先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
飛鳥がマコトに捕まってしまい、内密の話をするべく部屋に連れ込まれていた時とまったく同じタイミング。
忍術研究部の三人は『和楽姫』において最も重要なポジションを担う『姫』と舞台袖にて対面していた。
姫というには少し幼くて、というより幼過ぎて、ついでにゲヘナの制服を着た少女とである。
「わーい! イブキお姫様やるー!」
「あ、あれぇ……どなたぁ?」
「イブキねー、マコト先輩にお姫様やって欲しいって頼まれたんだー!」
開演までまもなくという中でスタッフに連れられてやってきたのはなんと『万魔殿』のイブキである。
まさに寝耳に水という奴で、ゲヘナの生徒であるイブキが急遽交流会の目玉と言っても良い行事の大事なポジションを任されたのである。
会場内警備を担当する事になっていたミチル達三人からすれば目を丸くしても仕方がない展開であり、一人ウキウキなイブキを前にそれはもう『どういう事?』という困惑を隠せずにいた。
「ん? お姉ちゃん達どうしたのー?」
「ちょ、ちょい待ってね!」
三人は示し合わせた様に円陣を組み、顔を突き合わせる。
「―――で、何がどうなってるかわかる?」
「イズナに聞かれても何が何だかです! はい!」
ミチルの不安そうな声に快活にイズナが答える。
「ええと、確か陰陽部のチセさんが本来姫役なんですよね? それが変わってしまったという事で良いんでしょうか? となるともしも何かあったら百鬼夜行に責任が……はわわ」
「マコト先輩って呼んでましたが、もしかしなくてもあのマコトだよね? ゲヘナの……はわわ」
自分で口にしながら事態がそれなりにややこしい事を実感し始めているのはツクヨである。彼女の補足によってミチルの頭にそれはもうサーっと嫌な考えが浮かんでいく。
あのゲヘナとの交流会で警備を任されていた生徒がミスを犯してしまいトラブル発生……そんな事になれば目も当てられない。というよりもはや終わりである。
折角飛鳥に取り次いでもらい警備担当に組み込んでもらったというのに、よもやこんな急展開など想像できまい。
「……ええい、兎にも角にも忍術研究部が一旗揚げる大チャンス! 頑張るよ二人共! ええとイブキ……さん!」
考えても詮無き事。悩んでいても話は進まない。ミチル達は身を翻し、イブキへと向き直る。別段そこまで気合を入れる必要はないのだが、勢い任せに彼女は自己紹介へ動き出していた。
「わ、私達はぁ……忍術研究部! なんていうかその……イズナ後はお願い!」
「はい! なんといっても忍者なのです! ツクヨ殿!」
「ふぇ!? ええと、さ、最強?です……! お姫様であるイブキちゃんを守ります?」
まさか幼い少女相手に及び腰になるわけにもいかないので、三人はとりあえずいつも通りのノリでの自己紹介を試みる。そもそもこの行動自体が少々危なっかしいものなのだが、それを気にする余裕はあまりなかった。
そしてイブキはと言えば目を丸くした後にだんだんと表情をほころばせ、
「わー! ニンジャー?ってよくわかんないけどかっこいー!」
「ホント? カッコいいホント?」
「ホントホントー! イブキ、ニンジャに守ってもらえる~!」
どうやら今の怪しいにも程がある自己紹介にもある程度効果はあったらしい。ほっと胸を撫で下ろし、ひとまず信頼を勝ち取れた事に安堵しながらミチルはイブキに目線を合わせるべくしゃがみこむ。
ゲヘナにこんな生徒がいるとは知らなかった為に当初は驚いたものだが、顔を見れば自分よりずっと小さい子供だ。一体どんな目的で姫役に選ばれたのかは定かではないが、なんとも大変な立場である。
(先生殿も言ってたけど、政治って言うのは大変そうだなぁ……)
「ニンジャニンジャ!」と楽しそうに連呼するイブキに口元を緩ませ、ミチルは少しいい気分になってわざとらしく指を組み合わせて忍法の構えを取る。
「お任せあれ……そなたは必ずや我ら忍術研究部が守ってしんぜよう……!」
「イズナもいます! ニンニン!」
「ツ、ツクヨもです」
「わーい! お願いするでござるー!」
公演は果たして上手くいくだろうか、という三人の不安も無邪気なイブキのおかげで僅かに和らぐ。ただでさえ重要な交流会なのだ。成功して欲しいのはもちろんの事だが、ゲヘナの生徒にもお祭りの空気を楽しんでもらいたいものである。
そういうわけで四人がきゃいきゃいと話し合っていたところで、ドタバタとスタッフの駆け回る音が大きくなってきた。
「まもなく開演となります! 皆さん所定の位置に!」
「あっ、イブキの出番が来る! いってくるねー」
遂に始まる。あのゲヘナを相手どっての交流会が。流石にミチル達も気を引き締め、唇をきゅっと真一文字に結んでイブキへと向き直る。
『ファイトー!』
「はーい! じゃあね~!」
