先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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Chapter5 To be NINJA or Not to be NINJA
其之壱 アルバイト募集中


 『エンジェル24』シャーレ店がアルバイト募集中。理由は現在働いている店員が旅行中な為。(いつ帰るか不明)

 SNSに投稿されたこの報せはキヴォトスを震撼させた。ついでに一部の変人達も。

 これまで依頼目的でなければほぼ未開の地と言っても過言ではなかったシャーレに接近できるだけでなく、すぐそばで働ける。あまりにもアクの強い飛鳥=R=クロイツの面倒を見なければならないという異様に大きな付加価値も伴って、である。

 まずそこら中のそれなりに権力を持つ学校が浮足立った。ここであの奇妙極まる男に気に入ってもらい太いパイプを繋げようだとか、シャーレを裏から支配してやろうだとか、そういう邪な気持ちを持つ者達は履歴書と土産物とついでに拳銃を手に『エンジェル24』のアルバイト面接へと集結した。

 

「はい、不採用です。この履歴書、前歴を一部記載していませんね? 募集要項に書いてある様に前歴前科などは必ず記載しなければいけません」

「な、なにぃ!?!?」

「う、ウチらの小遣いがぁ!!」

 

 無論そんな展開になる事を予想しない飛鳥ではない。というか彼のお世話係を買って出ている生徒達ではない。

 まず早瀬ユウカが怒髪天を衝く勢いでシャーレに突撃し、飛鳥を三〇分程詰めた。一切の報告連絡相談が抜けていた事による凄まじい叱責に彼はバツが悪そうに天井を眺めたという。

 ともかく流れ始めた情報は止められない。万全を期して飛鳥の安全を守るべく、ユウカは『セミナー』が抱える最終兵器を用意した。殺到する生徒達の中から犯罪者を的確に見抜く鬼、冷静沈着、そして何より冷徹な生塩ノアを。

 

「生塩さん、彼女達はその」

「ええ、見るからに不良でした。ああいうのはもっと早くに弾きましょうね先生?」

「すみません……」

 

 ユウカは割と飛鳥に丸め込まれる。というより飛鳥がダメ人間な側面を見せると、何をどうしてか怒りよりも呆れを優先して結局許してしまう傾向にある。ノア曰く『ユウカちゃんは飛鳥先生みたいな人のお世話するのが大好きなんですよ』だそうだが、言われた飛鳥本人としては複雑な心境である。

 とはいえ、ノアが来てくれた事は心強かった。シャーレオフィスに作った仮設の面接ブースには長蛇の列。しかも様々な学区から集まったらしい怪しい生徒達が、それはもう多いのだ。

 

「では先生、次の方です……音瀬コタマさん? 先生、帰ってもらいましょうか」

「待って欲しい。いくらなんでも門前払いするというのも悪いし、話だけは聞こう」

 

 シンプルな作りの机、そしてこれでもかという程質素なパイプ椅子。よくもこれほどまでにそれっぽい雰囲気を作り上げたものである。

 シャーレのオフィス前の廊下に候補者達がずらりと並んでいるそうだが、よくも先頭争いで発砲事件が起きない。どうやら援軍で来てくれている『もう一人』のおかげらしい。

 

「では……音瀬さんどうぞ」

 

 渋々と言った様子でノアがブースの外に呼びかけると、ぬるっとした動きでミレニアムが誇るハッカー手段『ヴェリタス』の一員である音瀬コタマが入室した。

 このコタマという生徒、幾度となくシャーレに盗聴器を仕掛けようとする危険人物である。最終目標は飛鳥のASMR(詳細を聞いた飛鳥が『盆栽の枝を切る音』を動画サイトに流したところ炎上した)をキヴォトスにばらまく事だそうで、完全な人権違反である。

 

「ミレニアムサイエンススクール、音瀬コタマです。はい」

「……音瀬さん、志望動機を確認させていただいても?」

「あ、はい。先生のおんせ……お仕事に少しでもお力添えができないかと思い応募しました。シフトは週五でいけます」

「ちなみにこの会話は録音中ですか?」

「そのとお……いえ、してないです。はい」

 

 怪しすぎた。寛大な心で入室を許した飛鳥でさえもコタマの正直すぎる物言いに口元がむにゃむにゃし、ノアは笑みを浮かべたままで『言ったでしょう?』と圧をかけてくる。

 コタマ本人は今のやり取りで問題ないと思っているのか自信満々な様子で、

 

「ハッカーである能力も利用し、シャーレのセキュリティ面も保障しますよ」

「具体的にはどの様に?」

「私が持ってきたこのクマのぬいぐるみにはカメラと盗聴器が仕掛けられていて―――」

「おかえりください♪」

 

 この様にしてノアは流れる様に候補者達を切り捨てていく。涙で頬を濡らしながら帰る生徒の内、前科を持たぬ者のなんと少ない事か。大体何かしらの騒ぎを起こしたメンバーばかりである。

