先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
さて、考えてみて欲しい。再びワームホールが開いたと言われ騒然としていた場に突然、正体不明の少女が現れた瞬間の事を。飛鳥の手で開かれる異世界との扉はこれまで二度に渡り、人々を攫っている。それが三度開かれたとあれば予想できるのは『次は誰だ?』という疑問だ。
異世界キヴォトス。そこがどんな世界であるかは一度意識だけだが足を踏み入れたアクセルでさえハッキリとは知らない。わかっているのは、異なる地平線にあるという事だけ。
故に誰もが怖れた。次は、次は誰がいなくなるのか?と。
「……え? ここ、どこ?」
ワームホールが開かれ、そしてまた大規模な情報体フレアを引き起こした直後の事である。イリュリア城司令室のど真ん中、かつての英雄フレデリック・バルサラの目の前に、ちょこんとエプロン姿の少女が現れた。
『ッ!?!?』
文字通り空気が凍り付いていた。当然である。ワームホールの直後に何者かがイリュリアの中心部に突然現れたなど異常事態以外に言い表せる言葉などありはしない。事実フレデリック自身、敵に違いないという確信を持ち拳を握りしめていた程だ。
その場にいる仲間達も臨戦態勢を取り、侵入者を迎え撃という姿勢を取った。が、それよりも先に件の少女は自分が大勢に囲まれていると気付くや否やその場にぺたんと腰を抜かし、
「えっ、えっ、あのっ、ホントに、ここどこですか……!?!?」
今にも泣きそうな顔で目を潤ませ、助けを求めるかの様に視線をさまよわせる。敵を欺く演技かと思いきやそうでもなく、本当に怯えている。自分がどうしてこの場にいるのか、それさえも知らないという素振りだ。
フレデリックは思わず周りの人間に視線を向ける。『おい、どうすりゃ良い?』と。
最初に反応したのはジャック・オーである。やれやれとかぶりを振って、
「女の子なんだから優しくしてあげてー!」
次に何か言いたげな顔でザトーが親指を立てて、
「ジェントルメンな態度を期待する」
「そうね……流石に相手が相手だものね」
それに続いてミリアがうんうんと何か異様に知った様な表情で頷く。夫婦の様な連携を見せてくるが、考えてみるとフレデリックはこの二人がどういった人間なのか詳しく知らない事を思い出していた。
さてこのままだとシンやらレオやらから面倒なヤジが飛んでくる。面倒だがやるしかないという気持ちでフレデリックは生まれたての小鹿の様に震える少女と目線が合う様にゆっくりとしゃがみこみ、
「―――おい。テメェどこから入ってきた」
状況は驚く程不明瞭だったので、ソルはひとまず状況確認の為にそう問いかけた。第一声としてはそう間違いではないはずだ。全員の一番の疑問を解決するには最適の一手である。
が、少女はフレデリックの渋面を見るや否や身を縮こませ、
「……ゴリラ」
ボソッと信じられない言葉を呟いた。これに誰かが「ぷっ」と思いっきり噴き出したのが聞こえた。間違いなくジャック・オーである。まさかゴリラ呼ばわりされるとは思いもせず、フレデリックはしばらくの間言葉を失っていた。
ゴリラ。ゴリラ。確かにかつて名残雪なるヴァンパイアに『力押しばかり』と揶揄された事はあったが、よもやゴリラとは。
突然の出現、そして突然の暴言。こめかみに青筋が浮かび上がろうかという程の感情がフレデリックを襲ったが、すぐに抑え込んでため息をつく。相手はまだ子供である。怒って何になるのか。
「もう一回言うぞクソガキ。テメェどこから入ってきた、どこの誰だ?」
「え、や、あの、私、ソラって言います。それでどこからって言われてもわからないです。私さっきまでコンビニにいたんですけど」
「コンビニだぁ……?」
随分と懐かしい響きの言葉が聞こえ、フレデリックは片方の眉を吊り上げた。今より百年以上前にあった古い時代にあった、日用品から飲食店まで大体揃っていた雑貨屋だ。法力が発達するついでに過去の機械文明が放棄された事で時代の流れに飲まれていったものだが、まさか見るからに十代の少女からその名を聞くとは思わなかった。
まさか、と疑惑を抱きながらフレデリックは少女に顔を近付ける。彼の強面に「ひぃぃん」と悲鳴が上がったが、気にも留めずに、
「おい、テメェのいた世界は『キヴォトス』か?」
「へ? 世界……? あの、キヴォトスなのは、そうです」
「―――ハッ、マジかよ。今度は向こうから来やがった」
フレデリックはソラと名乗った少女の言葉からは確信を抱いた。彼女が突然現れた理由、それはフレデリック達のいる世界から突然人が消えた事と同じ理由だ。
ジャック・オー達も同じ結論に至ったのだろう。ゆっくりと頷き、ソラへと視線を注ぐ。当の本人だけは何が何だかわからず視線をさまよわせ、
「だ、誰か、説明してもらえると嬉しいんですけどぉ」
「おい、もう一つ質問だ。テメェの知り合いに死ぬ程モヤシでジジィみてぇにカビ臭い野郎はいねぇか」
「え……あ、飛鳥先生のコトですかぁ?」
「その検索ワードでヒットするの、飛鳥君って凄いわよねなんていうか」
フレデリックの更なる質問に対してソラはまた完璧な返答をした。間違いない。彼女はあのワームホールを通じてキヴォトスからやってきた。でなければここまで自らが置かれている状況に困惑してはいないだろう。
遂に現れた異世界からの来訪者。第三連王ダレルが怖れていた、ファーストコンタクトがそのまま新しい戦争の幕開けという事にはならなさそうだ。
「飛鳥、先生? おい、ホントにあのモヤシ野郎がか?」
「も、モヤシっていうか細いというか今にも折れそうというか、そういう人です……」
「野郎、毎日何喰ってやがる」
「栄養ドリンクと、エナジーバー……」
「―――どこに行っても変わらねぇ野郎だ」
呆れ果てた声色でフレデリックはかぶりを振ると、ソラに手を差し伸べる。おっかなびっくりと言った様子で彼女が細い指で握り返せば、彼はサッと小柄な体を立ち上がらせてやった。
「ソラとか言ったな。テメェのいた世界について教えろ。それから飛鳥の野郎の話もだ。ホットチョコレートの一杯でもおごってやる」
「ちょっとー!? それ私のでしょー!? もー!!」
二つの世界が交わったその時、ファーストコンタクトは無事に終了した。これを皮切りにして異なる地平線に立つ人々は飛鳥=R=クロイツを起点に交わり、そして思わぬ交流を行う事となる。
―――すべては、来たるべき善意の集積点の為に。
〇
一方その頃。主を失った『エンジェル24』にて。
「ええと、それじゃあアルバイトの面接を始めるよ。僕は知ってのとおり飛鳥=R=クロイツ。そして君は……改めて名前を教えてくれるかな?」
「私は、サオリ。錠前サオリだ。よろしく頼む」
百合園セイアの語った未来は、少しずつ近付いてきていた。
さて、あのですね、その、予定がちょっと変わりました。
このままエデン条約3章に突っ込むのはこう皆さん、「そろそろトリニティ以外も見せろー」って気分だと思いますので予定を変更して、通過する予定だった『不忍ノ心』編に入りたいと思います。そんなに長くはなりません。
メインになるのはタイトルとは裏腹に飛鳥とサオリになります。というか百鬼夜行でデートします。その横をあの紙忍者が十傑集走りします。
現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?
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区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
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このままもう少し早く出して欲しい