先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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Necessary Discrepancy

「完成した。我が『芸術』が……不滅の象徴が!」

 

 木製人形、マエストロは闇の中で笑う様に軋んだ。スランピア最奥を地下から押し上げ、砕きながら姿を現した『楽団』の姿を見届ける彼は、心の底から喜びに満ち溢れている。

 傍らに立つ首無し、ゴルコンダは地下より共に見上げながら感心した様子で、

 

「まさかあの僅かな時間で『グレゴリオ』をここまでのレベルに仕上げるとは。流石ですマエストロ。異種と出会えた事がそれほど刺激的でしたか」

「刺激的だったとも。インスピレーションが生まれるには申し分ない出会いだった。いずれ訪れる終わり、それが存在しないまさに『怪異』そのもの……始まりも終わりも曖昧な彼こそ、我が渾身の芸術を飾るに相応しい」

「……グレゴリオに呼応したのか、海中のアレも目覚めました。我々の探究が新たな段階へと移ろうとしています」

「素晴らしい。来訪者達に心からの感謝を……飛鳥=R=クロイツへ、感謝を」

 

 高揚を隠せない声色のままマエストロは浮上する『終焉』を見上げ、両腕を掲げる。自らが作り上げた芸術は果たしてあの吸血鬼に見合うものなのかどうか、それを確かめねばならないのだ。

 

「不滅の者よ……我ら定命の者が生み出した至高をご覧いただきたい。そして願わくば喝采を! 生まれ堕ちたこの『有限にして無限』を、ご照覧あれ!!!!」

 

 

 

『もしもしスレイヤー? 今どこにいるの?』

 

 空崎ヒナから電話がかかってきたタイミングは、驚く程最悪なものだった。つい先程まで電波が届かない状態だったはずなのだが復旧した様である。

 まぁそれは良いとしよう。問題なのは今スレイヤーの前に広がっている光景はなるべく早く消し飛ばさねばならないものである、という事だ。

 音楽が始まる。パイプオルガンの荘厳な第一声から始まり、聖歌隊がか細く歌い始める。調和の取れたリズムを刻んでいく。異形の者達が奏でる旋律は単なる音ではない、強力な音波兵器でありひとたび食らえば大きなダメージが予想できる。つまるところ、『楽団』は音という防ぐ事が難しい攻撃を常にまき散らしているのだ。

 

『凄い音だけど何事?』

「ん? ああ、今間近でオルガンの演奏が行われていてね。なかなかどうして、アバンギャルドな音だよ。すまないね」

『こんな時間に……? まぁ、良いけど』

「こんな時間に、というのは私の質問だよ。どうかしたのかね電話だなんて」

『……うん。その、飛鳥先生に渡すプレゼントなんだけど、手作りのお菓子はどうかと思って』

「ほぉ……!」

 

 絶妙なタイミングで、また興味深い連絡をよこしてくるものである。大方夜更けまで一人で考え込んでいたのだろう。それならばもっと早く連絡してくれれば応えたと言うのに、いじらしい少女である。

 スレイヤーは口の端を緩めながら唸り、

 

「作るのはチョコレートかね? クッキーかね?」

『ええと、安直にクッキーの方が良いかと思って。あんまり凝った物作ったらちょっと困るだろうし』

「おぉ、良いじゃないか良いじゃないか。君は多くを経験しているのだから、きっと良いものを作れる。完成したら是非私にも味見させてくれたまえ。楽しみにしているよ」

『そんなに期待しないでちょうだい……ん、何、アコどうかした? ごめんなさい切るわ』

 

 通話がプツリと切れ、スレイヤーは耳に当てていた携帯をゆったりと余裕な仕草で懐に戻す。気合いを入れる様にネクタイもキュッと締めた彼は、優雅な足取りで一歩踏み出した。

 旋律を奏で続ける舞台の大きさは尋常ではない。スランピアの王城をすっぽりと覆い隠せそうなレベルなのだ。当然、指揮者を中心としてズラリと手下が並んでいる為に数も多く、そしてどれもがゴズのソレに酷似した雰囲気を持っている。

 既に交戦状態に入っているラムレザルとその学友、そして流浪の剣士梅喧。全員実力者であるが、『楽団』が奏でる音波に対して有効な手段が見当たらない状況だ。そこにスレイヤーはあくまでもダンディに向かっていく。

