先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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多分ラストのとあるシーンで、GG2を遊んだ事のある人にはとあるBGMが流れると思います。


Drift

 法力とはすなわち事象の書き換えである。

 世界を構成する情報の波に対して干渉し、本来あり得ない物理現象を意図的に引き起こせる。

 本来ならば情報世界『バックヤード』ありきであるこの理論を飛鳥=R=クロイツは『始まりの書』により元の世界へアクセスする事で成立させている。

 

 無論こうしたやり方ではキヴォトスに対する影響は計り知れない。まったく異なる世界に対してバックヤードを擬似的に顕現させているのだ。

 ただキヴォトスの理解が深まるにつれて飛鳥は異世界にもバックヤードに類似するものがあると知り、これによって大きく理論は書き換えられる事となった。

 情報圧壊を警戒し制限時間99秒は据え置き、しかし出力は当初をはるかに上回るものにまで達している。

 

 ではそんな飛鳥と『始まりの書』を書いた者として絶対的な権限を持つケイオスが衝突する時、どの様な戦いが展開されるのか。

 いうならばそれは、限りなく神話のソレとなる。

 

 

 エデン条約調印式の模様を中継で見ていた者は己の目を疑い、現地にいる者は己の正気を疑いさえした。

 戦い、と呼ぶモノは大きく分けて二種類。殴り合うか撃ち合うかである。

 一方で古聖堂を背景に始まった戦いは『弾け合って』いた。

 飛鳥が手を振るう。ただそれだけでケイオスを飲み込む様に爆発が起きた。氷が雨の様に降り注ぎ、雷が矢の様に放たれもした。まるでファンタジーの魔法使いの様に、彼の攻撃は一つ一つが常識外れだ。

 対するケイオスは拳銃を二丁持っているのみ。にも関わらず、飛鳥との実力は拮抗していた。一度銃口から火が噴いたかと思えば、いつの間にかまっすぐに進むはずの弾丸は姿を消し、死角から突如現れるのである。

 

「な、何見せられてるのこれ……いくらなんでもおかしくない!? こんなの!!」

 

 ビデオカメラをケイオスに奪われ、仕方なく自分のスマホを使って中継を再開したクロノススクールのシノンだが、眼前で引き起こされている事象に対して許容する言葉を彼女は持ち合わせていなかった。

 ただ見ている限りでは飛鳥が攻め続けている様に思えるが、実際のところケイオスの射撃に対して彼は明確な回避方法を見つけられていない。銃弾も避けるというより、見えないバリアか何かを張ってしのいでいる様だ。

 

「流石に逃げないとヤバい、もう無茶苦茶だって!」

 

 既に古聖堂周辺にはほとんど野次馬は残っていない。皆、ただただ目の前で起きる壮絶な戦いから逃げる事だけを考えていた。シノンの遠巻きに戦いを見守っていたが、周りには抜け殻の様に他の報道陣が遺した機材が放り出されている。

 と、地面が砕け散り、バレーボールサイズの破片が勢いよくシノン目掛けて弾き飛ばされる。あまりにも早すぎるそのスピードに反応できるはずもなく、直撃の前に彼女は目を瞑る事が精一杯だ。

 しかし、ケイオスから弾丸を雨の様に浴びせられている最中にも関わらず飛鳥はサッと片手間でシノンへと向かっていた瓦礫の軌道を変え、地面に叩き落とした。

 

「何をやっているんだっ、早く逃げて!」

 

 それは戦いが始まってからというもの常に飛鳥が叫んでいる言葉だった。彼はこうして戦いの規模を少しでも小さくしようと被害が及ぶ前に手を回し、生徒達を避難させているのだ。

 常識外れの戦いを引き起こしながらも民間人の避難を優先させるその姿勢はまさにスーパーヒーローとでも呼ぶべきだろうが、尻もちをついて呆然とするシノンからすれば何よりも『恐怖』の方が勝っていた。

 

「―――なんなの、あの人」

 

 空を飛べる? 怪獣をやっつけた? その程度は片鱗に過ぎなかった。

 飛鳥=R=クロイツが今現在見せているその力がどれだけ強大なものなのか、シノンはじわじわと理解し始めた。

 この力を彼はずっと隠していた? 笑顔を浮かべながら、その気になれば何もかも壊せる力を隠していた?

