先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
「さて、ホントに急場しのぎで編成した部隊になるっす。ホントにやばいっすね」
「……実力の程は?」
「そりゃまぁ、実戦経験が少し薄いっすけど伊達に正義実現委員会やってないっす。私が太鼓判押すんで」
トリニティ校内の侵入者を追うべく結成された即席の部隊はあまりその手に詳しくない飛鳥でも、「大丈夫かな」という思いを抱かずにはいられない顔ぶれだった。
不安、焦燥、興奮。恐らく前線に出すまでではないと判断されて今夜この場に待機していた者達だろう。それでも法術が扱えない飛鳥一人よりずっと戦力になる。
飛鳥は大きなテーブルにイチカから渡されたトリニティ校内のざっくりとした地図を広げ、じっと見下ろす。
「これから作戦を説明する。簡単に言えば僕らの目的は桐藤さんを暗殺する為に校内に侵入した者達の撃退にある」
「はい、全部で何人とかわかりますか?」
「まったくわからない。というか、正直な事を言うとまだ実物を見ていない」
「え……」
「は、はい! 敵が何処にいるかとかわかりますか!」
「そこもまったくわからない。まず、これから桐藤さんが何処にいるのかを確認する必要がある」
「え……」
そこで生徒達は一斉に飛鳥からイチカへと助けを乞うかの様に視線を投げかけてくる。「この人本当に大丈夫ですか?」と。
イチカは肩をすくめ、苦笑いを浮かべる。
「この人、こういうタイプなんすけど信用はしてもらって良いっすよ……アハハ」
つまるところ、この部隊は確かでない情報を根拠に確かでないメンバーで確かでない目標目掛けて突っ込む愚連隊というわけである。
とはいえ何も知らずに行こうというわけではない。飛鳥は地図を見下ろしたままで、『本』を取り出す。
おお、とざわめきこそ起きるが皆固唾を飲んで何が起きるのかとじっとしている。頼りなく見えるが、治安維持組織に籍を置くだけの事はある様だ。
「これからトリニティ全域のスキャンを行う。十秒欲しい」
「スキャンって、何するんすか」
「簡単に言えばレーダーとソナーだ。校舎周辺に対して音波を当て、その反響から全体を確認する。さっき確認したが校内には妨害電波が出ていて、携帯端末は使い物にならない。だからこれから僕が行う事を全員見逃さない様に」
『本』が開かれ、99秒という時間制限の開始に続いて飛鳥は速攻で正義実現委員会を中心として、高周波が放たれる。
と言っても原理は法力を使った疑似的なものである。突貫で飛鳥が考え出したものな為、精度は絶対ではない。
「よし、これから地図上に投射する。全員写真に残して欲しい」
収集したデータを広げた地図上に展開すると、みるみる内に立体映像が浮かび上がり疑似的なトリニティ校内の立体図が完成する。細かく見ていくと幾つか赤い点も表示されており、それは敵の反応を示している様だ。
一瞬にして作成された立体地図を前にしておお、とまた生徒達はざわめきながら続々と写真を撮影していく。
「……問題は桐藤さんが一体何処にいるか、だが。見当もつかない」
「本当っすか? 何か手掛かりとか」
「校内八〇ヶ所に地図には表示されていない隠し部屋が表示されている。つまり、この内の何処かに桐藤さんがいるというわけだ」
「あっ、これきついっすね本当に……!」
「とはいえやるしかない。桐藤さんの捜索は僕が行う、皆はとにかく校内をくまなく巡り敵を探って欲しい」
全員に現状を把握してもらい、いよいよ出撃の準備が完了する。即席で作られた愚連隊だが、果たして初任務で成功を収められるか否か。どの道、成功しない事にトリニティに明日はないだろう。大きな任務である。
と、大まかに方向性が固まったところで飛鳥は地図の一点に気付き「よし」と声を漏らす。その声色は少し喜ばし気で、イチカを含めた全員が?と首を傾げる。
「どうしたっすか先生」
「いや、もしもの場合に備えて援軍を頼んでいるんだ。どうやら今の状況を彼女達も気付いたらしい」
校内を動く赤い点の中に、異様に多く異様に速い集団が見られる。それを見つめながら、飛鳥はコクリと頷いた。
「……『シスターフッド』の参戦確認。さぁ急ごう」
ここに至るまで僅か一五分。飛鳥=R=クロイツはケイオスの暗躍に対し、用意できるすべての手段を用いて交戦を開始していた。
〇
今夜ナギサがそのセーフハウスに訪れたのは幸運と言えただろう。飛鳥が流した意味不明な噂を耳にした彼女は言いようもない不安に駆られ、そして側近を除いた誰にも気付かれない様に狭い部屋に身を隠していた。
側近達も部屋の外で待機させ今は完全に一人の時間となっている。困った事にそれは彼女に思案の時間を与え、そして苦しみを誘発していた。
