先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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調子が
いい
ミーハーだから主題歌は怪獣だ


Indecenco-トガ

 補習授業部の合宿場所として選ばれた旧館には庭園がある。トリニティの校風が淑やかなものである事は、ティーパーティーの長であるナギサを見ればわかりやすいだろう。

 故にとうに使われなくなった校舎にも生徒達の憩いの場が設けられている。ラムレザル達の手で草むしりまで行われ、少し古びた様子ではあるものの庭園にはお茶を飲む為のテーブルと椅子が置かれている。

 

「それで? 来ると思いますか?」

「どうだろうな。来るかもしれないし来ないかもしれない。どちらにしてもここで待つさ」

 

 残念ながら夜空の下で優雅にお茶を飲む、という状況ではない。白いテーブルにつき、飛鳥とハナコは客人をじっと待っていた。

 ひどい話だが、客人にはそもそも招待状も送っていない。向こうがやってくる事を前提とした無計画極まりない茶会の場である。

 

「でも来ると思う。来なければ、それはそれで話はわかりやすいけれど……あ」

 

 飛鳥が目を凝らした先、木々の間を縫う様にして黒衣の怪人が現れる。元の世界における同志にして唯一無二の友人、レイヴンである。彼がここにやってきたからには、知人である彼女も一緒に違いない。

 ハナコがきゅっと口を真一文字に結ぶ一方で飛鳥は呑気に手を振り、

 

「やあ、来てくれたんだね。聖園さんも一緒かい?」

「……ええ、一緒ですよ」

 

 レイヴンが黒衣を翻すとミカは突然出現する。漆黒の衣から飛び出した純白の服は、彼女のかわいらしさを強調して見えた。これで裏切り者という肩書がなければどれだけ良かったか。

 飛鳥はやはり手を振り、ミカへと挨拶をする。ここに至るまでの経緯を知る者からすれば、挑発と受け取られても良い姿勢だった。

 

「こんばんは聖園さん。こんな遅くに来てくれるとは思わなかった。すまないね、急かすつもりはなかったんだ」

「―――なんであんな事するの?」

 

 薄暗いが、それでも月明かりと庭園に設置された街灯でミカの表情が窺える。明確な怒りを宿し、飛鳥への凄まじい敵意を孕んでいる。綺麗な琥珀色の瞳に至ってはカッと見開かれ、今にも飛び掛からんという雰囲気を纏っている。

 ハナコが僅かに息を飲む。彼女も目にした事がない、ミカの激怒した姿なのだ。

 飛鳥は微笑みを浮かべたままで、ミカの神経を逆撫でする様な穏やかな声色で続けた。

 

「あんな事、というのは僕がシスターフッドの生徒達に話した『伝言』かい? もう届いたのか、早いね」

「なんで、あんな事、言いふらすの。セイアちゃんが裏切り者とか、意味わかんないんだけど。だって」

「百合園セイアさんは既に死んでいる……君が原因で。そうだろう?」

 

 ミカの右手がゆっくりと飛鳥へと差し向けられる。そこには彼女の愛用品らしい、飾り立てられたサブマシンガンが握られていた。

 

「先生っ……」

 

 これにはハナコも流石に声を荒げ、慌てて飛鳥へと「大丈夫なのか」と視線を投げつける。確かに彼女が危惧する様に一歩間違えれば飛鳥の額には銃弾が撃ち込まれるだろう。ヘイローを持つ生徒達ならまだしも、脆い肉体では容易く死に至る。

 殺意を漲らせるミカの傍らに立ちながら、レイヴンは凶行を止める素振りはない。少なからず彼も飛鳥に対して怒りを抱いているのは明らかだ。

 まさに一触即発の状態で飛鳥は人差し指を立て、ミカの動きを制する。

 

「何故、と言ったね。それはとても簡単だ。こうすれば君が会いに来てくれると思ったんだよ」

「……なにそれ。言ってる事意味わかんないんだけど。そんなの、そんなのモモトークなりなんなり使えば良いじゃん」

「裏切り者としての君に会うには、これが一番だったんだ。普通に声をかけても言い逃れすると思ったからね」

 

 椅子からゆっくりと立ち上がると、飛鳥はためらいなくミカへと歩き出す。いつ銃口から火が噴いてもおかしくない状況だというのに足取りは全く怖れていない様だった。

 