 

「諸君、調子はどうかね?」

 

 ちょうど敵の攻撃を受け止めた梅喧が石畳を滑りながらスレイヤーの目前で停止する。前線に立っていたラムレザル達三人も、ゆっくりと後退しながら戻ってきた。

 

「どうもクソもあるか。周りを取り囲んでる連中をどかしても本体に届きやしねぇ」

「届いたとしても、決定的なダメージを与えられていない。このままじゃジリ貧……それに、まだコハルが目を覚まさない」

 

 口々に女性達が不満を漏らす。確かに舞台の上で演奏を続ける異形の者達は連携が硬い。中央に立つ指揮者を守る様にぐるりと囲む聖歌隊はラムレザル達の攻撃を盾となって防ぎ、それでいて演奏している。素晴らしい一体感であるが、敵としては面倒も良いところだ。

 何も勝てないわけではない。スレイヤー単体で撃破はできる。問題は、それではあまり面白くないという点にある。

 

「ふーむ、それではこういうのはどうかな。私があの邪魔者達をまとめて薙ぎ払おう。そこから指揮者を仕留めてくれ」

「……そうしてくれるのは嬉しい。でも火力が足りない。あの規模をまとめて吹き飛ばせるパワーが」

 

 ラムレザルは先程から二振りの大剣を持ち出す様子はない。拳銃で健気に交戦している。法術が使えない故に彼女の実力も万全とは言い難いのだ。これは本人の研鑽によって成長してきた梅喧との大きな違いであろう。アズサ、そしてヒフミの二人では大火力など求めづらい。

 となれば、やはり『あの男』に頼むしかないのだろう。スレイヤーがちらりとラムレザルに視線を送ると、首肯が返ってくる。

 

「飛鳥先生の力を借りる。彼なら、私に遠隔で法力を譲渡する事も可能なはず。短時間だけなら全力を出せると思う」

「よし、ならその案を採用だ。手短に行こう。つい先程レディから魅力的な連絡があったのでね」

「あいっかわらずマイペースな奴だ。だが奴らをとっちめられるってんなら話は別か。ラムレザル……『アイツ』に連絡できるか?」

 

 梅喧は僅かに声色を低くしラムレザルに窺う。彼女の過去を知る者からすれば、この提案がどれだけ本人にとって選びたくないものかは口にするまでもない。

 かつて人間とギアの間で繰り広げられた『聖戦』によって梅喧は家族を失い、己も片目と片腕を奪われた。それからずっと戦乱の原因とされた『あの男』を、飛鳥を探してきたのだ。真相が明らかになった今、飛鳥が家族の仇ではないと判明したが、それでも彼女が飛鳥に助力を乞うなど心境は複雑に違いない。

 

「でも梅喧、彼は」

「良い。いずれ俺自身がアイツに会いに行く。だから今は目の前の事に集中しろ」

「……わかった、連絡する」

 

 梅喧の重苦しい声にラムレザルもコクリと頷くのみに留め、拳銃を構えたままで連絡の為に一度戦場から離れていく。彼女の学友であるアズサとヒフミの二人は残るべきかそうでないか少し考えたが、スレイヤーはパイプを吹かして、

 

「ラムレザルと共に行きたまえ。ここは我々二人で留めておく」

「あ、ありがとう、ございます」

「すぐに戻りますので!」

 

 なんともまっすぐな性格なのが感じ取れる良い少女達である。ラムレザルを追った二人に手を振って見送り、スレイヤーは梅喧と共に演奏を続ける『楽団』へと向き直る。

 ちょうど段階が切り替わるかの様に演奏が勢いを増し、音圧も強まっていく。ただならぬ雰囲気がいよいよ背筋に本能的な恐怖を呼び起こしていた。

 

「この音楽、何か意味があると思うか?」

「あくまで私の推測だがね、恐らく演奏が終わる頃には死人が出ているよ。そういう『テーマ』で作られているのを感じる。始まりがあるならば終わりあり……メメントモリとでも言うべきか」

「あとどれくらいだ、その演奏の終わりってのは」

「長くて五分程度じゃないかね?」

「ハッ、笑わせやがる。こんなもん十秒だって聞いていられないってのに。さっさと本気出しちまえよ『総長』」

「いやぁ、私がすべて解決してしまうのはいささか都合が良すぎる。こういうのは全員でやるものだよ」

 