 シノンが正常な判断を行えない状態なのは確かである。が、それでも目の前で繰り広げられる戦いを見れば誰でもその様な感想を抱いた事だろう。

 

―――飛鳥=R=クロイツは本当に味方なのか?

 

 それこそ、ケイオスが長い時間をかけて飛鳥の前に立ちふさがり続けた結果である。

 

 

「いいのかい飛鳥君、ちゃんと僕に集中しないと負けちゃうよ」

「不死身、といってもまさかこれほどとは思いもしませんでした。少しアプローチを変えます」

 

 残り時間は30秒を過ぎた。しかし飛鳥とケイオスの戦いは決め手に欠ける。残念な事にこの二人は戦士ではない。戦う事は不慣れなのだ。

 その上で飛鳥は民間人という障害があり、ケイオスはわざわざ銃を使うという縛りを己に課している。つまりこの状況は千日手……終わりが見えないのだ。

 何しろ飛鳥がいくら大火力を出したところで相手を消すに至らない。手足が吹き飛ぼうが胴体を泣き別れにしようがすぐに復活するのだから。

 

(やはりストレンジレットしかないのか?)

 

 飛鳥の脳裏に最終兵器がよぎる。既に師匠の口から『通用しない』と断言されてしまっているが、それでもこの目で成果を見ない事には発言を鵜呑みにするわけにはいかない。

 それよりもまもなく法術が切れてしまう。ケイオスは耐久力を生かし、飛鳥の時間切れを待ち構えているのだ。

 時間が来れば飛鳥は死ぬ。あっけなく銃弾に射抜かれて。

 

「……飛鳥君、もうすぐ時間だけど大丈夫? 延長は?」

「しませんよ」

「へぇ、じゃあ僕とどう戦うの?」

「ええ、それなんですが……その前にいくつか気になる事があります」

 

 ケイオスの攻撃を防ぎながら反撃しつつ、飛鳥は舌を動かし続ける。

 

「古聖堂を破壊したとして貴方はどうするつもりだったのか? 大体の予想は尽きます。調印式を襲撃し、条文に対して何か干渉する事が目的だった。違いますか?」

「へぇ、どうしてその事知ってるの? もしかして……アツコ君から何か聞いた?」

「―――重要なのはそれだけじゃありません。貴方の仲間であるはずのアリウスが何故この場にいないのか、そこも気になります。どこかに隠れている、恐らく師匠が場を荒らすだけ荒らしてから投入するつもりなんでしょう」

 

 スラスラと飛鳥が話していく内にケイオスの眉が吊り上がる。その反応は驚きではない、喜びだ。『よくわかったね』という非常に上から目線の褒める感情だ。

 つまり今飛鳥の口から出た内容は真実という事である。そして同時にケイオスがこの程度で手の内がすべてなはずもない。彼の怪しい笑みは浮かんだままだ。

 

「いい推理だね。でも問題があるよ、君はこのままだと僕に負ける。そうしたら君の『本』を使って僕は好き勝手させてもらうよ」

「ええ、そうでしょうね。僕もそうなってしまうと思いますし、事実一対一で貴方と相性が悪い事は知っています」

「じゃあ」

「なので、援軍を呼ぶ事にしました。僕の時間切れに合わせて」

「え」

 

 瞬間、飛鳥の法術が切れる。99秒の制限時間を迎え彼はただの人間に逆戻りした。

 本来ならばケイオスにとって攻め時である。何せ飛鳥はもうか弱い肉体、走り回る事も上手く行かない虚弱な存在になるのだから。

 そしてそんな見え透いた弱点を残すはずもなく、飛鳥を飛び越える様にして一対の翼が空を駆ける。

 古聖堂から状況を見守り、そしてタイミングを見計らって飛鳥の下へと援軍がやってきた。

 

