先生は世界平和を実験している 作:飛鳥=R♯
ブルアカとコラボするのは…ギルティギアだと思っていた…
「うへぇ、ようやく全部配り終わった。どれくらいかかったかな先生」
「一時間行くか行かないかというところだね。僕も少し、疲れている。肉体労働は苦手であると今度からはハッキリと申告しないと……」
「おじさんはもう歳なのによく頑張った方だと思うんだよ先生〜。これはご褒美のラーメン一杯奢りとかしてくれないかな〜?うりうり、まだ筋肉痛で痛いところツンツン」
「痛い、本当に痛い。やめてくれないかな、本当に……」
怒涛のチラシ配布であった。ホシノはのんびりとした顔に似合わず素早い動きで往来に潜り込んだかと思えば、あっという間に自分のチラシを配り終えてみせた。飛鳥が苦戦する一方での事である。
そこから彼女は見かねて飛鳥の分まで配ってくれたわけであり、筋肉痛で痛む脇腹あたりを突かれながらも飛鳥は拒絶しきれずに小さく呻くばかりだ。
「しかし先生はなんていうか体が弱いんだねぇ。おじさんよりもおじさんみたいな体だよ」
「昔から運動は苦手なんだ。すぐに息が切れるし、走ろうものなら気分が悪くなって仕方がない。アビドスにやってきてからというもの、体を動かさざるを得ないシチュエーションばかりで、そろそろ本格的に体を鍛えるべきかと懸念しているよ」
「うへぇ〜……命懸けで走ってるわけだ。なんだか悪いねぇ先生」
「良いんだ。代わりと言ってはなんだけど頭には自信があるから、その方向で君達を助けたい。これで、僕より頭の良い生徒がキヴォトスにゴロゴロいるとすれば……その時の僕はただの虚弱体質で終わりだけど」
冗談での言葉ではない。たとえば早瀬ユウカの所属するミレニアムスクールはキヴォトスでも屈指の秀才達が集められた学園で、全員が優秀な科学者だという。
もしもその中で当たり前の様に戦闘ができてしかも発明までこなせる文武両道の天才などがいれば飛鳥は取り柄など何処にもないちっぽけな存在となりうる。
飛鳥が苦い顔でつらつらと自分がいかに未熟な存在であるかを語ると、ホシノは信じられない表情を浮かべて、
「うへぇ、冗談キツいって先生。あんな魔法バリバリ〜!って打てるのに!」
「……魔法、か。アレだって多用できるものじゃないんだ。ははは、チラシ配りもできないとなればいよいよ僕にできることなんて精々電卓いらずで計算するくらいかな」
「すごい……ネガティブすぎて空間が歪んで見えるよ先生」
「これが普通の僕だよ。砂狼さんに会った時も、こんな風にネガティブな話し方をしてしまっていたな。僕は道に迷ってしまって、街がよく見える丘のあたりのガードレールに腰掛けていたんだ。道もわからない自分への失望と落胆からね。彼女はそんな僕に声をかけてくれた」
「シロコちゃん、優しいからねぇ」
「僕の事を夢破れた自殺志願者だと勘違いしていたんだけどね」
「うへぇ〜、それは……うへぇ〜」
バイトを終えた後は柴関ラーメンに集合だ。シロコ達と比べるとかなり遅れてしまったが、まだギリギリ間に合うだろう。
飛鳥はその間、ホシノと他愛のない会話を続けた。そこまで他人と話す事を好む性格ではないのだが、きっとバイトで疲れ果てているおかげだろう。妙にコミュニケーションへと積極的な姿勢を取ってしまう。
「先生ってもうちょいスマートな印象があったんだけど、思っていたよりも気難しいんだねぇ。今の時点でもう私の中でだいぶ色々ひっくり返ってきちゃってるよ〜……」
「ガッカリしたかな?頼り甲斐のない男で」
「キヴォトスで生きていくにはちょ〜〜〜〜っと不安になるくらいだよ。うん。まぁまぁ気をつけた方がいいかもね……」
会話の中でホシノの態度は目に見えて穏やかなものへと転じつつあった。飛鳥が自虐的な言葉を呟けば呟くほど、彼女の視線は生暖かくなるのだ。
ともかく警戒されていないのは良い事だ。飛鳥は遠い目で空を見上げながら、改めてホシノへと顔を向ける。
「そうだ小鳥遊さん、君にだけ教えておきたい事があるんだ。少しな真面目な話になるんだけど」
「えっ、何急に。温度差が凄くない?」
「さっき僕が話していた生徒、彼女から有力な情報を手に入れたんだ。良ければ君とも共有しておきたくて。僕らの距離感も縮まっているわけだし」
「先生そういうタイプかぁ〜、っていうかやっぱりあの子と怪しい話してたんじゃん。また嘘ついたね先生」
「君が僕に圧迫面接の様なものを強いてくるんだ。隠し事の一つや二つは許してもらいたい。それに君は女の子なんだから、茂みに隠れるなんてはしたないと思うんだ」
「イイ性格してるなぁこの人。それで、どんな話をしていたの」
ゲヘナ学園、風紀委員会の一人であるチナツが飛鳥へと語ったのは悪質なゲヘナ生徒のグループが怪しい動きをしているという旨の話だった。
それだけならば少々物騒な世間話で終わりだが、飛鳥達対策委員会に待ち構えている危機と結びつけて考えれば引っかかるものがあるのだ。
「便利屋68、そう呼ばれるゲヘナ生徒達がこの学区で目撃された。僕に教えてくれたのは風紀委員の生徒で、信用できると思う」
「ふむふむ、ゲヘナの便利屋ね。なるほど先生が不安に思っている理由がわかった。アビドスを狙っている黒幕が送り込んでくる新しい刺客、それがその生徒達かもって話だ」
