先生は世界平和を実験している   作:飛鳥=R♯

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今回の話は去年のエイプリルフールに公開されたギルティギア公式同人誌のショートストーリー『漂う鏡』を元に書いています。もう公開は終わってしまっている為読むのは困難ですが、貴重なケイオスの目線で展開される梅喧との戦いを描いています。
ケイオスから見た梅喧は果たしてどんな風に見えているのか?そしてケイオスは自分自身をどう捉えているのか?エイプリルフール企画とはいえ公式から供給された貴重な描写になります。


僕は存在している

「もし、アイツとやりあうなら俺が二番手だ」

 

 決戦前夜。シャーレに集まった異世界の者達が開いた会議の場にて流浪人、梅喧はそういいだした。

 流れとしては飛鳥の法術が時間を迎え、ケイオスとの戦闘が不可能となった『次』についてだった。その場に集う戦士達は全員腕が立ち、彼と戦えるに十分な力を持っているが、その上で梅喧は『自分こそ』と立候補したのである。

 

「その根拠は?」

 

 もちろん梅喧の自信に異を唱えるのは飛鳥である。戦闘こそ短時間しかこなせないものの、司令塔という立場に立てば彼の流浪人に対する評価はまだ不安定だ。

 ジャパニーズと呼ばれる特殊な出自、鍛え上げた剣術、いずれも特別なものであるが……一体ケイオスの持つ異常性にどう彼女は作用するというのか。

 そんな飛鳥の疑問を込めた視線を注がれながら梅喧は不敵に笑い、

 

「―――アイツと俺は、相性が最悪なんだ」

 

 

「そんな目、見た事ない」

「お前が滅多にいない奴って事だろ」

 

 それまで余裕に満ち溢れていたケイオスの声に初めて揺らぎが生まれた。ただ目の前にいる剣士の目を覗き込んだ、ただそれだけで彼の声色に僅かな緊張が浮かんでいるのだ。

 飛鳥が見れば『まさか』と驚く事だろう。およそ彼の知る限り、ここまでケイオスに警戒を抱かせた者などいないのだから。

 

「総長。ここは俺に任せてソイツをなんとかしろ」

「無論。あとは頼むよ」

 

 暴走するラムレザルを抑え込むべく、スレイヤーの鉄拳が雨の様に降り注ぐ。瞬間的に放たれた攻撃の数々に巨体は揺らぎ、そして百メートルは吹き飛ばされる。梅喧とケイオス、二人が向き合う戦いの場を設けたのだ。

 

「……どうしよう、参ったな。君がキヴォトスに来た時点から嫌な予感はしてたんだ。『穴』が生まれたんだから」

「なんだよ、お前が俺を呼んだんじゃねぇのか? 残念だぜ。果たし状だと思っていたのによ」

 

 挨拶代わりにケイオスが一発銃を撃つ。梅喧は目に見えぬスピードで刀を抜き、即座に斬り落とした。

 梅喧は隻腕でありながら磨き上げた技術と百戦錬磨の経験によって達人の域に達している。飛び道具を叩き落とすなど手馴れたもの、来るとわかっている銃撃なら尚の事だ。

 そして梅喧は自分が今しがた防いだ弾丸が地面に音を立てて転がるのをちらりと覗き、笑った。

 

「お前、どこを狙った? 俺を殺すなら脳天か心臓だろう。今のは俺に防げといってるようなもんだ」

「ああ、うん、そうだね。僕もそう思う。不思議だ」

 

 ケイオスの銃撃は梅喧にとって脅威以下だった。命を狙って撃たなかったのだ、当然である。

 では何故命を狙わなかった? 何故撃った? 

 それを、ケイオス自身が理解できていない様だった。手の中にある拳銃を見つめ、不思議そうに首を傾げた。

 

「俺が怖いか?」

「……ああ、うん、そうだね。怖い。こんな気持ちになる日がまた来るだなんて」

「お前の話は聞いている。一体どんな極悪人かと思っていたが、はは、まさか混沌とはな。ピンと来たよ。きっと俺の事が苦手だってな」

「―――」

 

 ケイオスの表情が険しくなる。笑みが消え、視線は梅喧の瞳だけに据えられている。

 ちょうどそのタイミングで、二人の周囲は騒がしくなり始めた。古聖堂爆破の騒ぎがようやく落ち着き始め、トリニティとゲヘナ双方が襲撃者を迎え撃とうと再編成して動き出したのだ。ぞろぞろと銃を手に少女達が古聖堂へと集結し始めているのを目にし、梅喧は身構えたまま、

