先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
トリニティ学区内、古聖堂。
飛鳥、そしてケイオスどちらも別の場所へ移った状況で未だにスレイヤーとラムレザルの戦いは続いている。互いに一歩も譲らず、互いに一撃を与え合う殴り合いに決着は見えない。
スレイヤーとしては全力を出してラムレザルを屠る事になんら苦労する要素はない。少し拳に力を入れ、そのまま殴り飛ばしてしまえばすぐに済む話である。
加えてケイオスの言葉通りであれば、ラムレザルに残された時間はわずかなものである。であれば一刻も早く暴走を止めなければならない。
だが、そう考えようとするのを阻むのは彼の目から見てラムレザル=ヴァレンタインという一人の少女の命を奪う事への是非である。
(いかんな。余計な情が湧いている)
なまじ長い時を生きてきたスレイヤーにとってラムレザルの存在は興味以上のものを持っている。完成して産まれ、不足を感じながら育つ……赤子の様に純粋でありながら老人の様に達観してしまったヴァレンタインという生命に対する彼の思考は表には出ないが深いものだった。
故に問わずにはいられない。たかだか数百年近くを生きている程度の吸血鬼が生死を決めてよい存在なのか?と。
―――貴方は貴方の好きにしてください。
それが飛鳥からの唯一の指示である。よもや誰かから命じられる立場になろうとは思わなかったが、彼の迷いのない目はスレイヤーに反論しようという意志を与えなかった。
簡単にいえば飛鳥の眼差しには覚悟が秘められており、ある種の期待さえあった。
となれば、器用に物事を解決しなければなるまい。スレイヤーは一度緩めた拳を握り直し、意を決してラムレザルへと一撃を叩き込んでいた。
「君を元には戻せない、ケイオスはそういったが……では仕方がないと殺めるのはいささか私の主義に反する。となればまずは意識を刈り取るのが先決だろう」
もう無理だ、もう駄目だ。生憎そんな判断を下す様な生易しい生き方はしていない。スレイヤーの迷いがない攻撃によってラムレザルは巨躯をくの字に曲げ、ゆっくりと仰向けに倒れ込む。あまりの重量に砂が舞い上がり、肉体の変質がどれほどのものなのかを思い知らせる。
確かに、変貌したラムレザルは強い。生半可な腕では守りを固めるのが関の山だろう。だが例外そのものであるスレイヤーにかかれば、攻めに転じるどころかこの様に隙を見て一気に押し切る事さえできてしまう。
そして、できてしまった事にスレイヤーは眉をひそめた。
「まさか、彼はこの様な展開にならないとは思っていまい。となるとまだ何か隠している事になるが……」
その言葉を待っていた、といわんばかりにスレイヤーの背後に近付く者がいた。青白く不気味に光るライフルを手に近付く、謎の存在が。
スレイヤーが振り返るよりも先に銃口は彼の頭部へ突き付けられ、しかしそれを阻む一刀の下に両断される。
ケイオスの銃撃を受け戦闘不能に陥っていたと思いきや、剣士梅喧の腕に濁りはない。手応えを感じたと共に刀身が光の軌跡を描き、襲撃者を切り捨てる。
「脇が甘いんじゃねぇか総長」
「まさか。君を信用していたのだよ」
「モノはいい様だな、え? ちっ……こいつはなんだってんだ」
梅喧が斬ったのは、修道服を着た少女である。人形の様に整った顔からは生気が感じられない。
まるで何かが尽きたかの様に少女は粒子となって大気に溶けていく。この現象をスレイヤーと梅喧の二人は以前にも目にしていた。
「おい、こいつはあの遊園地だかで見た」
「うむうむ、ミメシスと『あの男』は呼んでいた。情報体フレアによる憑依、過去の記憶の再現といっていたが……」
「要するに、化生の類って事か?」
「そう思ってもらって構わんよ。そして今回は困った事に、頭数を揃えてきた様だ」
スレイヤーの声に僅かな険が滲んだと気付いた梅喧は刀に手をかけ、背中合わせになる様に身構える。
一瞬だけ視線を逸らした隙に古聖堂の至るところから、今倒したばかりの少女達が文字通り湧き出ようとしている。数十、否、数百はいるだろう。不気味にも、全員が同じ顔を持っている。
梅喧の額を脂汗が伝う。彼女の腹部は適当な布で縛り付けて止血しているものの、銃弾によって穴が開いている。このまま戦闘を続けようものなら出血多量で死に至るだろう。
「厄介な状況になってきやがった。これも
「はてさて……耐えられそうかね」
「気合でなんとかするしかねぇだろ。そこで伸びてるラムレザルがいつ目を覚ますかもわからねぇ……」
よもやこれほどの軍勢を用意するとは流石のスレイヤーも予想しきれなかった。彼とて全能のモノではない。肉体においては大きく上回っていただろうが、知識という分野においてハッピーケイオスにしのがれたわけだ。
このミメシスは一体何者を象っているのか……おおかたラムレザルと関係していると見当はついているが、今は解答を求めても出てこないだろう。
「来るぜ、身構えな―――!」
一斉にミメシス達は二人を包囲したまま動き出す。状況は絶体絶命、決死の網をすり抜けるにはきっかけがまだ足りない……!