 わかってはいたが、飛鳥はソラという少女はキヴォトスの住民でありながら銃をすぐに撃たないし身代金だとか強盗だとか殺伐とした考えを持たない、本当に良い子であったのだなと痛感していた。

 

「先生? 応募者を少しふるいにかけていきますが……よろしいですか?」

「あ、はい、お願いします……」

 

 こうなればノアの言う事に従うしかない。というより彼女の言われた通りにしなければ大変な騒動になる。

 元凶である飛鳥本人はパイプ椅子にそっと腰かけ、居心地が悪そうに身を縮めるのだった。

 そしてノアの判断の下、書類選考の時点でかなりの生徒を落としていった上で、怒涛の勢いで問題児達がやってくる。

 

「次の方、砂狼シロコさん」

「ん、ここのコンビニは立地が良い。だから働きたい」

「立地と言うと?」

「近くの銀行から徒歩数百メートル。セキュリティが甘くて前から睨んでいた」

「おかえりください♪」

 

 一人。

 

「次の方、天童アリスさん」

「はい! サブクエスト攻略の為にやってきました! アリスは勇者ですがコンビニ店員へのジョブチェンジも可能です!」

「ワシもついてくるゾ! 雇エ! 集客率アップ!」

「あはは、ちなみにアリスちゃんはコンビニ店員ってどういうお仕事か理解していますか?」

「はい! やくそうを売ります!」

「あ~……ちゃんと確認していなかったワシが馬鹿だっタ」

「おかえりください♪♪」

 

 また一人。

 

「次の方、一之瀬アスナさん」

「ご主人様とお話しできる場所ってここ!? わーい来ちゃったご主人様!!!」

「おかえりください♪♪♪」

 

 更にまた一人。

 

「次の方、浦和ハナコさん」

「こんにちは飛鳥先生。はじめまして生塩さん♡ 実は常々『エンジェル24』の業績面が気になっていたんです。私、キヴォトスでナンバーワンの店舗にしたいと思って……計画書まで作ってきちゃいました」

「なるほど……? 具体的にどの様な方針で?」

「ピーーーーーッとピーーーーーッを店頭に配置して、更にピーーーーーッとピーーーーーッを大量に用意します。そして飛鳥先生に協力していただいて、『飛鳥=R=クロイツのピーーーーーッとピーーーーーッ』を増産体制に……」

「お か え り く だ さ い ♪」

 

 更に更にまた一人。

 

「次の方……剣先ツルギ、さん」

「イィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!」

「お、おかえりください……」

 

 切っても切っても変人達が駆け込んでくる。もはや飛鳥はそういった人物を引き寄せる誘蛾灯か何かなのだろう。このままでは到底ソラの代わりなど見つけられはしない。

 軽く五〇人は不採用となったところで、先にダウンしたのは飛鳥だ。大きな大きなため息をついた上でテーブルに突っ伏し、ノアに救いを求めるかの様にを手をひらひらさせた。

 

「申し訳ない生塩さん。こんな事になるとは」

「ふふふっ、私としては刺激的で面白いですよ。先生のそばにいると退屈しないという事で有名ですから」

「迷惑かけてばかりな気がするんだけど……」

「良いんですよ。先生はそういう方で、私はそんな先生が嫌いではないので」

 

 ノアはゴソゴソと懐に手を入れ、労いのつもりなのか大きな飴玉を飛鳥の手が届く位置に置いてくれる。心遣いに感謝しながら彼は飴玉の包みを剥がして口に運び、片方の頬を膨らませた。

 

「……いっそ、生塩さんが来てくれたら良いのに」

「それは残念ながら難しいかと。ほら、私『セミナー』の仕事が多くて」

「そうだと思った。むしろ来てもらって申し訳ない」

「もうっ。またそうやって謝っちゃう。先生の悪い癖ですよ……?」

 

 落ち込む飛鳥をノアが慰めつつも程よく指摘。まったくアルバイトの候補が決まっていないのだが空気はもうすべて終わった様なノリである。

 当然それを許さないのは、廊下で候補者達を抑え込んでいたもう一人の生徒だ。勢いよくブースの扉を開けると鬼面の如き形相で飛鳥をねめつけ、

 

「あの! 私!! ずっと外にいたんですけど!!! 風紀委員会の行政官であるこの私が!!!!」

「ああ、お疲れ様天雨さん。すまないね、色々大変だったと思う」

 

 わざわざゲヘナから助けに来てくれたのは意外にも天雨アコだった。曰く『シャーレはゲヘナにとって重要な組織。であれば隣接している店舗であろうと私からすれば管理の対象』との事だが、よりにもよって任された仕事は押し寄せる候補者達の整列だったわけである。

 鼻息荒いアコを手で制しつつ、飛鳥はこめかみに手を当てた。

 