 

「おい! ここはいい! 墜落した方を追え。お前らがいると刃が鈍る!」

「し、しかしこいつは……!」

「ソイツの目に俺以外を映すな!!」

 

 梅喧の叫びに動き出したのは生徒達ではなくケイオスだった。自分と目の前の敵以外に誰かいる、そう理解した瞬間に拳銃は導かれる様に少女達へと向けられようとしていた。より正確にいうならば梅喧から逃げる様に。

 

「■■■―――!!!!」

「おおっと君達、彼女のいう様に飛行船を追った方がいい。ここにいるとまずいぞ」

 

 だが幸いにもそれを阻む様に、離れた場所で激闘を繰り広げていたスレイヤーとラムレザルの起こす破壊が少女達の勢いを削いだ。

 石、レンガ、コンクリート、破壊に次ぐ破壊。その中でダンディに被害を最小限に押し留めようとする吸血鬼の姿を見てしまえばその場にいようなどとは思わず、犬猿の仲である二大校の生徒達はまず生き残る事を最優先とし、即座に踵を返した。

 

「撤退! 撤退だ! 巻き込まれても知らんぞ!!」

「何が起きているのこれ! 意味がわからない……!!」

 

 蜘蛛の子を散らす様に逃げていく生徒達を名残惜しそうに見つめるケイオスに、梅喧は踏み込んだ。じりりと地面を踏んで懐まで肉薄、速攻で放たれた一刀が再び首筋を狙う。

 ワンテンポ遅れてケイオスが後方に跳び、ギリギリで刃を躱すが梅喧は反撃を許さない。連続で刀を振るい、回避以外の選択肢を与えぬ様に立ち回る。その速さは誰が見ても高い技量を持っているとわかるが、不思議な事にケイオスを切り裂く様子はない。だが確かに敵意だけは感じている。

 矛盾している。何かを斬るつもりであるはずなのに、何かを斬る様が想像できない。

 

「あれ……?」

「おう、気付いたか。俺に殺意はねぇ。いや違うな、『お前には殺意がねぇ』。今俺がやっている事はいうならば真似事だ」

「……ああ、そうか。なんだか怖いなって思ったら、そういう事なんだ」

 

 ケイオスの表情が歪んだ。心の底から恐ろしいモノに出くわした、そんな色が浮かび上がっていた。

 

「本当に君は最悪だ。こんなの終わりがないじゃないか」

「それを望むのは他ならぬお前自身だ。違うか……?」

「いえてる。確かに僕はエンディングに興味はない。欲しいのはドラマだ。でも……君からはドラマを感じない」

「ああ、それならこう返してやるよ。そりゃ、お前にドラマがないからだ」

 

 誰が想像できただろうか。たった一人の剣士がただ向かい合って立つだけで、混沌が揺らぐ様を。

 笑みだけを浮かべ、すべてを嘲るハッピーケイオスが怖れから目を剥く姿を。

 梅喧だけだ。梅喧だけがその姿を真正面から見続けられる。

 

「わからねぇもんだな。こんな形でお前の弱みを握るなんて」

 

 きっと飛鳥が今の光景を目にすればこう思った事だろう。『ケイオスの事だからきっと打開策を見つけるはず』……だが恐ろしい事に、ケイオス自身が『どうしようもない』と理解してしまっていた。

 無垢なる混沌。人類を撹拌し、本能と理性の均衡を願う怪人は今、自分自身と向き合い始めていた。

 

 

「なんてこった。姐さん一体何をした?」

 

 参った、といわんばかりに扇を閉じた御津闇慈の声色は驚きに満ちていた。無理もない話だ。彼の知る梅喧といえば抜き身の刃が如き威圧感と殺気を常に纏う、いうならば『鬼』だったのだから。

 だが今しがた彼が切り結んだ梅喧から感じられたのはそのどれでもない。不思議な、つい口の端が緩んでしまう高揚感だ。

 

「俺じゃねぇ。お前だ。何を見た? 何を感じた?」

「え、なんか楽しかった」

 

 本心からの言葉である。闇慈の思う梅喧との手合わせは一歩間違えば斬り殺される域にまで踏み込みかねない。そんな経験ばかりだから今回もその一端くらいは見られると思い込んでいたのだ。