 あくまでも二人は余裕を崩さない。眼前に広がる光景を前にして、吸血鬼と侍は怖れる事なく動き出す。拳を構え、刀を抜いて二人は時間稼ぎの為に『楽団』目掛けて突撃していく。

 演奏の最中に舞台へと上がり込んできた侵入者を排除するべく、指揮者は指揮棒を振った。重厚な音と共に聖歌隊を構え、敵意を漲らせる。

 先陣を切るのはスレイヤーである。地面を踏みしめ壇上へと上がるや否や、拳を掲げて地面を力強く叩く。

 

「It's late!!!」

 

 全力の殴打によって打ち出された衝撃派は旋律と歌声に真正面からぶつかり合う。常人ならば鼓膜が張り裂けてしまうであろう爆音の衝突によって聖歌隊がぐらりと体勢を崩すのに合わせ、梅喧が飛び込んだ。

 一閃。一切の迷いがない斬撃が幾度も振るわれ、瞬く間に敵を切り裂いていく。その速さたるやまさに達人の速度、常人では目で追う事さえ叶わない。

 二人のコンビネーションによって次々に聖歌隊を葬り、残るはグランドピアノの演奏者と指揮者のみ。しかし作戦を立て、そして飛鳥の助力が必要と判断したのはここからにある。

 

「♪♪♪♪♪―――!!!!!!」

 

 

 指揮者が剣の様に指揮棒を振るい、その瞬間に今倒れたばかりの聖歌隊が起き上がる。刀で両断された者もまで例外なく、である。

 

「ちっ、埒が明かねぇ!」

 

 蘇った軍団を無視し、梅喧は飛び上がり指揮者を狙う。一刀の下に切り捨てようかという勢いは、しかし指揮者が煩わしいと言わんばかりに指揮棒を横凪ぎに払う事で防がれた。

 グランドピアノとそれを背にして立つ指揮者……聖歌隊は今までその周囲をぐるりと囲んでいた。だが一瞬にして新たな一団が現れ、無防備な梅喧の背中目掛けて音波兵器が直撃する。

 

「ぐっ……!?」

「おっと、これは失礼」

 

 スレイヤーの動きは速い。敵の予想外な行動に即座に反応し、吹き飛ばされた梅喧へと跳躍する。舞うが如く緩やかな軌道で彼女を回収し、スレイヤーはそのまま舞台上から撤退した。すると指揮者も聖歌隊も突然興味をなくし、追撃するどころか演奏へと意識を切り替えてしまう。

 その様を見ながらスレイヤーは目を細め、不満げに鼻を鳴らす。

 

「つまらんものを作ったな。この演奏も、歌声も……テーマに縛られている。こういったものは楽しみがなければ」

「おい、いつまでこうしてる気だ。下ろせ」

「おお、すまない。私とした事がレディーに失礼な事を」

 

 舞台から十分な距離を取ったところでスレイヤーは抱えていた梅喧を下ろしてやり、困ったなという顔でパイプを吹かした。倒す倒せないよりも、だんだんと見ていていたたまれない気持ちに駆られ始めているのだ。

 

(まだゴズは風情があった。しかし彼らはどうだ? 始まりと終わりを聖歌に込めたのは面白いが、それによって折角の音楽が台無しだ。熱意のままに作ったな……)

 

 余裕という二文字はまさにこの吸血鬼の為にある。普通ならばどうやって倒せばいい、と考え込むところで彼は敵を作り出した何者かに対する批評を行っているのだ。もしもこの内面を口に出していようものなら、スレイヤーは間違いなく梅喧に罵声の一つでも浴びせられているだろう。

 梅喧本人はと言えば、衝撃破が背中に直撃しながらも苦々しい表情のままで立ち上がり、

 

「おい増えたぞ手下が。どうなっていやがる」

「中盤に差し掛かったというところかな。まもなくフィナーレが訪れる」

「ちっ……めんどくせぇな」

「しかし、盛り上がりがあるのは良い事だ。彼女も間に合った」

 

 加速が止まらない聖歌を忌々し気に見つめる梅喧とは裏腹に、背後を見ぬままニヤリとスレイヤーは微笑む。

 彼が何を感じ取ったのかは関係がない。重要なのはその微笑みに応える様にして、彼女が現れた事である。

 

