先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
「報告書はまとめておいた。ザトーから報告があった三人、そしてカイとフレデリックが遭遇した一人、全員あのソラという少女と同じくキヴォトスの住人だ」
疲れ果てた様子のレオからばさっと勢いよく投げ出されたのは書類の山。異世界からの漂流者について彼なりにまとめあげた報告書である。
イリュリア用、他国への説明用、それはもう山ほど必要になる書類を彼は一人でまとめあげた。豪胆で不遜な物言いに似合わず、レオ=ホワイトファングという男は細かな気配りができるのだ。
報告書を手に取り、カイはその内容に目を通す。第一連王である彼の執務室には状況を改めて把握するべく、フレデリックも居合わせている。
「……ウタハ、ヒビキ、コトリ、それからヒマリ。全員同じスクールの生徒なのですね?」
「ああ。ミレニアムサイエンススクール、キヴォトスでは発明家連中が揃ったインテリの集いだそうだ。俺にはにわかには信じられんが……」
「敵じゃねぇのは確かなんだな?」
「ん、まぁそれは間違いない。本人達が言うには武器をあっち側に置いてきたそうだが」
「武器」
「銃器だそうだ。ピストルではなくライフルだのガトリングガンだの……」
信じられるか?と言わんばかりにレオが肩をすくめ、カイとソルは顔を見合わせる。冗談か、と問いたかったが獅子を思わせる第二連王の顔には真剣味がある。
資料作成を含め、漂流者達の聴取はレオが行った。つまり彼の目から見て今の内容は虚偽とは感じられなかったという事だ。
「まあその、なんだ。俺が言いたいのはな……あの子供達は、少年兵か何かじゃないか?」
「あのソラという少女と同様の説明ですね。キヴォトスでは銃器の携行は当たり前……むしろ持っていない事はありえない。相当治安が悪い、と捉えるべきでしょうか」
「問題は、その治安が悪い学園都市群キヴォトスでギアメーカーが先生などという役職を務めているという点だ。にわかには信じられん、色々とな」
チラリとレオはフレデリックの顔色を伺う。何か言いたそうな顔をしているが、口を開く様子はない。異世界における飛鳥の立ち位置というものに思うところはあるのだろう。事実、ソラから最初にこの話を聞いた時に誰よりも戸惑っていたのは長年の友人である彼だった。
ふぅ、とため息をついたのはカイだ。報告書をテーブルの上に置き、かぶりを振って、
「文面だけでは判断しきれない事が非常に多い。彼女達に確かめてみる必要がありますね……どの道、ここがどこなのかも説明しなければならない」
「あのヒマリとかいうガキにはほぼバレてる。それどころか、何か知ってる様な物言いだ。どこまで飛鳥の事を知っているのか聞き出すぞ」
〇
「ふふふ、事情聴取というより尋問の様な空気感ですね。仕方ありませんね、見たところ私の存在は相当怪しい様ですし」
イリュリア城の一角、異世界から転移してきた少女達を保護するべく設けられたある部屋ではヒマリが一人ソファに腰かけている。そして彼女とテーブルを挟んで向かい合うのは、カイとフレデリックである。
転移してきた際にヒマリが座っていた駆動式の車椅子は電源を落とした上でジャックオーが解析を行っている最中だ。何しろ禁止されている電子回路を山ほど積み込んでおり、得体が知れない。ヒマリの足が不自由である事はわかっていたが取り上げざるを得なかった次第である。
「安心してください。私達は決して危害を与えるつもりはありません。貴女にお話があってここに来ました」
「手短に用件だけ聞く。テメェはどこまで飛鳥の事を知ってる」
あくまでも丁寧な物腰を心がけるカイに対してフレデリックは荒っぽさを隠そうともしない。その姿勢に咎める視線を向けられながらも彼は威圧的な態度はそのままにヒマリをじっと見つめる。
自分よりも遥かに大柄な相手に睨まれながらもヒマリはどこ吹く風で口元に手を当て、
「そうですね、どこまで……というのが飛鳥先生の人格面なのか能力面なのかによりますが、お二人が知りたいのは『法術』に関してでしょう?」
「―――アイツから聞いたのか?」
「ええ。といっても私から聞き出しました。無から有を生み出す、現実改変に近い事象。興味深いとは思いませんか? 私、『特異現象捜査部』という部活の部長を務めているものでして」
法術を知っている。更に言えばどの様なものであるのかをおおまかに把握している。しかも飛鳥に聞き出す形で知ったとなれば、カイもフレデリックも認識を切り替える。別の世界から迷い込んだ存在ではなく、今直面している問題の解決策を知り得る者へと。
カイは姿勢を正し、ヒマリを見据える。
「では単刀直入に。原理は不明ですが、明星さんはキヴォトスから別の世界にいます。我々の世界では既に機械文明は廃れて久しく……そして一〇〇年に渡る戦争を経験しました。ですが、異世界との交流は初めてです。できる事なら手を取り合いたい。明星さんや、エンジニア部の少女達を元の世界に戻せないか……キヴォトスにいる飛鳥さん達を連れ戻せないか、それを模索しています」
