先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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前回の話なのですがケイオスのキャラ的にセリカへかける言葉がちょっと違うなとなって一部変更しました。
あと今回少し展開を急いだもので駆け足気味になっております、申し訳ないです…


Let's Rock!

 セリカが姿を消した。飛鳥達がバイト中の彼女と別れたその日にである。

 柴関ラーメンの柴大将に訪ねたところ、定時で帰ったところまでは目撃しているそうだ。そして家に帰った形跡もない。

 間違いなく何らかのトラブルに彼女は襲われたであろう事までは予想出来たが、具体的に誰がどの様にまではハッキリとしない。けれど候補を絞っていけば、自ずと答えは出ていった。

 

「ん……見えた。戦車まである、あんなもの何処から?」

「どっちにしても、スパッと倒せるよ」

 

 アビドス郊外の砂漠地帯を何台ものトラックが走っていく。その内の一台にアビドス対策委員会は狙いを定めていた。恐らく車内にはセリカが囚われている、それ故に彼女達とそれを引率する飛鳥は襲撃作戦を企てたのだ。

 セリカを攫ったのはヘルメット団である、という結論は早々に出され、次は何処にいるのかだった。これに関しては飛鳥が先生としての権限を無理矢理行使し、彼女の端末の位置情報を参照する事でヘルメット団のアジトへ運ばれる途中だと明らかになっている。

 

「先生、本当に大丈夫なんですか?かなり無理をしてセリカちゃんの端末を探知したんですよね?」

「先生は生徒の安全を守る事も仕事の内です。そう考えれば『生徒の身の安全を守る為に多少の違反をしなければならなかった』と解釈できます。これなら大丈夫です」

 

 飛鳥の判断は早かった。何の躊躇いも無く違法そのものである職権乱用へと踏み込んだのだ。

 セリカもホシノも彼の事を心から信頼していない。だがそれは当然であり、飛鳥にはむしろそれを払拭する義務がある。

 であるならば全身全霊でセリカ救出に臨まねばならない。アヤネをサポート要員として残して、飛鳥を含めた四人が救出作戦へと出撃し今に至る。

 

「流石先生☆柔軟な発想力です!」

「でもさぁ先生、なんだってここまでついてきちゃったの。アヤネちゃんと一緒にいれば良かったのに」

 

 敵の姿を確認したシロコがテキパキと襲撃の準備をする傍ら、ホシノも銃器に不備が無いかを確認しつつ飛鳥へとそう投げかけてくる。

 ジリジリとした砂漠の日差しに呻きながらも彼は走行するトラックを見据え、

 

「僕はいつも論理的に物を考えています。今までもずっとそのつもりでしたが、今回は少しだけ嫌な予感というものが頭をよぎらずにはいられないんです」

「ん……それって柴大将が言っていた『セリカちゃんと話していた人』の事?」

 

 セリカが失踪したあの日、昼を過ぎたあたりで見慣れない男が店を訪れて彼女と話し込んでいたらしい。柴大将としては健気な若者に手出ししないかと見張っていたそうだが、結局話すだけ話して帰ったそうなのだ。

 その見慣れない男とやらに、飛鳥は何やら不穏なものを感じ取っていた。言語化できない、まさに予感だ。

 

「あまり真に受けないでください。きっと、僕の思い違いでしょうから」

 

 そう言いつつも胸中ではまるで靄が晴れない。それどころか胸を鷲づかみにされている様な緊迫感は更に増している。

 

(誰かに見られている。けれどこんなに見渡しの良い砂漠で、視線だけを感じるはずがない。つまり……あのトラックの近くにいる誰かによるものだ)

 

「よし、それじゃあシロコちゃんが急襲を仕掛けてトラックを転がしたらすぐにセリカちゃんを助け出す。それから敵を一掃だね。戦車もいるけどそのあたりはおじさんに任せてね」

「ん……攻撃開始」

 

 準備を終えたホシノが起動したのはマシンガンやロケットを装備したドローンだ。これを敵陣へ送り込む上空からの攻撃を仕掛けようというのだ。

 飛び去っていくドローンを追いかけてホシノを先頭として対策委員会は突撃を仕掛ける。飛鳥はもたもたとその後を追いかけていった。

 

「おっ!トラック横転!じゃあ先生がセリカちゃん担当ね!」

「……うん?皆さん気をつけてください、敵の動きが結構早いです」

「ヘルメット団にしては立て直しが上手い。もしかしたら先生の悪い予感、当たったかも」

 

