先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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お待たせしすぎて天地がひっくり返る。そして全然話が長くなってる!
十までには終わらせる!十までには終わらせるしついでにあと三話急ぐ!!


其之七 飛鳥とサオリ

「はぁ……ウチの先生と来たら、百鬼夜行に呼ばれたのは別に良いけれど少しくらい仕事を残して行って欲しいかも」

 

 仕事を放り投げているならば、となんともおかしな物言いをするのはミレニアムが誇る算術使い早瀬ユウカである。初期より飛鳥と付き合いがある彼女からすれば、誰もいないシャーレで時間を潰そうにも仕事らしい仕事が一切ない。

 以前はもう少し飛鳥は書類整理や面倒な事務作業を残しており、ユウカに投げ込んでいた。だが最近になって彼は何かに駆られる様に仕事を処理し始め、下手をすると生徒達に一切手を煩わせない様にしている。以前よりも生徒達と少し距離を置いている、そんな感覚がユウカの中にはあった。

 

「……あのニュースのせいかな」

 

 キヴォトスに大怪獣現る、という生中継があった。正体不明の怪物―――一説では怨念の籠った不気味なペロロ人形とされている―――が突如として現れ街を破壊するという珍事があった。その際に対処したのが飛鳥で……そして彼はクロノススクールが中継する中で不可思議な現象を引き起こし、怪物を撃退してみせた。

 まさに超常現象という他になく、そして人間一人が引き起こせる事象でもなかった。それ故にキヴォトスはかなり沸き立ったし、しばらくシャーレに真偽を確かめようと集まる者達もいた。

 飛鳥本人は詰め寄ってきた生徒達に一貫して、

 

『エデン条約の日にすべてを話す』

 

 と伝えており、決してそれ以上を語らなかった。自ら説明責任を放棄しているという批判も湧いたが、本当に飛鳥自身は来たるエデン条約の日に情報を開示するつもりらしい。

 それなりに問題となりしばらくは大きなトピックスになっていたが、今は徐々に沈静化しつつある。おかしな事は言い出すが嘘をつく事は滅多にないが故の説得力だろう。

 とはいえ、シャーレ活動開始時から飛鳥を知る者としては少しくらい何か漏らしてくれても良いだろうに、というのがユウカのわがままな気持ちである。

 

「もうっ、相変わらず何考えてるかわからない人……ん、ノアから連絡」

 

 いつも飛鳥が腰かけている椅子に座り、暇なのもあってくるくると回転していたところでユウカの端末に同じセミナーの仲間であるノアよりモモトークのメッセージが飛んできた。

 開いてみると『ユウカちゃん見てこれ』という一文と共に動画サイトのリンクが添付されている。一体何事かとリンクをタップすると、『百鬼夜行特別イベント 和楽姫生中継』というタイトルだ。確か飛鳥が百鬼夜行に出向く事になったのはこのイベントを手伝う為だと聞いていたが……

 

「ん? はっ? 何これ!」

 

 あのゲヘナと交流会を行うという事で普段よりも催しが盛大になっているという話は聞いていたが、再生されている映像には思いもよらない光景が流れていた。

 

『さぁ今回のイベント飛び入り参戦、あのシャーレの飛鳥先生! 正体不明の生徒に背負われて爆走中です!』

 

 一体全体どういう経緯なのか理解しかねるが、飛鳥は帽子をかぶった生徒にリュックの様に背負われた状態で百鬼夜行の街並みを駆け抜けている。体をガクガクと左右に揺らされて顔面蒼白になっている絵面はもはや人として扱ってもらえていない領域に達していた。

 ユウカはただただ呆れてしまい、あんぐりと口を開けていた。初めて会った時の様に謎めいた雰囲気を取り戻しつつあった飛鳥が、再び珍妙な世界に舞い降りてきているのだ。

 

「……ていうか、あの子は誰よ!?」

 

 

『さぁ頑張ってください飛鳥先生! 目指すは姫の奪還です!』

「天地ニヤ、と言ったか。調子の良い奴だ。本当に良いのか飛鳥=R=クロイツ。彼女を野放しにするなんて」

「い、良いんだアレで。どの道今の状況で彼女を責めたところで何も解決しないからねっ、あうっがふっ、ところで錠前さんもう少し速度落としてぇっ、えぐっ」

「ダメだ。先頭に追い付くにはこの速度で走り続けなければ追いつけない。どの道、お前の脚力ではもっと遅くなる」

「それは、そうなんだけどおっ」

 

 イブキを攫ったチップを追いかける忍術研究部を更に追いかけるは飛鳥……ではなく彼を即席で作り上げたロープで背中に縛り付けた錠前サオリである。彼女の判断は早かった。飛鳥が耐えられるかどうかを一切度外視してあくまでも荷物として扱う決断をしたのだ。

 事実激しい運動に未だ適応できない飛鳥としては背負ってもらえるのは助かる。死ぬ程体を左右に振られて死にそうになる事を除けば。

 

「あっ、あぐっ、棗さんから電話だ」

 

 振り回されながらも携帯端末を取り出した飛鳥は通話を繋ぐ。今のところ現状を細かく把握している唯一のゲヘナ生徒へ。

 

『先生、イロハです。こちらの方で中継を追いかけていますが、あの忍者は『百夜堂』で休憩した後また動き出しましたよ。あの忍術研究部なる面子はまた逃がした様です』

「なるほどっ、ありがとう。羽沼さんの様子は?」

『ぜんっぜん気付いてないですね。いつも通りです。なので急いでくださいね』

「う、うん、約束するよっ」

 

