先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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なるべく話数短めにやるつもりだったんですが冷静に考えると急いでも良い事ないのでのんびりやります。
エデン条約長すぎて笑ってますごめんなさい。


飛鳥=R=クロイツ面会謝絶

 銃撃事件の翌日。エデン条約調印式まであと一週間という緊迫した状況下である為に、キヴォトス総合病院は厳戒態勢にあった。トリニティと深い繋がりを持っているが故に院内には正義実現委員会の生徒が常に巡回しており、アリ一匹通さないというレベルの緊張感を顔に浮かべている。

 ナギサが危惧していた通り、エデン条約の調停者といっても過言ではない立場にある飛鳥が何者かに撃たれたというニュースは調印式が目前に迫っている中では大きな火種になりかけていた。ヴァルキューレでも情報は操作しきれず、そしてキヴォトスでも随一の情報網を持つクロノススクールが既に病院の外で報道陣を配置している始末である。

 

―――飛鳥=R=クロイツが撃たれた。では誰に?

 

 この話題は単なるゴシップなどでは済まない。誰もがこう頭に浮かべるのだ。

 『トリニティかゲヘナのどちらかにエデン条約を嫌う者がいて、飛鳥を狙ったに違いない』、と。

 誰かが吹聴したわけではない。悪意を持って情報が拡散されているわけではない。勝手に、そうある事が当然だといわんばかりに人々は考え始めているのだ。

 

「このままだと両校内部の過激派が動き出すだろう。特に羽沼さんはケイオスに騙されかけていたとはいえ、間違いなく条約の締結を否定している側だ。僕が重症で動けない、なんて事が伝わってしまえば『トリニティがやったに違いない』だとかいい出すのは明白なんだ」

「なので、今からクロノススクールの前に姿を現わし経緯を説明すると?」

「そういう事だ。だから蒼森さん、道を開けてくれると」

「駄目です」

「駄目か、そうか……」

 

 飛鳥は唸った。病室のドアを背に立ちふさがる救護騎士団の団長であるミネは両腕を組み、決して動かないという意思を全身で表している。対する飛鳥自身の顔色は優れず、服の下には脇腹を覆う様にして包帯が何重にも巻かれている。

 医者からの通達は『絶対安静』。エデン条約は愚か、シャーレとしての活動などもってのほかという容体だ。無論それを承知で動こうとした飛鳥をミネが絶対に行かせない、とドアを塞いだ次第である。

 

「―――飛鳥=R=クロイツ先生。私は貴方がどれだけの人物なのかを語れる程面識は深くありませんが、エデン条約に向ける強い情熱は認めます。ですが、許しませんよ。そんな体で動こうなど」

「で、でもこのままじゃ報道は過熱してしまうから当事者としてコメントを出さないと……」

「好きにいわせておけばよいのです。青白い顔で出て行って何を話すというのでしょう」

 

 ミネの意思は固い。だがこうした姿勢を飛鳥は間違っているなどとは到底思わない。医療に携わる人間であれば誰であっても同じ事をいうだろう。それだけ彼の考えはズレていたし、自分自身でもそれは自覚していた。

 恐らく今メディアに何をいったところで深読みされ、脚色された形で報道されるのがオチだ。微妙に危機感というものが欠如しているキヴォトスではエンタメの一つとして吸収されかねない。

 

「あ、いい考えを思い付きました飛鳥先生。貴方に負担をかけない『救護』です」

「負担をかけない? それはどういう」

「簡単です。今から私がクロノススクールの方々に『救護』を施します。そうすればそもそも先生が前に出る必要はなくなりますね」

「……『救護』って何を指すのかな」

 

 ギリリリリリ。

 今までに聞いた事のない軋む音がミネの拳から聞こえる。彼女は毅然とした表情のままで拳を強く握り締めていた。もうなんというか色々と飛鳥に勝てる要素がなく、諦めのため息をついて彼はベッドに戻る事にした。

 

 

「やぁ、飛鳥先生。お互い健康とは言い難い顔をしているじゃないか」

 