〇
「飛鳥先生はどうなったのでしょう……連絡が繋がりません」
「ケイオスとやり合っているに決まっているだろうが! さっさと逃げるぞ、あんな化け物同士の戦いに巻き込まれたら命がいくつあっても足りん!」
墜落する飛行船から飛鳥の手で脱出したナギサ達一同は爆発が起きた古聖堂から一刻も早く撤退するべく、ビルの隙間と隙間を進んでいた。
古聖堂周辺を護衛していたトリニティ、ゲヘナ両校の生徒は時折すれ違い退避する方向を教えてくれていたが、やがて姿が見えなくなり始めた。どうやら爆心地とでもいうべく地点を中心に何かが起きているらしい。
「うわーん! マコト先輩足速いぃ……イブキそんなに体大きくないよぉ」
「おおすまんイブキ!? おのれ、なんだって仮にもこの羽沼マコト様が必死こいて走り続けなければならんのだ
ぁ!」
足は次第に遅くなる。何しろ幼いイブキを連れての移動となればどこかで必ず休まなければならない時がある。このままでは安全な場所まで辿り着くにも時間がかかるだろう。
「私が連れて行きましょう。イブキさん、少しの間ですが辛抱してください」
疲れ果てた様子で息をするイブキに手を差し伸べたのは意外にも敵対関係にあるトリニティのハスミだ。小さな体を両腕で抱きかかえると、なるべく負担をかけない姿勢を取らせていた。
「む!? トリニティの連中にイブキを任すのはいくらなんでも……」
「そんな事いってる場合ですがマコト先輩。今私達は安全な場所にいるのかどうかさえわからないんですからね」
「ぬぬぬ! くそぉ、なんかこう、ないのか便利な道しるべとか! 正義実現委員会のモンスター委員長、野生の勘か何かで探し出せぇい!」
なんという無茶な要求をするものか、とナギサが呆れ果てた様子でマコトを見つめていた一方、話を振られたツルギは返答する代わりに狭い路地裏に視線を向ける。
何かがキラリと光った、気がしたのだ。
「……ビーコン?」
ツルギが呟き、指差した先を全員が目で追う。するとそれに応えるかの様に路地裏からドローンが一機、円形なフォルムを覗かせた。敵、ではないだろう。かなりの距離まで接近していたのに攻撃を仕掛けてこない様子を見るに、恐らくは何者かが戦場を監視するべく飛ばしていたのだ。
ドローンは搭載されているカメラをきょろきょろと動かし、一同の顔を舐め回す様に見つめる。そして続いて少女の声を発した。
『ああ、よかった。桐藤さんと羽沼さんはお二人共ご無事でしたか』
「……誰ですか? 私達を探していた様ですが」
『ミレニアムサイエンススクールの明星ヒマリと申します。いつもなら私がいかに輝かしいかをお話しするところですが、今はそんな場合ではありませんね。飛鳥先生から頼まれまして、何かあった時は皆さんの退避をサポートする様に、と』
「飛鳥先生が、ですか!?」
ナギサは思わずドローンに駆け寄ると両手でボディを鷲掴みにし、カメラ越しにミレニアムの生徒を名乗る少女を睨みつけようとする。その勢いたるや、その場にいる全員が少し引いていた。
ヒマリは驚いた様子ながらも気を取り直し、
『現在トリニティ学区内、古聖堂での爆発を機に始まったケイオスの奇襲攻撃はあまりよくない展開に移り始めています。彼が連れてきた……いえ、『出現』させたとしかいえない謎の兵士達が古聖堂を中心にして周辺に侵攻を開始。恐らく自分達の領土を作ろうとしているのでしょう』
「……飛鳥先生はこうなる事がわかっていたんですか?」
『そうとはいえません。飛鳥先生はこういっていました。ケイオスを止められないのは確実、ならば後手に回ってでも即座に生徒の安全を守る事を最優先する、と』
ナギサの脳裏をよぎったのは黒煙が漂う飛行船の操舵室で飛鳥と最後に交わした会話だった。
