先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
忍者、百鬼夜行を駆ける。肩には少女を乗せて。
「見ろイロハ! イブキが出ている! キキキ、やはり陰陽部の者からの誘いは良いものだったな。あのイブキが姫をやるだけでなく配信にも登場している!」
「えぇそうですね……あの変な忍者の方が気になりますけど」
その様子を上空のドローンは生中継し、キヴォトス中に向けて配信している。だが一部の人間を除き、今姫を演ずるイブキが謎の人物に誘拐され連れ回されている最中などとは気付いていない。いや気付いてしまっては困る。もし気付いたとあればまさに戦争の火種になりかねないのだ。
果たしてイブキを攫った男は何者なのか? その名はチップ=ザナフ。飛鳥=R=クロイツと同じ世界よりやってきた自称大統領(国そのものは国連からは未承認)。
異世界キヴォトスヘとやってきた彼が取った行動は驚くべき事に、万魔殿のイブキを誘拐する事だった。そしてそんな彼が今まさに取ろうとしている行動は……!
「悪い、団子二本くれ」
「わーい! お団子〜!」
「あーっと……お前抹茶は飲めるか? ジャパニーズマッチャ」
「マッチャ〜?」
「……こっちにはジュースでも頼む」
偶然立ち寄った喫茶店『百夜堂』にてどっかり腰掛け、呑気に団子と飲み物を注文していた。一応追われている身のはずなのだが、この男の持つ余裕は並々ならぬものだ。
さて攫われた当事者であるイブキは怖がる事も驚く事もない、これまた呑気にチップの向かい側に座って手足をパタパタと振っている。
「お待たせしました〜。お団子が二本に、お茶とオレンジジュースでございますっ。誘拐役もお姫様役もお疲れ様です! 頑張ってくださいね、にゃんにゃん❤︎」
「おう」
「ありがと〜、にゃんにゃーん!」
いそいそとやってきた店員はニッコリ笑顔をチップに向けながら団子を乗せた皿をサッとテーブルに置いていく。
チップは今自分の姿が中継されている事を知っている。そして今の所一般人達には自分が飛び入り参加した不審者だとバレていない事も。
堂々と喫茶店で一息ついている一番の理由はそこにある。自分が置かれている状況を利用し、堂々とチップは居座っていた。しばらくすれば自分達を探す追手が駆けつけるだろうが、それまではあくまでも祭りの参加者として振舞えばよいのだ。
「お団子いただきます!」
「串で口ン中刺すなよな? ったく」
「むぐむぐ、お団子美味しい。ありがとう忍者のおじさん」
「おじさんじゃねえっての……しかしまぁお前もよくビビらないよな? 誘拐されたんだぜ誘拐」
呆れた様子のチップにイブキは口の周りを団子のタレで汚しながら、
「ユーカイ? でもユーカイ犯ってこんな風にお団子食べさせてくれるの? おじさん良い人なのわかるよー?」
「huh……そうかよ。呑気なんだかタフなんだかわかんねー奴。そして俺はおじさんじゃねえ。チップって名前がちゃんとあんだ。わかったか?」
「もぐもぐ、ごくんっ。わかった! 褒めてくれてありがとチップ! イブキの名前は~」
「イブキな。ダイミョウジンって感じの響きで俺は好きだぜ。って、おい、口拭けよ汚ぇぞ」
とてもではないが誘拐した側とされた側の会話ではない。というよりイブキに至っては自分が攫われたのだと気付いていないまである。器が大きいと言うべきなのか、単に状況を把握できていないのか。
さておき問題はチップである。一体何故誘拐など行ったのか、呑気に団子を咀嚼する姿から読み取る事はできない。だがふと何かを感じ取ったのか一気に食べ終えると店の入口に目を向けた。
「とぁーっ! 観念しろ不審者―!」
示し合わせた様なタイミングで飛び込んできたのは三人の少女。チップからイブキを連れ戻すべく追いかけてきた忍術研究部の三人である。チップは「なんだありゃ」と口の端を歪めると椅子から立ち上がる。
「あ、ニンジャのお姉ちゃん達だ!」
「知り合いなのか?」
「うん! カッコいいんだよー!」