「でも来てくれてよかった。話したい事が沢山あったからね。さぁ座って」

 

 飛鳥は客を迎え入れ、椅子に座る様に促す。もちろんミカは従う様子はない。当然である。漲る敵意から考えて彼女が言われた通りに動く理由など皆無だ。

 飛鳥本人も「そうだろうね」と頷き、

 

「一つだけ。これから僕が話す事には、桐藤さんも関わっている。このままだと彼女は苦しみ続けるだけだ」

「……」

 

 ナギサの名前が出るとミカは目を見開き、反応を示した。何か言いたげに唇が震えるものの、やがてゆっくりと飛鳥に言われるがままにテーブルへと歩いていき、椅子に腰かけ背もたれに体を預ける。未だ眼差しには敵意を宿しているが、多少は対話の姿勢を見せている。

 レイヴンは隣に座るかと思いきや、ミカのそばに立ったままで飛鳥とハナコに視線を送ってくる。さながら保護者か何かである。

 

「わかってもらえて嬉しい。それじゃあ、単刀直入に聞くとしようか」

 

 飛鳥は最後に椅子に腰を下ろし、世間話をするかの様な口調でこう問いかけた。

 

「裏切り者は君で、百合園セイアの死に関わっている。そうだね?」

「……そうだよ」

「以前君が話題に出したアリウス学院とは手を組んでいる」

「うん」

「そして次の目標は桐藤さん、と」

「そう。その通り。次の目標はナギちゃん。でも安心してね。私、失敗するつもりだから」

「―――失敗?」

 

 飛鳥の問いかけに対してその都度首肯を返していたミカだが、最後に何やら不穏な言葉を発する。ハナコは眉をひそめ、

 

「失敗するつもり……? それはどういう……」

「うんー? 簡単だよ、すっごく簡単。私はね、トリニティの裏切り者でアリウスを利用した、おバカで悪い子。それで終わりにするつもりなんだ。そしたら大体丸く収まると思うんだよね多分」

「どういう事か、順を追って説明してもらえるかな?」

 

 興味深そうに飛鳥が顔を寄せる。ミカは逃げる様に目を逸らし、言うか言うまいかと口をモゴモゴとさせた。

 レイヴンだけは真剣そのものな眼差しをミカに向け、かぶりを振った。

 

「ミカ、時が来た。彼にすべてを話せ。何故百合園セイアが死ぬ事になったのかをな」

「……」

「その物言いから判断するに、百合園さんの死は聖園さんの望むものではなかったんだね? 何か別に原因があったと。それは、ハッピーケイオスの仕業なのかい?」

「ハッピーケイオス……噂には聞いています。その様な怪人がキヴォトスの何処かに潜んでいる、と。実在を証明する情報が少なすぎて、半ば都市伝説じみているとも。話の流れから見るにどうやら真実の様ですね」

 

 飛鳥の発言をハナコが補足する。彼は重苦しく「その通りだ」と頷き返すと、

 

「今、桐藤さんの背後にはケイオスがいる。彼女に何を囁いているのかわからないが、その影響で桐藤さんは僕達にあらぬ疑いをかけているんだ。もしもケイオスが百合園さんの死にも関わっているとすれば……」

「ミカさんが裏切り者になった原因はケイオスにあると?」

「あくまで推測だよ。けれどもしそうなら僕は……」

 

「あはは、あははは。先生、そこだけ不正解」

 

 飛鳥の推理は場違いなミカの失笑でピタリと止まる。おかしくて仕方ない、そんな調子でミカはくつくつと笑い、何度もかぶりを振って「全然違う」と呟く。

 その様子に何か、飛鳥とハナコは嫌な予感を抱いた。まさか、そんなはずはないと。

 そんな二人にミカは笑みを浮かべ、明らかな諦念を抱いた面持ちでこう告げた。

 

「セイアちゃんはね。誰のせいでもない、私のせいで死んじゃったの」

「それは……どういう」

 

 飛鳥の表情が固まった。自分の予想とは異なる答えに、彼は目に見えて困惑したのだ。ハナコも目を細め、ミカの発言がどういう意味なのかを探ろうとしている。

 ミカは大きくため息をつき、

 