「空崎さん、そして貴種殿。頼むよ」

「ええ、任せてちょうだい」

「人使いの荒い先生だ。嫌いではないがね」

 

 ケイオスが防御の姿勢を取るよりも先に、ヒナと彼女の影から飛び出したスレイヤーの強烈な跳び蹴りが炸裂していた。

 

 

「皆、集まってくれてありがとう。こうして一堂に会する事ができて幸いだ」

「本題に入ろうじゃねぇか。あの野郎にどうやって勝つのか算段ついたのか?」

 

 数日前、シャーレには異世界からの住人がロボカイを除き全員揃っていた。

 レイヴン、スレイヤー、ラムレザル、梅喧、そしてチップ。いずれもつわもの達ばかりである。そしてよりにもよってそんな者達を率いるのが最もか弱い飛鳥だというのだからおかしな話だ。

 椅子に腰かけたままで飛鳥は咳払いの後、

 

「結論、僕には彼が何をどうするつもりなのかまるで理解できない」

「おい、マジでいってんのかよ」

 

 ため息をついたのは梅喧だ。飛鳥は手で制しつつ、

 

「まぁ聞いて欲しい。ケイオスの行動は予測不可能だ。なので……悔しいけれど受け身中心の動きをするしかない」

「ケイオスの動きを見てから行動する、そういう事ですね?」

「そうなる。そして僕は……一番手だ。全力でケイオスを抑え込み彼の手の内を探る。その間に何か動きがあれば対応していく。もし僕が時間切れになれば、その時はスレイヤー卿に後詰めをお願いしたい」

「それは構わんがね。一体どこまで考えているのかね?」

「―――あの人は少なくとも簡単に予想がつく事は仕掛けてこない。だから逐次投入は悪手だとしても様子を見ながら動かなければならないだろう」

 

 

「というわけで、師匠。僕に代わってこの二人が相手します」

「なるほどね、君もようやく誰かを頼る気になったわ―――」

 

 強烈な跳び蹴りの威力は凄まじい。ケイオスはロケット噴射するかの様な勢いで吹き飛ばされ石畳を転がっていく。

 挨拶代わりの一撃に確かな手応えを感じながらヒナとスレイヤーは着地、すぐに反撃に備えて身構えた。

 

「先生、無理はしないで。お腹の傷塞がってないんでしょう」

「下がっていたまえ。むしろ邪魔になる」

「なるべく被害は抑えている。でもまだケイオスは何か隠し持っているのは間違いない」

 

 三人の視線は正面から逸れる事はない。かなりのダメージを与えられたはずだがケイオスは健在、それどころかゆっくりと立ち上がると首をコキコキと鳴らしながら呑気に歩いてきている。

 得体が知れない。まだ何か隠している。それをひしひしと感じた。

 

「―――なるほどね飛鳥君。僕のあしらい方わかってきてるみたいじゃないか」

「いい加減に貴方とは決着をつけたい。その為には……僕一人じゃ勝てないので」

「ふぅん。あ、じゃあアレか、こんな騒ぎなのにトリニティとゲヘナも動き見せないのはそういうわけか。まぁ、まぁいいよそれも。僕もちょっと本気出しちゃう」

 

 ケイオスの声色が僅かに変化する。どこか真剣みのある、本気の調子だ。

 ぱちん、と彼が指を弾くと共に背後に禍々しい光が湧き出始める。法術だ。だが飛鳥の『本』は起動していない。つまりはケイオスの―――イノの半身という大きな力によって彼もルールを捻じ曲げているのだ。

 だが恐らく手札はまだ残っている。アリウスの生徒達が一向に姿を見せないのはまだケイオスには隠し玉があるのだ。

 

