先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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みなさまいかがお過ごしでしょうか
私はずっと天上界に向かっておりますが毎回8〜10階をふらふらしています
ビナーくんを殴りながら8〜10回をふらふらしています


マスターオブソーサリー

 神を証明する、その過程でソレは自らが神になる選択肢を取った。

 何体かの預言者を生み出し、いずれこの世界に神が存在すると結論づけるべく。

 預言者の内の一体にイレギュラーが接触したのは、飛鳥=R=クロイツ達の前に出現する数日ほど前の事である。

 

「ねぇ、僕の事見えてる?」

 

 不確定要素の集合体、そう称する他にない人型生命体が『ビナー』の元を訪れた。というよりビナーとしてはこれまでに認識した事のない強い個体を確認し、見に行かざるを得なかったというのが正しい。

 砂漠の中に一粒、黒い粒子が混ざっているとなればそれがなんであるかを確かめずにはいられない。合理的な判断だ。

 

「わぁすごい、とても素敵だ。君の名前ビナーだっけ?とってもカッコいいよ」

 

 生命体が笑いかけてくるが、その内側には測定不可の何かが渦巻いている。計測不可、というよりも参照するデータそのものが存在していない。

 

「僕の中には沢山いるからね、おもちゃ箱の中には大小様々なおもちゃが入ってるだろう?あれと一緒だよ。僕はハッピーケイオス、君が証明しようとするモノに近い存在」

 

 それならば合点がつく、わけではない。

 神とはその存在を証明できなければ前提が崩れる。神の概念が計測不能など、許容できない。

 

「なるほど、凄く懐かしく感じるよ君。じゃあ一緒に遊ぼうか」

 

 遊ぶ?何の為に?

 

「んー……君の助けがいるんだ。飛鳥君の為にね?」

 

 拒絶の意思を岩程度ならば容易に溶解させるレーザーで表す。間違いなく消し飛ばしたはずの生命体は、いつの間にかビナーの頭部ユニットで腰掛けている。 

 どうやってそこへ辿り着いたのか理解できずに混乱するAIをよそに生命体は笑みを浮かべながら、掌を砂にまみれた装甲へと置いた。

 瞬間、ビナーの内部へと情報の濁流が流れ込んだ。処理しきれない否、処理する事のできない膨大なデータが回路を焼き切る寸前で、ピタリと波は止んだ。

 

「僕は神様の半分を持っている。どうする?良ければもうちょ〜っと見せてあげてもいいよ、手伝ってくれればね?」

 

 神を証明する。神となる事で。

 それが目標である以上、今流し込まれたデータを取り込まないという手はない。

 ビナーは生命体と交渉をする事にした。

 

 

『お、大きすぎる……!こんなの今まで見た事もないです!』

 

 アヤネの絶叫に応えたくても、その場にいる全員が頭上を見上げ呆然とするしかない。天をつかんほどの巨大な機械仕掛けの竜など、いくらキヴォトスといえどそうそう出くわす代物ではない。

 

「◾️◾️◾️──!」

 

 ケイオスが呼び出した竜、ビナーは口に相当するパーツを開き耳をつんざく咆哮をあげる。音圧だけで飛鳥の虚弱な体は砕け散りそうになるが、腹に力を入れて精一杯踏ん張る。

 救出したセリカを含めた生徒達は突然現れたビナーに対してどう対処すればいいのか決めあぐねている様で、さっと飛鳥へと指示を求める視線を投げかけてくる。

 

「ここから逃げるんだ!目的である黒見さんの救出は完遂した、なら一刻も早く撤退するしかない!」

 

 丁寧な言葉遣いを投げ捨てて、飛鳥は喉が張り裂けんばかりの声で逃走を促す。ハッキリと断言されたおかげだろう、シロコを筆頭に対策委員会はビナーとの戦闘を避けて離脱を始めた。

 

「頑張ってね、アビドスの皆〜」

 

 ケイオスの声を受けながらビナーに背を向ける。とは言っても逃走手段など全力疾走するしかない。ヘルメット団の車両を使いたくてもそばにはビナーがいるのだ、わざわざ敵の目の前に向かうよりも距離を取るべく走る以外に選択肢がなかった。

