先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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二週間も空いたぞこの野郎。
その分一万文字になりました、すみません。


Come Back

「えー、まずはこの作戦に協力してくれる諸君へ感謝を。特に、技術面で協力してくれたキヴォトスの少女達に。そして改めて自己紹介しよう。私は本作戦の指揮を務めるDr.パラダイムだ。ドクターと呼ぶ様に」

 

 三日。ヒマリが指定した通りに三日の内に異世界への転移装置は完成した。開発者であるフレデリックとしては不満足な様で「完成しちゃいねぇプロトタイプだ」と口を尖らせてはいるものの、パラダイムとアリエルス、そしてヒマリ本人のチェックをした上で『転移は可能』との結論が下りた。遂にキヴォトスへの道が開くのである。

 そんなわけで作戦開始前にちょっとした演説をしに装置が置かれた地下室までやってきたパラダイムなのだが、彼の風貌を見たエンジニア部三人の反応はここに来て更なる探究心に駆られていた。

 

「見てくださいよ部長。喋る犬や猫は見た事ありますがトカゲは初めて見ます」

「トカゲ……というよりドラゴン? 面白い」

「ここに来て一番の驚きポイントがやってきたようだね……主食が何かとか聞いてみたい」

 

 口々に興味を漏らしながら見つめてくる少女達の視線に少々気まずそうに咳払いしつつ、パラダイムは装置を背にしたままで話を続ける。

 地下室にはヒマリとエンジニア部、そしてソラの五人に加え万が一の事態――たとえば爆発――を踏まえてシンとフレデリックの姿もあった。

 

「まずは本作戦の具体的な内容を改めて説明しよう。

 フェーズ1。装置を起動し、エネルギー供給に問題がないかをチェック。もしもこの時点で想定と異なる何かがあれば即座に装置を停止させるぞ。

 フェーズ2。バックヤード内にいるイズナとアリエルスの二名からのゲートロック解除を確認次第、バックヤードからの情報を参照して転移先をキヴォトスに指定。ここに関しては……我々の『協力者』の力が必要だ。

 そしてフェーズ3。装置を通してビーコンを射出し、キヴォトスとの繋がりを確立。そしてようやく、皆を元の世界に戻すというわけだ。ええと、明星君。今の説明で何か気になる箇所はあるかね?」

 

 パラダイムがちらりとヒマリの反応を窺う。例の電動車いす(電源はまだつけていない)に腰かけ、彼女は少しばかり不可解な様子で、

 

「フェーズ2についてです。バックヤードが高濃度情報圧縮空間である事は承知していますが、そこからの情報参照を行う『協力者』とはどなたの事なのでしょうか? 皆さん、その方ならば問題ないと確信されている様ですが」

「あ~……そこはだな。まぁなんだ、申し訳ないのだが教えられんのだ。要らぬ誤解を招くのでな。安心して欲しい、有害な人物などではない」

「それならばよいのですが……」

 

 協力者、というのが月面にいるもう一人の飛鳥である事はヒマリ達には伝えていない。彼女達にとって飛鳥はキヴォトスにいる方であり、もう一人クローンがいるなど混乱させては作戦にノイズが挟まると考慮してだ。

 更に言えば……自然と飛鳥本人の経歴について触れる事になる。先生という立場である彼がこの世界では大罪人であるなど彼女達は知らなくても良い、というカイの判断だった。

 腑に落ちない様子だが念を押されてはヒマリもあまり追及はせず、「では問題はありません」と頷く。

 

「それでは、あとは装置を起動しビーコンを射出する際の障害だけですね。こればかりはどうなるか私にもわかりません。何しろ初めての事なので」

「……そうだな、そこが問題だ。一度バックヤードを経由するからには異常な情報密度の空間を通らなきゃならねぇ。ビーコンが無事に通過できるかどうかは、やってみねぇとわからねぇか」

 