そうしてイブキはスタッフに連れられて舞台へと向かっていく。その背中をミチル達は手を振って見送り……直後に、何かが切れる音と共に辺り一帯が突然闇に包まれた。
『えっ!?』
停電だ、と理解すると共にミチルは思わず駆け出していた。虫の知らせとでも言うべきだろう。何かに背中を押される様にイブキがいたはずの位置まで駆け出していた。
「部長? どうかされましたか?」
「いや、なんか嫌な予感がする!」
あまりにもタイミングが良すぎる。そうミチルは感じていた。忍術研究部などという珍妙な部に所属しているが伊達にキヴォトスの生徒ではない。何かしらのトラブル、ないしは物騒な出来事を感じ取るカンでも呼ぶべきものがあるのだ。
そしてそんなカンに従って舞台袖から飛び出していき、
「イブキちゃーん!」
「ニンジャのお姉ちゃんっ、わーん! 真っ暗―!」
「停電したみたい。そこを動かないでね!」
イブキの年では急な停電などびっくりでは済まない。泣いてしまうだろう、そんな風に考えてミチルが闇の中て探りで近付いていたその時、突然停電が復旧し視界が開けた。
「―――ん、こいつ、預かるぜ」
開けた視界の中心、舞台上に大人の男が立っている。その脇にイブキを抱えて。
男は狼の様な鋭い雰囲気を纏っていた。ギロリと鋭い視線をミチルへと向け、体は石になった様に動かなかった。
彼の足元には銃を携えたお面姿の生徒達が五人程転がっており、全員意識を失っている様子だ。
「へ……?」
誰なのか、と口にするまでもない。男は停電の闇に紛れ、あろう事かイブキを誘拐しに来たのだ。
助けなくては、そう思うよりも先に男はミチルに背を向ける。
「曲者~!」
ミチルの横をひゅっと人影が通り過ぎる。イズナだ。男の姿を認めるや否や迷わずに得物のライフルを構え飛び掛かっていた。流石という他にない反射速度だったが、まるでその動きを読んでいたかの様に男の姿が掻き消える。残像を残す程の速度で避けた、そう表現する他にない。
「うぎゃっ!」
攻撃を避けられたイズナが床に倒れ込むのをよそにイブキを抱えた男はどこ吹く風だ。この場にいる者達全員遅るるに足らず、そんな意思が全身から溢れている。
「な、なんだあいつは!?」
「侵入者か!?」
明るくなった舞台上で起きた突然の事態に観客席で準備していたスタッフ達が声を荒げながら近付いてくる。多勢に無勢で押し込めるか、などとミチルがようやく動き出そうかという時、男は鼻で笑い飛ばした。
「じゃあな。ニヤニヤ教授によろしく言っとけ」
次の瞬間、残像を残して姿を消してしまった。
〇
「―――ふむ。なるほど、彼は突然丹花さんを攫ってしまったわけか」
「これまずいよね先生殿!? ホントにまずいよね!?」
「ああ、まずいね。凄くまずい。だから……今こうなっている」
作戦会議用に用意された個室。事件現場に居合わせたミチル達からの報告を聞き、飛鳥は重苦しいため息をつきながら携帯端末を取り出して忍術研究部の生徒達へと画面を見せる。
百鬼夜行の街並みを疾走する男が一人、その肩にはイブキが跨っていた。
『さぁ! 遂に始まりました『和楽姫』特別企画。突如現れた謎の忍者から姫を救いだせー!』
「運営の陰陽部は今回の誘拐事件をひとまずそういうイベントという事で片付けている。ゲヘナの側にもなんとか誤魔化している現状だ。つまり、今のところ政治的問題にはなっていないという事」
「今のところって事は……長引けば長引く程危ないっていう事ですよね?」
ツクヨが恐る恐る手を挙げて尋ねると飛鳥は首肯を返し、
「そういう事になる。どの道危険な状態だ。あの謎の忍者……チップから丹花さんを取り戻さないといけない。忍術研究部の皆には僕と一緒に実働部隊として動いてもらいたい。彼を捕まえるのは難しいが、今は君達が頼りだ」
「……責任重大、過ぎない?」
「主殿ぉ……本当にイズナ達にできるのでしょうか?」
体を震わせながら呟いたのはミチルとイズナである。緊急事態に次ぐ緊急事態は、当初のお祭りムードなど消え失せてしまい今や百鬼夜行存亡の危機だ。まさか自分達が状況を打開する為に動く事になるとは想像もできなかっただろう。
事実、忍術研究部に任せて良いものかと言われれば厳しい。飛鳥自身、少しばかり渋い表情であるが……
「―――最悪の場合、僕がなんとかするよ。でも対外的に見ればシャーレが動かざるを得なかったと受け取られる。だから今回は生徒である君達に解決してもらいたいんだ」
「う、うう、忍術研究部の危機どころじゃなぁい……」
「でもですよ部長。もしもイブキちゃんを助け出せれば、忍術研究部の活動も認めてもらえるかもしれません!」
「それに……お、お姫様を守るのって私達忍者の使命、です」
顔面が真っ青なミチルをイズナとツクヨがギュッと拳を握って元気づける。部長という立場ではあるものの、この三人は普段から互いに励まし合って努力しているのだろう。微笑ましいとは思うが、今はその時ではない。