「飛鳥先生さ、セイアちゃんとお話した事ある? ハナコちゃんは確かお友達だったから詳しいと思うんだけどさ……あの子、すっごく難しい話し方するんだよね。自分は頭が良いと思ってそうな感じ。私バカだからさ、何か言う度にセイアちゃんからブツブツ言われるの、すっごくイライラしちゃった」

 

 ミカの声がだんだんと震える。口に出せば出す程彼女の唇はワナワナと震え、顔色も青ざめていく。

 これ以上は危険だと誰でも判断できた。今からミカが告白しようとしている内容は、彼女の精神を破壊しかねないと。

 それでも止める事はできなかった。ミカ自身が、言わねばならないと涙目になりながらも決意していた。

 

「だからさ、だからさ、私……アリウスの子達にお願いしたんだ。セイアちゃんを『怖がらせろ』って。全然そんな、そんなつもりなんてなかったんだよ? ちょっと痛い目見ちゃえとか、それくらいの気持ちだった。なのに、なのにね……あはは、セイアちゃん、死んじゃった」

 

 空気が凍りつく。飛鳥も、ハナコも完全に言葉を失っていた。すべてを吐き出したミカだけはぽろぽろと涙を流し、レイヴンはそんな彼女に心底哀れなモノを見る様な視線で見つめている。

 

「それは」

 

 数秒程経ってから、飛鳥が呻く様な小さな声で話し出す。

 

「それはつまり、百合園さんの死にケイオスは一切関わっていないと?」

「うん」

「君の、個人的な不快感で百合園さんは死んだと?」

「うん」

「君は……君は……」

 

「だからね先生。皆私のせいなの。ナギちゃんがおかしくなったのも、補習授業部の皆が疑われているのも全部私のせい。なので、聖園ミカは『トリニティ最低最悪の犯罪者』としてナギちゃんを暗殺しようとして捕まって、それで終わりにするんだ」

 

 ミカは、呆然とする飛鳥とハナコにニッコリと微笑み返すのだった。

 

 

「……ハナコちゃん、先生から連絡来た」

「飛鳥先生から? 内容は?」 

「うん、あのね……今からナギちゃん、殺されるかもって」

「はい?」

 

 旧校舎。飛鳥の判断で残されたミカとハナコの下に飛び込んできたのは、ナギサ暗殺計画の報せ。

 詳細などわからない。飛鳥はすぐに戻るとだけ言い、次に『隠れていろ』とだけ残した。これから何が起きるのか定かではないが、ミカが聞いた彼の声は焦燥に満ちていた。

 無言でハナコは教室の明かりを消し、カーテンを一斉に閉めていく。何をしているのかと聞く前に、彼女は人差し指を立てて『静かに』とジェスチャーで伝えてくる。

 

(あ、そっか。ここに人がいるってバレたらまずいのか)

 

 流石はハナコ、頭の回転が速い。痴女まがいの行動を取っているがトリニティ一番の天才と噂されるのは伊達ではないのだ。感心しながらミカは彼女が窓際に身を寄せたのでその真似をする。

 

「ハナコちゃん、外に誰かいる?」

「いえ、わかりませんが……少なくともこうしていれば外から我々の姿は見えないはずです。それよりナギサさんが殺されるとはどういう事ですか? 一体何が?」

「そ、そんなのわかんない。本当はあと二週間くらい後のつもりだったもん。私ホントに、ホントに知らない」

「では一体誰が計画を……」

 

 そこで、二人は何かが弾ける音を聞いた。教室から少し離れた旧館のロビーからだ。

 

「おい! ここにいるんだな!」

「そうだ! 見つけ次第捕えろ!」

 

 誰かが大声を出しながら旧館に侵入してきた。何者かなど考えるまでもなく、ナギサ暗殺の為にやってきた刺客である事は間違いなかった。




ズバリ今回のテーマってくそめんどくさくて『ケイオス一切関係なくやらかした生徒の事を飛鳥は守れるのか?』です。
エデン条約編の持つテーマにもある程度則しています。

つかなんでこの作品飛鳥のトラウマ被る子多いのおかしいでしょ

現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?

  • 区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
  • このままもう少し早く出して欲しい
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