 フレデリックが口を挟む。ヒマリが危惧しているのは、装置によってキヴォトスへ辿り着くまでに通過しなければならない狭間とでも言うべき場所についてだ。

 大前提としてバックヤードは通常どんな生命体であれ踏み込んだ時点で情報の波に飲まれ崩壊してしまう。法力を利用する事で強靭な肉体を得ているギアや、バックヤード内で生まれたヴァレンタイン、因果律干渉体と言った特殊な存在は例外ではあるものの、今回は異世界との境界線を跨ぐという異例のケースだ。

 

「まぁまぁ旦那。それにヒマリちゃん、そこは俺に任せんしゃい。このアクセル様が向こうまで跳ぶから、さ!」

 

 幸いな事に例外の一人、世界の壁を飛び越える力を持つアクセルならば障壁は突破できる。ご機嫌な様子で地下室にやってきた彼は銃を鉄砲の形に構え、フレデリックへとそそくさと駆け寄って肩を組む始末だ。

 

「ちっ、めんどくせぇテンションだ」

「だってさ~! しょうがないじゃんねぇ、遂にセイアちゃんに会えるわけだしぃ? 俺、一緒にお茶しようなんて約束しちゃったのよん。男アクセル=ロウ、女の子からのお誘いなんてもー久しぶりっつーわけ! なはは!」

 

 最初にキヴォトスの存在を感知し、そして向こう側の住人とコンタクトを取ったのは他でもないアクセルだ。夢の中で言葉を交わし、そして親交を深めた事は本人の口からはこれでもかという程喧伝されていた。遂に実際に会えるチャンスが舞い込んできたという事でご覧のありさまなのだ。

 と、これから元の世界に戻る作戦が行われようかというので若干緊張している少女達に気付いたアクセルはこほん、と咳払い。

 

「あの、えっとね、任せておきんしゃい? こう見えて俺、この手のには慣れてるからさ。ちゃんと皆を送り帰すからさ?」

「……怪しいなぁ」

「怪しいね」

「怪しい」

「怪しい!」

「あまり心から信頼できないところがありますね……」

「オアーッ、まあいいでしょここからイメージ回復すればゼロから百だかんね!!」

 

 五人の少女からの怒涛の言葉攻め。アクセルは口をあんぐりと開け、愕然とした後に無理やり笑みを浮かべ、虚勢を張るのだった。

 

 

「カイ殿、こちらの準備は万端だ。浮ついた男が一人お仕置きされたが進行には問題ない」

『? わ、わかりました。こちらでも作戦中の異変はすぐに知らせます。装置を起動してください』

 

 そうして遂に作戦開始時刻が迫る。これまで開かれた事のなかった別次元への扉が、二つの世界に住まう住人達の協力によって音を立てて動き始めている。

 と、その状況でシンは足早にヒマリの下へと駆け寄っていた。別れの挨拶である。また視線が合う様にしゃがみこむと、拳をぐっと握り締めた。

 

「ヒマリ、今度は俺もそっちに行くからさ、そん時は色々教えてくれよな! ゼンチが先生になるなら俺もオヤジみたいに頭良くなるかもしれないし! な、オヤジ!」

「だとしても迷惑だけはかけるんじゃねぇぞ。ヒマリも、あんまり真に受けるなよ。そいつは今四則計算があやふやだ」

「ご安心を。四則計算でしたら完璧に教えてみせますので」

 

 また会えるかどうかの保証はまだできないとお互いに承知している。けれどそこまで淡白になるものでもない。シンはその上できっとまた会えると確信していて、ヒマリもそんな彼の熱に少なからず影響も受けていた。

 

「よし、では行くぞ諸君。装置を起動する!」

 

 パラダイムの声に合わせ、転移装置が音を立てて動き出す。法力が駆け巡る甲高い音に続き、空間が震える様な感覚が全員の肌を刺激する。本能とでも呼ぶべきものが騒ぎ立てるのだ、理とでも呼ぶべきものが崩れ始める瞬間を。