 そして最大の問題が、飛鳥である。

 

「ん……先生、顔色が凄いことになってきてる」

「ゔっ、大丈夫……まだ、大丈夫だから」

「絶対無理でしょその顔!あーもう、シロコ先輩!先生をおぶってあげて!」

「ですね〜⭐︎先生このままだと絶対死んじゃうと思いますよ!」

「いや、待って、まだ走れ、うわっ!」

「うへ〜、多分先生が一番大変なんだから黙って聞いておいた方がいいよ」

 

 飛鳥が了承するよりも先にシロコはひょいっと彼を背負い、男一人分の体重を追加されたというのにその健脚は全く速度を落とさなかった。

 まだ走れる、とは言っても速度で言えば生徒達よりもはるかに遅いのだ。これが最適解である事は否定できない。

 

『みなさん!攻撃が来ます!注意して!』

 

 アヤネの張り詰めた声に続いて、爆風が飛鳥達を襲った。すぐ横に熱線が走り凄まじい衝撃と熱波に晒され、全員が呻いた。

 振り返れば、ビナーの口からは光の残滓が漏れ出ている。どうやらレーザーに相当するものを発射する機構を備えている様だ。

 

(固まっていたらやられる……分散してここから逃げないと)

 

 既にケイオスが操るヘルメット団と交戦し、少なからず疲労している状態で未知数の存在であるビナーとの連戦は無謀。であるならばやはり撤退するべきなのだが、離れた距離からでも攻撃を仕掛けてきたビナーから果たして逃げ切れるのか。

 その時、突如踵を返してビナーと相対する生徒が一人。ホシノだ。彼女は無言で何かを決意したのか、得物であるショットガンを構えながら、飛鳥達から離れてビナーへと走り出していた。

 

「小鳥遊さん!?」

「おじさんが奴の注意を惹くから、皆はその間に逃げて!」

「ホシノ先輩……!?」

 

 撤退するつもりだった仲間達はホシノの行動に足を止めないはずがなく、後ろ髪が引かれる様に振り返ってしまう。

 ビナーが尾を一振りした途端、砂が撒きあげられ津波となって辺り一面を襲う。その攻撃に唯一耐性がない飛鳥のみ、彼が持つタブレット、シッテムの箱はケイオスに銃撃された時と同様に持ち主を守るべくバリアの様なものを出現させて防ぐものの、飛鳥は津波に飲まれてゴロゴロと地面を転がり短い悲鳴をあげた。

 敵の攻撃をものともせず、ホシノはビナーへと突き進んでいく。何がそこまで彼女を駆り立てるのか、飛鳥にはわからずに歯噛みしていた。

 

「流石三年生、後輩を守る為に立ち向かっていくんだねぇ」

 

 突然の声に飛鳥が振り返る。いつの間にかケイオスは対策委員会に紛れ込む様な形で佇んでいるだけでなく、腕を組んでホシノの背中を感心しながら見つめている。

 シロコ達が即座に銃を構えるものの、飛鳥はそれを制して、ケイオスへと怒りを孕んだ視線を投げつけた。

 

「貴方は何故、彼女達を巻き込むのですか!僕だけを狙えばいいはずです!」

「それじゃあダメだ。飛鳥君には心から本気になってもらわないと意味がない。長い目で見れば、こうでもしないといけないんだよ。ほら、使いなよあの本を。ああ、もしかしてもしかすると……君が『魔王』だってこの子達に知られるのが怖かったりするのかな」

「ッ……!」

「大丈夫、なんならシッテムの箱に聞いてみるといい。大丈夫だって答えてくれるはずだよ。あとは君が踏み出せばいいだけ、じゃあね」

 

 一度だけ瞬きをした次の瞬間にはケイオスの姿は砂漠から消え失せ、最初から何もなかったかの様に砂漠が飛鳥の眼前に広がっている。

 そこからの飛鳥が取った判断は、ホシノを追いかけるというものだった。

 

「小鳥遊さんは僕が連れ戻す!とにかく撤退を!」

「で、でも……」

「これは先生としての命令だ!」

 

 砂の津波による被害を受けながらも一人敵と相対する先輩を援護すべくシロコ達も武器を手に参戦しようとする前に飛鳥は指示を飛ばす。下手に全員で動き、的が固まってしまう方が危険だ。

