先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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Kunveno―シュウケツ

 曰く、その男は飛鳥にとって最大の敵。

 曰く、その男はただ混沌の為に突き進む。

 曰く、その男は見た目を他人に変える事ができる。

 

「まぁ、ようやく僕も出番が来たわけだ。黒幕ぶって動くのは嫌いじゃないけれど、やっぱり人間二本足で動いて始めて存在していると言っても良い。安楽椅子は好きじゃあない」

 

 確かに、その男は異常だった。白髪でも、角でも、青肌でもない。相対する人間にとって異様な圧を与える存在感を伴い、気分の悪い緊張感さえ与えてくる。

 ミカに連絡をよこした際、漏れ聞こえてきた飛鳥の声色に焦りが滲んでいた理由をハナコはよく理解できた。

 

「飛鳥先生がもうすぐ戻ってきます。貴方の計画は失敗します」

「へぇ、随分飛鳥君の事信頼してるんだ? でも残念。多分成功しちゃうと思うよ。今日という日の為に色々準備したし、今さっき君達にナギサ君の場所教えてもらっちゃったし」

「ッ!」

 

 ハナコの傍らに立つミカが息を飲む。

 ハナコとてケイオスが姿を現した時点で自分の軽率な行動に唇を噛み締めていた。状況が状況だったとはいえ、うかつにもナギサの居場所を伝えてしまったのだ。これではナギサ暗殺計画に手を貸してしまった様なものである。

 とすれば、飛鳥が戻ってくるまでの時間をなんとかして稼ぐしかない。ケイオスが無線の類を手にしている様子はない。つまり今ナギサが何処にいるのかを知っているのはここにいる三人のみとなるのだ。

 

「……さて、と。多分僕の事をどうしようかとか考えてるよね。ナギサ君の場所を知っている人間はそんなに多くない、とか」

「―――」

 

 表情に出さない様に、感情を詠まれない様に努める。ハナコならば可能だが、ミカには恐らくできないだろう。事実チラリと表情を窺えば、誰が見ても彼女は目を見開き、宙を泳いでいる。ナギサの身に危険が迫っていると理解した事で動揺を隠せないのだ。

 

「ありがとうねミカ君。君が準備してた兵隊達、今借りてるんだ。皆話をよく聞いてくれるから助かってる」

「えっ、私……?」

 

 ケイオスはハナコではなく、ミカにターゲットを変えて微笑みかけてくる。言葉の意味が理解できない様子で彼女は喉を震わせていた。

 

「君はアリウスと組んで、それから近い内にここへ攻め込むつもりだった。でも僕わかるんだ。最初からやりきるつもりがないくらい。なので僕が乗っ取っちゃった。ごめんね?」

「嘘。なんで、なんでアリウスの事知って……」

「? なんでって、そりゃずっと僕はアリウスにいたからね。知らなかった?」

「……ずっと……?」

 

 ばたん、と気の抜けた音に続いてミカは腰を抜かしていた。まさに力が入らないと言った様子で、今にも泣きだしそうな双眸はケイオスをじっと見つめている。

 ハナコとて今明かされた事実に対して少なからず表情に出てしまっていた。ミカがアリウスと繋がっている事までは飛鳥と共に把握していたが、よもやアリウスの背後にまでケイオスの手が及んでいるなど誰が想像できようか。

 

「それでは、こういう事ですかケイオス。貴方はトリニティ内部でナギサさんに対して揺さぶりをかけながら、その裏ではアリウスによる暗殺の準備も行っていたと?」

「うん。そう。ちょっと時間はかかったけど、意味はあったかな」

「―――貴方は、何の為にそんな事を」

 

 それはハナコの純粋な疑問だった。ケイオスの行動がマッチポンプだとしても、あまりにも時間をかけすぎている。

 補習授業部と飛鳥に注意を向けさせ、隙を作る? そんな事をするくらいならもっと直接的な方法はいくらでもあるはずだ。計画に無駄が多く、疑問を持つポイントがいくらでもある。

 あまりにも理解しづらい行動に対してハナコはケイオスを見透かそうと凝視するが、読み取れるものなど何一つない。むしろそれにより、相手に引き込まれかけていた。

 

「何の為に、何の為にかぁ。それって一番僕に意味ない質問だよ。本能でも理性でもない。だって僕は、存在する為に存在してる困ったヤツだからさ」

 

 対話に意味を感じられない。否、意味を考えていない。

 このケイオスという存在には善性も悪性も感じ取れない。彼にとっては全ては区別する必要がない……論理の全てがハナコの知るどの人間とも噛み合わない。

 勝てない。浦和ハナコは、何より飛鳥=R=クロイツは、この論理を持たない男に思考で上回れない。

 

「それじゃあ、もうお話は終わりにしようかな。皆、出てきていいよ」

 

 ケイオスが指を弾くと、一斉にガスマスクを装着した生徒達が建物の影や夜の闇に紛れて足音と共に現れる。ざっと数えても二〇人はいるだろう。彼女達がアリウスの人間である事はすぐに理解できたが、かといってこの場を切り抜けるには人員が明らかに足りない。

 一斉に銃口が向けられ、ハナコは背筋を伝う嫌な汗に顔を歪めた。

 

「これはっ……」

 

 ミカを戦力として期待したいところだが、腰が抜けたままで呆然としている。一度喝を入れようにも、動けばその瞬間に蜂の巣と言ったところだろう。

 

「僕はナギサ君のところに行く。あとは頼むね」

 

 手をひらひらと振りながら、ケイオスはトリニティ校舎へと向かっていく。このままでは何も知らないナギサの下へと魔の手が及ぶ。それだけは絶対に避けなければならない。

 だがそれには目の前にいる敵を全員かいくぐっていく必要があり、流石にハナコとミカの二人で切り抜けられるはずもない。

 

「よし、射撃準備!」

(流石にこの状況は……!)