 続いてフレデリックの元へ、月面にいるもう一人の飛鳥を介した通信が繋げられる。イズナからだ。

 

『おーいこちらイズナ! ゲートのロック解除したでよ、座標データを送信する!』

「よし、受け取った。座標データ入力を確認……見えたぞ、キヴォトスの『存在』が!」

 

 やがて転移装置中心の空間にゆっくりと光輪が姿を現わす。高速で回転を続けるそれは門とでも呼ぶべきものであり、異世界に向けて開けられた穴でもある。

 フェーズ2までは無事に終了した。続いてビーコンの射出である。肉体労働担当であるシンは槍の様に細長いビーコンを構え、勢いよく光輪目掛けて放り投げた。

 

「うおらっ!!」

 

 ビーコンが光輪を通り抜け、そして音もなく姿を消す。表面には飛鳥=R♯の手でバックヤード内部の情報密度にも耐えきれる加工が施されてはいるものの、どれほど耐えられるのかは未知数である。だが実行しない事には結果など得られはしない。どんな手段でも試すしかないのだ。

 キヴォトスにいるクズノハなる人物が99秒だけゲートを開けている間に全てを完遂しなけばならない。ビーコンが虚空に消え、数秒が経過しようとしている。パラダイムの額にじわりと汗が滲み、そして、

 

「むっ!! ビーコンが届いた!! ゲートの接続、問題なく確立。アクセル殿、道案内を頼む!」

「よっしゃあ! 皆ついてきな!」

 

 準備は整った。因果律干渉体であるアクセルの導きであれば、時空の狭間であろうと通り抜ける事自体は問題ない。後は走り抜けるだけだ。

 足が遅いヒマリを筆頭に少女達はアクセルの後に続く形で虚空へと進んでいく。と、時間が惜しいところで全員がゆっくりと振り返る。

 

「シン、また会える時をお待ちしていますね」

「フレデリック、君からもらった『アイデア』……うまく活用させてもらうよ」

「服のデザイン、かなりロックだった。インスピレーションありがとう」

「フレデリック親方からの熱いげんこつは忘れません! それでは!」

 

 シンは親指を立て、そしてフレデリックは気恥ずかしそうに頬を掻く。その反応で満足したのか四人は光輪の先へと進んでいき、最後にソラだけが残った。頬を赤く染め、何か言いたそうに口をモゴモゴとさせる。時間がないというのに、彼女は伝えたい事がある様だった。

 しょうがねぇ、とフレデリックはため息をつくとソラの下まで歩いていく。

 

「おい、早く行け。時間がねぇぞ」

「はいっ! でもあの……お詫びと、お礼を。初めて会った時ゴリラって言ってすみませんでした」

「……おう」

「それでその、飛鳥先生の話、聞かせてもらえてよかったです。フレデリックさんに良くしてもらった事をちゃんと伝えます!」

「……気をつけて行けよ」

「ひゃ、ひゃい! では!!」

 

 そうして、ソラも小走りで光輪へと消えていく。

 フレデリックとシン、そしてパラダイムは少女達の姿が消えた後もじっと虚空に浮かぶ門を見据えていた。最後まで気が抜けないのだ。

 

『聞こえていますか? やはり情報素子量は上昇しています。ですが……飛鳥さんのモノと比べると数値としてはあまり高くはないようです。アリエルスが話していた様に二つの世界が近付いている影響でしょうか』

「まだわからん。まもなく99秒だ。辿り着けると良いのだが……」

「オヤジ、わっかがどんどん薄くなってないか?」

 

 シンが指を差して言う様に光輪は徐々に回転の勢いを失い、どんどん薄れている様に見える。クズノハの定めていた99秒の終了に伴い、門が消えようとしているのだ。

 アクセル達が向こうに辿り着けたのかはまだわからない。何か向こう側からの合図があれば……そう考えていたところで、不意に光輪の先から何かがひゅっと風切り音を伴って飛び出した。

