先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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どうして こんなに おくれたー?


Haven't You Got Eyes In Your Head?

 簡潔に言うと、その男はダンディである。

 ダンディが服を着て歩いている。外見のみならず内面までダンディと来ているこの男はヴァンパイアである。

 長い時を生き、長い生き死にを見た。それ故に彼の感性は常人から少しズレている。

 ふらりとキヴォトスに流れ着いた時でさえ、スレイヤーという男は『まあこういう事もある』と呑気にパイプを吹かしていた程である。

 

「ふぅむ、よもやこの様な愛らしい存在と拳を交える日が来ようとはな」

 

 当然、遊園地のマスコットが意思を持って歩くだけでなく敵意を向けてくる状況などスレイヤーからすれば物珍しさを感じる程度だ。

 かつて楽園と呼ばれた地の住人『ゴズ』は相対するスレイヤーに対して不敵な笑みを崩さない。余裕なのか、喜び以外の感情を持ち得ないのか。どちらにせよダンディズム溢れる紳士からすれば『殴れば終わる』存在でしかない。要するに重要なのは『殴れるか殴れないか』のみなのだ。

 

「さて、ではご挨拶と行こうか」

 

 スレイヤーはギュッと拳を握り締めると、風を切る様に鋭く突きを繰り出して見せる。ゴズとは距離が離れているので、素振りを行った様にしか見えないのだが……首を傾げていたマスコットの胴には数秒経ってから何かが追突したかの様な衝撃が走った。

 見えない拳とでも呼ぶべきだろう。スレイヤーはただ拳を振るった風圧だけでゴズへと衝撃を叩き込んでみせたのである。

 この男、こうして『当てる』のは二度目である。かつてベッドマンと名乗る存在と対峙した際に殺意を持たない技として放った、空撃ちとでも呼ぶべき技だ。その破壊力たるや鋼鉄のベッドを破損させ、夢の中に住む少年を驚かせた。果たしてゴズはどうか?

 

「―――!!!」

 

 ゴズは腹部に深く沈みこんだ拳圧に驚きながらも、しかし満面の笑みは揺るがない。それどころか大袈裟にお腹を押さえて痛がるフリをしてみせた。つまりはノーダメージという事だ。

 スレイヤーとしても鼻で笑い飛ばす。よもやこの程度の攻撃で崩れるなどとは思っていない。まさにジャブなのだ。

 

「さぁ今度はそっちの番だ。拳でも蹴りでも繰り出してみたまえよ。銃を使っても構わんよ」

 

 本気を出してみろ。そんな挑発的な言動を飛ばされたゴズは笑いながら、言葉通りに懐から本当に拳銃を取り出した。馬鹿げた長さの銃身がスレイヤーへと突き付けられ、引き金が引かれる。

 大きな音と共に銃口から噴き出したのは銃弾……ではなく、多彩なパターンの花柄が描かれた旗である。ジョークグッズのそれなわけだが、戦いの場においては不釣り合いなふざけた光景だ。

 が、銃口の先に立つスレイヤーに次の瞬間見えない攻撃が襲い掛かる。自分が繰り出したものに限りなく近い、破壊力を伴う風圧が彼の腹部に直撃し、骨が砕ける音を車庫に響かせる。

 

「―――ほぉ、面白いマジックだ。私の真似事かね?」

 

 腹に叩きつけられた攻撃を、スレイヤーは埃を払う仕草で即座に回復させる。吸血鬼特有の高速再生である。

 この時点で、スレイヤーの興味は『ゴズが何者か』ではなく『ゴズを生んだのは何者か』という部分に移り変わりつつあった。吸血鬼からすれば、目の前にいる怪異は既に恐れるに値しない存在であると断定されたのだ。

 すかさずゴズは懐から今度は頭が爆弾になっている人形を取り出し、指先に火を灯すと人形の頭部についている導火線へと点火。スレイヤーへと投げ飛ばす。

 

「なるほど君の芸はよくわかった。他の者なら惑わされるところだが、生憎私はそういう手品や小細工の類は丸ごと殴り飛ばす側でね。少しは楽しめたが、ここまでだ」

 

 スレイヤー、動く。ゆっくりと一歩を踏みしめ、飛んできた爆弾をじろりと睨みつけると拳を構える。

 これから繰り出されるのは彼の十八番。彼が最も愛用する、ジャブに続いてのストレート。

 

「マッパハンチ―――!!!」

 