 ドローンが攻撃を仕掛け、トラックが爆発と共に横へ転がるが、周囲に随伴しているヘルメット団達はすぐに銃を襲撃してきた方向へと突きつけ引き金を引く。

 幾つもの弾丸が飛鳥達へと放たれる。心なしか射撃の精度までも前回の戦闘より高く、ホシノがシールドを構えその後ろにぴったりと張り付くしか飛鳥達が前進する方法はなかった。

 遮蔽物がない状態で迎え撃たれると襲撃する側としては不利だ。無論、それを想定していないわけではない。だからこそヘルメット団の練度がさほど高くない、と認識した上で急襲を取ったのだ。だが予想よりも反応が速く、わずかに計画は狂いを見せていた。

 

「ん……何か被ってる。ヘルメットじゃない……?」

「っ」

 

 飛鳥は事前に準備していた双眼鏡を覗き込み、ヘルメット団員達の様子を窺う。

 団員達は皆、セーラー服の上からバイク用のヘルメットでは無く……兎を模した被り物の様なものを被っていた。

 飛鳥は息を呑む。かぶり物には『LOVE YOU』という一文が書き込まれており、彼には数十人はいるであろうヘルメット団員達が皆自分を見つめている錯覚に襲われた。

 以前にもあの異様な装飾品を目にしている。キヴォトスではなく、本来の世界で。類似しているだけかと考えたが、それでは先ほどから感じる視線と噛み合わない。

 まさか、そんなはずが。そう飛鳥は歯噛みした。

 

「先生、どうかしましたか?」

「皆さん、反対される事を承知で言います。『撤退』しましょう」

「……もうすぐトラックに着く。それまで我慢して」

「僕じゃない、皆さんが危険なんです。せめて黒見さんを救出次第この場から全速力で離脱しなくては……!」

「どっちにしろ前へ進むしかないよ先生!」

 

 ホシノの言葉は正しい。むしろ敵へと接近する中でいきなり後退するなど危険極まるというものだ。飛鳥は歯噛みしながら生徒達の後についていく以外に道はない。

 確かに敵の動きは以前よりも冴えたものだが、それでもホシノ達の動きになんら乱れはない。むしろこれまでと同様に敵へと的確に銃撃を浴びせていく。

 

「飛鳥先生、トラックをお願いしますね!」

 

 ノノミがガトリングを乱射し、トラック周辺の敵を一掃する。その隙を見計らって飛鳥は駆け込んでいった。

 全身が悲鳴を上げている。手足などもうこれ以上無理だと痛み、心臓は内側から爆発しかねないほどに鼓動を打つ。たとえセリカを助け出したとしても後がどうなるか、こればかりは想定以上に敵が強い点が足を引っ張っている。

 

「はぁっ、はぁっ、黒見、さん。ここにいるんですか?」

 

 トラックの荷台にかけられた幕を強引に剥ぎ取る。中には手足を縛られ横たわるセリカの姿があった。見たところ目立った外傷は無く、安堵のため息をついて飛鳥は荷台へと乗り込む。

 心なしか嫌な予感はさらに大きく強まっている。ジリジリと焼かれるような感覚に突き動かされながら飛鳥はセリカの拘束を解こうと試みた。

 

「黒見さん、黒見さん!僕の声が聞こえますか」

「う、ん。誰……?」

「僕です、飛鳥です!皆さんと助けに来たんです!」

「飛鳥、先生?」

 

 セリカが瞼を開ける。特に意識にも異常はない、このまま連れ出して早急に離脱するべく飛鳥が手首の拘束を解き終えようかというところで、彼女は目をカッと見開いた。

 

「来ちゃ駄目!アイツが狙ってる!」

「――――セリカ君、ネタバレは駄目だよ。ちょっとしたサプライズのつもりだったのに」

 

 耳を塞ぎたくなるほどの大きな銃声がセリカが横たわっている奥から聞こえた。誰かが荷台の中に潜んでいたと飛鳥が気付いた時には心臓のあたりへと凄まじい衝撃が加わり、彼の体は荷台から吹き飛んで砂漠へと落ちてしまう。

 

 

『先生!?』

 

 トラックを守る様に戦っていたホシノ達は銃声とそれに続いて飛鳥が荷台から落ちてきた光景に思わず目の前の敵から視線を逸らしてしまう。飛鳥が撃たれた、その動揺は流石に戦い慣れしている対策委員会でも衝撃は隠せない。

 身動きの取れないセリカをまたいで、暗闇から襲撃した何者かはトラックから地面へと降りる。

 サングラス、手に持つ拳銃、そしてその口元に浮ぶ不気味な笑み。

 

「やぁアビドス対策委員会の皆、僕はハッピーケイオス。飛鳥君のお友達」

「ッ……!」

「あ、もしかして僕が先生を殺したと思ってる?心配しないで、ほら」

 

