先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
しばらくの間、飛鳥はとある学校に顔を出していなかった。その名は『百鬼夜行連合学院』。教え子の一人である久田イズナが所属する学校であり、そして飛鳥の知る『ジャパニーズ』に限りなく近い文化を持っている。
かつて百鬼夜行で行われる予定だったお祭りを舞台にちょっとした騒動があり、飛鳥はそこでお祭りを頓挫させようとする一派に雇われていたイズナと出会い親交を深めた。
忍者になる事が夢だった彼女に騙されているのだと説得し、無事に悪者を捕える事に成功したあの事件から数か月。今や忍者少女は百鬼夜行内のある部活に所属しているのだそうだ。
「そう、それこそが私達『忍術研究部』なのだぁ!」
「わ、わぁい」
「ニンニン! 主殿お久しぶりです!」
「うん、はい、元気で結構。爆竹をばらまきながら登場した事以外は歓迎するよ」
名前からして既に胡乱であるとは承知していたものの、昼下がりにスモークグレネードを投下する要領でシャーレオフィスに爆竹を投げ込んできた千鳥ミチル、その後に続いてきた大野ツクヨ、そしてイズナの三人は大見得を張って見せた。
もちろん飛鳥はといえばあまりにも突然すぎる襲撃―――もとい挨拶にひっくり返りかけ、何より驚きのあまり体を逸らした際に骨がパキポキと歪な音を鳴らしてしまっていた。
忍術研究部……名の通り、忍者を目指して活動を続けているそうだ。イズナ曰く『とっても楽しい』なのだが、暗雲立ち込めている。
「ふっふーん、はじめまして飛鳥せんせぇ。忍術研究部の部長のミチルだよ。よろしくね」
「どうして最初からそんな風に声をかけてくれなかったのか僕はそこが疑問だよ」
「こうして先生に会いに来たのはちょっとお願いがあって来たんだぁ」
「あれもしかして無視されているのかな……」
「お願い! 忍術研究部を助けて先生!」
会話のキャッチボールという言葉は古くから存在し、飛鳥はどちらかといえば苦手寄りの人間だった。恐らく今その最低値が更新されようとしている気がしないでもない。
ミチルは顔をくしゃっと歪め、椅子に腰かけぐったりとしている飛鳥の手を握り何やら熱く語り始めた。傍らのツクヨとイズナはその言葉を聞き逃すまいと拳を握りしめている始末だ。
「忍術研究部は今、ピンチ……! なんと言っても部としての認可が下りてない! ホントにピンチ! 認可の為には、他の部から推薦が必要なワケ!! でもね……」
「どこにも認めてもらえない、と」
「うう……」
この流れ、ミレニアムであったな。
そんな純粋な感想を胸に抱きながら飛鳥は口元に手をやり、
「悪いけど他の部に掛け合って欲しいというのは飲めないよ。他の部は皆同じ条件で認可されているんだ。僕の一声でそれが通ってしまう様じゃ、許可を下す『陰陽部』の生徒達を困らせてしまうし、何より公平とは言い難くなる」
「それは……その通り! 大丈夫。私達はちゃんと先生に頼り過ぎずに認めてもらうつもり! 実は『陰陽部』に認めてもらえるかもしれないチャンスが来たんだよ!」
ん、と飛鳥は眉をひそめ、そして数秒で頭の中で情報を整理する。自信満々な様子のミチルが言い出すからには何かしら突拍子もない考えで聞いたものが「おいおい」と思うに違いない。
まだ出会って間もないが飛鳥は既にミチルという生徒の性格は理解し始めていた。間違いなく才羽モモイの親戚か何かで、トラブルメーカーになりうる才覚を持っている。
思案の果てに答えを見つけ、飛鳥はまさに「おいおい」と言いたげな表情を浮かべた。
「ああ凄い嫌な流れになってきた。先読みするよ。今度ゲヘナが百鬼夜行と交流会を行う事になっている。その目玉は伝統的な公演『和楽姫』。恐らくいつもよりも気合が入っているであろう交流会の場で活躍して一旗揚げたい……そんなところだろう?」
「グワーッ!? な、なんで知ってるのぉ!?」
「流石主殿……心を読めるのですね!?