コホン、と飛鳥は咳払いし、
「ともかく……今は君達を信じる。交流会を成功させる為にも、何より攫われた丹花さんの為にも」
ひとまずそれで区切り、飛鳥は真剣な眼差しでミチルを見つめる。こうなれば根負けである。彼女は眉毛をハの字に歪め、心底辛そうな面持ちながらも二人の部員を両脇に、
「ひぃぃぃ……ええいままよ、こうなったらやるぞ忍術研究部!」
「はい! イズナもイブキ殿奪還の為に全力を尽くしますー!!!」
「頑張りましょうっ……!」
「よぉし! 先生殿、それじゃあ私達は先に動くよ! あの変な忍者もどきを捕まえてやる!!」
「すぐに追いつく。頼んだよ」
もはやヤケクソに近い勢いで忍術研究部は立ち上がると、ドタドタと足音を響かせながら部屋を飛び出していった。今は彼女達が最後の希望と言っても差し支えない。非常に心許ないが。
さて追いつく、と言いながら飛鳥はすぐには動き出さない。ゆっくりと立ち上がると、一度廊下を出て他に誰もいないかを確認した上ではす向かいの部屋へと移った。扉を開け、そっと室内に入り込む。
「錠前さん、『ニヤニヤ教授』の様子はどうかな?」
「何の事やら、だそうだ」
室内には剣呑な眼差しのサオリと、先程のミチルよりも真っ青な顔色の生徒が一人椅子に腰かけている。さながら尋問の空気である。
百鬼夜行を統べる『陰陽部』の部長にして今回の交流会を企画した天地ニヤは、やってきた飛鳥に気付くと糸目を震わせて口をモゴモゴと動かした。
「あ、あいやぁ、飛鳥先生、あはは。こちらの怖い方はどなたで?」
「紹介するよ。彼女は錠前さん、僕の助手として来てもらっている。さて天地さんには今から幾つか質問があるんだ。良いかな?」
「し、質問ですかぁ? それよりも今凄く大変そうですからそっちの方を優先されてはいかがでしょぉ……」
「うん、僕もそうしたいところなんだけど気になる事があってね」
部屋の隅に置かれていた椅子を持ってきて飛鳥はニヤと向かい合う様に腰を下ろし、まず最初に柔らかな笑みを浮かべた。
「錠前さんがね、停電の時舞台裏を見回りしていたんだ。その時怪しい生徒達を目撃して取り押さえてくれた。そして誘拐事件が起きた舞台上でも同じ服装の生徒が確認されている……そんな彼女達は祭り過激派の『魑魅一座』らしいじゃないか。話を聞いてみると『ニヤニヤ教授』と名乗る者から姫を攫う様に指示を受けた、と。警備の網を抜ける方法まで細かく教えられたそうだ」
「それと私に何か関係が……」
「次いで、ゲヘナの羽沼さんに聞いてみると姫の役が急遽丹花に代わったのは君からの提案があったとか」
「あ~、そ、そういえばそんな事あったかも」
「突然の変更、示し合わせた様な襲撃……果たして誘拐を計画した『ニヤニヤ教授』とは何者なんだろうね。僕が思うに百鬼夜行側の人間だと思うんだ」
「先生、顔が怖いですよ? ほらもっと楽しい表情で……」
飛鳥の顔は確かに柔和な表情を浮かべている。が、能面の様に固まっている。まさに張り付けた様な表情である。傍らに立つサオリは無言で懐から拳銃を引き抜き、わざとらしく弾丸が装填されているか確かめる素振りを見せる。
ニヤの額にじわりと汗が滲む。今告げられた内容が何を意味しているのか、彼女自身が教えてくれていた。
「天地さん。提案があるんだけど」
「なんでしょう……」
「僕にすべて話すか、今話した内容を僕がゲヘナに話すか、どっちがいい?」
「………………すべて、お話します。でも、でもですよ一個だけ。あの忍者だけは本当に知りません、本当にどこの誰なのかこちらが聞きたいくらいで!」
飛鳥の表情は渋い。椅子から立ち上がると再び携帯端末を取り出し、祭りの中継を覗く。
屋根の上を走るチップ=ザナフと、彼に肩車されてはしゃいでいるイブキの姿が映っている。どうやら彼は何かしらの目的を持って今の行動に出ている様だ。
(話が通じる相手なら良いんだけど)
〇
「わーいわーい! すっごくはやーい!」
「だーもう! お前な、もうちょっと静かにしろよな。一応誘拐されてんだぞ誘拐。もっとこうタスケテー!とか言え」
「? でも忍者のおじさんはイブキの事、助けてくれたんでしょ?」
「おじ……!?!?!?!?」
「ねーねーあっちでお団子売ってるよー! イブキ、マコト先輩からお小遣いもらってるから忍者のおじさんにもあげるねー!」
「チクショウ、自分が嫌になってきた」
現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?
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区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
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このままもう少し早く出して欲しい