 

「ッ!?」

 

 フレデリック目掛けて飛んできたソレを難なく掴み取り、彼は指を広げる。掌にあるのはコインだ。この世界のものではない、恐らくキヴォトスで流通している貨幣である。そして表面にはどうやって書いたのかわからないが、『ALL RIGHT』の一文が刻まれている。

 それが向こう側に辿り着いたアクセルによるものである事はすぐに理解できた。恐らく向こうに空いているゲートからこちらへと投げ込んだのだろう。よく狭間に消えなかったものだ。

 

「オヤジ、それって」

「ああ、一回目は成功だ。なんとかな……!」

 

 

「おお、聞いたかアリエルス! 成功したっちゃが! くぅ~、オイもようやく役に立てたと!」

 

 作戦成功の報せはバックヤード内部で裏方に徹していた二人にも伝わっていた。ほっと胸を撫で下ろしつつも歓喜のあまりぴょんぴょんと跳ね、小躍りする勢いのイズナに対してアリエルスはまだ不安げな表情を浮かべている。まだ解せない事がある様子で、

 

「……ええ、喜ばしい事です。ですが次を考えなければいけません。やはり情報素子量の上昇はあった。けれど情報体フレアの出現は軽微なもの。理論通りであれば次に私達が門を開ける時にはリスクはもっと減少していると考えるべきです」

「ん? んだば良い事じゃなか? なしてそげな顔する」

「成功したからには、次回に備える必要があります。イズナ、貴方の足の速さを見込んで探して欲しい人物がいるのですが頼めますか?」

 

 アリエルスは既にこれから起きるであろう事態を予測し始めている。いずれ二つの世界が溶け合う、彼女はそう口にしていた。恐らくその時を見越しての話だ。しかし探して欲しい人物とは? イズナは耳を傾ける。

 

「ちゃーんとこの世界におるんなら問題はないんけども、どこの誰ぞ?」

「今必要なのは三人。『調律師』、そして時空超越の法術を扱える『医者』。この二人はカイ=キスクがすぐに手配してくれるでしょうが、問題は最後の一人です。

 そして最後の一人は……『鍵』を持つ者です。見つけられるのは貴方しかいないかも」

「か、鍵? どういうこっちゃ」

「見ればわかります。意思を持った鍵を伴侶とし、世界を放浪しているホムンクルス。その名は―――A.B.A」

 

 

「というわけで、異世界より帰還しました。飛鳥先生」

「どういうわけなんだか……」

 

 時は戻り、現在。キヴォトス。

 モモイより意味のわからない連絡を受け取った飛鳥がミレニアムに直行したところ、すぐにヒマリからの連絡を受け彼女も異世界へと転移していた事を知らされた。

 ひとまず誰よりも状況を把握しているであろう彼女からの説明を受けたところなのだが、特異現象捜査部の部室には今のところヒマリ一人だけだ。どうやら貴重な部員であるエイミはどこかに出かけているらしい。

 

「……アクセル=ロウは? 彼が君達を元の世界に連れ戻したんじゃ」

「ええ、それなんですが、キヴォトスに通じているゲートを一緒に通ったところまでは見ました。ですが気付いた時にはもういなくて」

「ふむ、別の時間に跳んでしまったか。それはさておき無事でよかった。ちょっとばかり僕も急な展開に面食らっているよ。ひとまず今日は休んで、念の為明日はメディカルチェックをしよう。それから改めて君が見たもの、聞いたものについて答えるよ。それじゃ僕はエンジニア部の生徒達と、ソラさんの様子を見てくる」

 

 キヴォトスから飛鳥の世界へヒマリ達は転移し、無事に戻ってきた。とはいえバックヤードを経由して戻ってきたからには肉体に何かしらの影響を受けている可能性は捨てきれない。念の為残りの生徒達に会いに行き、健康状態を確認しなければならない。