「その通りだ小鳥遊さん。以前から思っていたけど、君はとても鋭い。戦闘面でも頭脳面でも。そんな君に聞きたいのは、その便利屋に黒幕が依頼を送るという前提での質問だ」
便利屋68と呼ばれる生徒達が何者であるのかはさておき、選ばれた理由に関してを考察する。とはいえまだそうと決まっているわけではない。あくまでも可能性を突き詰めていくのだ。
ホシノと共に陽が沈む街を歩きながら、飛鳥は宙に図を描く様に指を動かす。
「もしも小鳥遊さんが黒幕だとして、自分がそうだとバレない為にはどんな手段を取るかな」
「んー、とりあえずおじさんとは全く関係のない人に動いてもらうかな。これがヘルメット団ってわけだね?」
「そう。最初はヘルメット団だった、けれどそれが上手くいかないのなら次は誰に頼むべきか?」
「ふんふん?それならもっと強い人達にするね。便利屋がそこに当たる、と」
「決して自分の手は下したくない、そう意識する理由は余程の事だ。バレた場合の立場、そして展開がかなり悪いものになるからだろうね……でも僕達は、既に手掛かりを掴んでいる」
ホシノはそこで飛鳥の顔を見上げた。食いつくような眼差しに彼は頷き返す。
飛鳥はアビドスを狙う黒幕にある程度ではあるが当たりをつけていたのだ。
「まだ確証は得られていない、でも一考の余地はある。もしも全て僕の想像通りだとすれば……アビドスを我が物にしようと画策しているのはカイザーローンの更に上、つまりはカイザーコーポレーションだと考えられる」
「かなりデッカい企業だよ?おじさんには実感湧かないかも」
「そうだね、僕が少し調べた限りでもカイザーコーポレーションは巨大だ。普通に考えればアビドスに狙う価値があるかと言われたら、首は縦に振りづらい。けれど……もしかしたらそうでもないのかもしれない」
ケイオスは言った。物事の価値というものはそれぞれの視点によって形を変えてしまうと。それに倣えば飛鳥達から見てさしたる価値がないと感じられるアビドスは、大企業からしてみれば遠回しな圧力を込めてまで手に入れたいものなのではないだろうか。
仮説に仮説を重ねる形となっているが、今のところ飛鳥に用意できる説得力のある考えはこれだけだ。
ホシノは飛鳥が並べた推察に対してしばらく考え込む。ふにゃふにゃとした表情は鳴りを潜め、鋭い表情へと変化していた。
「本当にそうだとしたらこっちに勝てる手段はあるの?」
「敵は大企業、対して僕達は合わせて六人。まともに考えれば多勢に無勢なんてものではないけれど、何も正面切って戦う事が全部じゃない。以前話した様に対策委員会が支払っていた利息が違法に利用されていた場合、その点を突けばカイザーローン、ひいてはカイザーコーポレーションそのものを告発できる。社会的制裁を加えられるのは確かだよ」
「……先生の魔法でカイザーそのものを吹っ飛ばすっていうのは?」
あまり冗談には聞こえない声色でホシノは問いかけてくる。
青と黄、双眸に込められている暗い輝きはわずかに飛鳥をドキリとしたものの、取り乱す事はしない。
「残念だけどそれは選択肢には入らない。まず大前提として僕は先生という役職であり、大手を振って大企業を撃滅するだなんてするべきじゃない。そして次に……僕は荒事が好きじゃない。戦うにしてもそれは社会という法廷を舞台として行わなくては」
飛鳥はじっとホシノを見つめ返す。心臓がバクバクと早鐘を打つ様に鳴ってしまう。
「つまり先生はこう言いたいんだ、あくまで正攻法で行きたいと」
「理解して欲しい。僕は君達の味方である以上、その在り方に関しても口を挟む必要がある。監督者、大人としての責任だよ」
「……うへぇ、そこまで言われちゃしょうがないなぁ。どの道カイザーが相手だとしたらいくらなんでもキツイよねぇ。ごめんね先生」
ホシノがどんな人物なのか、それが飛鳥にはまるで窺い知れない。
緩い時、鋭い時、一体どちらが本物の彼女であるのか、果たしてアビドスの生徒達は知っているのか。
ポーカーフェイスに飛鳥もポーカーフェイスを返す。わずかに口の端を緩めて、精一杯の笑みを飾る。
「これで君への連絡事項は終わりだ。長話をしてしまったね、すまない」
「いやぁ全然いいよ。良い時間潰しになったしね?」
いつの間にやら二人はアビドスに到着し、そして柴関ラーメンの看板までもが見えてきていた。
まだ陽は沈み切っていない。ほっと安堵しつつ飛鳥とホシノはわずかに歩調を早める。と、店の入口から見慣れない少女達がゾロゾロと出てくる。四人組だ。
「ひっっっさしぶりにちゃんと食べた気がする……」
「社長、次はちゃんとお客さんとして全員分のお金用意しとこうか」
「美味しかった〜!仕事の前に気合いが入ったかも!ね?」
「よ、よ、良かったんでしょうかあんなにたくさん食べさせてもらって。今夜中に死ぬんじゃないでしょうか……!!!」
なんとも騒がしい一団である。飛鳥はすれ違い様に少女達を横目で観察しながら、年相応な活気に目を細めていた。
と、先頭に立っているリーダー格らしい少女が視線に気付いたのか見つめ返してくる。
鋭い視線だ。先程のホシノに見劣りしない、明らかに戦い慣れしている者が放つそれである。
(何者なんだ……?)