(……セイアさんが、裏切り者? 何をバカな。彼女はもう、この世にはいないのです。何故飛鳥=R=クロイツはあんな噂を)
空のティーカップをじっと見下ろし、まとまらない考えを振り切ろうと試みる。普段の庭園ならば美しい月が見えただろうが、生憎薄暗い室内では叶わない。
彼女の精神は既に限界を迎えていた。度重なるゲヘナとの衝突から始まり、ケイオスに吹き込まれた多くの疑心に心はすり減り、一人になったところでもこれっぽっちも癒される時がない。
それでもナギサを突き動かすのはティーパーティーの長としての矜持だ。トリニティという大きな場所を守る為、何よりエデン条約の為……一人の人間が背負うにはあまりにも大きい使命を背負い、今日までやってきた。
その結果は誰の干渉も拒み、疑いにまみれ、摩耗しきったか弱い少女である。
「―――くっ」
こめかみに手を当て、小さく呻く。しばらくまともに眠れていない。それどころか食事とて毒物に対する不安から満足に取っていない始末だ。
いつかこんな日常から解放されるかもしれない。全ての脅威を排除すれば、いずれは心から安堵できる日が来るかもしれない。
(その時、私のそばには誰かいるのでしょうか……)
純粋な疑問だった。脳裏をよぎるのは自分が『排除対象』と判断した補習授業部の面々、何より大切な友人であるヒフミだ。
心から信頼しているし、心から愛している存在。だが一度疑えばどうしようもなく、今や幽閉状態にある。
『信じる事が難しいのは知っている。でも、心が見えないからこそでもあるんだ。だから桐藤さん、まずは僕を……信じてくれないかな』
次に浮かんだのは、得体の知れない先生だった。
飛鳥は本当に悪人なのだろうか。ティーパーティの桐藤ナギサではなく、一人の少女としての桐藤ナギサは彼の事を敵と断じきれない。あんなにも弱々しく憂いを帯びた人間が、戦争を引き起こすものだろうか。
と、ドアがノックされる。そこでようやくナギサは頭の中に閉じこもりかけていたと気付き、咳払いをした。
「なんでしょう。紅茶のおかわりはもう十分ですよ」
「……僕だ、桐藤さん」
「飛鳥先生、ですか―――?」
思いもよらない珍客にナギサはギョッとしてしまう。まさか件の飛鳥本人が、誰にも教えていないセーフハウスへとやってきたのだ。
鍵はかけてある。すぐに入ってくる事はないだろう。ナギサはじっとドアの外を見つめ、
「何故ここに? どうやって知ったのですか」
「今は説明している時間がない。何者かが君の命を狙っているんだ」
「何者か、とは―――?」
「正体はわからない。だが、少なくとも敵なのは確かだ。お願いだ開けてくれっ」
開けるつもりはなかった。現時点で最も怪しい人物に、得体の知れない噂を広げた正体不明の先生に、何故こんな密室で一対一の対話をしなければならないのか。
「桐藤さん、僕を―――信じてくれ」
開けるつもりなどなかった。気を許すつもりなど毛頭なかった。
だのに疲れ果てた一人の少女は椅子から立ち上がると、ドアまで歩いていき鍵を開けていた。
開いたドアの先には飛鳥が立っていた。ほっと安堵した顔で彼は部屋の中に入ると、すぐにナギサに代わってドアを閉め、厳重に鍵を閉める。
「ありがとう。今はとにかく息をひそめているんだ、良いね?」
「あの、状況はどうなっているんですか。外は……」
「追手がうろついている。何者かが敵を校内に引き込んだらしい」
「っ……」
飛鳥の鬼気迫る表情にナギサはようやく事態を飲み込み、背中から冷たいものが這いあがってくる感覚に唾を飲んだ。
怖れていた事態が遂にやってきたのだ。セイアの次に自分を狙って暗殺者がすぐそこまで迫っている。
外に出るべきかと言われれば、それは無理だろう。のこのこと首を差し出しに行くようなものだ。
「桐藤さん、奥に行くんだ。息をひそめてじっとしていて」
「で、ですが……」
「外は護衛の生徒達に固めてもらってい。心配しなくていい」
「それは、そうですが」
「何かあれば、僕が身を挺して君を守るよ。信用して欲しい」
飛鳥の自信に満ち溢れた声色に、ナギサはそれまで抱いていた不信感を少しずつ薄れさせていた。
非常事態という緊迫感は擦り切れた心を痛めつけ、そして助けに来た飛鳥の声は同時に癒してくれてもいた。
「先生……信じても、良いのですか?」
「当たり前だ。僕は生徒を守る為にいるんだからね。当然、桐藤さんもその一人だ」
彼を疑い、そして侮蔑の言葉さえ送った。信用できないなどと宣った。だがそれだけの扱いを受けながら今、飛鳥=R=クロイツは自分を助ける為に馳せ参じた。
ナギサはこの瞬間、自分が間違った選択肢を取り続けていたのではないかという感情に苛まれた。
もしかしたらヒフミも、その仲間達も、皆本当は裏切り者などではなくて、自分の疑心暗鬼の被害者なのではないか?