 と、ヒマリはそこで疑わしげな表情を浮かべ、飛鳥をじっと見つめた。

 

「先生」

「ん?」

「先生は元の世界で、何をしていらっしゃったんですか?」

「と、いうと?」

「貴方を友人と呼ぶ方にお会いしました。彼の言葉に嘘はなかったと思います。ですが……心なしか飛鳥先生について話す事を、あの世界の方々は意識して避けている様に見えました」

 

 それが何故なのかは考えるまでもない。フレデリック達はきっとヒマリ達に飛鳥=R=クロイツが今まで何をしてきた人間なのか、それを隠したのだ。彼はその判断に「ありがとう」と口中で感謝の言葉を呟いていた。

 先生である自分がかつて世界を破滅に追いやろうとした人間である。それを明らかにするのはエデン条約の日と決めているのだから。

 

「……いつか、ちゃんとした説明をする。君達が満足の行く様に、必ず。それまでもう少しだけ待ってほしい」

「その反応で大体は推察できてしまいますよ……ですが安心してください。もしも私が考えている通りの内容でしたら、それでも私は先生の事を信頼していますから」

 

 飛鳥はそれ以上の会話を危険だと判断し、「それじゃあ」と無理矢理会話を打ち切って部室を後にしていた。

 室内に残されたのはヒマリ一人だけ。車椅子に背中を預け、彼女は誰に聞かせるわけでもない呟きを一つ漏らす。

 

「……心配しなくても、誰も貴方を責めないと思うのですが」

 

 

 同時刻。異世界から戻ってきたばかりだというのにエンジニア部の三人は、アリスを連れて部室に帰ってきたロボカイの改造に着手していた。二人からすれば少し目を離していた間に異世界へ行っただの、ロボカイの知り合いに会っただの怒涛の展開に目を丸くしていた。

 すぐにアリスが意味不明な連絡を飛ばした影響でモモイ達ゲーム開発部の面々も部室に駆けつけ、どういうわけか彼女達に見守られながらロボカイver2のお披露目が刻一刻と迫っていた。

 

「な、なぁウタハ? 話がまったく読めんのだガ?」

「静かに、そして動かないで。さっき話した様に君の保護者に会ったんだよ。それでね、ロボカイの改造案について実は少し話したんだ。どうしたら妖精感が、マスコット感が出るかとね」

「ン、ンン? ン~??? まぁ良いだろウ。ちょっとキャパオーバーしそうだからひとまず早く完成させてくレ。そこにいる勇者様から雷落ちるゾ」

「むー! 今度こそロボカイの妖精感をお願いします、ウタハ!」

 

 妖精感とは一体何なのか、当初ウタハ達の悩みはそれだった。しかしあのパン屋を営む男、ヴェノムからイリュリア城に連れていかれるまでにロボカイに関する話を聞き出す事で新たなフォルムが三人の脳におぼろげながら浮かび上がったのである。

 

『彼はよく店先で客引きをしてくれている。少しばかり法律に抵触しそうなやり方だが、彼の形状は子供ウケがよかったな……』

 

「大事なのは生首である事。妖精であるからには浮遊は欠かさずに取り入れたい」

「次に大事なのは見た目。可愛げとメリハリ」

「そして最後に機能性! ありがとうございますフレデリック親方! 休憩中にサッとアイデアにアドバイスしてくれた事に心からの感謝を!」

 

『よし、完成! ロボカイver2!』

 

 そうして遂に誕生したロボカイの新たな姿は……以前とさほど変わらない生首だ。首の根本に正方形のボックスが新たに増設されているものの、相変わらず不思議な外見である。

 ムムム、とロボカイが唸る。アリス達もむむむ、と唸る。

 

「おイ、変わってる感じがせんゾ」

「ロボカイ。手足を伸ばすイメージを浮かべてほしい」

「? 手足ヲ……ン、ヌゥ!?」

 