「ニンジャ、ね」
チップはもしや、と僅かな期待を寄せながら追手である少女達と向かい合う。全員やる気に満ちた顔だがまだ十代の少女、あどけなさが残っている。
対してチップは自然体そのもの。ゆったりとした動きでテーブルから離れると、不安げな顔で両者を見つめている喫茶店の店員に「心配すんな」と声をかけながら、
「よぉ、来たな? 悪いがこのガキは渡さねぇぜ」
「そうもいきません! イズナ達がイブキ殿を連れ戻します!」
威勢が良い少女が一人、イズナはびしっとポーズを決めてチップを睨みつける。一触即発の空気に店内がにわかに騒ぎ出したところで彼は「待て」と手で制し、
「ここじゃあ騒がしくなる。直に騒がしい連中も出てくるから外でやろうぜ。逃げも隠れもしねぇよ」
「誘拐犯の言い分なんて信用できない~……!」
「そうです……!」
むむむ、と額に皺を寄せるのはミチルとツクヨだ。目の前で逃げられた彼女達からすれば信用ならないというのは当然である。と、チップはそんな彼女達の出で立ちを眺め興味深そうに目を細めた。
うっすらと原型を留めている程度だが、服装はどこか忍者装束のそれに近い。イブキが『ニンジャ』と言うからには、恐らく……。
「まぁ落ち着けよ。お前らも忍者の端くれなら、派手にやるのはご法度。not so goodだろ」
「……むむ、忍者?」
「部長、言われてみるとこの方の格好、忍者に凄く似ている様に感じます!」
「もしかして、この人も忍者希望……?」
予想通りの様な、そうでない様な展開へと転がり始めた。チップがそれとなく話題を切り出してみたところイズナとツクヨの目が警戒半分、興味半分に切り替わりつつあるのだ。これにはミチルも少し驚き、何事かと部員達に視線を投げかける。
ここだ、とチップは微笑み、
「ふっふっふ、お前らの予想通りだ。俺は忍者、それも本物の忍者だ。見たところそっちはエセ忍者ってところか?」
「え、エセ!? 言わせておけばこの誘拐犯……! 私達は『忍術研究部』! ちゃんと忍者なんだぞ~!」
「よぉしそうと来れば勝負と行こうじゃねぇか。お前らと俺、どっちが優れた忍者なのか! イブキついてこい」
「わーい! 忍者対決だ~!」
「あ、ちょっと待ってよー! 逃げるなー!」
どよめく客達を尻目にチップはイブキを肩に背負い、店外へと飛び出す。もちろんミチル達もそれに続いた。
『百夜堂』を前にして両者は向かい合う。不思議な事に逃げ出す大チャンスだったというのにチップは律儀にイブキを一度下ろし、ミチル達と本気で勝負をする姿勢を見せていた。
「なんだなんだ何事だ!」
「忍者対決するらしいぞ……!」
「流石百鬼夜行! 見世物も面白そうだ!」
騒ぎを聞きつけた人々が百夜堂前に集まりつつある。まもなくドローンも駆けつけ、突如始まった対決はそれなりの規模になろうとしていた。一対三、しかも忍者。事情を知らない側からすればワクワクしないはずがないキーワードである。
さてチップは余裕綽々で三人へと拳を突き出し、おもむろに指を三本立てる。
「忍術研究部とか言ったな? お前らひよっこにはハンデをやるよ。三つ数えたら一斉に殴りかかってきな。一発でも当てられたらイブキは返してやる」
「ぬぁ!? 調子に乗って……! 後で言い訳しても聞かないかんね!」
「お手合わせ願います! 謎の忍者殿!」
「イブキちゃんは返してもらいます……!」
「どっちの忍者も頑張って~!!」
イブキの声援を背に受けながらチップはゆっくりと指を折り始める。
「一つ、二つ、そんで……三つ」
『覚悟!』
一糸乱れぬ動きで忍術研究部はチップへと飛び掛かる。一見して頼りない印象を抱かせた三人らしからぬ洗練された攻撃は流石キヴォトスの人間である。
イズナは三人の中でも最も素早く動き、チップの足元へと飛び込む。
ミチルはイズナが先に動くと知っていた上でチップの胴体へと突撃する。
そしてツクヨはその身長を活かし真正面からチップの頭上から襲い掛かる。
上中下全て隙のない三段攻撃……しかし!
