先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
キヴォトスでの出来事に連動してソル……もといフレデリック達のお話をやるわけですね
今回のエピソードは前後半みたいに区切りましたのですぐに次回も投稿します
あと凄いブルアカ側のセリフが減っちゃってもう大変です!説明が多い!早くアオハルしたいいいいいいい!!!
頭がガンガンと痛む。手足は必要なパーツを抜いてしまったかの様に言う事を聞かない。せめて首だけは動かせないものか、と視線を動かす。
消毒液の匂いが鼻につく。病院かと思ったが、どちらかと言えばもっと簡易的なもの、つまり保健室の様だ。恐らくアビドス校内のものだろう。
飛鳥はそこで自分が覚えている限りの記憶を引っ張り出し、考察する。始まりの書を利用して法術を使い、ケイオスが呼び出した謎の敵を撃破したところまではハッキリと想い出せるが、どうやってここまで連れてこられたのだろうか。
思いつく限りではアビドスの生徒達以外には考えられない。全員で運び込んでくれたのか。
(しかし、まさかとは思うけれどこの全身を襲う感覚は筋肉痛か?運動神経がそこまでなのは知っていたけれど、ここまでだとは自分でも驚きだ)
恐らく対策委員会のメンバーは皆、本部にいるはずだ。彼女達に会うべく体を起こすものの、そこで飛鳥はため息をついた。
敵を倒したはいいものの、法術を利用した戦いは見られてしまった。キヴォトスにおいてもあそこまでの攻撃方法は無いだろうが、果たしてどの様な反応があったのか想像するのは難しい。
「ん……先生、起きた?」
飛鳥の眠っていたベッドを囲っていたカーテンが開いたかと思えば、にゅっとシロコが顔を覗かせた。態度に変化はなく、むしろうっすらとだが口元には笑みが浮かんでいる様に見える。
体に鞭を打ちながら上体だけを起こすと全身を針で突かれる様な痛みが次々と襲いかかってくる。飛鳥は悲鳴をあげそうになりながらシロコになんとか目線を合わせる。
「少し体が痛みますが、はい。ここへ運んでくれたのはアビドスの皆さんですか?」
「先生、ミサイルみたいに頭から突っ込んで白目剥いてたから……正直、死んだかと思った」
シッテムの箱による防御は無事墜落から命を守ってくれた様だ。ほっとため息をつきつつ、飛鳥はすぐに痛む体に鞭を打ってベッドから立ち上がり、弛緩していた意識を引き締める。
「本部へ行きます。皆さんへお話しするべき事がありますから」
「ん……私達も聞きたい事がいっぱいある」
ビナーとの戦いで見せた魔王としての姿。
セリカを攫った謎の人物、ハッピーケイオス。
そしてこの二つの根本的な原因、『飛鳥とは何者なのか』。
既に飛鳥は全てを打ち明ける覚悟でいる。無言でシロコに頷き返すと、本部にいる生徒達に会うべく歩き出した。
「先生」
シロコの声に振り返る。どんな言葉をかけられるのかと予想していると、彼女は首元に巻かれたマフラーをギュッと握りしめた。
季節的には春なのにも関わらず身につけているあたり、シロコは随分とそのマフラーが大事な様だ。
「先生はわからない事ばかりな人だけど、それでもホシノ先輩を助けてくれたのにはちゃんとお礼を言いたい。ありがとう。もしも先輩に何かあったら、きっと私はどうにかなってたと思う」
「僕は……」
先生ですから、と口から出かけたところで飛鳥はかぶりを振る。
少なくとも今言うべき言葉はそれではない。シロコは心から仲間を助けてもらった感謝を伝えようとしている。
であるならば飛鳥はペラペラと言葉を並べるのではなく、しっかりとそれに応えるべきだ。
「僕も彼女を助けられてよかった。まだ短い期間しか交流していないけれど、皆さんはとても仲が良さそうだから」
「ん……それ、皆にも言ってあげて。行こう」
シロコと共に保健室から出て、本部が設置されている生徒会室へと向かう。筋肉痛によって飛鳥の足取りは一歩一歩の間隔が非常に狭く、側から見ればペンギンか何かだと思われるだろう。
しかしながら悲しい事に本当に全身が痛かった。全力疾走を繰り返すだけでも苦しいというのに歩きづらい砂の上で、という悪条件が幾つも重なっていたのだ。死なずに生きているのは奇跡と表現するしかない、そう飛鳥自身が思うほどである。
「僕はどれくらい寝ていたんですか」
「半日くらい。皆、これからどうしようかって話し合ってる。先生も一緒に考えて」
「議題について教えてもらえませんか?借金に関してであれば、憶測が混じりますが聞いて欲しい事があります」