「ごめん、遅くなってしまった。これから巻き返そう」

 

 弾丸の如く飛翔し、白いコートに身を包んだ少女が空気を裂く。ようやく慣れてきていた制服を脱ぎ捨て、ラムレザル=ヴァレンタインは真の姿を露わにしていた。

 

 

「ここまで来たなら大丈夫。どうやら電話も繋がる様になったみたいだから」

 

 ラムレザル達三人はスレイヤーと梅喧に戦況を託し、少し離れた位置で足を止める。飛鳥に連絡し、彼の力を分け与えてもらう事で現状を打破しなければならない。事態は一刻を争う。

 携帯端末から飛鳥の連絡先を探し、即座に通話を繋げる。長いコール音の後に、

 

『僕だ。ラムレザル、スランピアで一体何が―――』

『ペロペロ、ペロペロ、ペロペロォォォォォォォォ!!!!!!!!』

『ぎゃひぃぃぃぃぃぃ、皆殺しだぁぁぁぁぁぁハハハハハハ!!!!!』

 

 信じられない咆哮と絶叫が聞こえ、ラムレザルは思わず携帯を耳から離してしまう。桐藤ナギサの暗殺がどうなってしまったのか、そこが気になっていたのだがどうやら向こうはもっと大変な状況にあるらしい。

 とはいえ気圧されていてはどうにもならない。アズサとヒフミの何事かという視線を受けながらラムレザルは、

 

「飛鳥先生。報告は後でやるから、力を貸して欲しい。こっちは大変な状況にある。今すぐに法力が欲しい」

『……それは構わない。でも一つだけ確認がある。今阿慈谷さん達は一緒かい?』

「一緒だよ」

『君が力を解放するという事は、自分が何者なのかを明かすという意味だ。それでも……良いかい?』

 

 ラムレザルは、そこで飛鳥が自分をトリニティへ入学しようと誘った理由を完全に理解していた。

 生徒として生きて欲しいと彼は言っていた。同時に彼は『ヴァレンタイン』としてではなく、ただのラムレザルとしての時間を作ろうとしていたのだろう。

 キヴォトスに流れ着いた存在ではなく、一人の生徒として……そんな望みを胸に抱いていたのだ。

 

(やっぱり、この人は言葉が足りない。でも……ありがとう。その気持ちだけでも十分嬉しい)

「大丈夫。何者かなんていうのは深い問題じゃない。重要なのは……私達が友達だという事」

 

 アズサとヒフミに微笑みかけ、ラムレザルがきっぱりとそう答えると、電話口の向こうで飛鳥は言葉を詰まらせた後、

 

『―――よかった。先生として、その答えを何よりも尊重しよう。制限時間は長く見積もって四〇秒。頼んだよラムレザル』

 

 飛鳥がそこで通話を切ると共に、ラムレザルは突如として全身に力が湧き上がっていく感覚に気付いた。

 コップに水が満たされていく様だ。力が漲り、確かめずともラムレザル=ヴァレンタインが本来の性能を幾分か取り戻していくのがハッキリと知覚できる。これで、敵を倒せる。

 

「―――み、皆ここにいたの!?」

 

 ラムレザルが拳を強く握り締めていたその時、か細い声と一緒に闇の中をおぼつかない足取りで近付いてくる者がいた。ヴァレンタインにさらわれ、ヴァレンタインに痛めつけられたコハルである。戦闘が始まる前に梅喧がどこかへ避難させたはずだ。

 

「こ、コハルちゃん!? 大丈夫ですか!」

「裸足でここまで歩いてきたの……!?」

 

 コハルの足は黒く薄汚れている。靴も履かずにここまで走ってきていたのだろう。あの聖歌の大きさを考えれば、目印になっていたと考えるべきか。

 アズサとヒフミが慌てて駆け寄る一方で、ラムレザルはコハルを見つめたまま立ち尽くしてしまう。これから自分が仲間達三人に見せる姿が受け入れられるか、少しだけ不安だったのだ。

 

「コハル、無事でよかった。二人と一緒にここにいて。危険だから」

「……ラム一人で行くつもりなの?」

「うん。状況を変えるには、私が頑張るしかない。皆を守る為にも」

 