 

 万事休すか。ハナコは最後まで突破口はないものかと視線を走らせるが、怪しい動きを見せたところで見抜かれる……!

 

「ミカ! 何をしている!!」」

 

 今まさに二人目掛けて一斉射撃が行われようかという窮地において、幸運にも黒衣の怪人が舞い降りる。飛鳥からスレイヤー、スレイヤーから梅喧へと渡った連絡によってミカの窮地を聞きつけたレイヴンは過去最高速度でトリニティへと舞い戻り、そしてかまいたちじみた烈風を纏って参戦した。

 

「な―――なんだこいつは!?」

「構わん撃て!」 

 

 突如現れた怪人に驚きつつもアリウスの兵は躊躇せずに発砲し、銃弾がレイヴンへと突き刺さる。しかし不死身の肉体からすれば何の障害にもなりはしない。

 邪魔だと言わんばかりにレイヴンの腕が伸縮し、鞭の様にしなってアリウスの兵隊を薙ぎ払う。突然の攻撃に残る兵が動きを止めた隙を見逃がさずに、ハナコも援護射撃を撃ち込んでいた。

 

「レ、レイヴン……」

「大方、ケイオスに何か吹き込まれたか。だがそれを気にしてどうする。今重要なのは桐藤ナギサか、それとも後悔か?」

「それはっ……」

 

 レイヴンの叱咤はそれなりに効果があった。尻もちをつき、とてもではないがすぐに立ち直れる様子のなかったミカはゆっくりと立ち上がると、ライフルを手にして目尻を上げてギュッとケイオスが消えた方向を睨みつけた。

 時間は残されていない。今ここにいる人間だけでケイオスと彼が率いる軍隊を鎮圧していく必要があるのだ。

 

「レイヴンさん、ミカさん。少し荷が重いかもしれませんが、急ぎますよ……!」

 

 

「―――羽川さん! 剣先さん! 力を借りたい!!」

 

 ケイオスが姿を現す少し前、飛鳥もまたトリニティへの帰還を果たしていた。辿り着いた場所は正義実現委員会本部、敵に対して戦力を確保するべく彼は羽川ハスミ、そして剣先ツルギを探しにやってきたのだ。

 よりにもよって本部の一番人員が固まっている待機所に現れたもので、その場にいた委員会の生徒全員がひっくり返る珍事となってしまったが、それでも手段を選んでいられないというのが現状である。

 

「なんすかなんすか、今度は何事っすか!?」

 

 突如飛鳥が現れたという報告に慌ててやってきたのは委員会の一員であり、ラムレザルの投稿初日に学園の案内を担当してくれたイチカである。早速生徒達の指揮系統を管理する人間に会えた事に飛鳥は安堵しつつ、

 

「今トリニティ校内に敵が侵入している。羽川さんと剣先さんは?」

「え……? 二人共、今学区内での暴動鎮圧に向かってるっすけど」

「暴動、鎮圧……?」

「そうっす。先生こそ、どうしてここに? 一緒に向かったはずっすよね」

 

 飛鳥はその瞬間、「しまった」と口中で毒づいた。思いのほか、ケイオスは用意周到に事を進めていた。事前に面倒な戦力を全て削ぎ取り、トリニティを丸裸にしようとしているのだ。

 

「仲正さん、僕がここに来て暴動鎮圧の話を切り出したんだね?」

「? そうっすよ? 条約前だから早めに抑えておきたいって」

「……それは僕じゃない。僕に偽装した、ハッピーケイオスだ」

 

 飛鳥は既に各学園のトップ、並びに治安維持組織にはケイオスの情報は広めてある。説明は名前を出すだけで十分だった。

 イチカの糸目が瞬間に見開かれ、灰色の目が状況を理解しようとすると少しだけ周囲で待機している生徒達を見やる。

 

「それ、ヤバくないっすか? 結構な人数出払ってるんすけど」

「残っている生徒達で部隊を編成。五分後には出発する。選別は仲正さんに任せよう」

 

 事態を理解し、委員会の生徒達が大慌てで出撃の準備を開始し始めた。確かにイチカの言う様にハスミとツルギについていった生徒は多く、少し頼りない顔立ちの者が多い。とはいえ今はやるだけの事をやるしかないだろう。

 できる事なら彼女達の力など借りずに自分一人で解決したい問題なのだが、今の状況は飛鳥個人の主義主張など介在する暇などまるでなかった

 

「と、その前に先生に一つ質問っす」

「?」

「まさかとは思うっすけど、ここにいる先生も偽物とかないっすよね?」

 

 イチカが苦笑いと共にそう問いかけてくる。確かに一度騙されたとはあっては疑うのは当然の事だろう。なので飛鳥も即座に彼女の不安に応えて、

 

「趣味の話だけど、まだちゃんと見つけられていないのだとしたらギターを続けると良い。君は好きではないと言っていたが、僕はあの音色を気に入ってる」

「え……イチカ先輩、ギター弾いてるんだ」

「先生の前で弾いた事あるんだ……」

「キャー……」

 

「あー! こういう無遠慮さマジで本物っす! 皆準備して―!!!!」




Qイチカと飛鳥って何があったの?
A趣味探しに飛鳥が異様に乗り気になった結果だいぶ大変な事になった。具体的に言うと一緒にギター弾いたしなぜかそば打ちまでしていた。イチカは存外悪い気持ちはしていなかったし、付き合うだけ付き合ってくれた。

現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?

  • 区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
  • このままもう少し早く出して欲しい
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