「それも関係してる。イマイチ話がまとまらないからできれば先生が仕切ってくれたら嬉しいかも……」
言葉の濁し方からして恐らく相当話し合いは詰まっているのだろう。会議において必要なのは良い案を出す人間というよりも、案を引き出したり結論をまとめたりする進行役だ。
それは自分の役目だろう、とほんの少し背筋を正して飛鳥は本部の前に立つ。
「……から、絶対……と思って」
「それに気付け……事じゃないですか」
「……金輪際そういうのには関わらないで……」
「うへ〜……してくれて……よお〜」
セリカを筆頭として生徒達の声が聞こえてくる。意を決して飛鳥はドアを叩き、
「飛鳥です。入っても良いですか?」
しばらく静寂が続き、
「はい!どうぞ入ってください先生⭐︎ちょうど良いタイミングですから〜!」
「ちょ、ちょっとノノミ先輩!?」
「ほらほらセリカちゃん、おじさんも一緒だから怖くないよぉ〜。ね、アヤネちゃん」
「そう、ですね。大丈夫です!どうぞ先生」
セリカが何やら騒ぎ立てている、やはり警戒されている様だ。それも当然の事であると飛鳥は別段動揺はせず、中からの声に従ってドアの取手に手をかけた。
「わかりました、失礼します」
「ま、待って!まだ……」
音を立てない様にそっとドアを開ける。室内の様子は少なくとも飛鳥が知るものとはそこまで変化はない。強いて言うならばセリカを両側からノノミとホシノが抑え込んでいるあたり、揉め事でもあったのだろう。
「ん……先生が来たからセリカはもう諦めた方がいい。まずは先生からね」
飛鳥は咳払いの後に、
「まずは砂漠から運んでくれてありがとうございます。一応責任者に位置するのに恥ずかしい限りです」
「いえいえ、お気になさらないでください⭐︎先生ものすごく軽かったですし!」
「あ……え、そうですね、はい」
会釈をする飛鳥に対して、ガトリングガンを抱えて走るノノミが満面の笑みを浮かべながらこう言っては気を遣われている感じはしない。感謝を伝えるのはそこまでにして、本題に入る事にした。
「起きて早々なんですが、まずは皆さんにお話ししたい事があります。色々と聞きたい話も多いでしょうから」
「うへ〜、それなら私達の方からもあるんだよ。ね、セリカちゃん」
「む……むう」
先輩達に挟まれた状態のセリカはモゾモゾと体を動かし、それからキッと飛鳥を睨みつけてくる。一体何を言われるのかと緊張していると、
「た、助けに来てくれてありがとうね……!」
「うへ〜……おじさんも同じく助けてくれて感謝感謝。熱くて溶けるところだったよ」
「……あの、話したい事というのは?」
「だ、だから今言ったでしょう!助けに来てくれてありがとうって!」
飛鳥はああ、と思わず手を叩く。室内でガタガタと何やら慌ただしかったのは恐らくどうすれば良いのかと悩んでいたセリカを残りの二人が押し留める音だったのだ。
けれど元はと言えばセリカが攫われたのはケイオスが飛鳥を呼び出す為のものだ。
「いえ、そもそもケイオスが黒見さんを狙ったのは僕が原因です。むしろ僕の方こそ謝るべき……」
「先生、誰がやったかは関係ない。重要なのは先生がセリカを助けに行ったというところ。でしょ?」
「そうですそうです⭐︎ホシノ先輩も無茶したところを助けてもらいましたし?」
「い、いやぁ?おじさん皆を助けようと思ったんだよ。映画のマッチョな人みたいにカッコよく帰るつもりだったよ?」
アビドスの生徒達はあの砂漠での戦いから、さほど変化はない。飛鳥にお礼を言うだけでなく、目の前で普通に話し始めてもいる。
もっと訝しまれるものと考えていた。そもそもベッドにただ寝かされていたという時点でおかしいと気付くべきであったのだ。
「……あの、すみません。僕はてっきり皆さんにもっと怖がられるか警戒されると思っていたんですが」
「怖がる……?ああ、あのなんか凄いビームみたいなの発射してた奴?」
「確かに最初はものすごくびっくりしましたけど、でも先生は私達を助けてくれたんですよね?」
「うへ〜……半端なかったけどさ、少なくとも敵じゃないってのはわかるよ。だってそうでしょ?」
まず疑われてもいない、というのがどうやら真相の様だ。
予想よりも反応が異なる事に飛鳥が大きく動揺するのとは対照的な対策委員会、本部はいつの間にや一層賑やかになりつつあった。
「ちょっと皆さん、落ち着いてください。少し語弊があると言うか、ちゃんと先生には私達の意見についてお話しすべきかと」
そう言って手を挙げたのはアヤネだった。言い出すなり彼女はテキパキと先輩達にテーブルへつく様に促し、自分はホワイトボードにサラサラと図の様なものを描いていく。