 通話を切り、飛鳥はふぅとため息をつく。誘拐直後にゲヘナ生徒の中でイロハのみがイブキは誘拐されたと気付き、コンタクトを取ってきたのだ。流石はマコトの右腕である。

 彼女としても百鬼夜行とゲヘナの全面戦争になりかねない今の事態は穏便に済ませたいとの事で、マコトの注意を程々に逸らしてくれている状況だ。とはいえ流石のマコトも時間が経てば違和感を覚え始めるだろう。それまでにチップを捕えなければ。

 

「どうしてゲヘナの長に誘拐の事実を話さなかった。百鬼夜行の人間がふざけた理由で姫役の誘拐を目論んでいたなど、早い内に伝えればゲヘナの力を借りてもっと早く解決できるはずだ」

「でもそうしたら、羽沼さんは凄く怒る。そしてゲヘナと百鬼夜行は大変な関係になるし……このお祭りだって滅茶苦茶になってしまう」

「それで内密に解決しようと言うのか?」

「ダメかな……イベントという事にして事を荒立てないのが一番だと思うんだけど」

 

 飛鳥が困り気に眉をハの字に歪めながら言うと、サオリは呆れた様子でかぶりを振った。

 

「愚かだ。エデン条約が控えていると言うのに交流会だのにうつつを抜かすゲヘナも、周囲への影響を考えずに妙な企みを考えたあの天地ニヤも……浅はかな連中ばかりだ」

「……ゲヘナは嫌いかい?」

 

 サオリの声色に僅かではあるが熱が込められてきていたところで飛鳥は問いかける。初めてマコトに出会った時、彼女は露骨に会話する事を嫌がっていた。マコトが、というよりもゲヘナの生徒そのものに対する忌避が滲み出ていたと言える。それ故に投げかけずにはいられない質問だ。

 今まで努めて隠していた自分を出してしまっていたと気付いたサオリはハッとした様子だったが、苦々しい表情を浮かべ、

 

「嫌い、などという言葉では表現できない。私にとっては奴らのすべてが受け入れられない。天地ニヤもそうだ」

「前々から気になっていたけれど錠前さんは苦しい境遇に立たされているのかな。でなければ、今みたいな顔はしないよ」

「……ただ、すべては虚しいと思うだけだ。支配したいという欲も、他人を操りたいという欲も、何もかもすべて虚しいだけだ。何よりそんな連中の平和をわざわざ守ろうとするお前にも、同じ事を考えている」

「―――なるほど。背景は読めないがニヒリズムなのはわかった。君の根底にあるのはそれか」

 

 何やら納得した声色で飛鳥はうんうんと頷き、

 

「僕はそういった哲学的信条はあまり持たない人間だ。典型的な科学信者だからね。でもそんな僕に言わせてみると……虚しくはないと思っているよ」

「何故だ? 知っているぞ。シャーレに舞い込む依頼がろくでもないものばかりである事を。あの忍術研究部とかいう連中もそうだ。誰も彼も……」

「僕はそれが当然のものであって欲しいと思っている。だってそうだろう? 毎日が命の危機だなんてそんなの大変すぎる。多少くだらないものであった方が良いんじゃないかな……ああ、もちろん誘拐計画は怒るけど」

「―――飛鳥=R=クロイツ。お前は何を目指している? 欲にまみれ、刹那に生きる連中から便利に扱われる事の何が良い?」

 

 サオリの言葉には更に熱が籠る。彼女が何者なのかよりも、彼女が何に苦しんでいるのかが飛鳥にはじわじわと読み取れる様になってきていた。

 

「僕は先生だ。だからまぁ、多少は便利屋として頑張りたい。何せ僕の夢は、世界平和だからね。世界平和の為にも君達生徒の悩みを聞くのは当然だろう?」

「世界―――平和?」

「そう。だから、錠前さんにも困った事や悩みがあれば言って欲しい。君がどこの誰なのかを教えてくれなくても、先生として僕は助ける。ろくでもない依頼を君が当たり前の様に僕に投げてくれる様にしたい」

 

 それが飛鳥=R=クロイツという男の信条だった。いずれ時が来れば彼はエデン条約の場に立ち、すべてを話すつもりである。自らが罪人であり、そして罪人であるからこそキヴォトスの為に自分のすべてを投げ打つ覚悟であると。

 果たしてサオリにその気持ちは通じたのか、彼女は深く口を閉ざしてそれ以上を語ろうとはしない。言い方が良くなかったのかなと飛鳥は不安を抱き、話を逸らせないかと街並みに視線を走らせ、『百夜堂』の看板を発見した。

 

「あっ、錠前さんストップ。あそこで休もう。走りっぱなしじゃ喉が渇くだろう」

「本気か? 私達は追跡中なんだぞ。そんな無駄は……」

「僕からのアドバイス。虚しいだとか無駄だとかよりも、余裕を持っていこう。心配しないで、ね?」

「―――どうなっても知らないぞ私は」

 

 現在進行形で遅れを取り戻さなければいけない状況であるが、敢えて飛鳥はサオリに足を止める様に促す。もちろんチップを追いかけなければいけないし忍術研究部にそれを任せておいてはいけない事もわかっている。

 ただ、今ここでサオリと少しだけ話をする事に意味があるのではないかと彼は踏んでいた。ここでなければ、何か取りこぼしてしまうという論理的な直感に駆られて。

 

「あっ、飛鳥先生! 『百夜堂』にようこそ! にゃんにゃんっ♡」

「その、えーっと、あの……に、にゃんにゃん。ええと、錠前さんも」

「―――断る」

「うん、だよね」

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  • 区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
  • このままもう少し早く出して欲しい
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