すぐに逃げる様に。彼はそういい残してナギサ達を地上へと退避させた。もしも、今まさにケイオス達と交戦しているのだとしたら……。
「先生は私達を逃がす為に囮に?」
『―――私は、皆さんを安全に退避する様に依頼されました。疑問は山ほどあると思いますが、今はとにかく逃げましょう。ルートは既に確保してあります。トリニティ、ゲヘナ両陣営の合流地点まで案内します』
「で、ですが先生は? 先生を置いて行くと!?」
「ナギサ様、急ぎましょう。今は少しでも戦場から離れる事が最優先です」
唇をワナワナと震わせるナギサの肩に手を置いたのはツルギである。この状況下において冷静に、自分がなすべき事を彼女は理解していた。
「今トリニティの指揮権を握っているのは貴女です。私情を優先しもしもの事があれば、誰も統制できない」
「……しかし!」
「先生は私が探しに行きます。少なくとも一人ではないはず……」
得物である二丁のショットガンを強く握り締め、ツルギは一同とは正反対の方向に踵を返す。戦闘が繰り広げられているのだろう黒煙を立ち上げるビル群に向かって。
あまりにも危険な選択であると全員が理解していたものの、同時にその場の誰もが飛鳥の無事を確信しきれてはいない。そもそも今この時も生きているかどうかさえ不安だった。
「ハスミ、頼むぞ」
「―――皆さんを送り届けたらすぐに向かいます。くれぐれも気を付けて」
「ん」
正義委員会の同僚であり、親友でもあるツルギとハスミは僅かな会話だけで互いのするべき事を決定した。
ツルギはコンクリートを蹴り砕きながら駆け出し、ハスミは安全地帯を目指して一歩踏み出す。
「ヒマリさん、でしたね。普段ならば少しは疑うべきでしょうが、状況が状況です。お願いしますよ」
『もちろんです。全知であるこの私にお任せください』
ヒマリが操るドローンを先頭に、ナギサ達の一同は少し離れた臨時拠点へと急ぐのだった。
〇
「さて、じゃあ改めて紹介しよう。彼女達は『ユスティナ聖徒会』、かつてトリニティを守護した絶対的な存在。既に時の流れに飲み込まれて風化したはずだけど、それはあくまで物理的な意味。概念として、精神として彼女達は生きていた」
ミメシス達は一歩を踏み出す。その足取りはまるで操られているかの様にズレがない。
「だから僕は『ミメシス』として蘇らせ、そこに転調の為に『記憶』を流し込んだ。『慈悲なき啓示』が産み落とした最初の刺客……ヴァレンタインの記憶をね」
ミメシス達は銃口を向ける。そこに敵意も殺意もなく、命令に従うだけの機械を思わせる無機質さがあった。
「さぁて、それじゃあ実のところ気絶なんてしていない飛鳥君の意見を聞こうか。どうかな? この展開」
ハッピーケイオスが笑いかける先、ヒナの両腕に抱かれていた飛鳥はゆっくりと瞼を開き、彼を睨みつける。
燃え盛る炎の様に強い意思が籠った眼差しだ。言葉を発しようと呻き、飛鳥はヒナが止めようとするのを振り払って立ち上がった。
「先生っ」
「大丈夫、内臓系にダメージはない。ちょっと服は崩れているけど戦えるよ」
「よぉし、やったね飛鳥君。ここまでは順調。そして、感想を聞かせてくれないかな?」
「これが貴方の作戦ですか。トリニティの過去を掘り出し、己の兵士とする。思わぬ展開ですが衝撃的とはいえませんね」
飛鳥の声は弱々しい。ケイオスと対峙する為になんとか力を振り絞っているものの、小突けばそれで崩れ落ちてしまいそうな程だ。それでも確かな意思を秘め、かつての師匠が練り上げた作戦に忌憚のない意見を飛ばす。
が、怪人はニッコリと笑った。そういうと思った、とでもいわんばかりに。
「ふふ、じゃあエデン条約は『僕が書き換えた』といったらどうかな?」
