先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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共通の友人について

 その日、ウタハ、ヒビキ、コトリの三人はいつもの様に破茶滅茶な発明の為に滅茶苦茶な活動をしていた。内容としては『リボルバー式にしてあらゆるソースを出せる銃を発明したのなら、アレンジして粉末スープやカレールーを発射できるグレネードランチャーも作ってみるか?」というものだ。

 この発明自体は成功。またエンジニア部の長い歴史に伝説が打ち立てられたのだが、問題はこの後だった。事前の連絡通り彼女達を勇者アリスと、妖精ロボカイが訪ねたのだ。

 

「よシ、今日こそ頼むゾ。早くワシをピッカピカにしてくレ。イケメンにだゾ!」

「そうなると、顔面パーツ全て作り直さないといけないかもしれないね?」

「おイ、言葉に気をつけろヨ貴様……!!」

 

 妖精ロボカイは簡単に言うと首だけである。かつての戦いで首から下を全損し修理代を頑張って稼いでいるそうなのだが、果たして全身が出来上がるまでどれだけ時間がかかるのか。

 幸いな事があるとすればエンジニア部はロボカイの修理を無償で請け負っていた。彼女達の知らない技術が詰め込まれている生首は、どこを見ても興味深いのだ。

 そんなわけで彼の失った体を修理させてもらう事を条件に内部の解析を進めていたわけなのだが、今回は遂にロボカイが手足を取り戻す日だった。

 

「じゃあ、とりあえず今日は予定していた手足の接続を始めようか」

「ロボカイの為にパーツ流用一切なし! ミレニアムの技術の粋を結集させたフレキシブルアームですよ!」

「オオ〜! やるではないか小娘ドモ〜、早くやってくレ! そろそろ自分の足で歩きたイ! アリス、ワシに足ができたら競争してみるカ! ワハハ!」

「はい! 新しいロボカイの体、とても楽しみです! 遂に一緒にゲームが遊べます!」

 

 今までアリスとロボカイのタッグは片方がレールガンを背負った小柄な少女、片方が生首という控えめに言ってかなり異色の佇まいだった。だが生首状態から解消されれば色物感も多少は薄れる。むしろゲーマーであるアリスとしては、ロボカイと一緒にゲームをプレイできる事が何よりも重要だった。

 無論エンジニア部も、体を取り戻したいロボカイと遊ぶ仲間を求めるアリス双方の願いを叶えるつもりは最初からあった。それ故に気合を入れて設計に挑んだのだが……思わぬ展開となった。

 

「さぁロボカイ、歩いてみて」

「ん? んん? おおおお、なんだこれハ! 面白いナ!?」

 

 エンジニア部の部長ウタハに促され、遂にロボカイの新たなボディが露わになる。

 外見はよくキヴォトスで見かけるオートマタと呼ばれるロボットのそれに近く、角ばったデザインが目を引く。身長も170cmはあり、なかなかに見栄えも良い。

 

「デザインにはそれなりに気を配った……自信作」

「オォ~、なかなかかっこいいゾ! 若干前の体よりかは重く感じるガ、及第点だな!」

 

 ロボカイはご機嫌だ。遂に取り戻した手足を動かして右へ左へと跳ねてみせる。運動性も銃撃戦を行える程度には確保しているのだ。アリスの隣に並び立つには必要以上のスペックだろう。

 

「ワハハハハ! 見ろアリス、ワシの新しい手足!」

 

 無骨なボディをキラリと光らせ、ロボカイは腰に手を当てて自信満々なポーズでアリスに微笑みかける。が、なんだか不服そうな表情である。

 おや?とロボカイ含めた四人で首を傾げていると、アリスは納得いかないという顔でかぶりを振り、

 

「……このロボカイは嫌です! 全然妖精じゃありません」

「よ、妖精じゃないって言われてもナ。こうやって手足があれば貴様の役に立つと思うんダ。それにほラ、勇者の仲間なら戦士でもアリだロ?」

 

 ロボカイはアリスと視線が合う様にしゃがみ込み言い聞かせる様に語りかける。しかし少女の強張った顔つきはまるで和らぐ様子はなく、むしろ更に不服そうに頬を膨らませる始末だ。

 どこかそのやり取りは子を宥める親のそれに見える。ロボカイは手馴れた様子だ。

 

「全然違います……確かにパーティーには戦士も必要ですが、妖精がいないとダメです」

「でもなァ……」

「うわーん! ロボカイは好きですがこんなロボカイは好きじゃありません!」

 

 よっぽどロボカイのニュースタイルが気に入らない様で、アリスは顔をくしゃくしゃに歪めると踵を返して駆け出したかと思えば、エンジニア部の部室を飛び出して行ってしまった。これにはウタハ達も目を丸くしてしまい慌てて廊下に出てアリスの背中を探すものの、既にどこかへいなくなっていた。

 

「うーむ、妖精らしさか。まったく考慮していなかったな。頭だけの飛行にプラスして柔軟な運動性を確保したつもりだったんだけど」

「―――衣装を用意して親しみを湧かせるとか?」

「私が思うに現時点では最高のフォルムだったと思うのですが……そもそも妖精と言われると羽の生えた小人が連想されます。これまでのロボカイは頭からプロペラを生やした生首ですから大前提が揺らいでいると私は考えます」

 

 エンジニア部の三人は顔を突き合わせ何がダメだったのかと分析を始める。マイスターの二つ名を持つ彼女達には技術職としてのプライドというものがある。ロボカイではなくアリスからの評価が悪かった事は重大な問題であり、一刻も早く改善したいのだ。

 当のロボカイはと言えば困った顔でゴリゴリとこめかみを掻く。

 

