先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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事の顛末

 『和楽姫』は悪の忍者を正義の忍者が成敗し、終結。百鬼夜行とゲヘナの間に目立ったトラブルもなく、交流会は無事に終わりを迎えた。

 そう、無事に。なんとか無事に。

 交流会を祝うべくして夜空に打ち上がる花火を見上げながら、飛鳥は眩い光景がよく見える屋根の上で、買ってきた缶コーヒーを口に運ぶ。その隣には青ざめた様子で正座するニヤの姿があった。

 周囲には誰もいない。そう、この二人の誰にも聞かせられない薄暗い話を知る者はいないのだ。

 

「いやあ、本当に良かった。無事終わって」

「にゃはは、そうですねぇ私もそう思います……にゃははは、にゃははは……」

 

 朗らかにそう言い出す飛鳥だが、無論言葉通りなはずはない。チップの介入により有耶無耶となったがニヤの作戦通りに運んでいれば忍術研究部が追いかけていたのは魑魅一座であり、その裏で手を引いていたのはあろう事か百鬼夜行の責任者であるニヤその人になってしまう。

 流石の飛鳥もまさか交流会を主催する側である百鬼夜行の生徒が事件の原因とあっては看過できない。事態が収束した事で改めて『お叱り』の時間がやってきたわけだ。

 

「まぁその先生、なんとか交流会も終わりましたし? ゲヘナ側の生徒にも気付かれなかったわけですからハッピーエンドという事で一つ……?」

「残念だけどそうはいかない。まだ僕は今回の事件に残されている、ある秘密を解き明かしていないからね。単刀直入に……何故、天地さんは交流会が台無しになるかもしれない様な事件を起こそうとしたのかな?」

 

 飛鳥の問いかけは、交流会を巡るニヤの狂言において最も不明瞭なものと言えた。

 事件の筋書きを振り返ると、こうである。

 ①ニヤはゲヘナと百鬼夜行の交流会に際してニヤニヤ教授と名乗り、魑魅一座に接触した。

 ②本来ならば『和楽姫』は百鬼夜行の生徒が姫役を演じる予定だったが、ニヤからの提案でイブキが急遽抜擢される事に。

 ③当初の目論見ではイブキを魑魅一座が誘拐し、大騒動になりかねないところを事情を詳しく知らない状態ながらもチップが乱入。イブキは不良生徒の手から逃れる結果となった。

 

 飛鳥が腑に落ちないのは、そもそも何故ニヤがイブキ誘拐を計画したのか、その一点にある。わざわざゲヘナの怒りを買う様な計画は百鬼夜行に何の利益もない。となると、彼からすればまるでわからないのだ。

 ニヤは口元に指を添え、真剣に考え込む飛鳥に少しばかり驚いた表情を浮かべていた。一体何を言っているのか、そんな顔つきだ。

 

「……もしや先生、本当にわからなかったりします? 私の動機」

「うん、わからない。君が破滅的な思想を持っていてすべてを滅ぼしてしまおうと考えている可能性も考慮したけど、まったく」

「にゃ、にゃははは……えー……これ私の口から言うのもアレなんですが、今回の企みが何の為なのか? それは貴方ですよ、飛鳥=R=クロイツ先生」

「―――僕?」

 

 飛鳥もまた、驚いた表情を浮かべつつ自分を指差した。心から困惑している様子にニヤは呆れた様子でこめかみを掻き、

 

「シャーレの飛鳥=R=クロイツとは何者なのか。数週間前にトリニティとゲヘナの緩衝地帯で見せた不可思議な力の正体は何なのか……それこそ、私がこの様な事件を引き起こそうとした理由なんです」

「―――なんで」

「いやなんでも何もないでしょう。巨大な怪物一人で倒すあの映像、先生だってご存知でしょう!? キヴォトス中の有力者が先生の一挙一動に注意しているんですよ!?」

「……いや、それでも誘拐事件を引き起こすと言うのはやっぱり良くないんじゃないかな。それに僕を試したいというのならもっと早くに面と向かって言ってもらえたら協力したのに」

「や、だって、変に接触して怒らせたりしたらどうなるかわかりませんし!」

 

 さながら爆弾かニトログリセリンの様な扱いだ、と飛鳥は思わず失笑を漏らし、ニヤにかぶりを振って応える。

 つまるところニヤの動機は飛鳥に対する恐れ、そして好奇心だ。常軌を逸した超常現象を引き起こした力、そしてそれを行使する大人の存在に彼女は惹きつけられ、詳しく知りたいと考えた。わざわざ犯罪行為をほう助してまで、である。

 飛鳥としては本気で『力を見せて欲しい』と言われれば対応するつもりだった。だがニヤは敢えて遠目からの観察をしたかったらしい。

 

「今度からはちゃんと君自身の言葉で言って欲しいな。僕の事を知りたいと。ある程度ならちゃんと回答するよ」

「じゃ、じゃあ教えていただけますか? 先生は……何者なんですか」

「僕は先生だ。それ以上でも以下でもない。覚えていて欲しいのは君達と同じ人間という事」

 

