先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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Hey! Genius!!

 コンビニバイト少女ソラのここ数日の生活は一変した。良い意味でも悪い意味でもとにかくひっくり返ってしまった。いつも通りにあまり人が来ない『エンジェル24 シャーレ前支店』で廃棄になるお弁当どうしようかな、とかいい加減飛鳥先生はエナジーバーと栄養ドリンク以外に何か買わないかな、とかいつも通り悩んでいたのが今や懐かしい。

 気付いたらどこか遠いお城にいて、気付いたら目の前にゴリラがいた。ぺちゃんこに押し潰されそうなくらいの圧をかけてきたそのゴリラは、なんとシャーレの飛鳥先生の知り合いだと言う。

 

「おい、野郎が何してんのか教えろ」

 

 人に教えてもらう態度とは思えないのだがそんな事口にできるはずもない。何せ周りにはソラの知り合いなど誰もいないのだ。少なくとも危害を加えられるわけではないと理解し、彼女はゴリラに飛鳥先生がどんな人間かを説明した。

 ふらっとキヴォトスにやってきて、そのまま先生となり、そして今もキヴォトスの生徒を助けるべく右へ左へ働いている、と。

 

「―――何かの冗談じゃねぇだろうな?」

 

 ゴリラはソラに顔を寄せて、死ぬ程不機嫌そうな顔で問い詰めてくる。事実だけをしっかりと伝えたのだが本当に彼の顔は怖い。だが事実は事実。頬を真っ赤にし、滝の様に汗を流しながらもソラは己の潔白を証明し続けた。

 その場はなんとか収まったものの、持っていた携帯を没収された挙句聞きたい事があると言われそれなりの時間ふかふかのソファーに座りながらキヴォトスについて色々話す羽目になった。

 

 どうやら自分はイリュリアという、キヴォトスではない別のどこかにいるらしい。それが混乱しながらもソラが飲み込めた唯一の事。そして飛鳥先生はそのイリュリアからキヴォトスにやってきた……のだろう。

 

(え~、そういえば飛鳥先生自分について全然話してなかったかも。大人だからそういう事はあるかもしれないけど……あのゴリラみたいな人も含めてなんか変な感じ~……)

 

 それからというものソラの待遇はまるで高級ホテルに宿泊する客の様だった。えらく上品な部屋に案内され、用意できるものはなんでも用意すると言い渡された。旅行に行きたいなどとは思っていたがここまでの状況になるなど想像もつかない。まだ幼いソラからすれば「やったー嬉しー!」よりも「えーなんでー!?」という驚きの方が遥かに大きかったのだ。

 何より、キヴォトスに帰りたかった。イリュリアの人々は優しいがそれでも極論他人である。自分の家があり、自分のコンビニがあるキヴォトスに早く帰りたいという気持ちがあった。

 

「すみません、ソラさん。貴女のお気持ちは私も承知しています。その上でまだキヴォトスには戻れないんです」

 

 金髪のイケメンはソラと目線が合う様に腰を落としてそう謝罪したが、何故戻れないのかの説明がまったくない。だんだんと彼女はホームシックに近い感覚に襲われ始めていた。

 そうだ、戻れないと言うならせめて何か自分にできる事をしよう。少しでも私頑張ってる!感を出そう。そう思い立ったソラは部屋を飛び出し、城内をウロウロし、ある事に気付いた。

 

「あの、このお城ってコンビニ、ないし購買とかないんですか?」

 

 どこまで言っても染みついた習慣というものは消えないもので、ソラはイリュリアの偉い人に頼み込んで『エンジェル24 イリュリア支店』を作ってもらえる事になった。

 

 

「い、いらっしゃいませ!」

「おう、元気な挨拶ありがとよ。最近ずーっと忙しくって参るぜ」

 

 イリュリア城で最も職員が行き交う廊下、そこに仮設であるがソラの店がある。当初はそこまで人入りは良くなったのだが段々と口コミが広がっていった結果、『エンジェル24』は仕事に疲れた者達がわずかな時間であるが息をつける憩いの場所となりつつあった。

 出店の様にずらりと並べられた品々はわざわざソラが職員達にアンケートを取り、人気の高いものを集めた。おかげでコンビニ本来の役割である『ちょうどこれが欲しかった』という需要に対する供給が噛み合ったのである。

 職員の一人、ランディは新聞とお菓子を手に取るとソラが用意したトレーに代金を置く。使われている貨幣はキヴォトスのモノとまったく違うデザインだが、今はさほど気にならない。というより慣れたと言うべきか。(まだイリュリアにやってきて一週間程だが)

 

「しかしまぁソラちゃん、随分と商売慣れしてるんだな? 手際良く在庫管理までしてよ」

「いえ、なんというかバイトでいつもやってる事で」

「バイトねぇ……若いのに一人で頑張ってるもんだ」

「あ、あははは」

 

 イリュリアの偉い人……カイ、と名乗ったイケメンはコンビニ開店の許可を出しながらソラにこう言った。

―――自分がどこから来たのか、それは誰にも伝えない様に。

 どうしてそんな事が必要なのかをカイは教えてくれなかった。というより教えられない様子だった。やましい事があるというよりもソラを気遣っているレベルだ。

 