 ハッピーケイオス、そう名乗った男は仰向けに倒れている飛鳥へと銃口を突きつける。全員がそこへ目を向けると、心臓を撃ち抜かれたはずにも関わらず彼は苦しげに呻き声をあげていた。よく見れば撃たれたはずの胸には血も出ていない。

 

 

「へぇ、それがウワサの『シッテムの箱』か。所有者を守る為の防御シールドまで張れるなんて至れり尽くせり。皆、びっくりさせてごめんね。あとついでに銃も下ろしてね」

 

 ケイオスは飛鳥に銃を突きつけたまま、掌をヒラヒラと動かしてホシノ達に武力解除を命じる。人質を取られたとあっては生徒も動くに動けない。

 まず最初にホシノが銃を下ろし、シロコとノノミもそれに続く。駄目だ、と飛鳥は消え入る様な声で呟くが静止するには至らなかった。

 

「飛鳥君、信頼されているんだねぇ。正直君が『先生』と聞いた時は僕驚いたよ。だってさ、ハッキリ言って向いてないもん」

「……何故、貴方がここにいるのですか」

 

 飛鳥は息も絶え絶えにケイオスへと問いかけた。本来ならば彼はこの場にいるはずがない、と。

 ホシノ達からすればまるで理解が追いつかない状況であるが、確かな事実があるとすれば『ケイオスがセリカを攫った犯人である』という点だ。

 

「イノと一つになって、更にイノも消えた。僕も一緒に消滅しているはずなのにどうして?そう言いたい気持ちはわかるよ、うん。でも色々あって分離しちゃってさ、そんで気付いたらこの世界にいたわけ。ほら前に言ったろ?『僕が存在するのは~』って」

 

 飛鳥は知っている。ケイオスという男が何者なのか、何を行動に生きているのか。

 ケイオスは飛鳥と同じ世界に『いた』。敵対関係にあり、勝ち逃げ同然で姿をくらましてそれきりだった。流石に飛鳥は死んだものとは楽観的な推測をせずに何処かで生存していると捉えていたが、よもや別世界でとは思いもよらない。

 

「……うーん、もしかして僕が銃をこうして飛鳥君に向けているせいで話しづらい環境かな?それならヘルメット団の皆、武器を下ろそうか」

 

 ケイオスの声に従ってガチャガチャと銃口が収まっていく。いつの間にか対策委員会は完全に包囲されていたのだ。

 ヘルメット団員達は一言も喋らずにその場でぼーっと立ち尽くす。だがもしも指示があれば即座に彼女達は武器を構えるだろう。

 ケイオスもまた銃を下ろし、ため息をつくと飛鳥へと手を差し伸べる。殺すつもりで銃を撃っているというのにだ。

 

「立てるかな、飛鳥君」

「……貴方の手を借りるつもりは、ありません。自分で立てます」

「そう、んじゃお好きに」

 

 肩で息をしながら飛鳥は手を払いのけて立ち上がる。砂漠の太陽が放つ紫外線と全力疾走、更に銃撃を受けた事でその顔色は青白く変わりつつあった。

 ケイオスはニッコリと微笑むと拳銃をホルスターに収め、ニッコリと笑った。先程までの緊張感など何処吹く風、まるで友人と会った様だ。

 

「さて、じゃあ飛鳥君も元気になったしこれでイーブン。まずは説明をしようか。僕の自己紹介、はしたね?ハッピーケイオスだよ。

 僕がセリカ君を攫った理由は二つ、まず飛鳥君と再会の喜びを分かち合いつつそのお尻を蹴っ飛ばしてやる為、次は……対策委員会の皆にアドバイスをする為」

「うへ、とてもじゃないけどアドバイスする様には見えないし、何よりセリカちゃん攫ってる口で何を言うんだか」

「鋭いね小鳥遊ホシノ君。まぁ攫った方が皆本気で来てくれるだろうし、飛鳥君が全力ダッシュしてくるところ見られるからお得なんだよ」

「ん……じゃあアドバイスって、何の事?」

「君が砂狼シロコ君?へぇ、そう、君が……面白いね。アドバイス、そうアドバイス。これは正確には対策委員会をお助けする飛鳥君へのものだよ」

 

 トラックの端に寄りかかり、少しでも体力を回復しようと試みる飛鳥へとケイオスは人差し指を立てる。さながら拳銃を突きつけるように。

 

「そうだな、君の使っていた喩えを僕も真似しよう。これなーんだ?」

 