 コーヒーで唇を湿らせ、飛鳥はゆっくりと言い聞かせる様に語る。

 

「確かに僕は妙な力を持っている。物理現象を捻じ曲げ、無から有を生み出せる。でも僕そのものはと言えばただの男だ。運動神経は悪い、人の心を読み取れない、空気を読まないし話が長い。取り柄があるとすれば人より数字に詳しいだけ……何も、特別な存在じゃない」

「―――」

「心配しないで欲しい。別にキヴォトスを征服しようだなんて思わない。誰かを傷つけようとも考えない。ただ僕はいつもの様にい続ける。皆を助ける『シャーレ』の先生として……それは、中継をずっと見ていた天地さんにも伝わったと思う」

 

 とにかく必死な一日だった。そもそもが政治背景が見え隠れする中での活動、そこにチップの乱入。百鬼夜行を駆けまわっての追想劇。挙句の果てに戦車に乗り込んでの大立ち回り……飛鳥は振り回されながらしがみつくのが精一杯だった。

 その姿に一片でも、脅威と呼べるものはあっただろうか。

 飛鳥はじっとニヤを見つめる。そのすぐそばにいる『彼女』も。

 

「……なるほど。正体不明、真意不明、思想不明。そんな大人の正体は、かくも弱々しい方だとは思いも寄りませんでした。あーあ、これなら先生がおっしゃる様に怖がらずに話しかけておけばよかった」

 

 ニヤはガックリと肩を落とし、絞り出す様にため息をつく。声色だけはどこかさっぱりとしていて、

 

「ご存知でしょう先生。陰陽部は百鬼夜行における生徒会。学区内すべてが言うならば管理対象。そうするとまぁ、暗躍したり色々する日々なわけです。なので……今回もいつも通りにやってしまいました。たはは」

 

 呆れ果てた声色だった。飛鳥の態度に拍子抜けしているのだ。まさかこれほどとは、そう言いたげな声色である。馬鹿にされている様な気がして抗議しようかと思いつつも、彼はコクリと頷き返した。

 

「そうだね。各学校の運営を担う生徒達が仕事に追われたり、立場的な問題で大変なのは僕もよく知っている。できる事なら全権僕が握ってしまいたいけれど、生憎万能ではないときている。ただ疲れて疲れて仕方がないという時、本音で話せる相手が欲しいと思ったなら……シャーレはいつでも君を受け入れるよ」

「―――にゃは、にゃはははははっ!! 先生、それはもしかしてアレですか、私への求婚だったりしますかぁ?」

「えぇ? いや、そういう事ではないんだけど……」

「いやはや冗談ですよ。でもお気遣いありがとうございます。今後にもシャーレには色々依頼を投げさせていただきますので。では、お叱りもこれまでという事で!」

 

 飛鳥が突然何を言い出すのかとギョッとした隙を狙い、ニヤは颯爽と逃げ出した。機会を狙っていたにしても実行が速すぎる。

 追いかけようにも既に彼女の姿はなく、飛鳥はやれやれだと肩をすくめる。と、

 

「あ~忍術研究部の事ですが、私の方で部として認める様に根回しをしておきますよ~! 交流会のヒーローとして一躍有名ですから~!」

 

 どこからともなくニヤの声だけが聞こえてきた。叱られたなりに埋め合わせをしようというつもりなのだろうが、面と向かって言ってほしいものである。否、面と向かって言いたくなかったら逃げ出したのだろう。

 個性的な生徒達の中でもイマイチ腹の底が読めない少女である。次会ったらもっとしっかり話そう、そう自分自身に飛鳥は言い聞かせつつ、

 

「……待たせたね錠前さん。じっと待っているのも大変だっただろう」

「っ、気付いていたか」

 

 いつの間にか背後に佇んでいるサオリへ労いの言葉をかけていた。

 天守閣にて忍術研究部が勝利し、交流会も無事成功したという事で今学区内では打ち上げが始まっている。百鬼夜行もゲヘナも関係なく、飲み食い大騒ぎの状況だ。

 当初飛鳥もその場にいて、そして折角だからとサオリを探したのだが忽然と姿を消していた。騒ぎに紛れて消えていたのだ。いつかの豪華客船の様に。

 だが……どうやら今回はずっと近くにいたらしい。まるで、飛鳥が孤立する時を待っていたかの様に。

 

「それで何か用かい。ここは花火を見るには良い場所だけど、僕と二人きりになるのはあまり楽しくないと思うよ」

「……エデン条約から手を引け。でなければここで殺す」

 

 サオリの表情は読めない。夜空の下、しかも帽子を被っているおかげでまるで顔を黒く塗り潰されている様だ。

だがその手には拳銃が握られている。彼女が得物としていつも使っているものだ。

 銃口はゆっくりと持ち上がり飛鳥へと向けられた。あとは引き金を引けば、発射された銃弾は彼を貫く。どこに当たるかによって致死率は変わるが、サオリが外すとは思えない。

 