「……」
「わかっているだろう? トリニティを守る存在である『ユスティナ聖徒会』を味方にするなんてそう簡単じゃない。でも、この世界はルールがモノをいう。つまりルールを書き換えてしまえばいくらでも融通は利くんだ。それじゃあ問題……僕は誰の味方でしょうか?」
アリウス。トリニティという花園から追放され、闇の中を彷徨い続けた者達。つまり……曲がりなりにもトリニティの一員といえる。
飛鳥が目を細め、答えを発する。
「アリウスを代表して、貴方は条約を書き換えたと? そんな事が可能なのですか」
「できるさ。何せ、僕は神の半分を持っている。正直シナリオとしては強引そのものだけど、展開を動かすのに多少の都合は必須だ。今回は僕がその役割を買って出ただけの事」
「……つまり、貴方をどうにかして倒して条約を改めて書き直せば事は収まるんですね?」
「―――鋭いじゃないか、一〇〇点をあげるよ。それじゃあ頑張って僕を、いや僕達と戦おう」
改めてケイオスは銃を引き抜き、ミメシス達も主の動きに連動して一斉に銃口を飛鳥へと向ける。
発砲一秒前。遮る様にして、轟音と共に別の銃口から弾が横凪に放たれる。それはヒナの持つ大口径ライフルによるものだ。
その威力は凄まじく、一瞬にしてミメシス軍団の最前列が倒れ伏し消失する。ただ弾幕をばらまいただけではなく、的確にダメージを与えてみせたのだ。
「さっきから楽しそうに話しているけれど、ここにいるのは先生一人じゃない事は気付いているのかしら」
「おっと、ごめんねヒナ君。別に邪険にするつもりはないんだ。ただ段取りっていうのは大事だろ? 今から衝撃的な話を始めるんだ」
「何を……」
「シッ。種明かしの時間さ」
ケイオスはニンマリと深い笑みを浮かべると、懐から携帯端末を取り出した。搭載されているカメラを起動させ、彼は自分が映り込む様に角度を調整する。
「んっ、んっ、えへん。えーと、これ映ってるかな? あ、問題なさそう。キヴォトスの皆見ているかな? これ生中継。これから皆に……飛鳥君の正体を話そうかなって」
何をしようとしているのか理解したその瞬間、飛鳥の『本』が光った。弾ける様に幾つもの法術が一斉に起動し、ケイオス目掛けて放たれる。
それを邪魔だと青肌の怪人は手で振り払うだけで叩き伏せ、挙句の果てに『静かに』と人差し指を立てた。
何かただならぬ気配を感じ取ったヒナは飛鳥に視線を向けるが、援護しなければならないと理解して彼に追従した。
一斉にミメシスが動き出し、飛鳥は全方位に向けて衝撃波を放つ。既にそれを見越していたヒナは頭上へと跳躍し、地上目掛けて弾丸をまき散らす。
ミメシス達はケイオスを守ろうと恐ろしいスピードで湧き出し、分厚い壁を作り出す。一瞬にして黒い壁が波の様に襲いかかった。
「まず僕の名前はハッピーケイオス。飛鳥君の友達。昔彼とは師弟関係にあった……で、だ。ここからが本題。皆は飛鳥君が何者か知っているかな?」
「シャーレの先生? 変わり者な大人? 意外とイケメン? そうだね色々ある。でも本当の話をしよう」
「僕と飛鳥君はシャーレの外からやってきた。元の世界で飛鳥君はこう呼ばれている、『魔王』ってね」
「一体何をしたのかって? 戦争を起こしたんだよ」
「彼は虐殺を起こした。兵器を作った。混沌を生んだ」
「―――友達を裏切った」
ケイオスの言葉は止まる事を知らない。飛鳥が決して他人に明かそうとしなかった全てが、電波に乗せられてキヴォトス全体に拡散されようとしていた。
一体どれだけの人間がケイオスの放送を見ているのだろうか。今話題の中心となっているトリニティに関係しているとあれば誰もが注目するのは当然だ。で、あれば……。