「Too slow!!」
最大の誤算は彼女達よりもチップの速度は更に上を行くという事。イズナがギリギリで捉えようかというところで彼の姿は掻き消え、三人はそのまま虚空を掴み地面に倒れ込んでしまっていた。
「うわ!?」
「ふにゅ!?」
「ひゃあっ!」
一撃を与えるどころか完全に先手を取った上で躱されてしまったミチル達の背後、チップは涼しい顔で腕を組んでいる。しかもいつの間にやら肩にはつい先程まで観戦していたイブキの姿まであった。
顔から落ちた為に少々赤い頬をさすりながらミチルは振り返り、そしてチップの姿を見るや否や目を見開き驚きのあまり口をぽっかりと開けて唖然としていた。
「見えなかったし速かった……もしかして、ホントのホントに忍者!?」
「さぁどうだろうな? 忍者対決一回目は俺の勝ち。イブキは渡さねぇぜ」
「えー! もう一回ニンジャ対決見たーい!」
「それは俺じゃなくてこいつらに言え。おいお前、名前は?」
口を尖らせ不満げなイブキを諫めるチップに名を聞かれ、ミチルは悔しさのあまり唇をギュッと噛み締め、
「み、ミチル。千鳥ミチル」
「よしミチル。次会う時にはもう少しマシな忍者になっとけ。そこの二人もな。一つアドバイスをやるとしたら……お前ら、まだまだだぜ。じゃあな!」
思わせぶりな言葉を残し、チップはまたも一瞬にして姿を消してしまった。文字通り影も形もない。瞬間移動じみた速度である。
「凄いな忍者対決! 見えなかったぞ!」
「第二回はどこでやるのか気になってきた……」
何も知らない人々は今の対決をイベントとして捉え、まだ開催予定らしいなどと口にしながら立ち去っていく。残されたのは敗北した忍術研究部の三人のみ。悔しい事に今の様子は上空のドローンがしっかり映している。
ミチルはサッと立ち上がり、そして拳をギュッと握りしめた。イズナとツクヨは部長である彼女がどんな表情を浮かべているのか窺い知れず、唾を飲む。
「イズナ、ツクヨ……あの誘拐犯、本物の忍者みたい」
「はい……イズナ、一生の不覚」
「凄い速さでした……」
忍者として未熟であると思い知らされただけではなくイブキも連れ去られた。その口惜しさにイズナとツクヨは顔をくしゃっと歪めた。
が、ミチルはと言えば勢いよく振り返ると、眩い程の満面の笑みを浮かべ、
「むっっっちゃカッコよかったと思わない!? 本物の忍者だよ本物の忍者!!」
「……そう、ですね。そうですね!? 言われてみればまるで風の様な動きでした、こうぴゅーって!」
「音もなく動き、しかも影の如く速い……私達の憧れる忍者に、そっくりです!」
予想されていた答えは「負けて悔しい」だろう。だが忍者を心から愛する事で有名な三人は「あの不審者、凄い忍者!」という感動の気持ちが勝ってしまっていた。
「イズナ、悔しいですが同時にワクワクします! あの忍者殿に勝ちたいです!」
「誘拐犯なのはそうですけど、なんだか私も同じ気持ちです」
「よーし……イブキちゃんも取り戻すし、あの不審者に私達の忍術見せつけてやるぞー!」
次なる忍者対決に向けて―――まず目的はそこではないのだが―――忍術研究部は思わぬモチベーションを手に入れた事で勇み足でチップの後を追うべく走り出すのだった。
〇
一方その頃、ニヤからの『事情聴取』を終えた飛鳥とサオリは。
「おい、何をしている。姫を取り戻しに行くんだろう」
「ちょっと、待ってほしい錠前さん。走るの速いよ。僕、死にそう」
「まだ一〇〇メートルも走っていない。軟弱な事を言うな」
「いや、軟弱なんだよ僕は……お願いだからもう少し待って……」
「じれったい。それなら背負っていくとしよう、置いていくわけにもいかん」
「え!? いや流石にそれは僕としても、って待って錠前さんそれは流石に大人として恥ずかし、わあっ!?」
「安心しろ。ちゃんと体は固定する。よし、準備完了だ」
「そういう問題ではな、ぐあっ!?」
「舌を噛むなよ。行くぞ」
貧弱な飛鳥を拘束し背負ったサオリは凄まじい速度で走り出し、百鬼夜行を駆けるのだった。
現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?
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区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
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このままもう少し早く出して欲しい