アビドスと先生、ざっくり二つの枠に分けた構図がホワイトボードに完成した。
「まずセリカちゃんがハッピーケイオスと名乗る謎の人物によって拉致された事が発端でした。救助に向かった先で彼は謎の兵器、ビナーを呼び出し、私達に襲わせた。ここまでは良いですね?」
「アヤネちゃん、絵上手いねぇ。そっくりだよ」
「あ、ありがとうございます。そして、少なくともあの時点での戦力では太刀打ちできないと判断して撤退を試みたところ……先生は不可思議な力を発動してビナーを撃退した、と」
「今から説明すると長くなるので、『魔法』という名前であるとだけ知っていてもらえれば」
「魔法……言われてみればアニメやゲームみたいな破茶滅茶な奴だったわ」
「ふむふむ……魔法、ですね。はい、ではここまでに起こった事をまとめた上で、先生が気絶していた間の事をお話しします」
書き連ねられていくのは飛鳥不在のままで行われた議論の内容だった。
まずは飛鳥の力について。
次はケイオスについて。
そして最後はケイオスが示唆したアビドスに差し迫る危機について。
「どれもうまく進展しませんでした。何しろ、私達の知っている情報は限られているので。なのでここからは当事者の一人である飛鳥先生にも色々お話ししていただきたいんです」
「わかりました。僕にできる限りお話しします」
「では……飛鳥先生の戦いはアビドス、ひいてはキヴォトスでも見た事がないものでした。根本から異なると言うべきでしょうか、銃器よりも遥かに脅威です。注目するべきは先生が魔法を使うと決断したタイミングです」
「ホシノ先輩を助ける、という中でしたよね。レーザーが直撃したのを見た時は、心臓が止まるかと思いました⭐︎」
「あまり考える必要はありませんでした。あれほどの力を有しながらそれをあくまでも誰かを助ける為に用いている事から、先生は私達の敵ではないと判断したんです。いえ、判断せざるを得ないと言うか、私達の視点ではこう考えたんです。飛鳥先生は悪い人じゃないって……」
「奥空さん、ありがとうございます。そこからは僕の口で説明させてください」
アヤネはほっと一息をつきながら飛鳥はペンを手渡してくる。
鍵を預けてくれた時と一緒だ。彼女は、否、彼女達は飛鳥を信頼している。対策委員会にとって頼れる相手と見做されているのだ。
当然飛鳥もそれに応えるつもりだ。その気持ちがブレた事など一度もない。ペンを受け取るとアヤネと入れ替わってホワイトボードの前に立ち、生徒達の顔を眺める。
「なんだか、授業をするみたいだな」
ポツリとそうぼやくと、真っ先にシロコが挙手した。ホシノ、ノノミ、アヤネ、そしてセリカの順番で続く。
アビドスには他の生徒も、先生もいない。学校としては崩壊していて彼女達はしばらく授業など受けていないはずだ。となれば飛鳥の言葉に反応した理由は、あるべき日常への想いだろう。
会話の形式を授業をする様な方向性にすると決めて、飛鳥はとりあえずシロコに手を差し伸べる。
「……じゃあ、砂狼さん」
「ん……先生が使っていた魔法がなんなのか知りたい、です」
「敬語じゃなくても良いですよ。奥空さん、少し書き連ねるのでボードを消しますね」
議題である三つの問題だけを残して飛鳥はホワイトボードをまっさらにリセットして、まず『魔法』という二文字を書いた。キヴォトスで用いられている言語は元の世界でジャパニーズの主要言語であった日本語に酷似している。一度何かの機会に覚えておいたのだが、どうやら無駄ではなかったらしい。
法力と法術について説明して良いものか、という不安もあったが今この場において少なからず自らの素性というものを語らないのは不透明な人物のままになってしまう。ある程度ではあるが、教えなければならないというべきだろう。
「僕が使っていたのは正確に呼ぶならば『法術』というものです。その全てを話すのはとても長くなるので、噛み砕いて言うならば魔法……普通ならば起こり得ない現象を発生させるものと表現するのが最も適当かと」
「それは私達にも使えるの?先生」
「……恐らく難しいでしょう。たとえ扱えるとしても沢山の勉強が必要になります。必要な時間は尋常ではないので、有用とは言いづらいです」
「ん……」
「うへー、じゃあ逆にどうして先生は使えるの?」
「これもまた説明が難しい。いえ、できるのですが皆さんからすれば全く未知の領域ですから、飲み込んでもらえるかどうか。ともかく書いてみます」
そうして飛鳥は『本』『法力』『法術』という単語を書いていく。