 ウタハの促しにロボカイがどういう事かと疑問に思いながらもぞもぞと動いた、次の瞬間。それは起こった。

 新たに増設されたボックスの側面と底面から、なんとタコの足を連想させるメカアームがニョキニョキと伸びてきたのである。これにモモイ達から「きもぉい……」とまぁまぁな罵倒が飛ぶ。

 が、この奇怪なフォームに目を輝かせる者が一人。ドン引きしている仲間をよそに勇者アリスは満面の笑みでロボカイに駆け寄ると、メカアームにガッツポーズを取った。

 

「凄いです! これぞまさに妖精のフォルムです! 愛らしさを感じます!」

「そ、そうだよアリス! 流石にこれはキモくない!?」

「モモイ頭齧るゾ! ホントにこれで良いのカアリス??」

「はい! さっきよりずっと高評価です!」

「アアァ……なんかわからんガ、喜んでいるなら良いのカ……? 礼を言うぞウタハ」

 

 ニョキニョキ動くメカアームに大はしゃぎのアリスをよそに、ロボカイはぺこりと頭を下げる。なんてことはない、とマイスター達はやり遂げた顔で頷き返す。

 

「にしてモ、ヴェノムの奴何かワシに言ってたカ? サボってるとか思われていないと良いんだガ」

「寂しがっていたよ。君の無事を聞いて安心していたからね」

「ふーン、そうカ。そうカ……」

 

 ロボカイは少し嬉しそうにカメラアイを光らせ、ムフフと笑う。異なる世界にいる相棒の様子を聞けたおかげか嬉しそうだった。

 

「ムフフ、奴めそっけないフリしておるがやっぱりワシのこ―――どはぁ!?」

 

 が、そんなムードはすぐに勇者アリスに阻まれる。彼女はグイと思い切りメカアームを引っ張り、ロボカイを連れて部室の出入り口へと歩き始めたのだ。何の迷いもない動きから繰り出される仮にも鋼鉄であるロボカイを腕力たるや、恐ろしいものがある。

 

「ではロボカイ! 冒険に出かけましょう! 新しい装備を皆にお披露目です!」

「エ~! もう少し待ってくれ今ワシ結構ドラマチックなシーンだったのニィ~~!!!!」

 

 その日、アリスはロボカイを連れ回し顔見知り全員にロボカイの新しい形態を見せつけていった。

 ほぼ全員が「キモい」という直球のコメントを残したのだが、アリスはその評価も妖精感があって良いという無敵と評するに相応しい精神状態なのだった。

 

 

 そうして、最後にソラは己の城とでも言うべき『エンジェル24』へと戻ってきた。第二の家と言っても良い場所へ。

 

「やった~! 帰ってこられた! わーい!!」

 

 店内へと駆け込み、見慣れた商品の陳列棚に目を輝かせ、そして定位置と言うべきカウンターへと駆け寄る。退屈で仕方ないと感じていたコンビニの店内が今は懐かしささえ感じられて仕方がない。心からの喜びが声となって漏れてしまうレベルだ。

 さぁカウンターではキャッシャーが主の帰りを待って―――いなかった。

 

「い、いらっしゃいませ」

 

 本来ソラが立つべきカウンターに、見知らぬ生徒がいる。やたらスレンダーでやたらかっこよくして、やたら美人な生徒が。

 

「え、だ、誰」

「だ、誰と言われると『エンジェル24』の店員、錠前サオリだ。よろしく頼む」

「へ、へへぇ……? だ、誰……!?!?」

「店員……なんだが?」

 

 よもや自分がいない間に飛鳥が別の店員を雇っていたなど知る由もなく、ただただ突然の展開にソラはその場にへたり込んでしまうのだった。

 

 

「……んーと、旦那にメッセージ送れたのはいいんだけど。ここはどこ?」

 