 人差し指を立てたままでケイオスはズボンのポケットから紙幣を一枚取り出す。千円札だ。

 緊張感に息が詰まりそうな中で登場したアイテムに眉をひそめる飛鳥の反応にケイオスは眉を傾ける。

 

「これはなんでしょう、飛鳥君」

「……紙幣です」

「そう、そこらの生徒からすればちょっとした贅沢が楽しめる。貧しい生徒からすれば天からの恵み。アビドスからすれば、金融業者にむしり取られる雀の涙。君がG4の会場で話した内容、こんな風であってる?」

「価値は人によって、大きくその内容を変える。だから僕はあの本を何処かへと捨てたくて、貴方は目的の為に奪おうとした」

「そう、正解。ではここで君に問題だよ飛鳥君」

 

 紙幣をヒラヒラと動かしながら、ケイオスは果てが見えない砂漠へと視線を移す。砂嵐に襲われ埋まってしまったその地平線をじっと眺めながら、

 

「この砂漠は、君にはどう見える?」

「……かつてここにはオアシスがあったと聞きます。多くの人々がそこで砂祭りを開いていたとも」

「けれど今は全てが砂に包まれてしまった。そして対策委員会からすれば守りたい場所。それで?」

「それで……?」

「飛鳥君、しっかりしてよ。君は人間関係以外ならなんでも察しが良いんだ。僕のヒント、わかってくれない?」

 

 暑さと疲労に襲われながら、飛鳥はケイオスの不満げな表情から逃げる様に砂漠へと目を向ける。

 アドバイス、そう言われた。対策委員会が現状を打開する為のアドバイスだと言うのか。

 

「価値は人がどう見るかで大きく意味を変える。かつて栄えた土地、守りたい場所……」

 

 ぴくりとも動かずに立ち尽くすヘルメット団へと目を向ける。

 

「ヘルメット団は学校を占拠しようとしていた。そして今この場には、彼女達が保有するにはあまりにも似合わない最新型の戦車」

「ほらほら、もっと頑張って」

「何の為に占拠を?何故戦車を……」

 

 飛鳥はぐるりと砂漠を見回す。寂しく静かな砂の世界の奥に何があるのかを確かめようと目を凝らす。

 ケイオスの言葉は緩やかに飛鳥の頭へと染み込んでいく。ずっと昔から彼の語り方はこのようなものだ。

 

「ヘルメット団は誰かに雇われて学校を占拠する様に命じられていた。そう言いたいんですね?」

「ピンポーン♪正解だよ飛鳥君。この子達は不釣り合いなくらいぴかぴかな武器でアビドスを襲っていた」

「学校を占拠しようとする理由はそこにいる生徒達が邪魔だから?」

「また正解。何故ならばこの世界において生徒という存在はある種の絶対性を持っているから」

 

 ご機嫌な声色でケイオスは手を叩いた。どうやら言葉通り、飛鳥は彼が出題した問題への答えを導き出せたようだ。

 

「良いね飛鳥君、調子が出てきたんじゃないかな。今は理由について考える必要は無いよ。大切なのは何者かがアビドスという街を狙っているという事さ」

「……何故、それを僕に教えてくれるのですか?」

「飛鳥、飛鳥君。その質問は必要かな?僕がどんな男かよぉく知っているはずだよ」

 

「――――誰かが、アビドスを狙っている?」

 

 飛鳥とケイオスの会話をホシノの低い声色が遮る。全員がそちらへ目を向けると、俯いた姿勢のままで佇んでいる。

 ケイオスは声をあげた生徒が誰かに気付くと、目を細めた。

 

「そうだよホシノ君、このヘルメット団がその証拠。どうやら力尽くでも追い出したいみたいだよ君達を」

「ん……そうする理由がわからない」

「そ、そうです!こう言ってはなんだけどアビドスは特筆すべき事なんて……」

「ん~、その事についても教えてあげたいところなんだけど、それは君達が自分で目の当たりにするべきだと思うよ僕は」

 

 くつくつとケイオスは背中を丸めて笑うと、飛鳥へと向き直る。サングラスの奥で双眸が揺れた。

 

「はい、これで僕からのアドバイスは終わり。それじゃあ―――」

「こんの、ぶつぶつぶつぶつ気持ち悪いの、よっ!!」

 

 がつん、と鈍い音が突然響く。いつの間にか拘束から抜け出していたらしいセリカが驚くべき事に弾丸並みの速度で飛び出してケイオスの後頭部へと跳び蹴りを食らわしたのだ。

 飛鳥は声をあげる事もせずにそれを見つめ、対策委員会の面々は「あっ」と気の抜けた声をあげてしまう。ただ蹴りを食らったケイオスだけは思い切り前のめりに吹き飛び、砂漠に顔面から突っ込んだ。