今トリニティにおいて最も危険な存在なのは、不信感から権力を振るう自分なのではないか?
「先生……っ」
「桐藤さん?」
「どうか私を許してください。私は、私は……」
「良いんだ。今は無理をせず、ここにいるべきだ。話はその後で幾らでも聞く」
優しく諭され、ナギサは胸が張り裂けそうな程の悲しみを飲み込んで再び椅子に座り込む。
空のティーカップをまた見下ろす。今度は苦しい思案の必要はなかった。この瞬間に寄り添ってくれる誰かがいてくれるというだけで、深く息をつける。
「……先生、本当に申し訳ありませんでした。本当に、どうか私を」
「ああ、もう黙っていて欲しい。泣き言は十分だ」
「え?」
直後、背後から銃声が聞こえたかと思えばナギサの背中に重い衝撃が襲い掛かる。致命傷になるものではないが、不意打ち気味の攻撃に彼女はそのまま地面に倒れ込んでしまう。
(まさか暗殺者が部屋に踏み込んできた? いえ、しかし飛鳥先生の声は―――)
「桐藤さん。ハッキリ言って君は愚かだ。こんな風に、ピンチを演出するだけで心は脆くなる」
ぼんやりとするナギサの下へ靴音が響く。身を起こして銃撃の正体を確かめようとした彼女が目にしたのは、拳銃を握る飛鳥の姿だった。
「え、あ、飛鳥先生?」
「少し黙りなよ。今は僕が話しているんだ」
銃声が三度。それもナギサの顔面へと浴びせられる。咄嗟に庇ったものの、それでも鈍痛に彼女は顔を歪めた。
「何を! 何をするんですか……!?」
「もしかしてわからないかな。言っただろう、暗殺者がいるって」
「お願いです。冗談はやめてください、そんな」
「人を疑うだけ疑ったら、次は懇願するのかい。それは都合がよすぎる。すべては君が招いた事だというのに」
ナギサは知っている。自分より飛鳥の方が腕力ではずっと下だと。その気になれば彼の腕など容易く折れてしまう。だというのに崩れ落ちたまま、今は現状を受け止めようとするだけでも精一杯な状況だった。
「まさか、裏切り者とはっ!」
「失礼だな。僕は何かを裏切ったつもりは最初からない。ただの、敵さ」
銃口がナギサへと向けられる。そこに宿っている明確な敵意を前にして、喉が干上がった。
助けを求める? 誰に? 外の護衛は銃声が聞こえたのに何故やってこない。まさか……。
(もう、私だけ……?)