 そこでラムレザルの力は完全に復活した。身に纏っていた制服が内側から弾け飛び、一瞬にして戦闘用の服装へと転換していく。

 白く、黒く、対照的なカラーリングに身を包み、ラムレザル=ヴァレンタインは真の姿となった。

 これには仲間達全員が目を剥いて驚いた。よもや魔法の様な光と共に変身したのだ。動揺するのも無理はない。

 

「ラ、ラムちゃんこれは」

「―――少し、先生やレイヴンとの関係が理解できた」

「これが私の本当の姿。あの仮面の子……ヴァレンタインと私は同じ存在。戦う為に作られた生命なんだよ」

 

 すべて言ってしまおうという決意を胸に、ラムレザルは自分自身を語る。ここから先で繰り広げられる戦闘を目撃する前に、せめて理解だけはしてもらおうという一心で。

 だが驚愕を破る様に、コハルがぽつりと呟いた。

 

「……かっこいい」

「え?」

「か、かっこいいって言ったの! 二度も言わせないでよバカ!」

 

 思わぬ反応だった。もう少し驚きのあまり言葉でも失うかと考えていたが、コハルの目はキラキラと輝いている。それはアズサもヒフミも同様で、二人共うんうんと頷いている。

 

「白と黒、ツートンカラーがなかなかに映える。スカルマンみたいだ」

「なんていうか、変身ヒーローみたいで良いと思います!! ラムちゃんかっこいい!!」

「あ……えっと、ありがとう。そういう感想をもらえるなんて思わなかった」

 

 ぽっとラムレザルは顔を赤く染め、恥ずかしげに目を逸らす。仲間達の興味津々な視線はそれだけ眩しく、そして彼女の胸に強い感情を湧き上がらせていたのだ。

 そんなラムレザルにペタペタと素足で駆け寄ってきたコハルは細い指をギュッと握った。目いっぱいの力で、訴えかける様に強く。

 

「ラムが誰かとか、関係ないでしょ! だって……その、ほら、助けに来てくれたし。だから―――アイツと同じだなんて言わなくて良い!」

「っ……ありがとう、コハル。貴女にそう言ってもらえるだけで、私はどんな敵とでも戦える」

「ふぇえっ!? そ、そんな大袈裟な……」

「コハルだけじゃない。ヒフミとアズサもそう。私と友達になってくれて嬉しい……皆の為に、頑張ってくる」

 

 異なる世界で、右も左もわからない中でラムレザルは友情を見つけた。得体の知れない自分に手を差し伸べた大切な仲間達を。

 自分が何者か、そんな疑問は必要なかった。重要なのはラムレザル=ヴァレンタインは補習授業部の一員という、ただそれだけなのだから。

 次の瞬間、ラムレザルは一瞬だけ満面の笑みを浮かべると共に大地を蹴っていた。その速度はロケット噴射に近い。一瞬にしてコハル達の上空まで飛び上がり、彼女は仲間達へと手を振る。

 

「じゃあ、行ってくる」

「早く戻ってきなさいよ~!!」

 

 コハルの応援を背に受けながら、ラムレザルは戦線に復帰するべく虚空を蹴り、加速した。

 ロケットの様な速度で進む彼女の脇に、いつの間にやら黒と白の二色で構成された球体がふわりと並ぶ。一対の目と口を持つ不気味な外見だが、従者である『ルシフェロ』だ。

 

「よぉラムレザル! 元気そうだなー? で、ここどこ?」

「時間がないから簡潔に言うと異世界。ついでに言うとあと数十秒で貴方はまた消滅する。でも、久しぶりに会えると少し嬉しい」

「お~、なんだよ急に熱いセリフ言っちゃって~。え、あと数十秒? なんで、ねぇなんで?」

 

 困惑するルシフェロをよそに、ラムレザルは破壊を轟かす旋律へと突撃する。残り時間は間もない。

 全力で、当たって砕けろである。

 

 

「よし、役者は揃った。では行こうか」

 

 ラムレザルの参戦を確認するや否や、スレイヤーは強く拳を握り締めた。その動作だけで梅喧は彼が繰り出そうとする技を読み解き、合図を送るまでもなくラムレザルの後を続いて駆け出す。