 だが実際はどうだろうか? ヒヤリとする時はあった。負けると考えた時はあった。だがいずれも、まるでコミュニケーションの一種かの様に楽しかったのだ。

 

「やっぱりお目出度いな……それがお前自身だ。だが人によっちゃそうはならない。見たくないものを見て、知りたくない事を知る」

 

 ああ、つまりそりゃ鏡って事か。

 闇慈は声に出さずに理解した。刃を交える中で時折梅喧の刀、その刀身に映り込む己を見た時、決まってそこには心より戦いを楽しんでいたのだ。

 戦いの中で命を取る、取られるではない。戦いの中で相手を映す鏡となる……。

 

「活人剣とは毛色が違うな。でもそれを否定する事で自分を肯定する事ができる。そしてそれに気付いた時には姐さんは敵じゃなくなる……」

 

 鏡に映る己と殺し合える者などいはしない。だが向き合い、その果てに『違う』と断じる事ができれば鏡は砕ける。

 

「―――いうならば、不敗の剣」

 

 倒す為ではない。相互理解を図り、命を奪う事のない新たなる剣技。

 そして不敗の剣を前にして本来ならば人は己と対峙し、そして自分自身が心から恐れを抱く事が何かを常人は気付ける。

 ただ一人……自己を捨て、全体と呼ぶべき何かに漂う混沌を除いて。

 

 

「参った、本当に参った。なるほどね、僕が僕である様に君の存在を誰かが望んだんだ」

「かもな。おかげでこうして俺はお前にとって最悪の相手として立っている。さぁどうする、答えを出せるか?」

「わからない。鏡なんて久しぶりに見たから……」

 

 ハッピーケイオスという存在に自我はない。イノの半身……人々が持つ希望の半分を取り込み、個などとっくの昔に消滅してしまったのだ。彼の行動と言葉は内側でひしめき合う『世界の意思』とでも呼ぶべきもの達に左右される。そしてその中でケイオスが何かを想い、何かを考えたとしてもすべて消えていく。

 たとえ百年かけて見つけ出した答えさえ二秒で忘れ去る。忘却を繰り返しながらも進み続ける、それがケイオスなのだ。

 だからこそ動揺する。何もかもを持ち、そして何もない自分自身とどういうわけか見つめ合うのだ。

 

 必要なのは情動。怒り、哀しみ、喜び、楽しさ。そしてそれを持つ相手と言葉を交わす事でようやくハッピーケイオスは存在を肯定できる。

 他者なくして己あり得ない。では己のみと戦う時、ハッピーケイオスは何を軸とすればいい?

 答えはわからない。何故ならケイオスは答えが出せない、蝋人形なのだから。

 

「あっ、あっあっ、あっ、これまずい」

「容赦はしねぇ。そしてその上で刻み込め。俺は、お前の敵だ」

 

 刃が振るわれる。ケイオスは逃げる様に背を向ける。戦えない、というより戦っても意味がない。何故なら凝視すればする程、勝ち負けがない戦いが待ち受けているとわかってしまうのだから。

 

「よぉ待ちな。相手は俺だといっただろ」

 

 だが梅喧は手を抜きはしない。失われた片腕を補強する様に彼女の腕に仕込まれた無数の暗器がギラリと光る。その内の一つ、蚊鉤が牙を剥きケイオス目掛けて射出される。その外見は錨だ。鎖が軋む音に続いて蚊鉤は彼の足に巻き付き、行動を封じる。

 

「おっ!?」

「逃がしはしねぇ! こっちに来い!」

 

 一気に鎖が引き戻され、ケイオスは梅喧の下へと無理矢理引きずり出されていく。踏ん張ろうにも手足は宙を泳ぐ始末だ。

 このままではまずいとわかっていてもケイオスは反応が遅れてしまう。完全に勢いを削がれてしまっているが故にすべてのキレが悪くなっていた。

 そしてその隙を決して見逃さず、梅喧は刀を構え―――

 

「六文は持ったか?」

「いやぁ、生憎持ち合わせが……」

 

 天!

 地!

 人!