 圧倒的な破壊力を宿した先程の空撃ちを更に超える速度でスレイヤーは拳を放った。その速度、高速。全力で放てば彼を取り巻く時間さえ置いていく、暴力そのものだ。

 マッハパンチ、否、マッパハンチはゴズの繰り出した爆弾に直撃し、あろう事か人形を粉砕せしめた。瞬間、起爆。スレイヤーは爆炎に飲み込まれ……るどころかすべて突っ切ってゴズへと肉薄していた。

 

「ッ!?」

「残念だが、生半可な生き方をしていないのでな!」

 

 動揺を示すゴズに逃走の姿勢さえ許さず、スレイヤーの殴打が巨躯へと放たれる。

 拳を撃てば柔らかな感覚が返ってくる腹には一撃一撃丁寧なマッパハンチを叩き込み、時に蹴りを交えていく。当初ゴズの外見にはダメージがなかったが、しかし怒涛の連打はやがて膨れた体を少しずつ縮ませつつあった。回復さえ許さない、暴力の嵐だ。

 

「私は君が何者かというのはさほど興味がない。だが気になるのは君がどうやって蘇ったかだ……見たところ実体ではない。何かしらの物理現象を伴っている。誰かが肉体を与え、そしてこんな余興を作ろうと言い出した。果たして何が目的なのやら……」

 

 拳も、舌も止まらない。少し饒舌になっているスレイヤーはゴズを変形させ、やがて列車が眠っている車庫の外壁にその体をめり込ませつつあった。繰り返される殴打にゴズの体は逃げ場所を求め、車庫へと押し付けられていく。

 

「うむ、なるほど。目指す場所はざっと一〇〇年と言うところか」

 

 そこまで呟き、スレイヤーの考え事は終わった。ゴズの体が完全に外壁へ沈み込んでしまったのだ。

 もうここまで来れば普通は勝利とでも言うべきだろうが、長い時を生き多少なりとも常識の埒外に詳しくなっている彼からすればまだまだこれからというところである。

 それ故に、スレイヤーはさっと身を引く。ゴズに第二ラウンドが始まる事を告げるべく、ゴングを鳴らす為の『初撃』を構える。

 

―――体をのけ反らせる。その瞬間スレイヤーの体は全身がバネの様に大きく圧縮され、一撃へと力をため込む。

 

「パイル―――」

 

―――この一撃、正面から受けてまともでいられる存在はいない。数千年の経験と鍛え上げられた筋力が成せる、シンプルにして最大の技。

 

バンカーッッッッ!!!!!!

 

 

 炸裂!!!!!

 壁に埋まったゴズにスレイヤーの渾身の一撃が叩き込まれる。その衝撃たるや車庫に亀裂が入り、そして砕けた。ゴズの体では拳を受け止めきれず、遂に弾けたかの様に外壁そのものが粉砕されてしまったのだ。

 瓦礫をそこら中にまき散らしながらゴズはロケット噴射の如く吹っ飛んでいく。もはやダメージに次ぐダメージによって丸い体は砲丸の如く圧縮され、バランスボールじみた動きで地面を跳ねながら車庫の最奥へと突っ込んでいった。

 

「おお。これを受けて原型を留めているか、面白い面白い」

 

 砂煙が舞い上がる中、スレイヤーはゴズを殴り飛ばした拳を撫でながら追撃の為に後を追いかける。無論その足は速い。人影どころか闇に紛れた影となって疾走する。

 やはり人知を超えている。飛鳥=R=クロイツが万が一に備えてスレイヤーを呼び出した事にはそれだけの意味がある。キヴォトスの持つ暴力性、異常性を一人で上回りかねない程に彼は狂った存在なのだ。

 

「む?」

 

 ゴズが着地、もとい着弾した地点まで進んだところでスレイヤーは眉をひそめる。

 車庫の最奥部。唐突に広場らしき空間へとやってきたが、そこにはゴズの姿はない。逃げたとしても痕跡そのものが見当たらないと来ている。

 となれば、敵は第二ラウンドの準備ができているのだ。スレイヤーは楽しくなってきた、と拳の骨をポキポキと鳴らし、その時を待ち望む。

 

 突然スポットライトがスレイヤーを頭上から照らす。光は謎の広場を照らし出し、そこが〇や■と言った記号が散りばめられた舞台である事をハッキリとさせる。

 車庫の奥に隠された空間、どうやらここはゴズの本拠地か何かの様だ。興味深そうに周囲を眺めるスレイヤーをもてなすかの様に陽気で、それでいて何処か不気味な音楽が流れ始める。やがて客を迎え入れるかの様に舞台に頭上から幕が下り、すぐにゆっくりと上がっていく。

