先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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我超絶体調不良。
ガチで死にかけていたので時間かかりました。許して。


其之八 忍者の試練

「あっ見てよあれ! さっきの忍者達じゃないのー?」

「おー本当だ、忍者忍者」

 

 駆け続ければその声は嫌と言う程聞こえてきた。大々的に今回の交流会が中継されている事で、忍者研究部はイベントの一つとして何も知らない一般人達から注目の的だ。

 もちろん誰も『和楽姫』が誘拐犯との追跡劇になってしまっているなど知る由もない。下手をすればゲヘナからの侵略を受けかねない状況である事も。

 とはいえ、とはいえである。時には状況を利用する事も大切である。道行く人達は交流会を純粋に楽しんでいる観光客である以上は……アトラクションの一環である『忍術研究部』として対応するのが正解ではないだろうか。

 

「その通り! 我々こそは百鬼夜行が誇る隠密部隊!」

「え、えっと、闇に紛れ、時に影として忍ぶは我らにあり……?」

「百鬼夜行の平和はイズナ達『忍術研究部』が守るのです! ニンニン!」

 

『わ~! なんだか知らないけどそれっぽい~!』

 

 大仰な仕草でも場の雰囲気というものは強い効果を持つ。時折ミチル達がファンサービスの如く声援に応えればその度に歓声が上がっていた。しかもこの模様は動画サイトで中継されていると来たのだから、『忍術研究部』をアピールするにはもってこいだ。

 

「なんていうか、あの忍者の方と一戦交えてから凄い盛り上がりになっていますね!」

「すっごい偉そうだけど、宣伝には完ぺきだったよあれ! すっごい偉そうなのだけはムカつくけど~!」

「確か名前はチップ殿と言っていましたけど……もしや本当に本物の忍者なのでしょうか~!?」

 

 状況は一刻を争い、更に言うと少しのミスも許されない限界状態にある。だが忍者を目指す三人は自分達を取り巻く状況に少なからずワクワクを覚えずにはいられなかった。特にミチルは。

 

(チャンスだ……私達の部活を認めてもらえる大チャンス! このままイブキちゃんを取り戻せれば、私達は一躍ヒーローになれる!)

「よっしゃ~! 行くよ二人共、次こそはあの忍者に勝ーつ!」

「お~! と言いたいところなのですが、イズナちょっとだけ部長に質問しても良いですか?」

「ん? 何?」

「チップ殿は初めて会った時に、『ニヤニヤ教授によろしく』とか言っておりました。主殿が調べているとお聞きしましたが、ニヤニヤ教授がどなたなのか、結局まだわかっておりません!」

「言われてみれば確かに……なんというか、チップさんは怖い顔をしていますけど、悪い人には見えない気がしました」

「ん~!?」

 

 突然イズナが何か言い出し、ミチルは当初眉を吊り上げて何の事やらと首を傾げていた。が、ツクヨが補足を加える事でだんだんと『確かに』という気持ちが腹の底から湧き上がり始め、すぐに二人と同じ『何故?』とモヤモヤした疑問が生まれた。

 振り返れば、最初から何やら様子がおかしかった。チップが乱入した時には正体不明の生徒が何人か倒れていたが、彼女達はニヤニヤ教授と関係があるのだろうか……?

 街中を駆け回りながら悶々とする気持ちを抱え込むわけにもいかない。思い立ったミチルは携帯を取り出し、今回の作戦を指揮する飛鳥へと電話する事にした。

 

『あ、千鳥さん? 今配信はこちらからでも見ているよ。チップはどんどん遠ざかっている様だ』

「先生殿、あのさ、ニヤニヤ教授の事、何かわかった?」

『ああ、その事だね。調べはついたよ。なんでも、キヴォトスでも有数の『犯罪コンサルタント』だそうだ。要するに犯罪の計画を練ったらそれをお金で売って、自分は決して動かない。いわゆる安楽椅子という奴だ。恐らく……舞台で倒れていた生徒達はその人物の息がかかっていた。目標は丹花さんかな』

「へ、へぇ~……すっごいヤバそうなんだけど、それじゃあの変な忍者がそのニヤニヤ教授の名前出した理由わかった?」

『そこなんだ。あくまで僕の想像なんだけど、チップは丹花さんをニヤニヤ教授から守ったんじゃないかな?』

 