 ビナーはホシノの誘導によってそちらへ首を向けているが、逆に言えばあの巨体から繰り出される攻撃の全てが彼女一人に集中するという事だ。まさか攻撃手段を持ち合わせていないはずがない、間違いなくホシノは死ぬ。

 シッテムの箱を起動し、飛鳥は叫んだ。

 

「シッテムの箱……いや、アロナ!」

『はい!飛鳥先生、なんでしょう!』

「さっきは命を助けてくれてありがとう。まだお願いがあるんだけど、聞いてもらえるかな。君の事だ、僕がアビドスの対策本部でホワイトボードに書いていた計算式を見ただろう!」

『えっ?はい、見てました!』

「君はこのオーパーツを制御する役割を持っている、高性能なOSだ。ならそれを利用してあの計算式から答えを導き出してみてくれ!」

 

 あの夜、ホワイトボードに記した計算式の通りならば始まりの書を利用して別世界とキヴォトスの間にゲートを作り、そこから法力を引き出す事は理論上可能だ。

 けれどケイオスの言った通り、あと一歩が足りない。可能ならば実行しようという意思だけが飛鳥からはすっぽりと抜けていた。

 それはきっとアビドスの生徒と交流した影響だろう。少女達の青春を見ているからこそ、その世界を破壊しかねないという事実に対して何も感じないなど不可能なのだ。

 いつも答えを他人に委ねてしまう。悪い癖であると飛鳥は認識していて、その上で今回ばかりは自分の決断を肯定する確証というものを求めずにはいられない。

 

「小鳥遊さん!」

 

 ビナーの口が開く。ごうごうと音を鳴らしながら、眩い光が溢れ出していくのを目にして、飛鳥は再び叫ぶ。既に全力で走った後だというのに身体へと鞭を打ち、彼はひたすらに足を動かす。

 ビナーがレーザーを放つより先に飛鳥はホシノへと追いつくが、あまりの運動量にうめき声ばかりが漏れ出ていた。

 

「小鳥遊さん、君だけでなんて無茶だ……!」

「うへ……先生は皆と先に逃げておいてよ。私は平気だからさ」

「平気なはずがない。たとえ逃げられたとしても、君が無事でなければ意味がない。さあ一緒に……」

「先生避けてッ!」

 

 ビナーがレーザーを発射するのと、ホシノが飛鳥を突き飛ばすのはほぼ同じタイミングだった。

 眩い光が砂漠を切り裂いていく。先程から煩わしく感じていたであろう、小さな敵目掛けて。

 

(何故だ、どうしてそんな事をするんだ!僕は……!)

 

 価値がない。

 ゆっくりと引き伸ばされていく時間の中で飛鳥は自分を突き飛ばしたホシノが困った顔で笑っているのを見ながら、唇を噛み締めた。

 法力は使えない、否、使おうとしなかった。それは何故かと必死に考えを巡らせても、出てくる答えはあまりにも矛盾しきっていてとてもではないが肯定できない。

 

『もしかしてもしかすると……君が『魔王』だってこの子達に知られるのが怖かったりするのかな?』

 

 ケイオスの言葉を否定したくても飛鳥には言葉が見つからない。心の隅で、わずかに肯定してしまっている自分がいた。

 まっさらな、ただの飛鳥=R=クロイツ。法術も使えない、底抜けに明るいわけでもなく、誰かと親しく会話が弾むわけでもない、少し数学に詳しいだけの冴えない男。

 『あの男』。

 『ギアメーカー』。

 『魔王』。

 どれでもない、先生という役割を課せられた非力な人間。

 そんな存在としての在り方を、ほんの少しだけありがたいと感じていたのかもしれない。

 尻を叩きに来た、ケイオスがこう言っていたのはきっと飛鳥が飛鳥のままでいる事を良しとしなかったからなのだろう。

 

(……甘い、夢だった)

 

 けれど夢ならば覚めるのがルールだ。

 非力な飛鳥では誰も助けられない、何の意味もない。

 魔法使いとしての飛鳥ならば、全てを覆せる。

 

『飛鳥先生!ざっくりですが、法力?を利用可能なのは……『99秒』です!間違いありません!』

 