這い上がってくる虚無感。これから何が起きるのかという恐怖。すべてがないまぜになり少女を飲み込んでいく。
「桐藤さん。君はここで死ぬんだ。百合園セイアがそうだった様に」
「ああっ……!」
引き金が絞り、耳障りな銃声と共にナギサへと更なる銃撃が……襲い掛からなかった。
「っ!?」
「ちっ……!」
飛鳥の腕を何者かが掴み、無理矢理に銃口を天井へと向けていた。放たれた弾丸は天井に突き刺さっている。
乱入者の正体を見るや否や、飛鳥の表情が歪む。
殺伐とした場には相応しくない、ふわふわとしたドレス。あどけなさが残る顔に険しさを浮かべながら、ミカがそこにいた。
「ナギちゃんに、ナギちゃんに……触らないで!!!」
逃れようにもしっかりと腕を拘束されており脱出は不可能。飛鳥の顔面目掛けてミカの全力パンチが炸裂する。
肉が潰れ、ついでに首の骨がへし折れる悍ましい音と共に飛鳥は壁まで凄まじい勢いで吹っ飛び、叩きつけられていた。
一瞬の内に起きた事態、今度ばかりはナギサも混乱など生易しいものではない。呆然自失と言った顔で壁に叩きつけられている飛鳥と、拳を握りしめて佇むミカを交互に見つめてしまう。
「ミカ、さん」
「ナギちゃん!? ナギちゃんねぇ大丈夫!?」
助けに来てくれたミカが激突する勢いでナギサに抱き着いてくる。じんわりと伝わってくる人肌の温かさに、ナギサは思わず彼女を抱き返してしまっていた。
「あ、飛鳥先生が、飛鳥先生が暗殺者。彼が、彼がトリニティの裏切り者……」
「いいえ、違います。先生ではありません!」
後から駆け寄ってきたのは。本来この場にいるはずがないハナコである。だが彼女の放った言葉によってなんとか壁際に倒れる飛鳥まで視線を動かせた。
「ぐっ、ぐうう……ぐ、はははは、ははは。凄い、凄い凄い。追いついたんだね、かっこいいよ。ここまでの道のりはきっと白熱していたはずだ」
相当なダメージを与えられたはずだ。首など、間違いなく折れていた。だが飛鳥は立ち上がり、みるみる内に外見を変身させていく。
やがて現れたのはあの怪人、ハッピーケイオスだった。
「あ、ああっ……!」
「良いねナギサ君。良い反応だ。僕も演じた甲斐がある。どうだったかな、飛鳥君に似てたかな? ふふふふ」
「わかりますねナギサさん! 暗殺者とはケイオスです!」
ハナコの叫びにハッとし、ナギサは息を飲んでいた。
これまでケイオスは多くの事を吹き込んできた。そしてそれが、彼女の心を惑わせ飛鳥への敵対心を生み出していた。
パズルのピースがはまっていく様にナギサの疑惑はやがて確信に変わり、そしてある種の喜びが胸の奥から湧き出していく。
「彼が、彼がすべての元凶なのですね……!?」
「げ、元凶?」
「そうです! ケイオスの言葉を私は信じ切って飛鳥先生を追い詰めてしまった! 遡っていけばセイアさんの死も、すべては彼が裏で操っていた……それならすべてに納得できます! ミカさん、貴方はそれに気付いて助けに来てくれたのですね!」
「え―――」
ナギサはほぼ完全にそうだと断定していた。ケイオスが全ての黒幕だと考えれば矛盾点はなくなる。悪者はたった一人、正体不明の怪人だけになる。甘い言葉に騙され飛鳥に不必要な疑心を持ってしまっていたのには深く後悔しているが、それでも遂に現れた『裏切り者』に彼女は心から安堵していたのだ。
だが、室内は異様なまでに静まり返っている。ナギサの声に誰一人として同意する者はいない。ケイオスでさえ、無言のままでじっとしている。
「どうしたんですか。何故、誰も何も言わないのです」
「ふ、ふふふ! あはははははははっ。それはねナギサ君、君の推理が外れだからさ」
「外れ、外れ? どういう事ですか!? 世迷言を!」
「残念だけど、僕はセイア君の死には一切関係ない。指一本たりとも触れてないと断言できる」
「それなら、それなら誰がセイアさんを……彼女を殺したと言うんですか!?」
「さぁねぇ、君のお友達に聞いてみただろうかな? ね~、ミカ君」
何故そこでケイオスがその名前を出したのかまるで読み取れず、ナギサは言われるがままに自分を守る様に抱きしめてくれているミカを仰いだ。一体何故、と。
ミカの表情は虚ろだった。ナギサの視線から逃れる様に目を逸らし、唇は血が出る程に噛み締められている。
「ミカさん……?」
「……っっ」
「どうして、黙るんですか。何故何も言ってくれないのですか!? 浦和さん、貴女は……」