 昼頃になってセイアが見舞いに来た。冗談めかした調子だが、言葉通り彼女の顔色も優れない様子だ。

 聞けば飛鳥が撃たれるという予知をセイアが目にし、ナギサにその事を伝えたおかげで病院への搬送がスムーズになったそうだ。つまり彼女の報せがなければ今こうして生きているかどうかわからなかったという事である。

 が、そんなセイアの表情は優れない。彼女は飛鳥のベッド脇に腰かけると、重く息を吐き出し、

 

「すまない。私はこうなる事を知っていたはずなのに防げなかった」

「まだ死んでないから多分大丈夫だと思うんだ、多分……」

「……」

「ごめん、ジョークをいう才能がないらしい」

 

 飛鳥にしては珍しく冗談めかしていってみたものの、セイアは笑う様子など一切見せない。神妙な面持ちだ。

 そんなに不謹慎だったか、と遠い目をして飛鳥が誤魔化そうとしていると彼女はおもむろにドアのそばに佇んでいるミネに視線を投げかける。『二人にして欲しい』という訴えだ。

 ミネが無言で応じ、病室には飛鳥とセイアの二人だけになっている。それでもセイアは囁く様に小さな声色で、

 

「教えてくれないか先生。何があったのか、何故撃たれたのかを。ナギサ達に話した事を繰り返すだけでもいい。手がかりが欲しいんだ」

「手がかり?」

「もしかしたら、なんだが。私が見た予知から何かズレているのかもしれない」

 

 予知にズレが起きる事などありえるのか、それともセイアが夢の中でアクセル=ロウに激励された様に未来を変える事ができたのか。それを彼女は確かめたいのだろう。

 飛鳥は何度目かになる撃たれるまでの経緯を説明した。撃ったのはケイオスである事、アリウスの生徒を庇って撃たれた事、そもそもそのアリウスの生徒は以前から交流があったものの隠していた事―――ナギサとハナコにこれでもかという程詰問された―――すべてを。

 

「―――ふむ。やはり何か、内容がズレている。私が見た予知はもっと先のはずだ。それが、なんというか、前倒しになっている」

「じゃあ未来が変わった、という事かい? 具体的に教えてもらえるのが一番なんだけど」

「私もすべてをハッキリと視たわけではない。何より具体的に伝えれば、それによってどんな変化が訪れるのかまるでわからないんだ」

 

 セイアは何かいいたげに口をモゴモゴと動かす。だがすぐに観念した様子で、

 

「……いや、どの道伝えなければならない事が一つあった。恐らく今のところ最も危惧しているものだ」

「危惧?」

 

 昏睡から目覚めたセイアがトリニティの面々に伝えた予知の内容は大まかにはこうである。

 ハッピーケイオスはアリウス学院と手を組み、トリニティへの攻撃を画策している。

 そしてエデン条約調印式の日、彼は襲撃してくる。それによって大きな被害が予想される。セイアは燃え盛る街を視たそうだ。

 この二つは断片的に見たものであり、具体的にどの様な経緯でそうなるのかまでは判明していない。というのがセイアの話だった。飛鳥が死ぬ、という点は本人以外には知らせていなかったが、まだある様だ。

 

「……ラムレザル=ヴァレンタイン。彼女も君やケイオス、そしてアクセルと同じく異なる地平線からやってきた者だろう?」

「―――確かにそうだけど、何故ここで彼女の名前を?」

「落ち着いて聞いて欲しい。エデン条約調印式、彼女は我々の敵になる」

 

 

「大丈夫なんでしょうか、飛鳥先生。撃たれたって」

「……ニュースが錯綜している。かすり傷だとか、意識不明だとか。モモトークは送ってみたけど、既読がつかない」

 

 病院に向かうまでのバス車内。前の席に座っているヒフミとアズサの会話を聞きながらラムレザルは窓の外に映る光景をじっと見つめる。

 飛鳥は大怪獣ペロロジラの一件から明らかにこれまでとは異なる行動に移っていた。何かを隠している様な素振りが多かった。今回の一件は彼のそうした行動が遠因になったといっても差し支えはないだろう。

 