 その瞬間に、飛鳥の覚悟が決まった。突き飛ばされた姿勢のままで胸に手を突き入れ何かを引き出すと共に、色とりどりの光が溢れ出していく。

 光はやがて何枚ものページへと姿を変えていき、やがて一冊の本へと姿を変化させた。

 

『ではこちらの方でタイマーをセットしておきます!99秒ですからね先生!』

「間に合えッ!」

 

 レーザーが着弾する事により、砂塵が巻き上がる。ホシノを直接狙っての攻撃は間違いなく直撃した、そのはずだった。

 事実それを見ていた対策委員会の面々は誰一人として彼女が生きているなど思いもせず、シロコは呆然と立ち込める砂煙を前に茫然と立ち尽くすばかりだ。

 

『……ホシノ先輩?飛鳥先生?』

 

 アヤネは声を震わせて、恐る恐る呼びかける。万に一つの可能性を信じて、もしや、と。

 

「───聞こえているよ奥空さん。心配しなくていい」

 

 呼びかけた本人であるアヤネは目を剥いて驚いた。ノイズ混じりながらも、飛鳥の声が確かに聞こえてきたのだ。これはシロコ達も同様である。

 ビナーさえもわずかに動きを止めていた。確かに消滅させたはずの目標が健在である事に混乱しながらも、それでも再びレーザーを撃つべく口腔部を展開する。

 

「アロナ、確かに99秒だね?」

『はい!と言っても飛鳥先生は計算を既に済ませているのなら、問題ないとわかっているはずでは?』

「……少しだけ、ほんの少しだけ僕らしくない迷いを見せただけだよ」

 

 煙が晴れる。レーザーによって弾け飛んだはずのそこにはホシノと、彼女を守る様に飛鳥が傷一つなく立っている。

 唯一変化があるとすれば飛鳥の手には一冊の本が握られているという程度だが、それだけで周囲の大気はわずかに陽炎の様な歪みを引き起こしている。

 

「法力は問題なくこの世界に作ったゲートから流れ込んできている。送り込まれる先は僕と始まりの書だけ。大気中に残存する事もないだろう」

「うへ……先生、何その本。法術、って奴?」

 

 ホシノは平静を装いながらも声色からはわずかな興奮が感じられる。飛鳥は苦笑しながら振り返り、

 

「僕は言ったね。君だけでなんて無茶を、と。それは僕が君達子供を守る大人という立場でありながら何も成せない事へのちょっとした苛立ちだったんだ。我ながら、どうにも頭の内容が整理できなくて困る」

 

 ビナーが三発目のレーザーを放つが、それは飛鳥には届かない。相対する両者の間に見えない壁が生まれたようにレーザーは弾かれ、明後日の方向へと跳ね返される。

 本来の世界との擬似的な交信により流れ込む法力、それによって飛鳥は限りなく本来の力を取り戻す事に成功した。物理法則さえ捻じ曲げ、万物へと干渉する『万能』とでも呼ぶべき存在、マスターオブソーサリーへと99秒間だけ変身したのだ。

 飛鳥は敵へと向き直ると、深呼吸と共に足元の地面へと触れた。ざらざらとした砂に指先を当て、そのままスルリとビナーへと動かす。

 

(さざなみ)よ」

 

 誰もが次の瞬間起きる事を予想していなかった。

 砂漠、砂漠である。一滴たりとも水はなく、雨さえ降る素振りを見せない乾き切った大地だ。

 だのに飛鳥が囁くのに続いて、ビナーは『水没』した。砂漠が突然大海の如く波打ち、鋼の竜を取り囲んだかと思えば十メートルほどの段差が生まれる深さへと引き摺り込んだのだ。

 

「うへ……えぇ?」

「これで動きは止めた。次は小鳥遊さん、君だ」

 

 飛鳥はおもむろにホシノの手を取り、音もなくその場から姿を消す。法術による瞬間移動、テレポートだ。

 再び二人が現れたのは数十メートルは離れているシロコ達の目の前。いきなり出現した事に少女達が悲鳴もあげずにギョッとしているのも構わず、飛鳥はホシノの安全が確保されたと確認するとまた姿を消して砂漠の中で溺れるビナーへと急行した。