「さてさて風紀委員長とその面倒を見る髭のおじ様か……いいね、ビジュアルは完璧だよ。僕もやりがいがある」

「あ、待ちたまえ。折角だからもう少し時間を稼ぎたい。私の質問に答えてくれないものか」

「ん……?」

 

 どちらが初撃を放つかという緊迫したタイミングで、スレイヤーは思わせぶりに指を一本立ててケイオスの動きを制止する。興味深そうに首を傾げる青肌の怪人に吸血鬼は微笑みを浮かべ、

 

「君の目的を聞かせてもらおうか。より正確にいうと、最終的な結末を聞かせて欲しい」

「あ、いいねその聞き方。かなり助かるよ、実は僕も話したい事があってさ」

 

 ケイオスはスレイヤーに親指を立てながら微笑み、

 

「君、吸血鬼だよね。じゃあ僕のいいたい事は伝わるかな? 嵐は好きかい?」

「嵐……」

「そう、嵐だよ。何もかも吹き飛ばして、何もかも飲み込んでいく嵐。凄く危ないし、きっと色々大変な事になる。そんな嵐」

 

 ケイオスは空を指差す。雨が降ろうとしているのか、にわかに空の色は曇りつつある。

 

「でも……君は知っているはず。嵐が過ぎ去った後の世界を。何もかもが吹き飛ばされ、飲み込まれて―――だからこそ世界は美しくなる。見た事あるよね? 空はずっと綺麗になる。嵐があったからこそ……そこには美しい何かが残るんだ」

「―――それなら君は」

「そう、僕は嵐。全部吹き飛ばして、全部飲み込む。でもその果てにはきっと綺麗な空があると知っているから……僕はここにいる」

 

 それはあまりにもヒトの持ちうる願いではなく、もっと上位の何かだった。

 ハッピーケイオスの目的、というより存在意義は『人間』の撹拌にある。

 希望も絶望も彼にとっては平等なのだ。重要なのは、どちらかに固まってしまう事を絶対に許さないという一点のみ。

 故にケイオスは謳った。アビドスの時も、ゴールデンフリース号の時も、トリニティの時も。

―――すべては、嵐が過ぎ去った後の空の為にあると。

 

「だからね、僕のやりたい事は理解しなくてもいいからわかっていて欲しいんだ」

「ああよくわかったとも。我々は相容れない」

 

 そこで話は打ち切られた。スレイヤーが瞬間移動と見紛う速度で接近し、放った拳がケイオスへと突き刺さる。音さえ置き去りにするその速さたるや、ケイオスは一瞬間をおいてそれから勢いそのままに吹き飛んでいた。

 

「ヒナ君」

「追いかける」

 

 更に畳みかけるが如く、吸血鬼の放った一撃にヒナが追い付かんとする。その小柄な肉体からは想像できない程の俊敏性で彼女はケイオスの背後に回り込むと、大型ライフルの銃身で思い切りケイオスを殴りつけ、地面へと陥没させた。

 凄まじいとしかいいようがない。スレイヤーもヒナも、およそ敵う相手などいない様に思えてしまう。

 

「残念だが君と私には決定的な差があるよ賢者君」

「へぇ、どんな」

「私も確かに必死になって戦う人々は好きだよ。嵐の後に見える空も好きだとも……だがね、それはあくまで傍観者である事に意味がある。生憎私はわざわざ悪役になる気などさらさらない」

「あ~……残念」

 

 顔面が地面に陥没していながらも当然の如く口を開くケイオス。その不気味さは一向に収まる気配がない。

 何かまだ隠している。だが何を……飛鳥の胸の内に次第にざわつきが湧き上がり始めていた。

 と、その時飛鳥達がいる古聖堂前に大きな影が差しかかる。何かと仰げば、いつの間にやら曇り空を遮る様にして巨大な飛行船が飛び立とうとしていた。

 