(……何か、凄く何か変なんだよねここ)

 

 カイがソラの口を封じている理由を薄々ではあるが理解もしている。

 イリュリアの人々はソラの知らない世界で生きている。大人ばかりだし誰も携帯を持っていない。恐る恐る聞いてみると「携帯って何?」と言われた始末だ。しかも口から出る単語一つ一つが聞いた事もない。『ほーりきつうしん』だの『おんかい』だの意味不明な事ばかりである。というか、どこにも『機械』と呼ぶべきものが見当たらない。漫画やアニメに出てくるファンタジー世界じみている。

 キヴォトスではない、だけじゃ済まない。もっと変な場所に自分がいる。そんな不安を押し殺すべくソラはまず自分はコンビニ店員である、というアイデンティティを貫く事にしたのだ。

 

「悪いな仕事の邪魔して! じゃ俺は戻るわ」

「ま、またお越しください!」

 

 ランディを見送り、ソラは一息つく。

 お城に迷い込んでしまった独りぼっちよりかはこうしてコンビニの店員を貫く事で居場所を得てはいるものの、このままキヴォトスに帰れないなどとは思いたくない。携帯が恋しい……。

 少女ソラ、一人悩み天を仰ぐ。誰でも良いから知り合いに会えないものか。

 

「お、見てよこれ。これさ、コンビニ。俺ってば凄い好きなのこれ。君達見覚えなーい?」

 

 と、その時陽気な声が聞こえてきた。確かアクセルと言う男だったか。とにかく話し方がチャラいし気安い。しかもナンパまでしてくる、面倒な人物である。また何か変な話されるのかな~などとソラは渋々声が聞こえた方向へ体を向ける。

 

「いらっしゃいま―――」

「おや……」

「貴女は確か」

「エンジェル24の!」

 

 ソラは仰天した。アクセルは一人ではなく三人の少女も一緒だった。そしてその少女達は……何度かキヴォトスで見た顔と来ている。何度か店にもやってきて買い物をしてくれた記憶がある。

 

「あ、あ、皆さん確かミレニアムの!」

「お、やっぱそうだ。皆、顔見知りな感じ?」

「ああ、ひゃああああ~~~!!! やっと知ってる人に会えたぁぁぁ~~!!!!」

 

 イリュリア城に心から安堵したソラの声が響き渡る。溜まりに溜まった不安が弾けてしまえば止める術などなく彼女はミレニアムの生徒達にしがみついて大声で泣き出してしまうのだった。

 

 

「―――これで四人、か」

「こんなに一気に向こう側からの人間がやってくるとは、やはり例のワームホールが大きくなった事と関係があるんだろう」

 

 キヴォトスからまた三人も来訪者がやってきた。この報せがザトーからもたらされてからというもの、イリュリアに集った有識者達はまた頭を悩ませる事となった。

 関係各所との連携を強めるべく第二連王レオは部屋に籠り会議に没頭し、今司令室にはフレデリックとカイの二名のみが顔を突き合わせている。議題はもちろん『何故キヴォトスの人間がやってきたのか』である。

 

「アクセルは確かに別世界に意識だけで跳び、その先で百合園セイアと話した。我々からの警告も知らせたそうだが……ワームホールは再び開いた。向こうにいる飛鳥さんは何をしているのか」

「月の飛鳥が言うには『戻る方法を見つけた』そうだが……月の方はまだ答えが出せてはいねぇ様だ。兎にも角にもキヴォトスに関するデータが足りねぇ」

「……この世界に迷い込んでしまった少女達を家に帰す事は、まだ私達にはできないという事か」

 

 カイは苦虫を嚙み潰した様な面持ちだ。ソラが転移してきてすぐに彼女を保護したものの、まだキヴォトスへ戻す手段はわかっていない。本人が家に帰りたいと言っているのに「無理だ」と伝えなければならない彼の心中は察せるものではない。

 まだ十代の子供だ。それが単身見知らぬ世界に跳ばされたなど伝えられるはずもなく、カイは半ばソラを騙す様な形になってしまっていた。

 

「イズナからもまだ良い知らせは来ちゃいねぇ。バックヤード内でキヴォトスに繋がってるであろうエリアを見つけたそうだが侵入できないそうだ。尋常じゃねぇロックがかけられている」

「ロック? それはどういう」

「そのままだ。つい最近繋がったばかりの道を誰かが塞いでやがる」

「……ケイオス?」

「わからねぇ。イズナが言うには『向こうから塞いでる』そうだ」

 

 三度目のワームホール出現時、イズナは素早くバックヤードへと向かった。圧縮された情報が濁流の如く流れる空間内でも一際強い情報素子の集まりを見つけ、そこがキヴォトスに繋がっているに違いないという結論が出た事までは判明していたものの……塞がれているとは予想外の展開である。

 ようやく手にした手がかりを活かせないままでは終われない。だがここからどう動けばよいのか……フレデリックが言う様に異世界のデータは現時点ではアクセルが見たものとソラから聞き出した文化や生活方式だけでどちらも解明に至るものではない。

 