 幕が上がった舞台に立つのはスレイヤーと、驚くべき事に三体のゴズである。主役は自分だと主張するかの様にゴズ達は躍り出ると、スレイヤーを取り囲んでいた。

 

「今度はマジックショーかね? 一対三とは……」

 

 スレイヤーの拳が再び風を切り、そして三体のゴズの内一体へと叩き込まれる。が、今度は確かな手ごたえはなく太った体は弾けて消える。

 幻覚、否、マジックと言ったところだろう。燕尾服やステッキはゴズの本来の姿が相手を惑わせる奇術師である事を意味していたのだ。

 一対三。普通ならば数の暴力を前にして多少なりとも焦り、そして対抗策を考えるものだ。しかし困った事に、または不運な事にここにいるのはそういった悩みとは一切関わりのない存在である。

 

「残念だ。もう少し、面白みのある手品が見たかった!」

 

 スレイヤーは片足を上げ、そして勢いよく地面を踏みつける。瞬間、吸血鬼の膂力は圧倒的な力となって爆発した。美しい舞台が内側から破裂すると共に、三体のゴズは砕け散った足場によって宙へと跳ね上げられる。予想以上の衝撃は二体を消し飛ばし、一体だけを無防備な姿で曝け出した。

 三体の内二体はゴズ自身が作り出した幻に過ぎなかったのだ。それを一目で見破るどころではなく邪魔だと言わんばかりに一蹴したスレイヤーは再び拳を握り締める。

 

「ショーは終わりだ。残念だが、閉園の日がやってきたのだよ!」

 

 そこで初めてゴズの笑みが消え、怯えに近い色が浮かぶ。すべては手遅れだ。逃走を選ぶよりも先にゴズへとスレイヤーは駆け、再び全力の一撃を打ち込む。

 

パイルバンカーッッ!

 

 ゴズが弾けた。くの字に折れ曲がり、吹き飛ぶ。

 その後をスレイヤーは追いかけた。地面を蹴り、音速でゴズの背後へと回り込んだ。

 

パイルバンカーッッッ!!

 

 二発目。二発目の全力殴打。前方の次は後方から殴り飛ばされたゴズは衝撃のあまり体をひしゃげさせ、反対方向に射出される。

 スレイヤーは、更に追いかけた。追いかけ、回り込み、そして。

 

「パァイル!! バンカァァァァァッ!!!!」

 

 三発目。スレイヤー渾身の連続攻撃は、遂に三発目にしてゴズの体を貫通した。

 まんまるとした体の中心に巨大な穴が開く。幻などではない。確実にその身は貫かれ、そして活動を停止する程の致命傷を与えられた。

 

「~~~~~!!!!」

 

 悲鳴はない。ゴズは穴が開いた体を呆然と眺めていたが、やがて糸が切れる様にスレイヤーの拳に貫かれたままで完全に動きを止める。

 ゴズの敗北(SLASH)だ。かつて遊園地のマスコットであった存在の最後は騒がしい登場時とは異なり静かに、そしてたった一人の観客を前にして光の粒子となって溶けて消える。

 勝者であるスレイヤーは粒子を手ですくい取ろうとするが、ゴズであったものは手の内をすり抜けて完全に消滅してしまった。

 

「……蘇った果ては、孤独な死か。なんとも寂しいものだ。かつてはその笑顔に応える者達がいただろうに」

 

 主を失った舞台は途端に色を失って見えた。感傷的か、とスレイヤーは鼻で笑いながら、

 

「せめて手向けは送ってやろう。ゴズ」

 

 誰もいない観客席にゆっくりと会釈する。かつてゴズが浴びていた歓声はもう消えたが、せめて幕切れくらいは用意してやるのが最後の慈悲というものだろう。

 

「さて、では助けに行くとするか。彼を」

 

 スポットライトが落ちる。コートを翻し、スレイヤーは舞台を後にした。




はい、えー流石に皆さん思ってるでしょう。「こいつ投稿遅すぎ」と。
理由をご説明します。まず一つに執筆に手がまるでつけられていません。なのに書きたい事が多すぎてちびちびやると毎回一万字くらいになります。へたくそ!!!!
これにより間隔がどんどん広がり、皆さんを退屈させています。
流石に度が過ぎているので、多少話数が増えても投稿頻度を上げるべく区切って投稿しようかと考えております。皆さんいかがでしょうか、アンケートしときますのでよろしくお願いします。

現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?

  • 区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
  • このままもう少し早く出して欲しい
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