 守った。つまりあの正体不明の生徒達はニヤニヤ教授と関係しており、チップは悪者からイブキを守ったという事なのだろうか。

 

「主殿主殿、ではチップ殿はイズナ達から逃げなくてもよいのではないでしょうか! 正義の忍者だと思うのですが!」

『うん、久田さんの言う通り。想像通りだとすればチップは僕達からわざわざ逃げ続ける理由がわからない。最大の疑問だ。となるとまぁ、本人に聞くしかない。継続して追跡してほしい』

「ん、わかった! まっかせといて!!」

 

 つまるところ、チップを追いかける事に違いはない。ミチルは足を速めて彼が走り去っていった方向を目指す。

 目的地は罠、仕掛け、なんでもござれでスリル満点と言われる忍者屋敷だ。

 忍者対忍者、その決着は忍者屋敷にて……ムードとしては完璧である。派手に見せつければ世間からの評価もうなぎのぼり間違いなしである。

 

(やってやるぞ……目指せ正式な部活!)

 

 ミチルは焦っていた。必ず成し遂げてみせる、『忍術研究部』を認めさせてやる、その一心だった。

 

 

 目的地に到着するまではそう時間はかからなかった。忍者屋敷の正面に立ち、ミチル達三人は立派な建物を見上げる。一様に険しい顔つき、命を賭けて挑んでやろう、そんな気持ちに見えた。

 

「うん、そんなに気張らない方が良いと思う」

「あっ、先生殿。間に合ったんだ? え、ていうか何その状態。なんで背負われてるの」

「色々あるんだ、色々」

 

 腕組み状態で佇んでいた三人を諫めるのは遅れてやってきた飛鳥である。サオリに背負われた状態で到着したその姿には疑問しか浮かばないのだが、サオリ本人は口を閉ざして語ろうとはしない。聞くな、もしくは聞いてどうするという面持ちである。

 

「チップは確かにここに逃げ込んだ様だ。もちろん丹花さんも一緒。ただ話通りならここは罠だらけらしいね? 気をつけて行こうか?」

「ううん、先生殿そんなの心配いらないよ。何と言っても私達は忍者だからね、えっへん。任せといてよ!」

 

 飛鳥がおっかなびっくりという様子で尋ねると、ミチルは自信満々にかぶりを振って応える。街中で声援を受けてきたおかげか、随分と気は大きくなっている。とはいえイズナも同じ様子で、ツクヨもほんの少し恥ずかし気に頬を染め、満更でもない様子だ。

 その様子を飛鳥が少々不安げな表情で見つめていたところで、

 

「Huh、忍者だ? ジョークとしちゃ面白くねぇな」

 

 颯爽と、空から舞い降りるかの様に着地したのはチップである。音もなく現れ堂々とした佇まいで構えてみせる彼に一同は目を剥いて驚き、飛鳥を除き全員が身構えていた。

 本来ならば多勢に無勢とでも言うべき状況であるが、チップの表情には焦り一つない。余裕な顔で人差し指を立てると左右に振り、

 

「俺に追いつけねぇようじゃ、忍者としちゃまだまだだと思うけどな」

「言わせておけばこの~! もう一度勝負だ勝負、今度は負けな―――」

「千鳥さん、彼と話をさせて欲しい。良いかな?」

 

 サオリに背負われた姿勢で飛鳥はミチルを制し、チップへと向き……向き直ろうにも背負われているおかげで正対できない。気まずそうにため息をついてから、

 

「あの、錠前さんごめん。後ろ向いてもらえるかな」

「ん……」

 

 拒否されるかと思いきやサオリは渋々と言った顔で踵を返し、飛鳥は改めてチップと顔を向き合わせる。

 彼が何を目的にイブキを誘拐したのか、その理由をここで確かめたい。どんなものであれ説明もせずに勝手に動かれては困る、というのが本音である。

 見たところチップのそばにイブキはいない。どこかに隠れているのか。

 

「チップ=ザナフ。丹花さんは今どこに?」

「ここから少し離れたところに匿ってる。誰にも見つけられやしねぇ」

「どうして彼女を誘拐したのか聞いても良いかい?」

「―――そうだな。あのガキがくだらねぇ政に巻き込まれそうだったからってのはどうだ?」

 