「す、凄い―――!」
顔を真っ赤にして慌てふためくミチルと感激する残り二人に少しばかり呆れながら飛鳥はかぶりを振り、
「今大きなニュースになっているからよく知っているよ。エデン条約が待ち受けている大事な時期だというのに突然交流会の話をゲヘナが持ち出したとね。イメージアップを狙っているのだろうけど……少しばかり勢いが良すぎる。何かトラブルが起きないかとは僕も気にしていたよ」
「うんうん、そうだよね! そうだよね! もちろんトラブルは起きない方が良いと思うけど……ね!?」
「やれやれ……目を向けられないのなら、自分から視界に入ってみせるという事か」
アイデアとしては豪快そのものである。一歩間違えると犯罪者になりかねない行動力で、果たして成功したとして認可をもらえるのかどうか甚だ疑問だ。恐らく叱られて終わりだとは思うのだが、キラキラと光るミチルの目にはどれだけ諫めても諦めない色がある。というより下手に放逐すると何をしでかすかわかったものではない。
トラブルの元を一つ懐に収めておけると考えれば、最悪のケースは避けられるだろうが……
「あ、主殿ぉ……」
「なにとぞ……」
ここで困った事に飛鳥に救いを求める視線が二つ。イズナとツクヨである。捨てられた犬が向ける様な懇願の目は少しばかり気まずく、つい視線を逸らしてしまっていた。
そうそう安請け合いするものではない。それはもちろん承知の上であるが、仮にもイズナの夢を後押しした張本人である。ここで突き放すのは大人として不適切であろう。
仕方ない、と飛鳥は咳払いと共に、
「わかった。今回は僕の負け。実は陰陽部から交流会当日のセキュリティチェックを依頼されていてね。百鬼夜行の生徒に力を借りたいところだったんだ……君達に助手を頼んでも良いかな」
「へぇっ!? い、良いのせんせぇ!? 頼んだ側から言うのもなんだけどそういうの大丈夫なのぉ!?」
「どちらかといえば大丈夫じゃないんだけど……筋は通すよ。僕はあくまで君達を連れていくだけ。ちゃんと手伝ってくれたら、頼み込んでみるよ」
「主殿、主殿~!」
たまらず飛びついてきたのはイズナだ。勢いよくギュッと飛鳥に抱き着き、喜びでいっぱいの表情を浮かべている。少しばかり勢いをつけすぎて体の骨が嫌な軋みを鳴らしているものの、好意を無駄にはできないのが先生だ。
「あ、ありがとうございます、飛鳥先生……本当に……!」
飛鳥が見下ろせる程の長身であるツクヨも口元を綻ばせ、泣きそうな顔で飛鳥にペコペコ頭を下げてくる。大丈夫だから、と手で制するものの止めてくれる様子はない。
そして最後にミチルは、
「よっしゃー! こうなったら交流会でぱーふぇくとな忍者をお見せして百鬼夜行の人気ナンバーワン部活動目指すべし! ついでに『少女忍法帖ミチルっち』の登録者増やすぞぉ~~!」
「了承するべきではなかったかもしれない……」
そろそろいい加減にキヴォトスの生徒達にも耐性がついてきたかと思っていたのだが、どうやら深淵とでも呼ぶべき具合に個性的な生徒達がまだ揃っている様だ。ある意味興味は尽きない。
とほほ、と飛鳥が天井を仰いでいたところで、緩んでいた空気を正さんとミチルはギュッと唇を真一文字に結び、ビシッと指を組み合わせた奇妙な構えを取る。これを見たツクヨとイズナは「シュバババ」と効果音を自分の口で発しながら部長の元へ集まり、同じく構えた。
「よし、ツクヨ、イズナ! 私達の主はこれより飛鳥先生だよっ。三人でシャーレと、あと交流会の治安を守る! ワッショイ!」
「は、はい!」
「ニンニン! 主殿のお傍で必ずやこのイズナ、責務を全うします!!」
『さぁ先生! 忍術研究部にご指示をぉ!』
三人揃って何か、恐らく、ある種の宣誓じみた事をしている様なのだが……話の流れが理解できない飛鳥は信じられないものを見る様な顔でボーっと眺めてしまう。
見かねたミチルは口を尖らせ、
「せんせ、ほら何か命令して」
「えっ、あっ、これ僕も入ってる流れなのか……」
わけもわからないまま、飛鳥はとりあえず三人にならって出鱈目に指を組み合わせて構え、
「ええと……交流会を無事に終わらせてね……?」
『御意!!!』
「ふへへへ、これ一回やってみたかったんだよね、ふへへへへ」
「なんだかすごく、忍者って感じですね……!!」
「イズナ感激です。ホントに!!」
ああ、これ本当に大丈夫なのかなぁ。
はしゃぐ三人を見つめる飛鳥の瞳は暗く、ある種この世の終わりを見つめているかの様だった。
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区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
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このままもう少し早く出して欲しい