先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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あけましておめでとうございまFuck。
遅くなって申し訳ないです。Fuck。
がんばります。


其之九 夢を叶える為に

「幸いな事があったとすれば、錠前さんがちゃんと僕を庇ってくれた事にある。着地の際に受け身を取ろうとしてくれたね。ありがとう」

「……すまない。警戒を怠っていたのは私だ」

「わぁ、わぁナニコレ先生殿~!? あっ、不思議な力ってこんななんだ!?」

 

 ふぅ、とため息をつく飛鳥と共にサオリとミチルは落とし穴をゆっくりと降りていく。彼が発動した法術により落下速度は大きく低下し、滑らかに三人は地面に着地する事に成功した。

 今回の事件で遂に『本』が開かれたわけだが、逃げるチップではなくあくまで転落を避ける為という選択をした事には理由がある。飛鳥は傷一つなく着地したおかげで傷一つなく、それでいて自身が体験した不思議な現象に目を剥いて驚いているミチルへと視線を投げかけ、

 

「大丈夫かい千鳥さん。怪我はないね?」

「え? う、うん、ないよどこにも。ありがとう先生殿……」

「お礼は良いよ。ただ僕としては、さっきのは少し勢いが良すぎたかなと思う。恩着せがましい言い方になるけど、僕がいなかったら危なかった」

「でも、でもさ……あの忍者を追いかけないと」

「私が言える立場ではないが、アレは明確な挑発だった。落とし穴だったから良いものの地雷でも仕掛けられていたらひとたまりもなかったぞ」

 

 ミチルはチップにいざなわれる様に忍者屋敷へと突入してしまい、結果として落とし穴にハマってしまった。もしもアレがもっと悪い状況だったとすれば更に酷い結末になっていた可能性は大きい。あまり口を開こうとしていなかったサオリにも苦言を呈されてしまい、ミチルはむっと口をつぐむ。

 これまで飛鳥は遠巻きにミチルを観察していたが、交流会を巡る彼女の姿勢は全体的に焦っている様に感じられる。息まいている、と言えば聞こえは良いが……イズナとツクヨを置いて動き出してしまうのは不安だった。

 

「千鳥さん、確かに僕はチップを捕まえて欲しいとは言ったけど焦り過ぎだよ。それじゃあ……」

 

「それじゃ、忍者とは言えねぇよな?」

 

 毎度毎度人が話している時に乱入するのは彼の性格なのだろうか、それともわざとなのだろうか。飛鳥は少し困った顔で声が聞こえてきた方向に振り返る。

 落とし穴の最下層は暗い渡り廊下だ。うっすらとだが左右に曲がり角があり、恐らく迷路の様になっているのだろう。そしてその分岐点にチップは佇んでいた。呆れが浮かんだ面持ちでは彼はかぶりを振り、ミチルへと人差し指を剣の様に突き付けた。

 

「おい、ミチル。お前こうなるってわかんなかったか?」

「わ、わかってたよ!」

「だったらなんで馬鹿正直にハマった。俺から言わせりゃ……飛んで火にいるサマーインセクトだ。忍者たるもの常にクールでなきゃいけねぇ。マインド滅却。フレイムもウォーターの如し、だ」

 

 真剣そのものな顔でチップはよくわからない言葉を口走ったが、それを指摘できる空気ではない。口をつぐみ飛鳥はミチルの様子を窺う。サオリは既に臨戦態勢を取っており、今すぐにでも忍者へと飛び掛かろうかという勢いだ。

 ぐっとミチルは何かを堪えた様子だった。拳を握り締め、チップに言い返してやろうと口をモゴモゴとさせている。助け船を出すべきかと飛鳥が踏み込むよりも先に、白髪の忍者はかぶりを振る。

 

「ハッキリ言っとくぜ。さっきのは忍者じゃねぇ。調子に乗った子供のやる事だ。わかるだろ?」

「子供のやる事……!」

「先輩忍者としてアドバイスだ。このままじゃお前は忍者になんかなれやしねぇ。ああいや、お前一人じゃ……だな。おい『センセイ』」

 