「何故、逃げない」

 

 サオリの声が僅かに揺らいだ。銃を向けられているというのに飛鳥はまったく動こうとしない。逃げるそぶりもしなければ、青ざめもしない、表情に動揺が浮かぶ事さえない。まるで知っていたと言わんばかりの眼差しで彼は自らに突き付けられた拳銃を眺めている。

 

「以前、僕の友人から聞いたんだ。命を狙う者がいるって。それが前に会った生徒だと言うのだから僕は驚いた」

「知って、いたのか」

「ああ、知ってたとも」

「知っていながら私を雇ったのか」

「ああ、雇ったとも。ついでに今日の仕事を手伝ってもらった」

「―――何故だ?」

 

 何故、何故。サオリはそう唱えずにはいられない様子だった。本来ならば飛鳥の命は彼女の指にかかっているはずなのに、攻守が逆転し銃を突きつけられているかの様だ。

 飛鳥はゆっくりとサオリへと一歩踏み出す。撃たれるかもしれないというのに。

 

「動くな、動けば……」

「なら撃てばいい」

「っ……」

 

 撃てば良い。そう、撃てばそれで終わる。だが―――飛鳥はサオリが撃てない事をよく理解していた。

 

----

『僕は自分が思うより無駄が好きらしい。いや……というより、無駄があって欲しいと思ってるのかもしれない』

『そんなものに意味はない。すべては、ただ虚しい。何もかもだ』

『そうかな? 僕はそうは考えない。何故なら……すべては、等しく単位でしかないんだ』

『単位?』

『そう、単位。重要だとか重要でないとかは実はすべて僕達がどう思うかという話でしかない。錠前さんが虚しいと感じても、他の人にとってそうではない様に』

『……それなら、私の考えは間違ってないじゃないか』

『そう、間違っていない。大切なのは……いずれ君にとってすべてが価値あるものに変わりうるというところだよ』

『―――どういう』

『また今度話そう。そうだな、買い物でもしながら』

----

 

 他愛もない会話だ。探り探りの物言いになってしまったし、何より要領を得なかった。だが少なくとも……それ以降サオリの中で明らかに何か様子が変わりつつあるのは感じられた。

 故に飛鳥は今、緊張こそすれど恐れはしていない。聞く耳持たずに撃ち殺される事はないという確信があった。

 

「君がどこの誰なのか、今は関係ない。それよりも優先するべき事は動機だ」

 

 銃口に指を近付ける。そこでようやくサオリの顔が見える。動揺、焦り、あらゆる感情が詰まっている。

 百合園セイアは言った。ハッピーケイオスに差し向けられた刺客であるサオリを守り、飛鳥は死ぬと。

 つまり、今ではない。その時はまだ来ない。死は……もう少しだけ、先だ。

 

「僕が憎くてたまらないというのなら、心の底から死を望んでいるのだとしたら撃て。それで僕は死ぬ。あっけなく、容易く」

「っっっっ」

「だが、もしも僕が死ななければ君の大切な人が殺されると言うのなら……撃つな。代わりに僕は絶対に君を助ける。言ったはずだ、僕はシャーレの先生だと」

「黙れっ」

「約束しよう。僕は君をこれまで通り『エンジェル24』の店員として迎え入れるし、君が抱えている悩みも聞く。もしも錠前さんにとって不適格だと感じたなら、いつでも殺せば良い」

「黙るんだ」

「君の話を聞かせてくれ―――錠前サオリさん」

「黙れッッッ!!!!」

 

…………………ぱあんっ

 

 

 

 

 

 夜空に花が咲く。最後の花火は今までもっと大きく、そして色鮮やかだ。

 

 

「あっ、先生殿! それにお手伝いのえーと、サオリっち?_ どこ行ってたの~! お祭りもう終わっちゃうよ! チップが出し物やってくれるって言うんだよ!」

「イズナ達、すっかりチップ殿と忍者の同士になりました!! 先程ツクヨ殿は隠密術を教わったんですよ!」

「よ、良ければ先生にもお見せしますね!!」

 

 祭りの中心部に戻ると、忍術研究部の三人は随分とご機嫌な様子で駆け寄ってくる。はしゃいでいるという言葉がよく似合う。

 飛鳥は手を振って彼女達に応えながら、傍らに立つサオリへと微笑みかけた。

 

「皆、騒がしいね。はは」

「―――ああ」

 

―――Chapter5 fin.

 

 

 

 

「あー……多分サオリ君、あっち行くかな。どうしよ。別に計画変わるワケじゃないけど、ちょっとアドリブ効かせる必要ありそうだな」




飛鳥がサオリと喫茶店で何を話したのか、それは敢えてぼかしています。
ですが何故飛鳥がサオリに向けている感情の源はなんとなくですが、GGファンの人達には察してもらえるかな~~と。実は飛鳥が関わっていたGG側のとあるキャラが密接に関わっています。

現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?

  • 区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
  • このままもう少し早く出して欲しい
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