「なるほど。つまり、私達は連れてこられたというよりも来てしまったという感じなのですね。ふむふむ、ふむふむ。なかなか良いタイミングです」
「タイミング? 何のタイミングだ」
「ちょうど並行世界論に手を伸ばしていたところなんですよ。飛鳥先生の持つ法術という特異現象はこの世界のものではなく、異なる世界の異なる文明で培われたある種の技術なのではないか?と一人考察していたところで」
くすり、とヒマリは微笑み、
「まぁそういうわけで、実際にどうやって並行世界に跳ぶ事ができるのか?という命題を一人進めていたところでここに転移した次第です。まさか移動の為に必要な足を取り上げられるとは思いませんでした」
「それに関しては」
「ええ、良いんです。使わない、使えない取り決めなのでしょうから」
ヒマリはサラリと重要な事実を言ってのけた。機械使用禁止、あくまでもカイは廃れていると言っただけに留めたというのに彼女はその理由が『使えない』事にあると理解していたのだ。
フレデリックが眉を吊り上げる。その仕草は警戒よりも興味によるものだ。
「なんでそう思った、言ってみろ」
「この世界に跳んだ直後、そして部屋に連れてこられるまでに私は機械と呼べるものをほとんど見ていません。すべて法術を利用して疑似的に機械を再現したものばかり……内部は法術を利用して電子回路を再現しているのでしょう? 通信技術や電灯まで法術で再現しています。何故そこまでするのか? 一番の理由は電気や化石燃料と言ったいわゆる旧時代的なエネルギーを利用せずに済むからなのでしょうが、それでは車椅子を私から引き剥がした理由にはならない。となれば導き出せるのは至極簡単。この世界では機械文明、いいえ、電子回路の使用がなんらかの理由で禁止されているのですね?」
「……ほぉ、よくわかってんじゃねぇか」
「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない、とは言いますが法術はその極みですね。恐らく電卓まで法術でしょう? ふふふ、文明レベルという点ではキヴォトスよりもレベルは下がりますが、技術力という点では遥かに凌駕しています。なんて興味深い……元の世界に帰りたい気持ちはもちろんありますが、もっと法術について知りたい気持ちでいっぱいです」
予想以上に、予想以上にヒマリの理解は早かった。幾ら事前に法術の存在を知っているとは言え、彼女は僅かな情報のみでカイ達が生きる世界について把握した。
天才、そう呼ぶに相応しい。フレデリック、ひいては飛鳥に匹敵する頭脳を持っているのだ、ヒマリは。
であれば、霧に包まれた様に停滞していた現状を打開する方法を彼女は知っている。並行世界に対する探究心、法術への理解。どちらも揃っているヒマリからの協力を得られれば事態を解決する手掛かりが得られるはずだ。
「―――明星さん、そこまで理解されているなら改めて貴女に頼みたい事があります。まだ年若い貴女には申し訳ないとは思いますが……力を貸してください。異世界キヴォトスへと向かう手段を、共に見つけたいのです」
それは単に連れ去られた仲間達を取り戻したいというだけではない。一人の大人として、迷い込んでしまったヒマリ達を元の世界に返してやりたいという責任感からだった。
と、そんなカイの熱い眼差しにヒマリはにっこりと微笑む。
「ええ、すぐに見つけられますよ。帰る方法」
「は―――?」
「理論はほぼ完成しています。重要なのはそれが実現可能かそうでないか……ですがご安心ください。技術レベルでは貴方達には劣りますが、キヴォトスには優秀な技術者がいますので」
「おい、待て。待ちやがれ。今なんつった?」
「? ですから、キヴォトスに戻る方法はすぐに準備できます。何故かと言われれば……私が『全知』だからです♪」
あっけらかんとヒマリは言ってのけた。並行世界移動は可能であり、そして自分ならばその方法を導けると。
これにはカイもフレデリックも馬鹿な、と声を出しかける。しかし既にヒマリがいかに優れた人間であるかはわかっている以上、一笑に付す事はできない。
「ぎ、技術者というのは?」
「エンジニア部の三人です。皆さんからは想像がつかないとは思いますけど、彼女達はキヴォトスにおいても天才に分類される側です。彼女達への技術提供、そして私に法術の基礎理論を教えていただけましたら……『門』を開けてみせましょう。魔法使いとして」
「なら、先に教えろ。何をどうしたら向こう側と繋げられる? テメェは地図もねぇのに道がわかるっていうのか」
「わかります。何故ならそれを可能にするのが、理を捻じ曲げる法術のなせる技でしょう?」
ヒマリはテーブルに置かれていた紙とペンに手を伸ばし、そこにサラサラと図を記し始める。何かの設計図に見えるが……?