 チップは赤い目をギロリと光らせる。この場にいる者達にではなく、今回の事件で黒幕になる予定だった少女に向けての敵意が漲っている。

 飛鳥は既にすべて把握している。今回の交流会において、天地ニヤが『ニヤニヤ教授』と騙って不良生徒を操りイブキを誘拐させようとした事を。そして今チップ本人の口から、謎の忍者は少女一人を救い出そうとしていたのだと発覚した。

 

「マツリゴト……?」

「イブキを使ってバカな事しようとしてた奴がいた。で、俺はそれが気に食わなかったんで邪魔した。それだけだ」

「それなら君の目的はもう完了しているだろう。丹花さんを返して欲しい」

「……俺も最初はテキトーなところで切り上げるつもりだったが、少しばかりそこの忍者娘達に興味が湧いてきてな」

 

 そこで予想外にもチップの目はミチル達三人に向けられていた。これにはミチルはハッとし、イズナは目を輝かせ、ツクヨは自分を指差して驚きに口をつぐんだ。

 何か嫌な予感がし、飛鳥はサオリに視線を投げかける。一体何をどうしようかというのはさておき事態が嫌な方向に進展しているという確信があり、何かあれば動ける様にしてほしいという訴えである。

 チップはこほん、と咳払いをし、

 

「お前ら、ホントのホントに忍者目指してンのか?」

「もちろん……!」

「そうかそうか。だったらこうしようじゃねぇか。予定通り『和楽姫』はこのまま進行する。変わらず俺は誘拐役、そんでお前らも追いかける役。で、だ……前回と同じく俺に指一本でも触れたらおとなしくイブキは返してやるよ」

「つまり、忍者対決第二弾という事ですね!?」

「それなら今度こそ負けません……!」

 

 やはりというべきか、チップはミチル達に対して関心を寄せ始めていた。ニヤニヤ教授に関する事件は一応沈静化したが、改めてチップ=ザナフという乱入者は交流会を大変な状況に追いやろうとしている。

 これはなんとしても大惨事が起きる前にこの場を収める必要がある。動く時が来たか、と飛鳥はチップを止めるべく『本』の準備を始めるが……

 

「うし、じゃあ決まりだ。舞台はこの忍者屋敷。奥で待ってるぜ」

 

 自信満々に頷いたチップは飛鳥が何かするよりも先にその姿を消してしまっていた。足の速さなどというレベルではないのだが、今更具体的な方法を聞く状況ではあるまい。兎にも角にも追跡の必要がある。

 

「まずい。錠前さん、追いかけなくちゃ」

「任せてよ先生殿ー! 逃がすかぁ~!!」

 

 消えたチップを追いかけるべき駆け出したのはミチルだ。弾かれる様に動き出し、素早い身のこなしで忍者屋敷へと突入していってしまう。チップからの挑発がよほど効いたのか、イズナとツクヨにも目もくれずに動きだし、入口の扉を押し開くと突撃していった。

 意外にもこれに反応したのは無言を貫いていたサオリだ。

 

「……屋敷内には罠が多数配置されていると見た。彼女を斥候に使い、最奥部を目指すぞ。私が予想するに落とし穴、仕込み矢、吊り天井か」

「えっ、何か今スイッチが入っている感じなのかな……」

 

 ミチルを追うべくサオリも足早に駆け出した。以前から優秀な戦闘能力を持っているあたり素人ではないとわかっていたが、彼女の口ぶりは作戦や軍事行動に慣れている人間の物言いだ。

 奇しくもそれは、アリウス学院から転校してきたという白洲アズサに近しいものがあった。

 飛鳥を背負いサオリは颯爽とミチルの後を追いかけ、開かれた扉から忍者屋敷へと突入する。

 そして……

 

「ごめん先生殿、落とし穴踏んだ!!!」

「えっ!?」

「ちぃっ―――!!!」

 

 突入して僅か数十秒。長い廊下は突如牙を剥き、床が音を立てて開く。

 落とし穴は一瞬にしてミチル、サオリ、そして飛鳥を飲み込んでしまうのだった。

 

現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?

  • 区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
  • このままもう少し早く出して欲しい
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