 

「アロナ、残り時間は?」

『あと50秒!』

「十分だ。破壊できなくても行動不能にする」

 

 砂漠が水の様に流動的な動きを繰り返しビナーを足止めする間に飛鳥はその真上へと瞬間移動し、勢いよく本を掲げた。

 

「ハーモニクスブーストッ!」

 

 本が弾け、何枚ものページが宙を舞う。けれどそれはわずかな時間で最適解を探すべくして取った、いわば技の一つだ。

 飛鳥は瞬時にビナーを無力化させる事が出来る幾つかのページを掴み取り、そして竜を見下ろす。

 

「君がどの様な存在で、何故あの人に協力していたのか。今は関係がない。重要なのは僕の敵だという、その部分だ」

 

 飛鳥は淡々と呟き、手をあげたかと思えば断頭台のギロチンを思わせる仕草で振り下ろした。

 

「砕けろ──!!」

 

 まず最初に青空に穴が開く。ぽっかりと開かれたそこからは赤黒い球状のエネルギーが現れ、そして重力に導かれてビナーへと墜落する。その衝撃たるや、レーザーによって起きる爆発に等しい。

 続けて幾つもの立方体が降り注ぎ、一つ一つが炸裂するたびにビナーを地中深くへと押し込む。何者も対処できない、破壊の雨だ。

 

(魔法を発動する為のマナが通常よりも足りない。特異な環境のせいだ、フルで使える上限が低い程度はさしたる問題にはならないな)

 

 冷静に思考しながら波状攻撃は止まない。ビナーの装甲はやがて少しずつひしゃげていき、飛鳥の攻撃に対処しようにも柔らかな砂の包囲網によってどうにもできない。

 それでも預言者として、機械の竜は決して駆動をやめない。圧壊の危険を承知した上で咆哮と共にレーザーを放つべく牙を剥く。

 当然、それを飛鳥も見越している。魔法による制圧攻撃を受けながらもなお敵対をやめないビナーを見下ろしながら、どこからともなく杖を出現させていた。

 始まりの書を経由して高出力のエネルギーが砲台代わりの杖に充填されていく。サブミクロン粒子高圧縮球、現時点で飛鳥が放てる最大威力の攻撃だ。

 

「再構築、圧縮、そして……射出!!」

 

 飛鳥とビナーの攻撃はほぼ同時に放たれ、異なる力のぶつかり合いによる尋常ではない衝撃は両者へと襲いかかる。

 肢体が容易く砕け散るほどの衝撃を飛鳥は法術による防壁で軽減したものの、そのまま砂漠へと墜落した。

 ビナーは砂の中で衝撃を正面から受け、行き場を失った力によって更に深く押し込まれた結果ジェット噴射かと見紛うほどの速度で地中へと潜行していった。

 

『飛鳥先生!あと5秒でタイムリミットです!』

「ギリギリ、なんとかなるかな?」

『はい!私の方でまたバリアみたいなのを出すので!』

 

 ミサイルの様に地上へと落ちていきながら、飛鳥は三度も命を救ってくれる事が確定しているタブレット端末についてぼんやりとした考察を始めていた。

 先生となる事が決まり、それから故あって手に入れたのがシッテムの箱。オーパーツである事、そして何度か会話している対話型OS『アロナ』がいる事以外何もわかっていなかったが、ケイオスの言葉は飛鳥にキヴォトスでの様々な疑問を湧き上がらせるきっかけとなっていた。

 

(……多分、分解とか解析はさせてもらえないだろうな)

 

 次に飛鳥は不安を覚えていた。

 法術は今のところ世界に影響を与えていないところを見るに計算は正しかった。

 けれど生徒の目の前で戦闘を行ったという点はどうなるのか想像がつかない。恐らくここまでの桁外れな戦い方を見てしまった以上、恐れに近い感情を抱かれる可能性は否定できない。

 

(だとしても彼女達は守れた。それは確かで……)

 

 そしてタイムリミットが訪れ、飛鳥を守る魔法が切れる。

 再びシッテムの箱が主を守るべく動きだし、次の瞬間着地の衝撃に飛鳥の意識は吹き飛んでしまった。

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