「しかし、これだという生徒が中々見つからないな。皆腹に一物持っている感じが凄いというか、絶対トラブル起こしそうというか」

「そうですねぇ……飛鳥先生、問題児にばかり好かれるんですね。そう思いませんか天雨さん」

「ええ、まったくその通りです。台風の目という言葉さえ生ぬるいですよこの人には! なので私という人間が先生がトラブルでも起こさない様にこうして出張っているわけです」

「……ふふふ」

「なんですか、なんで笑うんですか?」

「いいえ、ウチのユウカちゃんにちょっと似てるなって」

「????」

 

 心底楽し気なノアにアコが心底困った顔で首を傾げている。ゲヘナと言えばその相方はトリニティというケースは多いが、ミレニアムの生徒とはなかなか新鮮な交流をしている。思わぬトラブルから発生した過酷極まる面接だが、生徒達のいつもと少し違う姿を見られたのは良い体験かもしれない。

 などと飛鳥が現実逃避したところで、候補者が見つからないまま外では陽が沈み始めている。これではずるずると店員不在のまま『エンジェル24』は休業状態になってしまうだろう。

 

「え、ちなみになんですけど天雨さんの事アコちゃんって呼んでも良いですか?」

「は? 急になんですかそれ、馴れ馴れしいですよ」

「まぁそう言わずに。私をノアって呼んでくれても構いませんので。ですよね、飛鳥先生?」

「なんで僕まで巻き込んでるんだ……?」

 

 気が抜けてしまったのかノアがアコに絡んで言い寄り始めていた。呼び方と言い、ちょっとイジりたい相手に認定したのだろう。あまり好ましくない対象である。恐らくその中に入っている可能性がある飛鳥も苦々しい顔で反応していた。

 

「―――もう、面接は終わってしまったのか?」

 

 と、ブースの空気そのものがだいぶ緩くなってきていたところにその声は聞こえてきた。三人が入口に視線を向けると、そこには長い髪を揺らして細身の生徒が立ち尽くしていた。

 飛鳥は思わず「あっ」と声を出し、椅子から立ち上がった。

 

「君は、サオリさんじゃないか。また会ったね」

「……ああ、そうだな」

 

 ゴールデンフリース号、そして227号温泉郷と度々出会っていた謎の生徒、サオリ。わかっているのは鍛え上げられた戦闘能力と、アルバイトに明け暮れている事だけ。正体不明も良いところなのだが、飛鳥としては命を救ってくれた恩人でもある。

 

「ええと、応募者の方ですか?」

「そうだ。『エンジェル24』の店員を募集している、と。見たところもうやっていないのか?」

「ああいや、少し休憩していただけだよ。どうぞ座って。天雨さんも一緒に」

 

 飛鳥は率先してサオリに向かい合う様に椅子へ座る様に促し、ついでにアコも同席させる。恐らく最後の候補者で、しかも見知った仲だ。採用にまで運んでしまいたい気持ちが彼にはあった。

 飛鳥、ノア、そしてアコの三人に対してサオリ一人。少々圧迫気味の絵面だが彼女の表情には緊張や焦りと言ったものは見られず、むしろ飛鳥の顔だけをじっと見つめていた。

 

「ええと、それじゃあアルバイトの面接を始めるよ。僕は知ってのとおり飛鳥=R=クロイツ。そして君は……改めて名前を教えてくれるかな?」

 

 まずは第一声から。口元を緩め、明るい口調で飛鳥はサオリに最初の質問を投げかける。ノアとアコは初対面になる。であれば自己紹介は必要だ。

 何よりこの謎に包まれた少女の事を少しでも知りたい、その気持ちが強かった。

 サオリは少し躊躇する素振りを見せた。名前をハッキリと言いたくない、そんな様子だった。

 

「私は……」

 

 表情に僅かな陰りが見える。どうしたんだろう、と飛鳥が眉をひそめ、ノアとアコは首を傾げて待つ。

 やがてサオリは逡巡しながらもゆっくりと口を開いた。

 

「私は、サオリ。錠前サオリだ。よろしく頼む」

 

―――その時飛鳥は、何かがカッチリとハマる感覚に襲われた。納得した、それが相応しい表現だろう。

 

『飛鳥先生。君はある生徒を庇って死ぬ。それは小鳥遊ホシノでも、空崎ヒナでもない。ケイオスの命令で君の命を狙っている……錠前サオリという少女だ』

『先生は自分の敵であるはずの生徒を守る為に、死ぬんだ』

 

(そうか。君がか……)

 

 脳裏にセイアの予言がよぎる。それが顔に出てしまうよりも前に飛鳥はハッとしてかぶりを振り、そして自分でもどうかと感じてしまう程に思いもよらない行動に出た。

 

「よし、採用だ」

「え!?」

「はいぃ!?!?」

「は―――?」

 

 まだ名前を聞いただけである。サオリがどこの誰なのか、何故応募してきたのか、最も重要と言っても良いそれらを完全に無視し、彼は錠前サオリを『エンジェル24』の臨時店員として雇う事を決めていた。

 

Chapter5『To be NINJA or Not to be NINJA』

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