「―――もう一度いおう。飛鳥=R=クロイツは、罪人だ。僕と同じ様に」
「もちろん、この話を信じなくてもいいよ。嘘だと思ってもらって構わない。けどまぁ……皆薄々感じていたんじゃないかな? 飛鳥君が―――普通じゃないって事くらい」
ああ、そうか。この人はこれを狙っていたんだ。
ミメシスの山を弾き飛ばし、吹き飛ばし、薙ぎ払いながら飛鳥は理解した。直接的なダメージではない、飛鳥=R=クロイツという存在に対しての情報開示による混乱、疑心、それを誘発させたのだ。
(僕に法術を使う様に促したのは、いずれ衆目の前で晒す為だったのか。何度も僕ではなく生徒を狙ったのは、そうすれば僕が必ず介入すると考えたからだったのか)
「皆はこう思わなかった? シャーレの人間がどうしてエデン条約に関わるのか? 善意でそんな事をするのか?
「皆はこう思わなかった? 何か裏があるに違いない。飛鳥=R=クロイツは皆を騙そうとしているのでは?」
「自分の気持ちを大事にして。今君が感じた事、今君が思った事……それを疑ってはいけないよ」
どれだけの生徒達がケイオスの放送を信じるだろうか。そしてどれだけの生徒達が飛鳥に対して疑いを持っただろうか。
キヴォトスに生きる人々が、どの程度飛鳥=R=クロイツを『異物』と認識しただろうか。
飛鳥はつい手を止めてしまった。隙を突いて近付いてくるミメシスをなんとか退けるが、一斉に襲い掛かってくる敵を前にして動きが止まってしまう。
「じゃあ……本日の放送を終了します。ふふふ」
ケイオスは携帯端末を一瞬で握り潰し放り投げる。既に必要な役目は終えたという事だ。
ミメシスの勢いは収まる事を知らない。波となって飛鳥達へと襲い掛かり、攻撃のチャンスをまるで与えようとしない。
が、突然その動きがスイッチを切ったかの様に停まる。ケイオスが手を上げ、何かを命じた途端にだった。
「さぁて、それじゃあ早速インタビュー。空崎ヒナ君、今……君にとって飛鳥=R=クロイツはどんな人間に見える?」
まるでインタビュアーの様にマイクを持った手ぶりをしながら、ケイオスはいつの間にか飛鳥の背後に立っていたヒナへとそう投げかけていた。
いつの間に、飛鳥はそう口にしようとした直後に、ヒナがケイオスの暴露を耳にして足を止めていたのだと遅く理解した。
ライフルの銃口はいつの間にか足元へ向けられ、視線もそれを追いかけていた。ぐったりと俯き、ヒナは動こうとしない。
飛鳥=R=クロイツは敵かもしれない。その疑惑の心が彼女の胸に湧いたのだ。
「……空崎、さん」
「遠慮しなくていいよヒナ君。思った事を口にすればいい。さぁ―――」
誘われるかの様に俯いていたヒナは顔を上げる。先程とは異なる、冷たい眼差しがそこにはあった。
「率直な意見でいいのね?」
「そうとも。どうぞ聞かせ―――」
「その口を、今すぐ閉じて」
轟音が鳴り響き、銃弾がケイオスの頭部が粉々に吹き飛んだ。
一瞬の出来事であったが、それだけで飛鳥は空崎ヒナの回答を理解していた。
ミメシスは一斉にケイオスを守るべく動き、包囲網が緩む。その瞬間にまた轟音を伴って横凪に放たれた銃弾が軍勢を蹴散らす。心なしか、怒りを纏っている様だった。
「貴方のいう事が真実であれ、嘘であれ……今の私にとってそんな事はどうでもいい。何故なら大前提としてここまでの破壊をもたらした貴方は敵でしかないから」
ギリリ、という音はヒナが拳を強く握る事で絞り出されている。全身全霊の怒りである。
「そして私は飛鳥先生を―――弱くても必死に頑張る飛鳥=R=クロイツを信じる……貴方の様な存在が宣う世迷言なんて、聞くに値しない」
ハッキリと空崎ヒナは宣言した。自分は、飛鳥=R=クロイツの味方だと。
〇