 そこでチップは今一度飛鳥へと視線を投げる。深紅の双眸にじっと睨まれ、襲われるんじゃないかと言う不安に思わずごくりと唾を飲んだ。

 

「大層な肩書なんだ。話の一つや二つ聞いてやれ。そうすりゃ、なんで忍者になれねぇのかわかる」

「君が自分で話すという手は?」

「俺ぁ誘拐役だぜ? わざわざ手を貸す理由がねぇよ、じゃあな」

 

 もう何度目かの瞬間移動。チップはまたも視界から消え、どこかへと行ってしまった。不慣れな忍者屋敷の中では闇雲に追いかけたところで見つける事はできないだろう。いつ攻撃しようかという面持ちだったサオリも流石に慣れたのか、飛鳥にかぶりを振った。

 

「ダメだ。追跡はできない」

「大丈夫、ありがとう。それよりも……彼が言う様に少し話を聞いた方がよさそうだね、千鳥さん」

 

 飛鳥が声をかけるまでミチルは口を尖らせたままで立ち尽くしていた。チップからの言葉がよほどショックだった様子で、今にも泣きだしてしまいそうな表情である。

 どうしたものかと考え、何か座れるものがないかと周囲をぐるりと見まわす。薄暗い室内では見えるものもない。仕方ない、と飛鳥はその場に腰を下ろす事にした。もちろんクッションも何もなく、いずれ尻が痛くなるだろう。

 

「千鳥さん、座って欲しい。立ったままでは話にならない。ほら錠前さんも」

「……ん」

「良いのか? 時間が惜しいぞ」

「ここで彼女と話す事の方が先生として重要だと思うんだ」

 

 またおかしな事を言っている、そんな面持ちでサオリは渋々飛鳥の隣に座り込む。最後にミチルが落ち込みきってしわしわ状態のまま、崩れ落ちるかの様に座った。

 

「さて……さっきはああ言われてしまったわけだけど、大丈夫かい? あまり気にしない方が良いと思うけど」

「でも私、あの変な忍者に全然勝ててない。それどころか言い返したくても言い返せない……ああもう、悔しい! もう〜!!」

 

 腹が立って仕方ない様子でミチルは地面を叩き、重くため息をついた。やがてそれは肩に入っていた力を抜き取っていき、彼女をしぼませた。

 

「こんなんじゃ、忍術研究部が認めてもらえない」

「……そんなに大切なのかい、部活として認めてもらえる事が」

 

 飛鳥はポツリと尋ねた。初めて会った時点では深く聞く事がなかった理由を今このタイミングで、切り込む様に問いかける。

 これにミチルはぎゅっと口を結び、

 

「だって……そうしなきゃ私達の事認めてもらえないじゃん。先生殿はさ、忍者目指すなんて言ってる子いたらどう思う?」

「そうだね、客観的に言えば具体的な活動や最終的な目標、部活としての成果を求めてしまうかな」

「そうでしょ。でも部活として認めてもらえたら、陰陽部の人達に認めてもらえたら……そんなの気にしなくて良いじゃん?」

「待て。それが理由だというのか? そんな事が理由でシャーレを頼ったと? なんて、くだらない理由で」

 

 思わずそう口に出してしまったのはサオリだった。心底理解できないという面持ちで顔を歪め、ミチルを咎める様な視線を投げかける。

 棘のある言葉を言われたミチルはきゅっと唇を噛み締め、逃げる様に視線を逸らした。

 

「くだらないよ確かに。でも私にとっては……忍術研究部にとっては大切なの。ツクヨはね、私から声をかけて入部してもらった。イズナは忍者になりたいって気持ちでウチに来てくれた。二人共私を信じて、部長として慕ってくれたんだよ? そんな子達が忍者なんて変だとか言われて欲しくないんだもん……!」

「だが」

「じゃあそっちにはないの? 自分が年上だからだとか、部長だからとか責任感じた事!」

「っ……」

 

