先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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多分今回と次回でしばらくコメディ要素はなしなしです


君を知りたい

「はぁ~暇です。暇すぎます。帰ってこられたのは嬉しいけど結局お客さんが来ない……二人いてもあんまり意味ないですねこれ」

 

 バイトとしては先輩にあたる少女、ソラはぶーと口を尖らせてサオリへと現状の不満を漏らす。仮にも店員であろう人間がそんな事を言ってよいものかと疑問に思われそうだが、事実彼女の言う様に『エンジェル24』はピークタイムであろう昼の12時を回ったというのにまるでお客が来る様子はない。

 以前からこうなのだが、困った事にサオリがアルバイトとして雇われているおかげで店員が二人体制になっているものだから閑古鳥の鳴く店内が更に虚しい空気を漂わせているのだ。飛鳥は『折角だから二人でやってみようか』などと朗らかに笑ったものだが、完全に過剰人員だろう。

 

「あの、錠前さん」

「サオリでいい」

「じゃあサオリさん、私がいない間先生ってどうしてました?」

 

 へその前で手を組み、お客を迎える姿勢を取りながらサオリは自分よりずっと身長の低いソラをちらりと見下ろす。店員用のエプロンはサイズが合っていない様でなんだかぶかぶかしているし、片方ずり落ちている。幼いという言葉が最適だ。

 

「どう、と言われるとロクな事をしていなかった。急にやってきて栄養ドリンクやエナジーバーを買ってはすぐに帰るばかりだ」

「あー、ダメだ全然変わってない。サオリさんって先生と仲いいんですよね? なら偏食やめろって伝えてくださいよ」

「……別に仲がいいわけではない。それに栄養が取れているなら別にいいだろう?」

「え~!!」

 

 このソラという少女。しばらく旅行に行っていたとの事だが、それにしては旅行先について聞こうとしても話を逸らす節がある。むしろ口にするのは飛鳥の話題ばかりだ。

 旅行は嘘でソラはどこかへ姿を消していた。そこまでは結論付けていたもののそれ以上を聞き出すにはサオリとソラの関係値はそこまで築かれてはいない。何よりサオリには今ずっと優先するべき問題が立ちふさがっている。

 

―――飛鳥=R=クロイツを明日までに殺す事。

 

 改めてマダムから直接命じられた暗殺の仕事。もしも達成しなければ『仲間』達の身に危険が及ぶ。

 何よりあの得体の知れない大人……ケイオスの命令に背く事になる。そうなればどうなるのか、想像もつかないというのが正直な感想だった。

 だから兎にも角にも果たさなければならない。飛鳥をこの手で殺さなければならない。

 だというのに、困った事に、

 

「やあ錠前さん。それじゃあ行こうか、買い物」

 

 今日、サオリは飛鳥と一緒に出かける事になっていた。

 

 

 百鬼夜行学院でのあの夜、サオリは飛鳥を殺す為に同行した。誰もいない時を見計らって後ろから撃ち殺すつもりだった。だが見破られ、そして彼の言葉に惑わされ……あろう事か銃を下ろしていた。

 何故だったのかサオリ本人も言語化できていなかった。だからこそ答えを知る為に僅かな間ではあるが飛鳥を殺す期限を延ばし、彼もそれを了承している。

 つまり一緒に出かけるといっても飛鳥からすればいつ殺されるかわからない状況を自ら作っているわけで、尚更サオリは混乱していた。

 

「お前は何がしたい。死にたいのか?」

「死ぬつもりは全然ないよ。君を説得する事が目的だからね。友達の身が危険なんだろう?」

「……」

 

 『姫』の事を話したわけではないが、飛鳥はなんとなく事情を察している。

 

『だが、もしも僕が死ななければ君の大切な人が殺されると言うのなら……撃つな。代わりに僕は絶対に君を助ける。言ったはずだ、僕はシャーレの先生だと』

 

 サオリはその言葉を否定できずに飲み込んでしまった。自分がどんな立場に立たされているのかを自白してしまった様なものである。

 とはいえ一緒に買い物に行くとして、一体何が説得になるのか想像もつかない。幼い頃から銃を握り育ち、憎しみだけを埋め込まれてきたサオリには何一つ。

 地下鉄の車内で飛鳥と隣り合って腰かけながらサオリはこれから何が起きるのかを一人思案する。

 

(私を尋問する事が目的ならばわざわざこんな時間を設けなくてもいい。とするとこの男は私がアリウスの人間だとは誰にも伝えていないのか? 何の意味がある? まさか、罠?)

「……しまった、こういう無言になる事態は想定していなかったな」

 

 飛鳥がぽつりと呟くがサオリはまったく意に介してはいない。ただ一人で今の状況がどういう意味なのかを考察し続けていた。だがその反応自体は彼女の立ち位置を考えれば無理もない事で、どちらかといえば誰がどう考えても無防備な誘いを仕掛けてくる飛鳥に対して警戒心を抱くのは当然とまで言えるだろう。

 しばらく考えた上で、サオリの出した結論は『仕方ない』だった。どうあっても自分の存在が把握されている以上は下手な動きはするべきではない。飛鳥のいう買い物に付き合った上で機を見て……暗殺するのみだ。

 