失われた頭部を再生する。神の半身を取り込み、人などとっくの昔にやめている『彼』には死の概念など存在しない。
失われた頭部を再生する。まもなくハッピーケイオスは再起動し、ヒナを混乱させる事ができなかった事を残念に思いつつ次のプランに移行する。
失われた記憶を再生する。どういうわけか、捨て去ったはずの記憶を掘り起こそうとしている自分がいる。
失われた記憶を再生してしまう。梅喧に斬られた先で『彼女』に会ったせいで。
「ヒナ君さ、僕が超ヤバい男だとしたらどうする?」
「何、そのどう答えて欲しいのかまったくわからない問いかけは」
夜遅くまで仕事をしている空崎ヒナの様子を見に行った先で僕はそんな質問を投げかけた。
純粋な疑問。いつもだったら絶対そんな事しない。でも、アレだ。『世界を救う』事が今回の目的だから、こういう事聞くのも悪くないかなって。
「もっと具体的な質問した方がいい? 今君達の先生をやってる僕の本当の姿は魔王で、世界を滅ぼそうとした過去とかあったりしたら?」
「具体的すぎて怖いくらいなんだけど……そうは見えないかも」
「え~本当? もっと思い切った事いってもいいんだよ? 大人の胸を借りるつもりで、ほらほら」
「絶対に嫌。先生、時々気持ちが悪い」
「あっ、刺さったぁ今の……」
別に僕はバレてもいい。だっていずれバレるとわかっているからね。明日起こる事が今日起きたってエキサイティングでいいじゃないか。
でも気持ち悪いというのは結構心外だった。ハンサムなのに、僕。
「でも、そうね。そうかもしれないと思う事があっても、私からすれば全然先生はいい人間に見える」
「えー……信じられないよ僕。ちなみに根拠は?」
「……掴みどころがなくて、何を考えているのかわからないけど、それでも私達を好きだっていうのがわかる」
うん、そうだね。僕は君達が大好きだ。異なる世界だったとしても、君達が『人間』の定義から少しズレているとしても……僕にとっては愛してやまない存在だ。
「だからまぁ、先生の事を信じてる。もし世界を滅ぼそうとした過去があったとしても……今こうして私を心配して来てくれたケイオス先生を信じる」
「お~。嬉しいなぁヒナ君からそんな事が聞けるだなんて。僕は幸せ者かもなぁ。あははは」
うん、そうだね。こんな会話をしたっけ。
でも、これはもう『捨てた』。だってこのヒナ君を僕は助けられなかったからね。
僕が最悪な存在で、世界を滅ぼす魔王だった事がわかってそこら中が滅茶苦茶になった。
ヒナ君は僕の事を守ってくれた。こんなに怪しい大人を心から信じてくれたね。
いやぁヒナ君だけじゃない。皆僕のせいで死んだ。
僕が『先生』として相応しくなかったから皆死んだ。
僕が主人公として失敗したから皆死んだ。
あの子も。
うん、うん、そうだね。うん、うん、うん。
僕じゃ、ダメだったんだ。
―――飛鳥=R=クロイツ、君の意見を聞きたいな。
―――君ならあの時どんな行動を取った?
―――君ならあの時彼女達を救えた?
―――君が主人公なら?
―――君が『先生』だったら?
この記憶は要らない。
僕は……なんでもないんだから。
〇
「……流石、ヒナ君だ。芯があって結構結構」
一秒にも満たない刹那の時。ハッピーケイオスは切り捨てた過去を振り返り、そしてすぐに棄却した。
現時点での投稿頻度に関してどのように感じていますか?
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区切っても良いから投稿頻度を上げて欲しい
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このままもう少し早く出して欲しい