「僕は一冊の本を持っていて、それを原動力として法力というエネルギーを入手、そして法術を発動する条件を満たしています。対価として法力を消費し、魔法という現象を引き起こすという過程ですね」
「本?先生、本なんて持ってた?」
「持っています。ただ、本は危険なアイテムですから誰にも見つからない様に隠し持っているんです。ここまでで何か質問は?」
「はい!十六夜ノノミです!」
「名前まで言わなくても大丈夫ですよ。どうしましたか?」
元気よく声をあげたノノミはいつもと変わらない声色で、しかしながらハッキリと、
「魔法が普通ならば起こり得ない現象を発生させる、という事は匙加減を間違えれば世界が吹き飛んじゃったりするんですか?」
「──良い質問をありがとう。法術、魔法は物理現象をも無視できます。つまりそれは運用を誤れば、多大な被害が予想される」
「でも先生はそれを制御できているんですよね?私はドローン越しに見ていましたが、戦闘の最中に意図しない挙動が起きる事もありませんでした」
「もちろん、何より僕自身、魔法を使用する時間制限を設けています。99秒間、それ以上はブレーキの様なものが起動しロックがかかる様に設定しました。少なくとも……十六夜さんが思い浮かべる様な結末になる事はありません、断言します」
飛鳥の説明に嘘はない。法力、法術、魔法、それら全てが何であるのかについてとリスクも考慮している点は包み隠さず話している。ただその源流である、別世界に関しては決して触れない様にしていた。
隠しているわけではない。説明したとしてもアビドスの面々からすれば理解し難い、意味のわからない内容なのだ。であれば不必要な情報は削り落とし、彼女達が最も知りたいであろう部分を教える他にない。
「皆さんには申し訳ないと思っています。できる事なら僕自身が代わりに戦えれば良いのに……代わりと言ってはなんですが、考え事や計画をする際には全力でお手伝いするつもりです」
「別に良いわよ。どっちみち先生、派手に動けばすぐヘトヘトじゃないの。私達でなんとかできるわよ」
飛鳥が深く頭を下げると、ため息混じりのセリカに言い返される。体力の事を引き合いに出されると全く言い返せる余地がなく、何か言おうと口を開くもののすぐにピシャリと自らの意思で彼は口を閉じていた。
「セリカ、先生はそれを言われるとものすごく図星だから言わないであげてほしい」
「ち、違、別に非難しているわけじゃなくて!そこまで気負わなくて良いってつもりなの……!ほら、考え事が得意なら次の話に行ってよ!ケイオスが話していた、アビドスが狙われてるかとなんとかについてみたいな」
「……そう、ですね。落ち込んでいる場合じゃなかった。僕が皆さんに話すべき本題はそれです。奥空さんに見せてもらったこれまでのお金の動き、そしてケイオスの言葉、これらには関係性が見られるんです」
セリカの言葉が拳となって叩き込まれ、一転してどん底に至っていた状態からなんとな気を取り直し、飛鳥は咳払いと共に新たにホワイトボードへと書き込んでいく。
対策委員会に迫っている大きな問題、それは謎の男ケイオスがアドバイスと称して漏らした情報だ。
アビドスという地区そのものを何者かが狙っており、度重なるヘルメット団による学校への襲撃は生徒達を追い出さんとする目的によるもの……ケイオスは飛鳥へとそう告げた。
「でもですよ先生、私達が知る限りアビドスの土地に価値があるとは思えません。何かしら資源が地中にあるのなら、ここまで放置なんてされませんから」
「……そう、その通りだ。けれど事実、君達の学校は何者かによって狙われ襲撃を受けている。だから僕達が注目すべきなのは『何故』ではなく『誰が』という部分です」
「で、でも待ってよ。それを教えたのはケイオスでしょ?アイツの言葉、私には信じられないわよ!?攫われたし!」
「その気持ちはわかります。けれど彼の言葉は信用していいと思います。ケイオスは、恐らく嘘だけはつかないでしょうから」
「ん……アイツは先生の友達だって名乗ってた。本当なの?」
二つ目の謎、ハッピーケイオスとは何者なのか。
飛鳥は恐らく法術についてよりもずっと、その質問に対しての答えに躊躇していた。彼自身、どちらかと言えば信じ難い事実だからだ。
シロコからの問いかけに一拍置き、飛鳥は一際低い声で囁いていた。
「彼は、ハッピーケイオスは僕の師匠。言うならば、僕にとっての『先生』なんです」
実はあらすじを更新したいんだけれどいいのが思いつかない
というか今のが一番個人的に好き