「すまない、考え事をしていた。それで買い物とはなんだ? 何を買う?」

「うーん……実をいうと僕も詳しく決めてないんだ。なんていうか、僕もよく知らない分野で」

「?? どういう事だ」

「実はその、錠前さんの事を知る上で一番大事なのは何かと考えて、まず君が好きなモノは何かというところに辿り着いたんだよ」

「それで」

「……錠前さんの好きな食べ物、好きな服、そういったものを僕が買うわけだ」

「―――は?」

 

 何度も、何度も思う事だが、飛鳥という男はサオリの想像を遥かに上回る事を言い出す。一体全体何をどうしたらそういう発想になってしまうのか、まるでわからない。

 ガタガタと車両が揺れる音を聞きながらサオリは信じられないものを見る目でじっと飛鳥を観察してしまうのだった。

 

 

「♪♪~」

 

 さて飛鳥とサオリが出掛けた直後にシャーレにやってきた生徒が一人。何も知らずに鼻歌など歌いながらやってきたのはトリニティに所属する『放課後スイーツ部』の杏山カズサである。素直でないところが玉に傷だが根は優しく、その性格が災いして飛鳥と会話すると必ずといっていい程彼をへこませる癖がある。

 そんな彼女の手にはどこかで買ってきたらしい白い箱。側面にはブランドの名前が記されており、その店名はトリニティ学区でも有名なスイーツ店のものである。

 

 クロノススクールが飛鳥について取材した際にカズサはこうコメントを残している。

 

「あーあの人? あの人ねぇ……無理して不向きな事にまで頑張らなくても良いのにって思う時はありますけどね?」

 

 だいぶそっけなく答えてしまっていた。というか割と棘のある事を言ってしまった。あの後だいぶ補足したのだが丸ごとカットされていた。メディアの情報操作恐るべし。そもそも自分の口悪し。

 無論放送を確認した後速攻で飛鳥にメッセージを送ったのだが『気にしてないよ』の一言だけで、それはもうカズサの内心は穏やかではなかった。彼のメンタルを考えるとかなり落ち込んでいるという確信があったのだ。

 そういうわけで一応そんなつもりじゃなかったよという気持ちを込めてお菓子を買ってシャーレにまでやってきた次第である。

 が、

 

「ん?」

 

 シャーレオフィス前までやってくると『ただいま外出中』の看板が下げられている。戻る予定は……夕方頃だ。

 えっ、とカズサは目を丸くしてドアノブをガチャガチャ回してみるが当然鍵がかかっている。

 サプライズのつもりで一切連絡せずに動いた事が完全に裏目に回ってしまったのだ。しまった、と思いつつもとりあえず何の用事かだけは知りたいのですぐにカズサはオフィスのある上層階から一階の『エンジェル24』まで足を運ぶ。飛鳥が外出する時の伝言板として機能しているのだ。店員のソラは本当に嫌がっているが。

 そういえば、とカズサは廊下を歩きながらふと足を止める。

 

「……最近、知らない生徒がアルバイトで入ってたな」

 

 スラっと背が高くてモデルみたいな体型でしかもクールな生徒が最近になって『エンジェル24』の新たな店員としてやってきた。

 シャーレの当番を担当した生徒は皆口を揃えて「あれは誰?」と困惑していた。何より件の生徒に対して飛鳥が異様に近い距離感で話している事もあって、どういう関係なのかとかなりの噂になっていた。

 飛鳥は顔見知りだとあやふやな回答をしていたが、噂話が好きなトリニティ生徒の間では少しずつ話題に花が咲き始めている。

 

「ん……伝言、あの子にもするのかな先生」

 

 なんだか胸がざわざわする嫌な感覚に襲われながらカズサは一階に降り、足早に『エンジェル24』へと駆け込む。カウンターには最近旅行から帰って来たらしいソラ一人で、その事に少しホッとしてしまっていた。

 

「あ、いらっしゃいませ。先生でしたら不在ですよ」

「うん知ってる。どこ行ったか聞いてる?」

「ああ、それでしたらサオリさんと買い物に行きましたよ」

「買い物? 買い物って何?」

「さぁ……私もそこまで詳しく聞けませんでした」

「ん~? てかサオリって誰?」

 

 カズサはこめかみをポリポリと掻きながら首を傾げる。聞き覚えのない名前だがソラも知っている人物なのか?

 思い出そうと険しい顔をするカズサにソラは目を丸くして、

 

「誰って……私の代わりにここで働いてくれてたサオリさんですよ。ほら背がスラっとしていた……」

「あ、あ~! あの子サオリっていうんだ。へぇ~……で、先生と一緒に出かけてるの?」

「はい」

「へぇ~……へぇ~……」

 

 カズサの顔色が途端に赤く染まっていく。今彼女の中で点と点が線で結ばれようとしていた。

 飛鳥が妙に距離感の近い謎の生徒サオリ。話では彼女が面接に来た時ほぼ顔パスレベルで合格したという。

 そんなサオリと飛鳥が、二人きりで買い物に出かけた???

 

「ふーん……ふーん……ふーん!!!!!」

「あ、あの、もしかして怒ってます?」

「怒ってないけど???????」

「お、怒ってますね、えへへへへ……」

 

 思いも寄らぬ場所で燃え上がるキャスパリーグがここに一人。呑気に飛鳥がサオリに「どこへ行ってみようか」などと声をかけている間に、凄まじい感情の爆発が引き起こされようとしていた。

現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?

  • 区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
  • このままもう少し早く出して欲しい
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