「……ラムは心配じゃないの」

「え、何」

 

 隣の席に座っているコハルからの声に振り返ると、彼女は泣きそうな顔で唇をきゅっと結んでいた。どうしてそんなに落ち着いていられるのか、という顔だ。

 

「頼りないじゃない先生。それなのに撃たれたなんて……ハナコがお見舞いに行ったっていうけど全然話してくれないし」

「そうだね。確かにあの人はとても弱い。死ななくてよかった」

 

 ここに来るまで四人の中でラムレザルだけは驚いたり、焦ったり、悲しんでいる様子を一切見せなかった。飛鳥が撃たれたという情報そのものは確かに衝撃を受けたが、そこから段々と気持ちは落ち着いていった次第だ。

 その理由は至極単純で、心配している場合ではないからだ。誰もが寝ている時間、トリニティ学生寮の自室にレイヴンが訪れ、たった一言。

 

『飛鳥=R=クロイツが撃たれた。撃ったのはケイオスだ』

 

 今まで暗躍するのみに留まっていたケイオスはトリニティ襲撃事件で遂に自ら動き出した。そして間髪入れずに銃撃事件……これから何が起きるのかなど明白だった。

 故に心配している場合ではなかった。飛鳥に会い彼の安否を確認した後、今後の事を話し合わなければならないのだ。

 ヴァレンタイン……ラムレザルにとって姉にあたる存在である彼女が蘇ったのもケイオスの仕業だと聞いている。アレがまだ序章に過ぎないというならば、これから起こる戦いは予想をはるかに上回るものになりかねない。

 

「……心配だよ、私も」

 

 ぽつりとそれだけ呟いたラムレザルにコハルはむっと口を尖らせ、

 

「もうっ、何ぼーっとしてるんだか。ヒフミとアズサも何かいってやってよ、一緒に海行ったんでしょ!」

「コ、コハルちゃんそんなに根に持たなくても……!」

「ラムはいつも通りなだけだよコハル。落ち着いて行動しよう。事実なのは先生が無事という事。そしてどの程度無事なのか、それを確かめに行く」

「も~! ちょっとくらい心配じゃないのアンタ達はっ!!」

 

 一同を乗せたバスはしばらくしてキヴォトス総合病院近くのバス停に停車した。病院の周囲にはキヴォトス中の報道機関が大挙して押し寄せており、さながら包囲網だ。それだけ大きなニュースになってしまっているとはいえ、これからそこに入ろうかという側からすれば辟易である。

 ラムレザルはモモトークを起動し、既に病院内にいるハナコへ『到着した』とメッセージを送る。すぐに『トリニティ関係者用の入口がありますのでそこまで来てください。私の名前を出せば通してくれると思います』という返信と共に入口の写真が共有された。

 

「よし、皆行こう」

 

 バスから降りた四人は報道陣が病院の入口近くで身構えているすぐ後ろをそそくさと歩いていく。ハナコが指定したのは建物の側面、関係者用の入口だった。

 ハナコ曰く、飛鳥の面会は謝絶されているそうだ。不特定多数の人間が出入りする危険を省きたいのである。

 入口はすぐに見つかった。『関係者以外立ち入り禁止』という張り紙が張られたドアをノックすると、「誰だ?」という強張った声が聞こえ、ラムレザルが「浦和ハナコからここを使えといわれた」と返すと、「……わかりました」とまた重苦しい声色と共に鍵が開く音がする。相当厳重に取り締まっている様だ。

 ドアノブを捻り中へ入れば、銃を手にした正義実現委員会の生徒が何人も警備員の様に佇んでいる剣呑とした絵面が広がっている。

 

 

「……ああ、誰かと思えば補習授業部の。後ろの方々はお連れの方ですか?」

 

 門番の生徒が怪訝そうな表情でそう尋ねてくる。後ろ?とまず最前列にいたラムレザルが振り返り、次に一番後ろにいたヒフミが後ろ?と振り返り、いつの間にやら背後をつけてきたらしい集団の存在に遅く気付くのだった。

 

「あ、貴女達は!?」

「うへ~、リーダー久しぶり」

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