 さて、キヴォトスの住民が元居た場所に戻ってこられた一方でただ一人弾かれた男がいる。

 因果律干渉体、アクセル=ロウ。彼は確かにキヴォトスにやってきたものの、明らかに異質な場所にいた。

 暗い、まるで太陽から見放されたかの様な世界。古い建物がいくつも立ち並ぶ、廃墟の街。その路地裏だ。

 

「なーんか嫌な予感するかも」

 

 彼はまだ知らない。自分がどこに飛ばされたのか。

 その時代に『飛鳥=R=クロイツはいない』。アクセルが跳んだのはもっと過去の時間なのだ。

 

「ん?」

 

 何か騒ぎ声が聞こえる。ゆっくりと路地裏から動き出し、正体を確かめに向かう。

 大通りらしい広い場所に出ると、そこではパレードが行われていた。瘦せこけた街には不釣り合いな豪華な様子を見るに、どうやら今日は特別な日らしい。

 道行く人々に紛れ、パレードへと近付いていく。中心部には、一人の少女がチョコンと座っていた。綺麗な服で着飾っている。だがその表情は曇っていて、楽しそうには見えない。

 

(ああ、こりゃパレードじゃないな。こりゃ……生贄か何かなんだ)

 

 伊達に長い間時間を彷徨ってはいない。アクセルは少女が神輿と呼ばれるものであると理解していた。

 何故なのかまではわからない。だが、いけ好かないのは確かだった。

 もう少しだけ近くで見てみようかと考えていたところで、

 

「この、ガキ!」

 

 怒号が聞こえた。同時に鈍い音も続き、それが暴力によるものだと即座に理解したアクセルはひた走った。

 人混みがさっと広がっていき、ぽっかりと空いた場所には男と小さな女の子がいる。大人は拳を握り締め、女の子の胸倉を掴んでいた。既に彼女の頬は赤く腫れており、それに気付いたアクセルは思わず叫んでいた。

 

「何してやがる!」

 

 アクセルは暴力が好きではない。というか好きな人間がいてはいけない。故に目の前で起きている事を許せなかった。

 男の腕を掴み、無理矢理女の子から引き剥がす。突然の乱入に彼は驚いた様子だった。

 

「なんだお前は! そのガキはな、スリをしようとしてたんだぞ!」

「だからって大の大人がそんな強く拳握って、殴り飛ばして良いわけないでしょーが!」

 

 女の子を庇う様にして立ちふさがるアクセルにいけ好かない表情を浮かべながら、男は舌打ちと共に離れていく。残された二人には周囲から侮蔑を込めた視線が並々と注がれていた。

 何か、何か異質だ。今まで治安の悪いところは沢山見てきたが、いくらスリとは言え子供に暴力が振るわれたにも関わらず誰も気にしていない。

 

「……なんなんだよここは。おい、大丈夫かい」

 

 アクセルは女の子の様子を見ようとしゃがみ込み、頬に手を添える。口の中を切っている様で小さな体がびくっと震えた。

 随分とやせ細っている。満足に何も食べられていないのだ。孤児である事は誰の目から見ても明らかで、アクセルは胸がズキリと痛んだ。

 

「君、名前は? 家はどこ? 俺はアクセル」

「……オリ」

 

 か細い声で女の子は答える。喉から絞り出す様に、小さく、小さく、

 

「錠前、サオリ」

 

 

―――アクセルが跳んだ時間は過去。『彼女達』が身を寄せ合い必死に生きていた時。

―――アクセルが跳んだ場所はアリウス分校。トリニティからの弾圧を受け切り離された、憐れな天使達の根城。




ようやく次回よりエデン条約編Vol.4が始まります。くそ長くて申し訳ない。
エデン条約編と言いますが、実際のところは準最終決戦です。トリニティだけではなくキヴォトス全体を巻き込んで飛鳥vsケイオスが展開されます。

現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?

  • 区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
  • このままもう少し早く出して欲しい
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