「ミレニアムにはこんな噂があります。『並行世界への跳躍を可能にしている施設が廃墟のどこかに眠っている』、と。馬鹿げた話でしょうが私は『特異現象捜査部』です。飛鳥先生の存在を考えれば研究するのは当然です」
「……あの、まさかとは思いますが」
「ええ、見つけたんです。『異世界に跳べる施設』。残念な事に中枢部分が破損しており修繕しようにも一番重要なエネルギー供給が解決しなかったもので……ふふふ、後はわかりますね?」
「待ってください。あの、それはつまり、キヴォトスとの道を繋げる為に正体不明の設備を開発するという様に聞こえたんですが?」
「そうですが……?」
否、とカイはかぶりを振る。そんな事を到底許容する事はできない。危険すぎるのだ、いくら切羽詰まっていると言えど許可はできない。天才少女の提案だとしてもである。
が、フレデリックはじっとヒマリの描く設計図を見ながら真剣に考え込んでいる。
「……不可能じゃねぇ。だが確かにテメェが言う様に電力供給に問題があるな。セントエルモの灯以上のエネルギー源が必要になる。どこのバカだこんな代物を用意しやがったのは」
「私にも不明です。キヴォトスにかつていた『賢者』が作り出したと言われていますが、知る由もありません」
「カイ。だいぶ分の悪い賭けにはなるが、やってみる価値はありそうだぞ」
「お前がそう言うのならば、信じて良いんだな?」
恐る恐るカイはフレデリックに尋ねる。優秀な科学者であり、飛鳥と共にギア細胞の開発に携わっていた彼が断言するからにはヒマリの言う『施設』は実際に並行世界への転移を可能とする代物なのだろう。
フレデリックはゆっくりと頷く。
「作り上げるには……月にいるアイツの力がいる。野郎の事だ、もう飛鳥と同じ結論に辿り着いてる頃だ」
一か八か、二つの世界の技術を結集させてキヴォトスに繋がる橋を作るしかあるまい。
カイは重くため息をついた後―――
「今はできる事をするしかない、か。わかりました、明星さん。すぐに人数を集めて取り掛かります。どれくらいの時間で完成させられるかだけ教えてもらえますか?」
「三日と言ったところでしょうか」
「み、三日……!? で、では……その様に」
想定外の来訪者からの思わぬ提案。しかしこの出会いは来たるべき善意の集積点に繋がる足掛かりとなる。
今まで相互とは言い難かった二つの世界が、遂に繋がろうとしていた。
困った事にヒマリとエンジニア部ならできちゃうんですね、こういうの。インテリって便利~とあるコラボで急に出てきた異世界へ飛べる施設便利~。
ちなみになんですがこの施設、せっかくふわふわしていたので独自設定組み込んでます。
そしてさらに余計な事言うんですが、この場にいるべきブルアカ側のキャラが一人足りません。そのキャラのいるかいないかが最終決戦に繋がります。どういう事かは、頑張って続きを書くので期待して!
現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?
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区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
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このままもう少し早く出して欲しい