビュー戦は2着。次戦で勝ち上がるも2歳重賞戦線は奮わず。チューリップ賞で3着に入りなんとか桜花賞に出走するも7着。次走オークスも2桁着順。放牧を挟んで立て直し、夏の間に条件戦を勝ち上がりローズSで重賞初制覇するもローズSで騎乗した騎手が別の馬に騎乗するため乗り替わりとなり、新たに三宅を鞍上に迎えて秋華賞へと駒を進めていた。
シャイニングモアがゲートにおさまる間、榊は愛馬を食い入るように眺めていた。大枚叩いて連れて来た馬である。本来は繁殖用にと買ったのだが、実績ある母の仔馬は高額になりやすいという意味でも、馬代の回収という意味でも、G1タイトルは是が非でも手に入れたい。混戦模様の世代最終戦、なんとか1着を…、そう榊が願う中、ガコンと金属音が鳴り響いた。
スタンド前発走の中、大歓声に見送られて18頭が2000M先の栄光を目指して駆けて行く。
"係員離れて体勢完了。2000M先の夢を目指して、秋華賞今飛び出しました。各馬まずまず揃ったスタート。さあスタンド前注目の先行争い、やはりトラットが行きます。外から並びかけるプリティアイズ。3番手内から桜花賞馬パステルカラー。さあスタンド前を過ぎて最初のコーナーへと入るところ、トラットがハナを取り切って隊列が決まりそうです。先頭トラットリード1馬身。2番手プリティアイズ3番手内の方パステルカラー。1馬身切れて外にクリアスカイ、内ウインクリスタル、真ん中アドマイヤガール。中段外目にオークス馬グラビティレディーがいてその内にローズS覇者シャイニングモアがいます。その後ろカスタネットリズムこちらは紫苑Sの勝ち馬。馬群後方に2歳女王スパークリングがいてその内に……"
榊は馬主席からターフビジョンを見つめていた。自身の緑の勝負服と白い帽子は馬群の最内で包まれるように中段に位置取っていた。2コーナーを終えて向こう正面に入って隊列が固まったところで、シャイニングモアは先頭から6馬身ほどの位置を追走。先頭の馬がちょうど1000Mを通過したとき、最後方の馬が馬群の外を捲って上がっていった。1000の通過タイムは59.8。まずまずの平均ペースの中、シャイニングモアはまだ馬群中段で包まれながら脚を溜めていた。
馬と内ラチに挟まれながら、三宅は確実にシャイニングモアの脚を貯めていた。ゲートの出がそこまでよくなかったこともあって、馬群中段へ控える競馬を選択。自然と獲得した最内中段のポジションを無理に変えることなくコーナーを過ぎて向こう正面へ。馬群のさらに向こう、視界の端に捲り上がっていく馬を捉えたとき、先頭が残り1000の標識を通過したのが三宅にわずかながら見えた。60秒ジャストほどの平均ペースと読み取った三宅はじわりとポジションを押し上げて前との差をわずかに縮めた。
"向こう正面まもなく前半の1000Mを通過するところ、最後方からキラボシが大外から捲っていきます。前半1000M通過タイムは59.8。まずまず流れた平均ペースでトラットがレースを引っ張ります。2番手変わらずプリティアイズ、3番手から虎視眈々桜花賞馬パステルカラー。4番手にグラビティレディーが上がって来ています。東西のトライアルホースは馬群の中段から後方につけて、いま先頭は3コーナーへと差し掛かっていきます。先頭トラットのリードが徐々になくなってプリティアイズが並びかけてくる。3番手パステルカラーはまだ持ったまま、外からグラビティレディーが上がってくる。"
3コーナーから4コーナーにかけて馬群が散るタイミングでシャイニングモアは仕掛けて前に出た。自分よりさらに後ろから上がって来た馬と併せながらポジションを上げ、外を回す馬を尻目に5番手まで躍り出て直線コースへ。力尽きて沈んでくる先行馬を交わしながら前を行く馬との差を併せ馬で徐々に詰めていく。前との差が2馬身ほどまで縮まったとき、シャイニングモアは突如真後ろから2頭の間に割り込んで上がって来た馬に内ラチへと弾き飛ばされた。
"グラビティレディー先頭で直線コース!グラビティレディー先頭並びかけるパステルカラー、うしろからスパークリングとシャイニングモアが2頭併せ馬で追ってくる!さらにその後ろからカスタネットリズムが追い込んでくる!パステルカラー先頭1馬身リード2番手グラビティレディー残り200!パステルカラー先頭!真ん中割ってカスタネットリズムが2番手に上がって追い上げる!3番手グラビティレディー、4番手スパークリング、シャイニングモアは鞍上三宅が落馬している!"
"先頭パステルカラーリードちょっと、追い込むカスタネットリズム!だが僅かに届かない!パステルカラー先頭でゴールイン!2着カスタネットリズム3着グラビティレディー!パステルカラー2冠達成!"
「あぁっ!」
愛馬が他馬にぶつかられて弾き飛ばされたのが見えた瞬間、榊は思わず叫んでいた。内ラチに激突しながら大きく口を割る愛馬はすぐに画面外にフェードアウトし、先頭争いが画面に映し出される。
決着の瞬間を見ることもせず、榊は深い深いため息を吐いた。外から見る限りではシャイニングモアの脚色はまだ残っていた。前との差も射程圏内。あのままなら馬券内は間違いなく、勝ちも十分ありえた。ぶつかられてさえいなければ…、そう思わざるをえなかった。
数分後、馬場内に入って来た救急車両と担架に乗せられて車両へと運ばれる三宅の姿に榊は目を剥いた。
シャイニングモアは弾き飛ばされて内ラチと衝突。不安定な馬上にいた三宅は勢いそのままに馬上から投げ出され、ダートコースの外ラチに激突。頭から地面に落ちた三宅はダートコースの外ラチと芝コースの内ラチの間に倒れ込んだまま意識を手放し、近隣の病院へ緊急搬送された。
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