「ア~、いいぞ別にそこまでやらなくてモ。まったク、小さい事を気にする奴ダ。話はワシの方で済ませておク。この体でもワシは問題ないから、貴様ラは完璧なのを目指してアップデートしてくレ」

「だが、それでは君に示しがつかない。解析を条件に体を修理すると約束したのに妥協させるのは……」

「そういう話じゃなイ。奴メ、駄々をこねればワシが折れると思ってル。ちゃんと話してくるんダ。いいな、あんまり凝りすぎるなヨ!」

 

 そう言ってロボカイはアリスを探しにニュルニュルと動きながら廊下へと出ていく。言われてみるとまぁ確かにその動きは生首状態と比較すると少々薄気味悪いと言うべきか、かつてのコミカルさは薄れてしまっている様に見えた。

 さてロボカイからは気にしなくていいとは言われたものの、やはりマイスターとしての義務感は三人の背中を押す。昼食を取る事も忘れ、ウタハ達は改善案を進め始めた。

 

「妖精感のあるフォルム………だが手足は運動性を確保する上で一番欠かせない要素だ」

「うん、アリスとロボカイ両方の要望を叶えるのは凄く難しそう」

「ですが我々はマイスターです。ネバーセイネバー! 妥協ではなく限界突破を目指しましょう!」

「……その通りだ。では新たに図面を―――」

 

 自分達の使命に誇りを持ち、アリスとロボカイ二人を満足させる。

 その目標を掲げてエンジニア部が早速ロボカイアップデートVer3を開始しようとした、その時の事だった。

 サッとプレゼン資料のスライドが切り替わる様に。何の前触れもなく三人は部室から見慣れない街の大通りに立っていたのである。

 

 

「もぐもぐもぐもぐ、以上がこのパン屋に辿り着くまでの経緯になる」

「もぐもぐもぐもぐ、道行く人にも声をかけてみたけど言葉は通じるのに話が通じなくて本当にピンチだった」

「まさか一縷の望みをかけて飛び込んだお店で我々の話を信じてもらえたのみならず食事まで提供していただけるとはどの様に感謝を述べたら良いものか……心から感謝します! ええと―――」

「ヴェノムだ。なに、私も最初は君達三人を疑っていた人間だ。詫びと思ってもらって構わない」

 

 時は戻り現在。『ただいま準備中』の札がかけられたパン屋の店内。カウンター横に設けられたテーブルではよほど腹を空かせていたらしいウタハ達の胃の中に焼き立てのパンが凄まじい勢いで取り込まれつつあった。お代は要らないと言ったヴェノム本人も少々驚いたものの、少女達から聞かされたロボカイの話に比べれば些末な事である。

 わざわざ三人分の紅茶まで淹れてやり、ヴェノムは怒涛の情報を頭の中で整理していく。

 

「確認だ。君達がいた部室とやらはミレニアムという学校の中で、更に言えばキヴォトスという街の中。ロボカイは数か月程前に天童アリスなる少女と共に現れた、と。ふむ、いささか不審な点がある。まず彼がこの街から消えたのは一週間程前になる。だが君達は数か月前に知り合った。どういうわけなのか……」

「それに関しては私からも貴方に聞きたい事があるんだヴェノム。キヴォトスとここではあらゆる部分が異なっている。文化レベルはざっと半世紀は前になるし電波も通っていない。通貨まで違う。そもそもどうして私達はキヴォトスから離れてこの場にいるのか? まったくもってわからない状況だ。ハッキリしているのはロボカイという共通の友人がいる事と、貴方が善人であるという事だけになる」

 

 ウタハの曇りない眼に射抜かれ、ヴェノムは思わずドキリとした。善人。そんな言葉を向けられて何故言い様も知れぬ感情に駆られるのだろうか。

 言われ慣れていないのだろう。影の道を歩み続けた後遺症とでも呼ぶべき、不必要な感情だ。

 コホン、と咳払いをしてヴェノムは腰かけていた椅子から立ち上がり、 

 

「……少し席を外す。君達の助けになれる人物に心当たりがある」

 

 少女達に背を向け厨房まで足を運ぶ。悪い人間ではない事はわかっているものの、まだ得体が知れないのも確か。それ故にこれからの通話内容を聞かれない様にしたかったのだ。

 法力による通話を繋げる。相手は敬愛するザトー=ONEである。

 

『私だ』

「ヴェノムです。貴方に、ひいては第一連王に至急お伝えしなければならない事が」

『待て……よし、会話を彼に繋げた。頼む』

 

 通話口の向こうにいるザトーは即座にヴェノムの要求に応じてくれた。感謝を述べつつ、

 

「今私の店に子供が三人います。彼女達は文字通り別の世界からやってきたかの様に話が嚙み合いません。それに……ロボカイを知っている、と」

『危険そうか?』

「いえ。それどころか迷子です」

『―――迎えを送る。安心させてやれ』

「はい」

 

 やはりロボカイの失踪と彼女達の出現には何か関わりがある。そしてイリュリアは……ひいては世界各国が、その問題にあたっているに違いない。自分に何ができるか……かつての自分ならまだしも、今はただのパン屋である。一般市民としてできる限りの対応をし、一度打ち止めとするべきだろう。

 通話を切り、ヴェノムは紅茶で喉を潤わせるウタハ達三人へと微笑みかける。

 

「知人が迎えをよこすそうだ。君達を保護するらしい」

「保護……?」

「随分と話が早い。若干の怪しさを感じる」

「心配するな。知人は政府で働いている公務員だ。恐らく今この世界で最も安全な場所に連れて行ってくれる」

 

「おっとっと……あら~!?!?!? アクセル=ロウ、現場到着~~~!」

 

 数秒。わずか数秒でパン屋の店内に迎えがやってくるのだった。

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