 

「さっきから聞いてればアンタ話が長いのよッ!言いたい事あるんならちゃんと話せっての!」

「ん、んごぶぅ、セリカ君、中々アクティブな事をするじゃないか」

「するわよ!アンタに攫われたんだからこれくらい当たり前でしょーが!それに言ってたわね、信用できる大人かどうかは自分で判断しろって。ええ、言ってやるわよ!人の事攫うわ、気持ち悪い喋り方でぐだぐだと……最っ低の大人よッ!!!」

「ん~、レッスン3、判断ができる様になった相手に一発蹴り飛ばされる……は想定してなかったかも」

 

 もごもごと呟きながらケイオスが顔をあげる、それまでにセリカが奇襲を仕掛けた事によって生じた隙を突き、ホシノ達は一斉に銃を構えて命令を受けずに棒立ちだったヘルメット団を次々と撃破していった。

 敵が動き出した事に反応して戦車が砲塔を動かそうとするも、それに合わせてシロコが放り投げた幾つもの手榴弾が起爆。物の見事に沈黙してしまった。

 ケイオスが砂を吐き出しながら立ち上がり、体の砂をパッパッと払い終えた頃には彼の私兵は全員が砂漠に顔を突っ込む無残な有様と化していた。

 

「あー……流石、キヴォトスの生徒達。そしてセリカ君、良い返答だね。僕も大人冥利に尽きるよ。飛鳥君、君は先生なんだから生徒には人を足蹴にしないようにと教えてよ」

「――――」

「ケイオス、僕の事はそう呼んでよね」

「ケイオス。貴方がどういう存在か、僕は理解しているつもりです。その上でお聞きしたいのは……何故黒見さんを誘拐したかです」

「あれ、説明しなかった?」

「わざわざヘルメット団を貴方の兵に変えてまで、何故ですか?」

「んー」

 

 多勢に無勢。ケイオスは生徒達に銃口を突きつけられた状態で口元に手をやり、何やらむぐむぐと口中で囁いている。言いたいけど言いたい、そんな様子だ。

 嫌な予感、それはわざわざケイオスが自ら出てきてやる事がこの程度なのかという点である。彼は飛鳥を撃ったところで死なないと理解していた様子だ、そうでなければここまでもったいぶった劇場型でアドバイスなど繰り出してはこない。

 ではケイオスは何を考えているのか。

 

「君のお尻を叩きに来たと言っただろう?」

「僕の?」

「法術、なんで使わないの?」

 

 飛鳥はちらりと生徒達の顔を窺う。皆、ケイオスの言葉の意味を図りかねているのか首を傾げている。セリカだけは今からでもケイオスを蜂の巣にしてやりたいのか歯を剥き出しだ。

 

「それは――――」

「この宇宙を滅ぼしかねない、だろ?でも僕は君の実力を熟知している。この世界で法力を扱う方法も、その危険性も君は理解しているはず。なのにどうしてやらないのかな?」

「―――――」

「あと一歩、君はそれが踏み込めないんだ。でもそれはちょっと僕としては困っちゃうからさ」

 

 みしり、とトラックの車体が揺れる。ぐらぐらと、まるで地面そのものが動いたかのように。

 

「夢の中で女の子に会って、色々約束しちゃったんだよね。面白いもの見せてあげるって。その為には君が必要なんだよ飛鳥君」

「皆!今すぐこの場から──」

 

 その時、爆発が起きた。飛鳥達がいるすぐそばの砂漠が弾け、砂の雨が全員へと降り注いでいく。

 誰もが、今起きている事態を把握できていない。ただ一人ケイオスだけはにっこりと笑みを浮かべながら爆発を起こした何かを見上げていた。

 

「この世界には多くの神秘がある。そして同時に科学が生んだ遺物も。『Q.E.D.』、それが『アレ』の結論。神になろうとするモノの使徒。それがアビドスの砂漠には埋まっている、そんな話を友達から聞いたんだよね」

「馬鹿なっ……」

 

 砂を撒き散らしながら、ソレは飛鳥達の前に姿を現した。

 鋼の竜、神秘と科学が混ざり合った歪ながらも神々しい輝きを放つその体躯を、ケイオスは満面の笑みと共に迎え入れる。

 

「デカグラマトン、その内の一片……理解を通じた結合、違いを痛感する静観の理解者『ビナー』。さぁ飛鳥君、折角だからラウンドコールと行こうじゃないか。神を名乗る機械vsマスターオブソーサリー……Let's Rock!ってね」




to be continued
次回『マスターオブソーサリー』
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