 サオリはミチルの反論に対して、飛鳥の予想を外れて押し黙った。今の内容に何か思い当たる節があったのか視線が迷い、苦々しい表情を浮かべている。

 確か、彼女には三人の仲間がいた。身元がわからない少女達が。恐らくは、同じアリウスの生徒なのだろう。そしてきっと錠前サオリはあの三人に対して強い感情を抱いているのだろう、ミチルの様に。

 飛鳥はサオリの反応を見逃さず、それでいてミチルから視線を逸らしはしない。冷静な声色で努め、

 

「それじゃあ確認したい。君が目指しているのは忍術研究部が認めてもらう事なのか、それとも……忍者を目指す事を笑われたくないのか、どっちかな」

「……それはもちろん、笑われたくない。忍者って何?とか、忍術研究部って?とか言われたくない」

「ふむ―――じゃあ、面白い話をしてあげよう。ミレニアムにね、『勇者』を目指す生徒がいるって言ったら信じるかい?」

「勇者??」

「勇者……?」

 

 ミチルも、聞くだけに徹しようとしていたサオリも飛鳥の思わぬ言葉に首を傾げる。飛鳥は「そうなるよね」と苦笑しつつ、

 

「そのままだよ。自分は選ばれし剣を持つ勇者で、魔王を倒す事が目的だっていつも言ってる。隣にはいつも妖精ポジションの生首もいる……どう思う?」

「ど、どうって言われてもちょっとぶっ飛びすぎてて困るかも」

「僕も最初は驚いた。でもね、前にも本気でそうしたいと思っている生徒がいたからすぐに慣れたんだ。その生徒が誰かと言えば、久田さんだった」

「えっ……イズナ?」

「本人からちゃんと聞いてないかな? 僕らの事」

 

 飛鳥がまだシャーレの活動を開始して間もない時期、百鬼夜行からの初依頼で不良生徒達からお祭りを守る事になった。その際に事情を知らず利用されていたのがイズナであり、そして騒動の中で誤解を解く事で彼女は本当にやるべき事を理解して味方になってくれた。

 あの時イズナと出会い、そして触れ合う事で飛鳥は生徒達の持つ夢、願いと言うものを理解できたと言っても良い。でなければ天童アリスの勇者になる、という目的を飲みこめなかっただろう。

 

「あれから久田さんはシャーレに顔を出す度に忍術研究部の事を話してくれたよ。自分の夢を追いかけられる場所で、先輩もいて……本当に楽しいと」

「それならさ、なおさら部活として認めてもらわないとっ」

「もちろんそれは大事だ。でも久田さんが気にするとしたら場所の問題ではなくて、忍者になるという夢を追いかける君や大野さんの方だと思う。場所、概念なんてものはひどくあやふやだ。確かなものがあるとすれば、それはきっと他人との関わりだ。そこに君が責任感を抱く必要なんてない」

「私やツクヨとの、関わり」

 

 飛鳥はそれなりに理解できているつもりだ。いくら場所があろうともそこに人がいなければ意味はない。忍術研究部において最も重要なのは部として認めてもらうかよりも、もっと根本的な部分にあるはずだ。

 そしてチップはそこを見抜いた。ミチルが功を焦っている事に誰よりも先に気付き、それでは自分には敵わないと言い切った。

 では先生として飛鳥が取るべき選択は、改めてミチルに確認する事にある。

 

「質問を変えて、もう一度聞こう。千鳥さんの目的は部として認めてもらう事? それとも……忍者として、攫われた丹花さんを助けてみせる事?」

「あ……そうだ、私、約束したんだ。守るってあの子に言ったんだった!」

「答えを聞こう。その内容で、シャーレは君を全力でサポートするよ」

 

 重要なのは明確な目的意識にある。それに気付けなければどの道忍術研究部の未来は暗い。今ここで、ミチル自身が自分のするべき事をハッキリ理解する必要がある。

 部を守ろうとする気持ちは大事だ。仲間との大切な場所なのだから。そしてその為に必死になる事も間違いではない。けれど何よりも忘れてはいけない事は……自分が何の為に場所を作ったのかにある。

 

「―――うん、わかった先生殿。私は忍者になる、忍者になりたい。好きだから! そしてこんなへっぽこ忍者を信じてくれたイブキちゃんを助けに行く! 兎にも角にも今はそれが大事!!」

 

―――イズナの夢は忍者になる事です! ニンニン!