 聖歌はまもなく終盤である。それが訪れてしまえば何か良からぬ事が起きる。であるならば、ここで演奏を打ち切る他にない。

 

「良いなラムレザル。勝負は一瞬だ!」

「もちろん。仕留めてみせる!」

 

 聖歌の矛先がラムレザルと梅喧へと差し向けられる。最初よりも敵の数はずっと増えている。これ以上増加していくならば対処は困難になるだろう。

 だが、それを打ち止めにせんと構える者がいる。どっしりと腰を落とし、コートがひとりでに翻る程の圧を生み出すダンディが一人いる。二人はその時を見越して、『弾道』を作る為即座に左右へと分散した。

 

「さて、どこの芸術家は定かではないが、採点の時間だ。テーマは五〇点、演奏は四〇点。美意識は重要だが……娯楽性も重要視しなければ他人に鑑賞してもらう事は難しくなるぞ」

 

 拳が、腕が、全身が。スレイヤーが力を込めるに応じて膨れ上がっていく。人知を超えた存在、夜の王が放つ究極、超絶の一撃がいままさに放たれる。

 

「ここで―――!」

 

 それは魔法に非ず。ただ肉体のみが生み出す破壊。

 

「一発―――!!」 

 

 それは神秘に非ず。ただダンディのみが在る拳。

 

「食らいたまえ―――!!!」

 

 それは高速に非ず。音速を越え、スレイヤーの衣服はその加速に追いつけない。

 

「マッパハンチィッッッッッ!!!!」

 

 轟ッ、と大気が揺らいだ。その時文字通り、スレイヤーは射出されたのだ。

 吸血鬼の膂力を限りなく拳に注ぎ込み、臨界に達そうかという勢いそのままに放つ。マッパハンチを越えたマッパハンチ、スーパーマッパハンチである。

 すべてを抜き去り、一撃が舞台へと差し向けられる。防御など叶わない。すべて砕け散る。それ故に指揮者を守ろうと、すべての聖歌隊が集った。文字通りの肉の壁である。

 

 着弾したその時、聖歌隊達は文字通り粉々になった。跡形もなく粉砕されバラバラに弾け飛び指揮者は守る者もおらず丸裸にされてしまう。

 だが問題はこれからだ。いくら護衛を弾き飛ばそうが本体が残っている限り打倒には至らない。絶大な火力を即座に叩き込むのでなければ、到底―――

 

「その一瞬を、逃さない」

「往生しやがれってんだ!!」

 

 スレイヤーがぶち空けた穴、そこ目掛けてラムレザルと梅喧が追い打ちを仕掛ける。

 虚空より引き出された一対の大剣がラムレザルに従い宙を舞い、剣先に仕込まれた銃口を構える。

 梅件の懐に仕込まれた幾つもの暗器の一つ、火縄銃が姿を露わにし、指揮者へと向けられる。

 

「もらったァッ!」

「カルヴァドス……!」

 

 最初に着弾したのは梅喧の一発だ。火薬が指揮者の頭部に炸裂し、鮮やかな花火を散らす。ところがこれでは決定打にはなりえない。敵は煙の奥から健在な姿を現わし、怒りを滲ませて指揮棒を振るおうとする。

 

「おい、油断したな」

 

 では続く攻撃はどうか。大剣より放出される高出力のエネルギーは鮮やかな緑と黒の螺旋を描き、破壊の渦をもたらす。限られた時間でラムレザルが撃ち放つ全身全霊の攻撃を防げる者などいはしない。

 指揮棒を振るう事さえ指揮者は忘れてしまった。手を止め、降参だとでも訴える姿勢で硬直する。終わりを受け入れた様な、諦念を滲ませて。

 背後のパイプオルガンごと指揮者を光が飲み込んでいく。そして溢れる様なエネルギーは眩い輝きを光の柱へと変え、天を貫いた。

 

 後には何も残りはしない。エネルギーが放出されきった舞台には、かつてそこにすべてを束ねる者がいた事を示す程度の大穴だけがぽっかりと空いていた。

 

「―――こうして演奏は終わる。わかるかね? 終わりとは劇的なもので、存外あっけないのだよ」

 

 スランピア決戦、終結。




スレイヤーというキャラの力強さ、それを表せたかと思います。

現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?

  • 区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
  • このままもう少し早く出して欲しい
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