『キキキキ! 時間稼ぎご苦労飛鳥先生、無事に『スーパーマコト様号』は発進した。これより上空にて調印式を敢行する。馬鹿めハッピーケイオス、そしてアリウスよ! ばーかばーか! キキキキ!!!』

 

 拡声器越しに地上へとやかましい声量で『万魔殿』のリーダーであるマコトの声が聞こえてくる。空を見上げながら飛鳥はひとまず作戦が成功した事に安堵のため息をついていた。

 ケイオスがどんな作戦を考えているにせよ、まず彼の手が簡単に届かない様にする必要があった。そこで飛鳥が考えついたのは、元の世界での出来事である。

 敵に攻め込まれるという前提で考えるならば会場を囮にしよう。そして時間を稼ぎ気取られない様にし、準備ができたら手が届かない場所へ逃げよう。

 そうして考案されたのが『スーパーマコト様号』にトリニティとゲヘナの要人を乗せ、そう簡単に撃墜などできない状況下で条約を締結する事にあった。

 

「あ~、そういう作戦にしたのかなるほど。確かにアレなら狙撃するにも手間がかかるし……」

 

 立ち上がったケイオスは呆れた調子で空を見上げつつ、即座に拳銃を飛行船へと向ける。

 それを防ぐのはもちろんスレイヤーとヒナである。二人に上から押さえつけられ、ケイオスは地面に頬ずりしかねない勢いだ。

 

「こうやって僕も止められる、と。ミサイルがもう一発あるっていう考えはなかったの?」

「あったらもう撃っているでしょう」

「うん、そうなんだ、正解。いいね飛鳥君、ここは君の勝ちだ。あれじゃあ僕は手を出せない」

 

 ケイオスはハッキリと負けを認めた。このままでは条約の邪魔はできない、と。

 しかし飛鳥は何か引っかかった。ケイオスは『僕は手を出せない』といった。もしアリウスの生徒がここでやってくるにしても、それでも持てる武器全てを使ったところで飛行船の撃墜は不可能だろう。

 となると……やはり持っている、何か予想もしていない何かを。

 

「ねぇ飛鳥君。ちょっと聞いてもいい? あの飛行船にラムレザル=ヴァレンタインは乗っている?」

「……いえ、乗っていませんが」

 

 胸がバクバクと早鐘を打ち始める。ケイオス個人に勝てなくても作戦ではこれ以上のトラブルは起こりえない、そんな状況下で『もしや』『まさか』という疑念が飛鳥の胸から消えない。

 セイアはいった。ラムレザルが敵に回るかもしれない、と。

 そして飛鳥は万が一を考え、ラムレザルを古聖堂には配置しなかった。フットワークの軽さを活かすべく、別行動を取る様にと指示していた。

 今頃騒ぎを聞きつけて古聖堂に向かってきているはずだが……。

 

「ああ、そっか。残念、まぁいっか。やる事は変わりない」

「何の話をしているんですか」

「あ~~~……ショッキングな話をしてあげよう。実をいうと、君の予想している通り僕にはまだ作戦がある。かなり準備のいる内容だったからね、かなり前に仕込んでいたものなんだ」

「……かなり、前?」

 

 ケイオスが何の話をしているのか、それを飛鳥は読み取れない。彼はヒントを告げているのだ、これから起こる展開のヒントを。

 

「飛鳥君さ、覚えてる? 遊園地で見たお化け達、ミメシス」

「ええ、覚えています。アレは」

「アレは端的にいうと情報体フレア、そこまではわかるね? 蓄積された情報を何かしらの媒体に注ぎ込む事で誕生した過去の記録を再現した存在。僕は頭の中から最初のヴァレンタインについての情報を引っ張り出してミメシスを作ったのさ」

「……それが」

「実はね、僕の大好きな黒服君がある仮説を立てていたんだよ。『神秘』に対して『模倣』をあてがうとどんな事が起きるのかなって。僕もそれ気になっちゃったんだよね」

 

 神秘に対して、模倣をあてがう。

 ラムレザルに対して、ヴァレンタインのミメシスを差し向ける。

 

―――私はこんな風に不完全。これじゃダメ。だからラムレザルと一つになる。

―――一つになるって、ラムはどうなるの……?