―――アリスは勇者になります! ここに妖精ロボカイもいます!

 

 飛鳥はつい口の端を緩め、微笑んでいた。

 

「わかった。それじゃあ、ここを抜け出してチップを追いかけるとしよう。錠前さん、何か良い案はあるかな?」

「そう……だな。ロープか何かあれば上から垂らしてもらって登って行って……待て、本当に垂れてきた」

 

 話はそれで終わり。それではこの大騒動も片付けるべきだろうと飛鳥が立ち上がるのと、サオリが素っ頓狂な声を上げるのはほぼ同時だった。

 真上を仰げば、スルスルとロープが下りてきている。絶好のタイミングに目を丸くしていると、頭上から騒がしい声が聞こえてきた。

 

「主殿~! ご無事ですかー!」

「そ、そこから登ってくださぁい!」

「イズナ、ツクヨ……! ありがと~!!!」

 

 落とし穴に落ちた仲間達の為に準備してくれていたらしい忍者見習い達の声に飛鳥とミチルは顔を見合わせる。良い後輩を持った、とでも言うべきだろう。

 ミチルはロープをぐっと握り、問題がない事を確認すると声を張って、

 

「二人共~! なんとしても捕まえるよあの忍者を! それで、イブキちゃん助けるよ!!!」

「もちろんです! 何といっても我らは忍術研究部です、ニンニン!」

「えいえい、おー!の精神です! 私達三人で頑張りましょう部長!」

「よっしゃー!! 行くぞぉ~!!」

 

 そう、この関係性が何よりも大切なのだ。夢を追いかけ、夢の為に手を取り合うその友情が。

 

(……僕にも、あんな風に無邪気な時があったか)

 

 ロープにしがみつき上へ上へと登っていくミチルを見上げながら、飛鳥は少しばかり古い思い出を蘇らせていた。好きな事を、好きな仲間達と共有していた眩い過去を。

 

(どうにも、生徒達を見ていると色々よぎってしまうものだな)

 

 苦笑いを浮かべながら飛鳥はサオリへと向き直る。先程からずっと口を閉ざし、彼女は何やら考え込んでしまっている。まだ打ち明けてくれない悩みや苦しみがある事はハッキリと読み取れた。

 敢えて飛鳥は詳しく聞こうとはせず、サオリの肩を叩き、

 

「錠前さん。もう少しだけ協力してもらえると助かる。先に上がって」

「ん、ああ、それが仕事だからな。当然だ……一人で登れるのか?」

「大丈夫大丈夫」

 

 信用できるか、と言わんばかりに目を細めるサオリに飛鳥は手をひらひらと振っておどける。当然今の体力でロープなどよじ登れるわけがないのだが、かといって自分の面倒を見てもらうわけにもいかないのである。

 渋々と言った顔でサオリはロープを握り締め、慣れた様子で登っていく。

 

「ああ、そうだ錠前さん。さっきの話の続きだけど、僕も夢があるんだよ」

「夢? 世界平和か?」

「それとは別で……『エンジェル24』の実績回復さ。新しいスタッフもいるし、頑張ろうと思ってね」

「……はぁ、くだらん」

 

 呆れ果てた声色で呟きを漏らし、サオリは見えなくなった。後は『本』でここから抜け出してチップのところへ向かうとしようか、などと飛鳥は準備を始める。瞬間移動ならばすぐに彼の居場所までたどり着けるだろう。

 と、そこで携帯端末がブルリと震える。相手はゲヘナのイロハである。猛烈に嫌な予感がしたが恐る恐る電話に出てみると、

 

『ああ、飛鳥先生。見ているだけは少し不安なので私もそちらに向かっています、戦車で。よろしくお願いします』

「え? あ、何……!?」

 

 『和楽姫』もいよいよクライマックス。忍者vs忍者、介入する戦車。

 結末はいかに……。

 




次回で不忍の心編も終了です。よろしくです。

現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?

  • 区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
  • このままもう少し早く出して欲しい
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