ハナコへと説明を求め視線を投げかける。才女と呼ばれた彼女なら何か詳しく知っているはずだと。
「……」
沈黙が返ってくる。ハナコは視線を伏せ、抗いようもない現実をナギサに突き付けていた。
「ミカさんが、裏切り者?」
ぽつりと言葉は声となって漏れ、ミカの体がビクンと大きく震える。それが何よりの肯定であると気付いた瞬間に、ナギサは彼女を思わず両手で突き飛ばしていた。
地面に体を打ち付けても構わない。今すぐに目の前にいる相手から逃れたかった。
「違う、違うんだよナギちゃん。私は、私ね……!」
「来ないでッ!!」
「ひっ……」
不思議な事に、飛鳥のフリをしていたケイオスに襲撃された時よりもずっとナギサは冷静だった。苦しみを飛び越えて、今や気味が悪い程に冷静な思考ができる。
懐にしまいこんでいた拳銃を引き抜きあろう事かミカへと突き付ける。向けられた銃口を前にして彼女は言葉もなく、動きを止めた。
「―――セイアさんが死んだと聞いた時、私は貴女を守らなくてはいけないと思った。次はきっと私かミカさんだと、そう確信していた。だからティーパーティーの長として果たすべき役割を背負い、貴女だけは守ろうと誓った。なのに、なのに……!!」
「ナギ、ちゃん」
「教えてください。どんな気持ちだったんですか? 私が必死に頑張っている横で、元凶である貴女は何を考えていたんですか。滑稽だと、哀れだと笑っていた?」
「違う、違う……違う!」
「信じていたのに。貴女は、貴女だけはッ!!」
ナギサは叫んで、叫んで、叫び続けた。やがてポロポロとミカの頬を涙が伝う。
今この瞬間にナギサの全てが砕け散った。信念も寄る辺も、何もかもが崩れ落ちて消えていく。
それを見逃がさずに、混沌は歩み寄る。
「あーあー、泣かせちゃったよ。でもこれで親友同士隠し事がなくなったね、良かった良かった」
一瞬だ。ほんのわずかの間にケイオスは壁際からナギサ達の元まで瞬間移動していた。
「ミカさん、ナギサさん!!」
ハナコが反応するよりも早くケイオスはナギサとミカの額に手を置いて、
「二人共仲良く、ちょっと世界を掻きまわそっか」
何事かケイオスが囁いた直後、ミカ達が部屋に飛び込んできた際に開かれていたドアから黒衣が入り込む。
「手を、放せぇぇぇぇぇぇッ!!!」
僅かに遅れてやってきたレイヴンの捨て身の突撃がケイオスへと直撃し、二人をまとめて壁にめり込ませる。
まだ動きを止めるに至っていないと承知しながらもレイヴンはケイオスを壁に叩きつけた状態から踵を返し、ミカの下へと駆け寄る。
先程までの悲痛な空気は何処かに消え失せ、ミカとナギサは互いに呆然と見つめ合っている。異様な雰囲気など気にも留めず、レイヴンはミカの肩を掴み呼びかける。
「ミカ! ミカ! 聞こえているか!」
「―――」
「ちっ、浦和ハナコ! すぐに二人を安全な場所へはこ―――」
言葉はそこで途切れてしまう。レイヴンの喉をミカの指が鷲掴みにしていた。
ありえない事態である。突如として味方同士であるはずの関係に亀裂が入っている。原因が何か、それはもちろん今しがた壁に激突したケイオス以外に他ならない。
「レイ、ヴン」
「ミカ……!!!」
いつの間にかミカの頭部をウサギの覆面が覆っている。そこに記された『LOVE♡YOU』の文字列は、彼女がケイオスの手に落ちた事をありありと証明していた。
つまり、これはミカだけではなくナギサも同様である。
「ハナコ、逃げろ! 桐藤ナギサも敵だっ!」
「これは―――洗脳!?」
身動きの取れないレイヴンの傍らに同じく覆面を被ったナギサが立つ。その手に握られた拳銃が向けられた先は、異常事態を前に戦慄するハナコだった。
銃声が、響き渡る。
聖園ミカが起こした悲劇を起点として、事件は悪化の一途を辿りつつあった。
互いに想い合っていたはずの少女達は罪によって歪み、崩れ、やがて混沌と相成る。今やトリニティは最大の危機に立たされていた。
次回?または次々回でトリニティ校内での戦いが集結!
ps
なんか1人だけテンション上がってたので更新速度一旦下げます
現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?
-
区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
-
このままもう少し早く出して欲しい