―――? 消えるんだよ。当たり前でしょう。

 

 ヴァレンタインのミメシスはコハルを誘拐した際に、そう話していたと報告を受けている。

 そして何より、最初にラムレザルがヴァレンタインのミメシスに遭遇した時、『頭のざらつき』を覚えたとも。

 

―――ああ、マエストロ君から聞いたのかな。よくできているだろう? 自信作だよ。僕も彼女も今回は群像劇の登場人物AとBでしかない。ストーリー通りに動いただけさ。

 

「ラムレザルには、メディカルチェックを行った。何も異常は見られなかった」

「それはどの角度からかな? バックヤードで生まれた生命体としてのラムレザルについてだろう。広い視野を持ちなよ……『キヴォトスの神秘』として存在しているラムレザルについては考えなかったかな?」

 

 飛鳥は目を見開いていた。ケイオスから提示されたその内容はあまりにも不意打ちであり、返答ができなかった。

 

「飛鳥君は多分キヴォトスという世界については凄く勉強したと思うよ。でもさ……生徒についてはちょっとばかし一歩踏み込まなかったね? 残念だよ、彼女達がこの世界においてどれだけ重要なのか話しただろうに」

「―――まさか」

「『神秘』であるラムレザルは『模倣』に触れた。そして……僕はこれでも彼女を作った側の人間だ。遠隔で内側にアクセスする方法くらいは知ってる。本当なら抵抗を受けるけど、『神秘』が混ざっているなら話は別だ」

 

 その時だった。古聖堂から少し離れた位置から、突如光の柱が立ち上がった。血の様に赤い光が空を貫かんとする勢いで登り、冷たい風が吹きすさび始める。

 あそこに何があるのか、否、誰がいるのかなど考えるまでもなく―――飛鳥がその名を呼ぶよりも先に光の柱を裂く様に閃光が宙を駆けた。

 

「あ」

 

 驚く程間抜けな声が出た。キラリと閃光は飛行船へと向かっていき……次の瞬間、飛行船は光を放ち、爆発した。エンジン部が火を噴き、じわじわと墜落していくのが見える。

 飛鳥の脳裏にあそこに乗り込んでいた何人もの生徒の顔がよぎっては消えていく。背筋に嫌な汗が滲み始める。

 

「ラムレザルという『神秘』は今外からの干渉を受け、不安定な状態にある。そこにヴァレンタインとしての特異な出自が合わされば……実をいうと僕もどうなるか知らないんだ。でもさ、でもさ―――こんな事いっても信じられないと思うよ? あのさ、幸運を祈るよ飛鳥君」

 

 カッ、と光が走った。光の柱がいつの間にか消え、そして飛鳥達の前に『ソレ』は舞い降りた。

 外見の印象はロボットだった。全身に装甲を身に纏い、怪しげな光を迸らせるその姿は少なくとも味方などではない。頭上には……ヘイローが浮かんでいる。ひび割れ、今にも砕け散りそうな外観から尋常ではない事がわかる。

 ロボットが何者かなど、考えるまでもない。飛鳥は既に一度、バックヤードにてその姿を観測している。

 最初のヴァレンタインは、フレデリック達との戦いの中で怒りの感情を発露させ、同じ様な姿に変身していた。それならば目の前にいるのは―――

 

「ラムレザル、なのか……!?」

「■、■■■■■■ッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「祝福してあげて。彼女の名前は……そうだな、『ラムレザル*テラー』ってところかな?」




そういうわけでめっっっちゃ時間がかかりました来ましたこの時が。
ヴァレンタインのミメシス、そしてラムレザルに生じた異変。その全てが今実を結びました。
そういうわけで次回のタイトルは『Diva of Despair』になります。

現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?

  • 区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
  • このままもう少し早く出して欲しい
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