「ん〜?先生どうかした?」
「いや、なんでもない」
リーダー格の少女はすぐに視線を逸らし、仲間と共に歩き去っていく。飛鳥はその後ろ姿を怪訝な目で見送りながら、遅れて柴関ラーメンの店内へと足を踏み入れた。
入ってすぐに飛鳥の目に飛び込んできたのは会計カウンターに貼られている一枚の似顔絵だ。
サングラス、白髪、角。
「……どうしてハッピーケイオスの似顔絵が?」
続いて似顔絵の下には『誘拐犯!見かけたらアビドスまでご連絡を!』と力強い文字で記されている。
描いたのがセリカなのはすぐにわかった。誘拐された側なのだ、当然と言えば当然である。まあまあ似ている、と飛鳥はシンプルな感想を抱いた。
「あっ!先生、ホシノ先輩。こっちこっち!遅いわよもう!」
室内の一角からセリカが手を振ってくる。飛鳥とホシノは手を振り返してテーブルへと足を運んだ。
セリカ、シロコ、ノノミ、アヤネ、全員揃っている。
「待たせたかな、ごめんよ」
「いやぁ〜、おじさんも先生も腰と背中を痛めてボロボロだよ皆〜……」
「年長者達なんだからしっかりしてよね!でもまぁ話し相手がいたから大して待たなかったけどね」
「ん……思わぬ形で仲間に出会えた」
シロコが感慨深そうに頷く。何の事だか話が掴めず飛鳥とホシノは顔を見合わせた。
補足の為かノノミが「えーっとですね」と手を挙げて、そのまま隣のテーブルを指差す。
「ついさっきまで隣に珍しく私達以外の生徒がお客として来ていたんです。名前は聞きそびれちゃったんですけど……」
「なんでも便利屋を営んでいるとか。頑張っているけど収入が安定しなくて悪戦苦闘しているそうです」
「私達対策委員会と似た様な立場よね。ちょっとした絆を───」
「待った。便利屋と言ったかい?もしかして四人組?」
「ん……そうだけど」
飛鳥は踵を返して店外へと飛び出す。時既に遅く、人影は店の近くには見られない。
先程すれ違った一団は四人だったはずだ。そしてシロコ達に語った内容が真実だとすれば……。
「なんて事だ……!」
「先生?どうかしたの?」
「その生徒達は黒幕が差し向けた刺客だ!ゲヘナの便利屋68、風紀委員が追跡するほどの危険な生徒達だと聞いている!」
「えー!?いやでも、お金に困っているって」
「……それはきっと嘘だ。君達対策委員会がお金に困っているという情報を把握していて、信頼を得る為にわざと自分達も同じ立場なんだと思い込ませて取り入ろうとしたに違いない!」
飛鳥の脳内にみるみる内に恐ろしい想像が浮かんでいく。まさかこんなにも早く新しい敵がやってくるなど予想できなかった、否、早いにしてもまさか対策委員会に何の躊躇いもなく接触を図ってくるなど考えられなかったのだ。
店の前ですれ違い様に向けられた鋭い視線、あれは既に先生という存在をも見越したものだったのかもしれない。
「……便利屋68、聞いていた以上の実力者なのか」
「ん……先生が珍しく興奮しているけど話がよくわからない」
「話している感じはとっても良い子だったと思うんですけどね〜」
恐るべし便利屋68。飛鳥は自身の懐が甘かった悔しさに拳を握り締め、ただ嘆息するしかなかった。
よくよく考えればシロコ達へ近付いた理由を始めとして様々な部分に疑問が残るのだが、空腹と疲労に苛まれている彼が後からそれを気付くまでにはしばらく時間が必要である……。
※
──一方その頃
「うわっ、アルちゃん顔こわ〜い!どうかしたの?」
「ん……んっ、けぷっ。違うのよ、ゲップが出そうで我慢してたのよ。ほらさっき人とすれ違ったじゃない?あの時ゲップしそうになっちゃって!アウトローは人前でそんなカッコ悪い事しないから我慢していたのよ!」
「アル様……かっこいいです!!」