「贅沢な話だが向こうから飛鳥レベルの天才でも転がり込んでくりゃ話は進むんだがな」

「そんな都合の良い話はそうそうないだろう。考えても詮無き事だ。今はアクセルさんが保護した少女達から何か聞き出せないか―――」

 

「―――失礼。そこのお二方。お話を横で聞かせていただいていたのですが、キヴォトスの天才をお探しですか?」

「ああそうだよ。別次元、別位相、そういう話をべらべらと無限に喋れる奴を探してる」

「ふふふ、それでしたら最適な人材がいます。ご紹介しましょうか?」

「ええ、そうしていただけるなら是非。私達は今、どんな些細な事でも助力を―――え?」

 

 不意に投げかけられた声にフレデリックとカイは順番に応え、そして次に「今のは誰だ?」と遅く気付いて声の正体を探す。

 二人が立っているのは司令室の最奥部に位置する会議室の様な空間。巨大なコンソールが中心に置かれているそこで彼らは話し合っていたのだが……コンソールを挟んだ真向かいに彼女はいた。

 一言で表すならば白百合と言ったところだろう。儚く、それでいて淑やかな雰囲気を身に纏った少女が一人、特長的な形状の車いすに腰かけている。堂々とした表情を添えて、先程まで誰もいなかった空間に、である。

 

「おい、まさか」

「今この瞬間に転移してきた……?」

 

「驚かれるのも無理はありません。何と言っても私は見ての通り美しく、可憐で、そして優雅ですから。あ、いけませんね、突然現れたとあっては驚かれるのは当然。自己紹介を。私は明星ヒマリ……ミレニアムが誇る『全知』にして……キヴォトスで一番の『天才』です、うふふ」

 

 

「あああ! もうぜんっぜん開かん! どないしたらこないなロックを仕掛けられるっちゃが! 折角アクセルが漢見せて教えてくれた座標だっちゅうに、このままじゃ鳴り物入りで出てきたのに面目丸つぶれ!」

 

 情報空間『バックヤード』。キヴォトスに繋がるであろう場所を前にして獣人イズナは首を傾げながらも謎のロックと悪戦苦闘していた。

 間違いなくこの先にキヴォトスに繋がる何かがある。解除さえできれば情報を得るのみならず向こう側に跳ぶ事さえできるはずなのだ。それならばバックヤードの住人である自分が体を張らなければ意味がない。漢イズナ、ささみチキンにはなれない一心で挑んでいた。

 と、突然ロックが音もなく解除された。

 

「ん!? おっ!? なんぞ!? うまくいったんか!? オイに隠された未知の力覚醒!?」

「違うわ。妾が開けてやったのだ。ガンガン叩きおって、うるさくて眠れんわ」

「おお!? 誰ぞ!」

 

 声だけがロックの先から聞こえてくる。少女の声……だが、このバックヤードに誰が?

 イズナは空間の先にいるのが何者なのかはさておき、どこの誰なのかはすぐに理解できた。声の主は恐らくキヴォトスの住人だ。それも世の理から外れているであろう、常世ならざる者だ。

 表情を引き締める。警戒心ではない、いわゆる礼節とでも呼ぶべき態度だ。

 

「……オイの名はイズナ。生まれは黄泉平坂。そして今、友の為にこの命を賭ける者。御身の名は?」

「―――クズノハ。百花繚乱紛争調停委員会、初代委員長。生まれは……キヴォトスと言った方が良いか」

「ロックをかけていたのは御身か。何故その様な事を?」

「近付きすぎじゃ。このままでは正面衝突になるでの」

 

 正面衝突。二つの世界がワームホールによって引き合っている事をクズノハなる声の主は知っている。あちら側の人間にも事態を察している者がいる様だ。

 となれば話は早い。イズナは言葉を選び、

 

「キヴォトスにこっちから何人か連れ去られている。そしてキヴォトスからこっちに流れ着いてる者もいる。なしてこんな事に」

「近付いたり、離れたり、その繰り返しじゃ。あのはっぴーけいおすなどという怪異のしでかしとは別に、世界同士が近付く瞬間に勝手に穴が開くのじゃ」

「―――止められるのか?」

「止められん。飛鳥=R=クロイツはとんでもない事をしおった。じゃがまぁ……安心せぃ。まだ大丈夫じゃ。まだ今のところはの。まもなく『色彩』が来る。その時こそ正念場じゃ」

「『色彩』? なんぞそれは。オイにもわかる様に説明してくれろ!」

「知ったところで其方らには動けんよ。そうさなぁ……手を結べ、言葉を交わせ。ではな」

「オイオイオイオイオイ! ちょい待ち、ほんにちょい待ち! まだ話は半分―――」

 

 ぶちっと会話は打ち切られ、再びイズナとクズノハを区切る様にまたロックがかかってしまう。勢いよくノックしてみるが反応はない。門前払いの空気が漂っていた。

 

「……くああああ!!! 煙に巻きおってからにぃ~! なーんもわからんちぃ!!!!」

 




次回『法術について―――明星ヒマリの考察Ⅱ』

現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?

  • 区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
  • このままもう少し早く出して欲しい
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