 

 強烈な三段斬り。そのすべてがケイオスへと叩き込まれ、首、上半身、下半身を泣き別れに追い込んだ。

 

 

―――ああ、これ負けるかも。

 

 斬撃による衝撃のあまり、ケイオスの意識は刈り取られていた。

 無理もない。防御姿勢など一切取れないまま、研ぎ澄まされた達人の剣技を受けたのだ。不死身の体でなければこのまま絶命は確実だ。

 だが不死身といっても気持ちではかなり追い込まれている。何せ天敵といってもよい相性の悪さなのだから。

 

―――彼女が目の前にいる限り僕は動けない。自己矛盾を繰り返してしまう。僕が僕である以上、決して。

 

 ケイオスは人間というものに対して最強だ。人間のすべてが彼にとって力の源であり、同時に弱点なのだ。

 しかし梅喧はまずい、よろしくない、いただけない。戦っても、戦っても、勝っても、負けても、ハッピーケイオスは独り芝居をしているだけなのだから。

 自我のない存在が、どうして己に勝てようか……。

 

「まずいなぁ。こんなの、面白くもなんともないよ」

 

 いつの間にやら独白は声を纏っていた。僕は電車の座席に腰かけ、哲学者の様に腕を組んで考え込む。

 

「ん? 電車?」

 

 そう、電車である。ガタンガタンという小気味よい音が響く、どこにでもある電車。その車内に僕はいた。

 乗客は僕以外には、真向かいに少女が一人いる。彼女が背にする車窓から差し込む陽光が眩しすぎて顔はよく見えないが……白い服のお腹辺りを染めるおびただしい量の血だけはハッキリと視認できる。

 

「……やぁ、僕はまたここに来ちゃったんだね。走馬灯って奴かな」

 

 そう、多分それだ。人間死ぬ時には色々過去の映像がフラッシュバックするらしい。一説では自分が死に瀕しているから少しでも過去の記憶から打開策を見つけようとするが故の現象らしいけれど、まさか不死の体で起きるとは思わなんだ。

 ううん、でもちょっと僕の脳みそは卑怯だ。どうして今、この子を見せてくるんだろう。

 

「……私のミスでした」

「違うよ、君のミスじゃない」

 

 こんなものには何の意味もない。僕が何かを感じる事はない。もう忘れたはずだ。

 

「私の選択、そしてそれによって招かれたこのすべての状況」

「君は選ぶしかなかっただけだよ。責めるべきじゃない」

 

 こんな会話には何の意味もない。彼女は走馬灯で、僕の妄想なんだから。

 

「結局、この結果に辿り着いて初めて、あなたの方が正しかった事を悟るだなんて……」

 

 僕が正しい時なんて一度もない。僕はただ……ただここに『在る』だけなんだから。

 

「……今更図々しいですが、お願いします。ケイオス先生」

 

 僕はもう、先生じゃないよ。

 

「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも―――」

 

 ああ、そうだったね。僕は確かに、君にそう約束したんだった。

 嫌な走馬灯だ。でも確かに答えは僕の中にちゃんとあったらしい。

 

 

「ありがとう。自分と向き合うっていうのは結構大事な体験だ」

「……おう、目が覚めたみたいだな。このまま終わりかと思ったぜ」

「悪かったね、さっきのは悪役として不適格な演技だった」

 

 三等分に叩き斬られたはずのケイオスは生首だけで梅喧へと微笑み、そして肉体に命じて下半身だけで彼女に激突した。

 

「いけっ、ケイオスレッグ。そして続け、ケイオスボディ」

 

 上半身と下半身が独立して動き、梅喧を牽制した隙に生首を回収。一瞬にしてバラバラだったケイオスは合体して本来の姿を取り戻した。

 梅喧はといえば驚く様子も悔しがる様子もない。ただ、仕切り直す様に身構えた。

 

「で、走馬灯でも見えたか?」

「ああ、見えたよ。それで思い出したんだ。僕は君のいう様にドラマがない。でも……そんな僕にも昔は選択の自由はあった。僕という存在は確かに『在る』と思うんだ」

「それならやり直そうぜ。お前は俺を……『鏡』と向き合えるか?」

「もちろん。だって僕は―――存在しているんだから」

 

 答えを得たケイオスに迷いはない。再びその口元には笑みが戻っていた。




かなり序盤の方でケイオスは「夢の中で女の子に会って、色々約束しちゃったんだよね」というセリフを残しています。
この作品はとにかくオリジナルの解釈が多いので今回のお話が何を意味するのかはこれから公開できればと思います。
重要な要素はケイオスのアーケードモードにあります。

現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?

  • 区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
  • このままもう少し早く出して欲しい
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